第1回:マッカートニー・シリーズとは(総論)

© Mary McCartney

まさか3作目が登場するとは!誰もがそう思ったに違いない。

ポール・マッカートニーの新しいスタジオ・アルバム『マッカートニーⅢ』が、2020年12月11日に急遽――と言っていいと思うが、発売されることになった。全米1位を獲得した『エジプト・ステーション』からわずか2年での新作の登場である。

『Ⅲ』があるということは、もちろん『Ⅰ』と『Ⅱ』があるわけだが、アルバム名の『マッカートニー』を目にしただけで、ある種の感慨に浸るビートルズ&ポール・ファンは世界中にいる。

自分の名前を冠したアルバムには、作り手の自信や決意や覚悟が込められている、と言われることが多い。

ビートルズ関連を例に取るならば、ビートルズは、自分たちの会社アップルを設立して最初に出した、“ホワイト・アルバム”の呼び名で親しまれている2枚組の『ザ・ビートルズ(THE BEATLES)』(68年)。ジョン・レノンは、ビートルズとの決別を歌い込んだ最初のソロ・アルバム『ジョンの魂(JOHN LENNON/PLASTIC ONO BAND)』(70年)。ジョージ・ハリスンは、息子ダニーが生まれた後に発表した『慈愛の輝き(GEORGE HARRISON』(79年)。そしてリンゴ・スターは、ジョン、ポール、ジョージの参加が話題を呼んだ『リンゴ(RINGO)』(73年)である。いずれも、それぞれのソロの代表作として挙げられることの多い傑作ばかりだ。

ポールはどうかというと、冒頭で触れたように、『マッカートニー(McCARTNEY)』と付けられたアルバムは、これで3作目となる。具体的に言うならば、『マッカートニー』(70年)、『マッカートニーⅡ』(80年)、そして新作『マッカートニーⅢ』(20年)の3枚である。では、そんな“マッカートニー・シリーズ”の特徴について、書き進めてみる。

まず目につくのは、発売年だ。1970年、1980年、そして2020年――。これがたまたまなのか、意図したものなのかは、制作背景や意図を探ると見えてくる。詳細は次回以降に譲るが、『マッカートニー』発売時の70年はビートルズ解散の年であり、ビートルズを自身の音楽活動の全てと捉えていたポールは、いわばリハビリ的にアルバム作りに臨んだものだった。続く『マッカートニーⅡ』発売時の80年は、76年の全米公演でウイングスを率いたポールがバンドとしての頂点を(ビートルズに続いて)極めた後、バンドを持続する意欲が徐々に欠けていった時代であり、一人で気ままに演奏する楽しさを見出そうとしたものである。そして今回の『マッカートニーⅢ』は、言うまでもなく全世界を覆った“コロナ禍”の年に生まれた、予期せぬ産物だった。世界が「ロック・ダウン」になっていなかったら、ポールは普通にツアーを続けていたわけだから、これは、地に足の付かない不安定な時代に生まれた偶然の贈り物のようなものである。しかもそれが、『マッカートニー』からちょうど50年後に発売されることにもなったのだ。

それにしても、ポールはなぜ、そうした“節目年”に自分の名前を冠したアルバムを発表するのだろうか。ひとつ言えるのは、ポールは生粋の音楽人であり、マルチ・プレイヤーであり、演奏することが生命力を実感できるいわば“生きる糧”や“生きている証”になる、ということだ。

たとえば映画『レット・イット・ビー』(あるいは来年公開予定の『ザ・ビートルズ:ゲット・バック』で描かれている69年1月の“ゲット・バック・セッション”を見聞きすれば明らかなように、ビートルズのメンバーの中で、音楽的素養に最も長けているのはポールだということに異論のある人はそう多くはないだろう。

レコーディングに関して、ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンは「ジョンは抽象的で、ポールは具体的」と語っていた。どういうことかと言うと、ジョンは自分のイメージをそれこそ絵画的・映像的アプローチで表現することが多く、ゆえに捉えどころがない。たとえば「トゥモロー・ネバー・ノウズ」を「ダライ・ラマが山頂から歌い、そのバックで4000人がコーラスしているようなサウンドにしたい」とか、「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」を「おがくずのにおいが床にするようなサウンドにしたい」などのように、である。

一方、ポールは、音楽的・実際的アプローチで思い描いたサウンドを伝える術に長けていた。たとえば「フォー・ノー・ワン」のフレンチ・ホルンや「ペニー・レイン」のピッコロ・トランペットの使用に関して、クラシックの曲で使われていたあの音が欲しい、と言うように、頭の中でイメージがすでに出来上がっていた。それだけでなく、曲の全体の構成やメリハリの付け方などまで思い浮かぶほどだった。しかもベースだけでなく、ギターやピアノやドラムをはじめ、あらゆる楽器を――と言っていいほど、自分で演奏できる腕前でもあるのだ。

“マッカートニー・シリーズ”3作の共通点は、生粋の音楽人ポール・マッカートニーが、作詞・作曲・演奏・プロデュースを(リンダの助けを一部借りて)すべて一人で手掛けたアルバムである、ということだ。ポールの思い描いた音作りがすべてそのまま丸ごと詰め込まれたアルバムだと言ってしまってもいいだろう。とはいえ、ポールが一人で手掛けてはいるものの、制作背景や音の“表情”がそれぞれ異なるのは言うまでもない。

では、次回以降、“マッカートニー・シリーズ”の第1弾となった『マッカートニー』から具体的にみていこうと思う。

 


『マッカートニーⅢ』2020年12月18日発売