楽曲解説:『イマジン:アルティメイト・コレクション』の全て

M-16「Happy Xmas(War Is Over) / ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」(2018/10/10 UP)
ジョンとヨーコの、というだけでなく、いまや「世界のクリスマス・ソング」としても名高いスタンダード曲となった。アメリカで71年12月1日に発売されたが、イギリスはクリスマス時期の直前になってしまったため、1年後の72年11月24日に発売され、アメリカで36位、イギリスで4位を記録した。レコーディングはアルバム『イマジン』制作の数ヵ月後の71年10月28日と31日に、同じくフィル・スペクターを共同プロデューサーに迎えてジョンにとっては初めてニューヨーク(レコード・プラント・スタジオ)で行なわれた。ハーレム・コミュニティ・クワイアのコーラスも印象的だ。クリスマス・ソングとはいえ、サブ・タイトルが付けられているように、反戦の意思を明確に伝えたジョンとヨーコならではのメッセージ・ソングである。

 『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションとスーパー・デラックス・エディションには、別ミックスによる演奏も収録されている。

M-15「God Save Oz / ゴッド・セイヴ・オズ」(2018/10/10 UP)
「ゴッド・セイヴ・アス」をビル・エリオットが歌う前に、ジョンが「アス」を雑誌名の「オズ」のまま歌ったデモ・テイク。『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションとスーパー・デラックス・エディションには、別のデモ・テイクも収録されている。

M-14「Do The Oz / ドゥ・ジ・オズ」(2018/10/10 UP)
「ゴッド・セイヴ・アス」のシングルB面に収録されたジョンとヨーコの共作曲で、こちらはエラスティック・オズ・バンド名義で発表され、ジョンが歌い、曲の合間にはヨーコの独特の奇声が入る。ジョンの鬼気迫るヴォーカルが凄まじく、『ジョンの魂』収録の「マザー」に匹敵するほどである。

『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションとスーパー・デラックス・エディションには、テイク3の長尺(未編集)ヴァージョンも収録されている。

M-13「God Save Us / ゴッド・セイヴ・アス」(2018/10/10 UP)
ジョンが愛読していたイギリスのアンダーグラウンド雑誌『オズ』が、猥褻な内容が問題となり裁判沙汰になったため、ジョンとヨーコが救済に乗り出し、共作したシングルのA面収録曲。71年7月にビル・エリオット&ザ・エラスティック・オズ・バンド名義でシングルとして発売された(ビル・エリオットは、その後、74年にジョージが設立したダーク・ホース・レーベルからスプリンターのメンバーとなった)。曲調やヴォーカルは軽快だが、歌詞は過激である。

M-12「Well(Baby Please Don’t Go) / ウェル(ベイビー・プリーズ・ドント・ゴー)」(2018/10/10 UP)
アルバム『イマジン』セッションでレコーディングされたアウトテイク。オリジナルはオリンピックスが58年に発表。アルバム制作時期の71年6月6日にニューヨークのフィルモア・イーストで行なわれたフランク・ザッパ&ザ・マザーズ・オブ・インヴェンションのステージにヨーコとともに出演した際、「(ビートルズ・デビュー前に)キャヴァーン(・クラブ)以来演奏したことがない」と言って演奏した曲でもあり、それがきっかけでスタジオで再演することになったのかもしれない。

M-11「Power To The People / パワー・トゥ・ザ・ピープル」(2018/10/10 UP)
「平和を我等に」「コールド・ターキー」「インスタント・カーマ」に続くプラスティック・オノ・バンド名義による4枚目のシングル(その間に『ジョンの魂』からアメリカでは「マザー」がシングル・カットされている)。71年3月に発売され、イギリス7位、アメリカ11位を記録した。「平和を我等に」をさらに「一般の人々」寄りにしたメッセージ・ソングで、「人民に権力を」という曲名は、60年代の公民権運動のデモでも掲げられていたものを引用したものである。いきなりそのタイトル・フレーズのシュプレヒ・コールが起こり、共同プロデューサー、フィル・スペクターのアイディアで取り入れたという足音がすぐにかぶさる冒頭からして、高揚感は「平和を我等に」以上とも言える。

 『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションとスーパー・デラックス・エディションには、スタジオでの別テイクとなるテイク7も収録されている。

M-10「Oh Yoko! / オー・ヨーコ!」(2018/10/2 UP)
ビートルズの「ジュリア」で“ocean child”と「洋子」のことを歌詞に象徴的に盛り込んだジョンが、曲名に直接的にヨーコの名前を使ったラヴ・ソング。80年の『ダブル・ファンタジー』にも続編的な「ディア・ヨーコ」を収録したジョンの、ヨーコへの変わらぬ一途な想いが歌い込まれている。アコースティック・ギターを主体としたフォーク調の佳曲で、ジョンは、ビートルズ時代の「ロッキー・ラクーン」(68年)以来、久しぶりにハーモニカを披露している。

 『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションには、69年にバハマで収録されたデモ・テイク、さらにスーパー・デラックス・エディションには、テイク1も収録されている。

M-09「How? / ハウ?」(2018/10/2 UP)
「ジェラス・ガイ」や「オー・マイ・ラヴ」のようなメロディの良いバラード・タイプの曲とは少し異なるが、より滋味深い味わいのある隠れた名曲のひとつ。フィル・スぺクターによるストリングスのアレンジも絶妙で、語りかけるようなジョンの枯れた味わいすら感じさせるヴォーカルも出色である。「どっちに行けばいいのかわからないのに、どうやって前に進むのだろうか?」――前半では自分に問いかけ、後半では自分も含む聴き手に問いかけるジョン。できない、わからないと否定しつつ、それでも生きなければ、と続ける。ビートルズの「愛こそはすべて」と『イマジン」収録の「イッツ・ソー・ハード」を合わせたような歌詞も素晴らしい。

 『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションには、スタジオでの別テイクとなるテイク31とストリングスのみの「エレメンツ・ミックス」、さらにスーパー・デラックス・エディションには、テイク7~10を合わせたヴァージョンとテイク40のオルタナティヴ・ヴォーカル・ヴァージョンも収録されている。

M-08「How Do You Sleep? / ハウ・ドゥー・ユー・スリープ?(眠れるかい?)」(2018/10/2 UP)
アルバム『イマジン』収録曲で最も物議を醸した曲。『ラム』でポールに暗に批判されたジョンは、『イマジン』で直接的にやり返したが、その代表曲がこれである。まず、出だしにビートルズの「サージェント・ペパーズ」風のSEを配し、「『サージェント・ペパー』には驚いただろう」といきなり咬ます。「目を開いたまま寝てるんじゃないか」と目の大きいのをネタにされていたポールを茶化した曲名や決めのフレーズだけでなく、「お前は死んだとファンが言ったのは正しかったぜ」「お前の功績は〈イエスタデイ〉だけだ。解散後の今じゃ〈アナザー・デイ〉しかない」と、ポールの代表曲を挙げながら続け
ざまになじったのだ。しかも、興味深いことに、同じくポールに向けたと思われる「クリップルド・インサイド」と同じくにジョージが印象的なスライド・ギターをこの曲でも披露している。

『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションには、スタジオでの別テイクとなるテイク1&2を合わせたヴァージョン、さらにスーパー・デラックス・エディションには、テイク1、テイク5&6を合わせたヴァージョン、テイク11のエクステンデッド・ヴァージョン、ストリングスのみのヴァージョンも収録されている。

M-07「Oh My Love / オー・マイ・ラヴ」(2018/9/26 UP)
『イマジン』収録曲の中では「ジェラス・ガイ」に続くバラードの名曲で、この曲のみ、ヨーコとの共作となっている。どことなく日本的なメロディはヨーコによるものかもしれない。『ジョンの魂』収録の「ラヴ」では“愛の概念”を歌い込んだジョンは、ここではヨーコ個人への思いを「風」や「雲」をはじめ、ヨーコの芸術作品にも共通するイメージを盛り込みながら表現している。その意味では、ビートルズ時代の「ジュリア」と「ビコーズ」と同列で語ることもできそうな内容である。この曲でもジョージがエレキ・ギターでジョンを援助しているが、何よりジョンの艶やかなヴォーカルが素晴らしい。

『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションには、スタジオでの別テイクとなるテイク6と、ヴォーカルのみの「エレメンツ・ミックス」、さらにスーパー・デラックス・エディションには、テイク20も収録されている。

M-06「Gimme Some Truth / 真実が欲しい」(2018/9/26 UP)
もともとビートルズ時代の69年1月に行なわれた“ゲット・バック・セッション”の時に軽く披露されていた曲。アルバム『イマジン』発売後、70年代には隠れた名曲として人気の高い曲ではあったが、82年にシングル「ラヴ」のカップリング曲となり、さらに2005年に発売された映像作品(今回同時発売される)のタイトルにもなり、より幅広く曲の魅力が伝わるようになった。真実を求めるジョンの姿勢は、ビートルズ時代の「レボリューション」に通底する激しさを伴うもので、ジョンの切実なヴォーカルが曲の良さを引き立てている。「クリップルド・インサイド」に続いて演奏に加わったジョージのギター・ソロは絶品である。

『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションには、スタジオでの別テイクとなるテイク4、さらにスーパー・デラックス・エディションには、テイク4(エクステンデッド)と、エレクトリック・ピアノ&ギターのみの「エレメンツ・ミックス」が収録されている。

M-05「I Don’t Want to Be A Soldier / 兵隊にはなりたくない」(2018/9/26 UP)
ヨーコとともに平和運動を推進してきたジョンが、「平和を我等に」や「イマジン」以上に最も直接的に「反戦思想」を明確にしたメッセージ・ソング。次作『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』に収録されていてもいいような過激な内容だが、『ジョンの魂』収録の「ゴッド」で「信じない」ものを歌詞に盛り込んだジョンは、この曲では「なりたくない」もの――兵隊、船員、金持ち、貧乏人、弁護士、盗人、聖職者などを挙げながら、なぜなりたくないのかを切々と訴えかける。つまるところこの曲でジョンが言いたいのは、「ゴッド」と同じく「自分を信じ、自分自身いがいにはなりたくない」ということだろう。また、ジョージがスライド・ギターを弾いているだけでなく、「イッツ・ソー・ハード」と同じくこの曲にもキング・カーティスのフリーキーなサックスがフィーチャーされている。キング・カーティスはレコーディング直後の8月に亡くなり、この2曲のレコーディングが「遺作」となった。

『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションには、スタジオでの別テイクとなるテイク11、さらにスーパー・デラックス・エディションには。テイク4(エクステンデッド)とテイク21、ギター、ベース&ドラムスのみの「エレメンツ・ミックス」が収録されている。 

M-04「It’s So Hard / イッツ・ソー・ハード」(2018/9/18 UP)
前曲「ジェラス・ガイ」のまろやかな曲調とは一転し、タイトル通りの「ハード」な曲。『ジョンの魂』収録の「ウェル・ウェル・ウェル」をコンパクトにしたような曲で、これぞジョンのエレキ・ギターとも言える攻撃的な音色が不穏に響く。「ウェル・ウェル・ウェル」との大きな違いは、フィル・スペクターによるストリングスが加えられていることで、それはそのまま『ジョンの魂』と『イマジン』のコンセプトの違いをも表わしている。しかもこの曲には、名だたるジャズ・サックス奏者の一人でもあるキング・カーティスがサウンドに彩りを添えており、70年代前半を象徴するハード・ロッカー=ジョンの面目躍如とも言える曲に仕上がっている。72年8月30日にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行なわれた「ワン・トゥ・ワン・コンサート」でも演奏された。

『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションには、スタジオでの別テイクとなるテイク6、さらにスーパー・デラックス・エディションには、テイク11とストリングスのみの演奏が収録されている。

M-03「Jealous Guy / ジェラス・ガイ」(2018/9/18 UP)
原曲は、ビートルズが『ホワイト・アルバム』制作前の68年春に、ジョンがインド滞在中に書いた「チャイルド・オブ・ネイチャー」である。その時の歌詞のテーマは、同じくインドでポールが書いた「マザー・ネイチャーズ・サン」と共通していたが、『イマジン』制作時にジョンは「嫉妬深い」自分の性格をヨーコに向けて詫びる内容へと変更した。ジョンの艶やかなヴォーカルが素晴らしく、ジョンのバラード・タイプの代表曲のひとつとなったが、メロディの良さをさらに引き立てたフィル・スペクターのストリングスのアレンジも秀逸である。ジョンの死後の81年に日本で追悼シングルとして発売され、その後85年にイギリスで、88年にはアメリカでもシングルとなり、この名曲の存在がさらに世界的に広がった。

『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションには、スタジオでの別テイクとなるテイク9と、ピアノ、ベース&ドラムスのみの「エレメンツ・ミックス」、さらにスーパー・デラックス・エディションには、テイク11とテイク29も収録されている。

M-02「Crippled Inside / クリップルド・インサイド」(2018/9/18 UP)
ジョンの軽快なヴォーカルが楽しいカントリー・ブルース調の曲。ジョン自身も気に入っている明るく爽やかなサウンドが印象的だが、そうした曲調に反して、歌詞はかなり辛辣だ。外面(そとづら)が良くても、いびつな心は隠せない――ビートルズの解散騒動のゴタゴタの中、ジョンとポールがそれぞれのソロ・ア

バム『ジョンの魂』(70年)と『ラム』(71年)でお互いを批判し合うという泥仕合を演じていたが、『ラム』の1曲目に収録された「トゥ・メニー・ピープル」で「説教ばかりするやつはあっちに行け」と言われたジョンが、そのまま黙っているわけがない。そうした流れでこの曲をとらえれば、辛辣な歌詞はポールに向けて書かれたものととるのが自然だろう。ジョージ・ハリスンが切れ味鋭いドブロ・ギターを聴かせている。

『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションには、スタジオでの別テイクとなるテイク3、ギター・ソロの異なるテイク6、さらにスーパー・デラックス・エディションには、アップライト・ベース&ドラムスのみのテイクと、制作過程がわかる「エヴォリュージョン・ドキュメンタリー」(YouTubeで一般公開中)が収録されている。

M-01「IMAGINE / イマジン」(2018/9/11 UP)
ジョンのソロ時代の代表曲。オノ・ヨーコと行動を共にするようになったジョンが69年に発表した「平和を我等に(ギヴ・ピース・ア・チャンス)」のメッセージをさらに推し進めた曲でもある。

ビートルズ時代に書いた「グッド・ナイト」は息子ジュリアンに向けての優しい子守唄だったが、ポールが書いたのではないかと思えるような、わかりやすく流暢なメロディの曲もジョンには案外多い。ピアノの弾き語りで優しい語り口で歌われる「イマジン」は、その筆頭にあげられる曲でもある。
 ジョン自身、ようやく「イエスタデイ」みたいないい曲ができたと喜んだという逸話もあるが、「レノン=オノの共作にすべきだった」とジョンも認めているように、歌詞とコンセプトはヨーコの詩集『グレープフルーツ』(初版は64年刊行)から採られたものだ。『グレープフルーツ』には「想像せよ」という言葉から始まる詩がいくつか掲載されており、ヨーコと出会ったジョンが、ヨーコのその詩集にインスパイアされて書き上げた曲――それが、「勝利を我等に(ウィ・シャル・オーヴァー・カム)」を超えるような歌を作りたいという思いでジョンが書き上げた「イマジン」だった。2017年6月14日にアメリカの「全米音楽出版社協会」が「イマジン」をジョンとヨーコの共作曲と認定したのは、そうしたジョンの思いを受け止めた結果だったのかもしれない。

と、このように、スタンダード曲の仲間入りができるほど名曲としての味わいがあるものの、他のスタンダード曲と大きく違うのは、歌われている内容だ。「天国も地獄も国家も宗教も、所有することもない世界を想像してごらん」とジョンは歌っているのだから、宗教観や死生観を尊重する世界中の人々の拠り所を否定しかねない、過激な内容なのである。
 だからこそ、この曲が出た当時もまだ続いていたベトナム戦争時に、兵士の戦意を喪失させるという理由でアメリカでは放送禁止になり、20年後のいわゆる湾岸戦争時にはイギリスで「平和を我等に」とともに放送自粛の曲となり、さらに30年後の2001年のニューヨークの「同時多発テロ」事件の際にもアメリカで放送自粛となった。
 とはいえ、ジョンの想いはその先にあるのは明らかだ。前回に書いたことでもあるが、「グループをカテゴリー化しようとするのは、物を宗教とか国籍とか民族とか肌の色とか信条とか性別の箱に絶えず入れようとするのと同じ心情だ」というジョンの言葉どおり、名誉・肩書・所属などから解放され、偏見などもなく個と個が「人」として結びつくこと、そこにこそ平和への道がある――「イマジン」でジョンが言わんとしているのはその想いだ。

アメリカでは71年にアルバムからシングル・カットされて3位を記録(カップリングは「イッツ・ソー・ハード」)。イギリスではベスト盤『シェイヴド・フィッシュ』の発売に合わせて75年にようやくシングルとなり(カップリングは「労働階級の英雄」)、6位を記録したが、ジョンの死後の81年に1位となった。

10月5日発売予定の『イマジン:アルティメイト・コレクション』の2枚組のデラックス・エディションには、リミックス・ヴァージョン以外に「エレメンツ・ミックス(ストリングス・オンリー)」「デモ」「テイク1」、スーパー・デラックス・エディションにはさらに「テイク10」も収録されるなど、「イマジン」の制作過程が窺える興味深い音源が楽しめる(ピアノの弾き語りによる「イマジン(デモ)」はすでに公開されている)。