作品解説:『イマジン:アルティメイト・コレクション』の全て

リミックス版の聴きどころ#6(2018/10/17 UP)
10月12日には『イマジン:アルティメイト・コレクション』のスーパー・デラックス・エディション(CD4枚組/ブルーレイ[音源のみ]2枚組、豪華本付ボックス・セット)も発売された。名盤『イマジン』の全容を幅広い視点から知るのに最適な内容になっている。今後、これを上回るものは出ない――そう言い切ってもいい、まさに“ベスト・オブ・『イマジン』”。より深く味わいたい方は、合計149トラックが収録されたスーパー・デラックス・エディションをお手元に。

最終回となる本シリーズ、最後は『イマジン:アルティメイト・コレクション』のリミックス盤の聴きどころについて、CD2枚組の「デラックス・エディション」の収録曲を例にとり、具体的に聴きどころについて触れてみる。

まず、アビイ・ロード・スタジオのエンジニア、ポール・ヒックスによる今回のリミックスの特徴のひとつが、声を含め、各楽器の粒立ちの良さが際立っていることである。これまで聴いていた「イマジン」が全く別の曲に聞こえるほど、浮遊感のあるサウンドへと変貌を遂げている。ディスク2の「イマジン(エレメンツ・ミックス)」は、フィル・スペクターがアレンジしたストリングスだけを取り出したミックスで、これをきいて、即座に「イマジン」だと“想像”できるファンはいったいどれくらいいるだろうか。そして、その流暢なストリングスがジョンの声とメロディに交わり、名曲「イマジン」として完成されたわけだが、その空間の広がりが感じられるリミックスは、「スーパー・デラックス・エディション」に収録されたブルーレイ・ディスク1のサラウンド・サウンドのミックスでは、さらに顕著になっている。

制作に際してヨーコは「ジョンのヴォーカルをより明瞭に聴かせること」をエンジニアに要望したというが、身震いするほど魅力的なジョンの歌声は、たとえば「オー・マイ・ラヴ(エレメンツ・ミックス)」を耳にすれば“一聴瞭然”だろう。

初登場の珍しいテイクも目白押しだ。たとえばジョージのドブロ・ソロが異なる「クリップルド・インサイド(テイク6)」や、ジョージのスライド・ギター・ソロが入らず、演奏も長い「真実が欲しい(テイク4)」、69年にバハマで収録されたという「オー・ヨーコ!」のアコースティック・デモをはじめ、曲作りの過程が伺える演奏も多数聴くことができる。そうした中で今作のハイライトのひとつと言えるのが、「ドゥ・ジ・オズ(テイク3)」だろう。ジョンが愛読していたイギリスのアンダーグラウンド雑誌『オズ』が、猥褻な内容が問題となり裁判沙汰になったため、ジョンとヨーコが救済に乗り出し、共作したシングル「ゴッド・セイヴ・アス」のカップリング曲で、公式発売されたヴァージョンはディスク1に収録されているが、ディスク2には、7分ほどもある未発表のロング・ヴァージョンが収録されている。ここではジョンはエレキ・ギターに徹し、リード・ヴォーカルは、低音が魅力のマイケル・ラムスデンがメインで、ヨーコがそこに“絶叫”で絡む凄まじい演奏が繰り広げられる。

また、今回新たに“新事実”として明らかになったのは、アルバムのレコーディング期間だ。これまでは71年6月23日から7月5日あたりの8日間と伝えられたりしていたが、実際は1ヵ月前の5月24日から29日で、しかも「イッツ・ソー・ハード」と「兵隊にはなりたくない」は、シングル「パワー・トゥ・ザ・ピープル」のセッション時の71年2月にレコーディングされ、前者はその時の演奏がアルバムに収録されていたのが判明したのである。「ゴッド・セイヴ・アス」と「ドゥ・ジ・オズ」の71年5月のデモ録音と6月の公式録音というのも、今回明らかになったことだ。

さて、改めて、音と映像と本でこうして『イマジン』の全容が明らかにされたのが、ファンならずとも嬉しい。『イマジン』の精神がまだ通用してしまう世の中だからこそ、「想像する」ことの大切さを、ヨーコの全面監修によって制作された『イマジン:アルティメイト・コレクション』を通して感じ取りたいものだ。

リミックス版の聴きどころ#5(2018/10/10 UP)
ついに『イマジン:アルティメイト・コレクション』が発売日となった。名盤『イマジン』がどのように変わったのか、制作の裏側も含めて、じっくり向き合うのにふさわしい内容となっているので、お手元にぜひ。

さて、ビートルズの『アンソロジー』シリーズの『イマジン』版、と以前に書いたとおり、音と映像だけでなく、豪華本も10月9日(ジョンの誕生日)に発売される。320ページにも及ぶハードカバーの大型本『イマジン ジョン&ヨーコ』である。ヨーコの全面監修のもと、『イマジン』の制作現場の実態や、アルバムのアートワーク、ミュージック・ビデオなど、アルバムにまつわるありとあらゆる事柄をジョンとヨーコだけでなく、参加ミュージシャンやレコーディング・スタッフなど関係者の証言も交えてまとめられた必読・必携の内容となっている。まさに「インサイド・ストーリーの決定版」である。
 セッション中の写真も含めてヨーコが保管してきた写真の8割が世界初公開という希少価値の高さだけでなく、ジョンとヨーコのティッテンハーストの自宅の内部写真や詳細な間取りなども掲載されているというから、ファンならずとも見逃せない。収録曲に関するコメントのほかに、アルバム・ジャケットに使用されたジョンの二重露出のポラロイド写真がどのように作られたのかなど、その過程についても詳しく語られている。
 音と映像と本を通して新たに知る『イマジン』の世界。発売から37年経った21世紀の現在でも、いまだにジョンが「イマジン」で描いた平和への想いが有効なのは、むしろ悲しむべきことかもしれない。いや、世界情勢が不安定ないまだからこそ、アルバム『イマジン』でジョンが訴えかけたかったことを受け継がなければならないだろう。そして、今回ヨーコの全面監修によって制作された『イマジン:アルティメイト・コレクション』を通してアルバム『イマジン』の“真の意味”を理解し、「想像する」重要性を今一度、ビートルズ・ファンならずとも認識する必要があるのではないだろうか。『イマジン:アルティメイト・コレクション』は、ジョンとヨーコへの理解をさらに深める“最新版”でもある。

リミックス版の聴きどころ#4(2018/10/2 UP)
『イマジン:アルティメイト・コレクション』と同時に発売される映像作品『イマジン/ギミ・サム・トゥルース』は、アルバム『イマジン』でのセッションの実態を知る上で欠かせない一級の資料とも言える重要な作品である。

『イマジン』はもともと『イマジン・ザ・フィルム』のタイトルで72年に公開され、85年に一般発売された作品で、『ギミ・サム・トゥルース』は『ギミ・サム・トゥルース~メイキング・オブ・ジョン・レノンズ“イマジン”アルバム』のタイトルで2000年に発売された作品だった。今回の発売に際し、どちらもオリジナルのネガを1コマずつ手作業で修復し、HDでリマスターされ、音声は、こちらもアビイ・ロードのエンジニアのポール・ヒックスによって5.1サラウンド・サウンドでリミックス&リマスターされている。

『イマジン』はジョンとヨーコが監督・制作したもので、ジョンの『イマジン』全曲と、同時期に発売されたヨーコの『フライ』からの4曲をすべてプロモーション・ヴィデオ仕立てにした“ヴィデオ・アルバム”とも言える作品となっている。撮影は71年夏にアスコットにある二人のティッテンハーストの自宅で開始され、ニューヨークのレコード・プラントでの様子もフィルムには収められている。レコーディングに参加したジョージのほかに、フレッド・アステア、アンディ・ウォーホル、ディック・キャヴェット、ジャック・パランス、ジョナス・メカスなどの著名人も数多く登場するなど、アルバム『イマジン』のセッションだけでは見えてこない二人の“交流の幅”も窺える内容である。

『ギミ・サム・トゥルース』は、『イマジン』よりもスタジオでのセッションの様子に焦点をあてたドキュメンタリー作品で、曲が完成されるまでの過程を映像で確認できる内容となっている。グラミー賞を受賞した秀逸な映像作品でもある。
 DVDとブルーレイがそれぞれ発売され、ともにボーナス映像として、「ジェラス・ガイ」「ハウ?」「真実が欲しい」の“ロウ・スタジオ・アウト・テイク”と、デヴィッド・ベイリーによるセッション時の写真が収録されている。

リミックス版の聴きどころ#3(2018/9/26 UP)
音で描く『イマジン』セッションの全貌は、スーパー・デラックス・エディションで明らかになる。4枚の通常CDにブルーレイ2枚を加えた計6枚という構成で、ディスク1は『イマジン』のリミックス版全曲と、その時期に発売されたシングル「パワー・トゥ・ザ・ピープル」「ゴッド・セイヴ・アス」「ハッピー・クリスマス」などを加えた全16曲。ディスク2は、ディスク1収録の16曲の別テイクのほかに、「エレメンツ・ミックス」――たとえば「イマジン」よ「ハウ?」のストリングスのみのテイクや「オー・マイ・ラヴ」のヴォーカルだけのテイクなど――分離度の高いリミックスが実現したおかげで、最も魅力的な部分だけを取り出して強調した面白い試みがなされている。ここまでは2枚組のデラックス・エディションと同じ構成である。
ディスク3以降はスーパー・デラックス・エディションのみの収録となる。

ディスク3のロウ・スタジオ・ミックス (ライヴのスタジオ・ミックス)は、エンジニアのロブ・スティーヴンスが中心となって行なったもので、その名の通り、ティッテンハーストにあるジョンとヨーコの自宅スタジオ(アスコット・サウンド・スタジオ)でレコーディングされた“ライヴ音源”がそのまま収録されている。そのため、リヴァーブ、テープ・ディレイなどのエフェクトは全くかかっておらず、音のニュアンスの違いが楽しめる仕上がりとなっている。ブルーレイのディスク2には、このライヴのスタジオ・ミックスが5.1サラウンド・サウンドで収められている。5.1サラウンド・サウンドで楽しめる環境があるならば、ジョンが正面にいて、バンドの演奏が後ろを囲むように聞こえてくるという、従来の4チャンネル・ステレオ盤以上の生演奏を体験できる。

続くディスク4の“エヴォリューション・ドキュメンタリー(進化過程のドキュメンタリー)”はエンジニアのサム・ガンノンがモノラルでまとめたもので、その名のとおり、曲がどのように仕上がっていくのか、その過程を存分に楽しめる、これも面白い試みとなっている。YouTubeで「クリップルド・インサイド」の制作過程を楽しめる音源がすでに公開されているが、それを見ると、楽器が加わっていくさまやスタジオでのセッションの雰囲気が伝わってきて興味深い。

そしてブルーレイ・ディスクは、1枚目には、ポール・ヒックスがハイレゾ・サラウンド・サウンドでミックスしたディスク1の全16曲と、4チャンネル・ミックスの最新版、さらにここでしか聴けないアウトテイク音源を含むハイレゾ・ステレオ・ミックスが収録されている。2枚目には、CDのディスク3に収録されている「エクステンデッド・アルバム・ヴァージョン」のほかに、さらなるアウトテイクやエレメント・ミックスなど、よりディープな体験ができる音源が多数収録されている。ジョンとヨーコと交流の深いエリオット・ミンツによる29分に及ぶインタビューも聴き逃せない。

リミックス版の聴きどころ#2(2018/9/18 UP)
今回のリミックス版が生まれた経緯について、面白い話がある。 エンジニアのロブ・スティーヴンスが『イマジン』のオリジナル・テープの入った箱を時間をかけて探していたところ、“DEMO”と書かれた1インチの8トラックのテープが見つかったという。その箱にはアスコット・サウンドのラベルと、ジョン・レノンの名前、日時、そしてエンジニアのフィル・マクドナルドの名前が記載されていただけで曲名はない。それでデジタル変換して聴いてみると、「イマジン」のデモ・テープが収録されていたという。『イマジン:アルティメイト・コレクション』のデラックス・エディションとスーパー・デラックス・エディションに収録された「イマジン」のデモはそうして見つかった初登場の音源だったのだ。

今回のリミックス作業にあたったのはアビイ・ロード・スタジオのエンジニア、ポール・ヒックスだが、スーパー・デラックス・エディションに収録されたブルーレイ・ディスク1のサラウンド・サウンドのミックスでは、楽器とヴォーカルがこれまでの作品以上に格段にクリアに聴こえるようになった。YouTubeで『イマジン』の1971年のオリジナル・ミックスと2018年のUltimate 2018 Mixの音源比較できるビデオがすでに公開されているが、「1971 vs 2018 - Side A」「1971 vs 2018 - Side B」を通して聴くと、たとえばタイトル曲「イマジン」を聴いただけで、流暢なストリングスが前面に迫ってくるほど分離度が高いのがわかる。

また今回ポール・ヒックスは、『イマジン』の4チャンネル・ステレオ用のミックスのリマスターも行なっている。この貴重で希少価値のある4チャンネル・ステレオ盤のミックスに手が加えられたのは初めてのことだ。

アルバム『イマジン』の制作過程は、『イマジン:アルティメイト・コレクション』と同時発売される2本の映像作品『イマジン』『ギミ・サム・トゥルース』でもこれまでに存分に味わうことができたが、今回はそこに、音と文字で『イマジン』の全貌を伝えるという新たな意義が加わった。そこで思い浮かぶのが、97年に登場したビートルズの『アンソロジー』シリーズだ。メンバーの回想録を交えてビートルズの歴史を振り返ったシリーズだが、それになぞらえるなら、今回の作品は、『アンソロジー」シリーズのジョン・レノン『イマジン』版、と言ってもいいだろう。

リミックス版の聴きどころ#1(2018/9/18 UP)
『イマジン:アルティメイト・コレクション』のリミックス版の聴きどころについて、まずは概要も含めてご紹介――。

本作が、オノ・ヨーコの監修により実現した作品であるというがまずは重要だ。名作『イマジン』がどのように作られたのか、それを2018年の現在、改めて世に問うこと――そこにヨーコの意図があるのは間違いない。
そうして完成した『イマジン:アルティメイト・コレクション』は、140曲にも及ぶリミックス、リマスター、ライヴ、アウトテイク等を収録した4CD+2ブルーレイ入りボックス・セットという壮大なもの。しかもこれらの音源とは別に、2本の映像作品『イマジン』『ギミ・サム・トゥルース』と、書籍『イマジン ジョン&ヨーコ』までも同時発売されるというのだから、まさに“『イマジン』の全てがわかる最強コレクション”という謳い文句どおりの内容となる。
制作に際してヨーコは、「オリジナルに忠実で、オリジナル音源に敬意を表したものであること」「全体的にクリアな音にすること」「ジョンのヴォーカルをより明瞭に聴かせること」の3点を実現することを願ったという。実際のリミックス作業は、アビイ・ロード・スタジオのエンジニア、ポール・ヒックスが手掛けたが、その際、HDの24-bit/96kHzを使用して、アルバムのオリジナルの第一世代マルチトラック・レコーディング・テープのオーディオ・トランスファーを行なった。楽器とヴォーカルの両方が今までよりも格段にクリアに聴こえるようになったというから、「イマジン」のような音数の少ない曲はより広がるのある音に、また「兵隊にはなりたくない」のような楽器数の多い曲は、スタジオで演奏している風景が思い浮かぶような分離度の高い音になっていることと思う。
今回のミックスに関しては、新規のリミックスだけでなく。ライヴ・スタジオ・ミックスや、5.1サラウンド・サウンド・ミックス、さらにオリジナルの4チャンネル・ステレオ用のミックスのリマスターまで行なわれるという幅広さである。『イマジン』がどんなふうに生まれ変わったのか。発売が今から待ち遠しい。

『イマジン』作品論(2018/9/4 UP)
『イマジン』は、ジョン・レノンの実質的なスタジオ・ソロ・アルバムとしては『ジョンの魂』に続く2作目である。『ジョンの魂』と並ぶ代表作で、71年10月8日(アメリカは9月9日、日本は10月25日)に発売され、イギリス、アメリカ、日本で1位を記録した。

70年のシングル「インスタント・カーマ」やビートルズのラスト・アルバム『レット・イット・ビー』のプロデュースの手腕を評価したジョンは、フィル・スペクターをアスコットの自宅スタジオに招き、レコーディングは8トラックの機材を使ってわずか9日間で行なわれた。

アルバム制作の様子は、今回リマスター収録される映像作品『イマジン』『ギミ・サム・トゥルース〜メイキング・オブ・ジョン・レノンズ“イマジン”アルバム』などでも観られるが、ジョンとスペクターは今作ではがっぷり四つに組み、その結果、ストリングスやホーンやパーカッションを多用したスペクターの色合いを感じさせる厚みのある音作りになっている。

参加メンバーは以下のとおり——。
 
ジョン・レノン(ヴォーカル, アコースティック・ギター、エレキ・ギター, ピアノ、口笛、ハーモニカ)、ジョージ・ハリスン(エレキ・ギター、アコースティック・ギター、ドブロ)、ニッキー・ホプキンス(ピアノ、エレキ・ピアノ)、クラウス・フォアマン(ベース、 コントラバス)、アラン・ホワイト(ドラムス、ティンシャ、ヴィブラフォン)、ジム・ケルトナー(ドラムス)、ジム・ゴードン(ドラムス)、キング・カーティス(サックス)、ジョン・バーハム(ハーモニカ)、、ジョン・トゥアウト(ピアノ)、テッド・ターナー(アコースティック・ギター)、ロッド・リントン(アコースティック・ギター)、ジョーイ・モーランド(アコースティック・ギター)、トム・エヴァンス(アコースティック・ギター)、アンディ・クレスウェル・デイヴィス(アコースティック・ギター)、マイク・ピンダー(タンバリン)、スティーヴ・ブレンデル(コントラバス、マラカス)、フィル・スペクター(ハーモニー・ヴォーカル)、ザ・フラックス・フィドラーズ(ストリングス)

中でもジョージの活躍が目覚ましく、「真実が欲しい」と「ハウ・ドゥ・ユー・スリープ(眠れるかい?)」でのスライド・ギターや「クリップルド・インサイド」でのドブロなどでジョンを強力にバックアップしている。

アルバム全体は「イマジン」や「ジェラス・ガイ」をはじめ聴きやすい曲が多く、『ジョンの魂』のような重苦しい雰囲気を感じさせないまろやかな空気が作り出されている。その一方で、ビートルズ解散の余波は尾を引き、この時期、ポールとの反目が作品で顕在化した。ポールが2枚目のソロ・アルバム『ラム』(71年)でジョンを揶揄したのに対し、ジョンは本作収録の「クリップルド・インサイド」と「ハウ・ドゥ・ユー・スリープ」でやり返した。この2曲は、繊細で過激なジョンの二面性が盛り込まれた代表的な作品でもあるが、特に「ハウ・ドゥ・ユー・スリープ」では、出だしにビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」風のSEを配したり、「イエスタデイ」などを引き合いに出したりとかなり辛辣だったが、ポールとのやりとりは、単刀直入に切り込んでいくジョンの信条を表わしたものでもあった。

曲で目を引くのは、やはりタイトル曲「イマジン」だろう。69年にヨーコとともにアムステルダムやモントリオールで“ベッド・イン”を行なうなど平和運動を続けてきたジョンとヨーコは、ニューヨークに移住する直前、理想郷を夢見たスタンダード曲を書き上げた。それが『ジョンの魂』と並びジョンの代表作として挙げられるものだ。

 「あの歌は実際はレノン=オノの共作にすべきだった」とジョンも認めているように、歌詞とコンセプトはヨーコの詩集『グレープフルーツ』から採られたものではあったものの、理想の世界を歌った内容は、「ウィ・シャル・オーヴァー・カム(勝利を我等に)」を超えるような歌を作りたいという思いで書き上げたものでもあった。2017年6月14日にアメリカの「全米音楽出版社協会」が「イマジン」をジョンとヨーコの共作曲と認定し、大きな話題となった。

「グループをカテゴリー化しようとするのは、物を宗教とか国籍とか民族とか肌の色とか信条とか性別の箱に絶えず入れようとするのと同じ心情だ」と後にジョンは語っていたが、名誉・肩書・所属などなどそのすべてから解放され、個と個が結びつくこと、そこに平和への道があるという想いがジョンの心の中にはあったのかもしれない。