BIOGRAPHY

ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン

 ヤープ・ヴァン・ズヴェーデンは、この10年の間に三大陸において、自らの世界的存在感を確固たるものにした。そして彼にとって2017₋18年シーズンは、ダラス交響楽団との10年に及ぶ音楽監督としての任期が終わりを迎え、ニューヨーク・フィルハーモニック(以下、NYP)の新しい音楽監督に就任する2018₋19年シーズンを翌年に控えての特別なシーズンとなる。2012年に就任した香港フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督としての任を継続する一方で、NYPとはニューヨーク公演やツアーを含めて多くの公演が控えているが、それらに加えて、2017₋18年シーズン中にはシカゴ交響楽団との再演を始め、アムステルダム・ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団、オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団との共演といった特筆すべき演奏会の数々も予定されている。

 マエストロ・ヴァン・ズヴェーデンはクリーヴランド管弦楽団、フィラデルフィア管弦楽団での客演を始め、ボストン、ロンドン、上海交響楽団、さらにロサンゼルス、ウィーン、ベルリン、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、そしてフランス国立管弦楽団、パリ管弦楽団で指揮をしている。また、2015年からはダラス交響楽団と共にSOLUNAミュージック&アーツ・フェスティバルを毎年開催している。香港フィルハーモニー管弦楽団とは4年かけて香港では初めてとなるワーグナーの《ニーベルングの指環》公演を実現し、その公演はナクソス・レーベルから順次リリースされている。2017₋19年の夏には、グシュタード・フェスティバル・オーケストラとグシュタード指揮法アカデミーの首席指揮者を務める。

 ヤープ・ヴァン・ズヴェーデンはレコ―ディングにおいても高い評価を得ている。彼はストラヴィンスキーの《春の祭典》と《ペトルーシュカ》、ブリテンの《戦争レクイエム》、そしてベートーヴェン、ブラームス、ブルックナーの交響曲全曲を録音しているだけでなく、マーラーの交響曲第5番をロンドン・フィルハーモニー管弦楽団と、モーツァルトのピアノ協奏曲をフィルハーモニア管弦楽団と共にソリストにデヴィッド・フレイを迎えて録音している。ワーグナーの《ローエングリン》《ニュルンベルクのマイスタージンガー》そして《パルジファル》(彼はこの演目で2012年の栄誉あるエディソン賞のベスト・オペラ賞を授与されている)といった彼が指揮した素晴らしい公演の数々がCDとDVDでリリースされている。ダラス交響楽団のレーベルでは、チャイコフスキー、ベートーヴェン、マーラー、そしてドヴォルザークの交響曲だけでなく、スタキー(*スティーヴン・エドワード・スタキー1949₋2016アメリカの作曲家)作曲の《1964年8月4日》の世界初演の録音も行っている。なお、2017₋18年シーズンからは、ユニバーサル ミュージック・グループ・アメリカのクラシック部門とヤープ・ヴァン・ズヴェーデンの率いるNYPとの契約のもとで新たなレコ―ディングが行われることも決定している。

 アムステルダム生まれのヤープ・ヴァン・ズヴェーデンは、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団史上最も若いコンサートマスターに19歳で任命された。しかし彼が指揮者として歩み始めるのはそれから20年後の1995年のことであった。彼は現在、2005₋13年から首席指揮者を務めたオランダ放送フィルハーモニー管弦楽団の名誉首席指揮者であり、オランダ放送室内楽団の名誉指揮者である。2008₋11年シーズンにはロイヤル・フランダース交響楽団の首席指揮者を務めている。マエストロ・ヴァン・ズヴェーデンは2012年にミュージカル・アメリカの“コンダクター・オブ・ザ・イヤー”に選ばれている。

 1997年にヤープ・ヴァン・ズヴェーデンは、妻のアールチエと共にパパゲーノ財団を設立し、音楽療法士や音楽家と共に自閉症の子供を持つ家族を支える活動をしている。2015年8月、自閉症の若者や子供たちのためのパパゲーノ・ハウスがオランダのラーレンにマクシマ王太子妃を迎えて、オープンした。

ニューヨーク・フィルハーモニック

 ニューヨーク・フィルハーモニック(NYP)は、ニューヨーク市、アメリカ合衆国、そして世界の文化のけん引役を担ってきた。NYPは、毎シーズン、ニューヨーク市におけるコンサートだけでなく、同一会場で行う定期公演や世界各地へのツアー、さらにはデジタル・レコーディング・シリーズや海外での放映、そして教育プログラムを通して5000万人もの音楽愛好家とつながりを持ってきた。2017₋18年シーズンには、次期音楽監督であるヤープ・ヴァン・ズヴェーデンを迎えて、NYPは革新的な目で将来を見据え、世界的なアンサンブルとしての自覚のもと、音楽家とパートナーに陽を当て、新しい音楽のために力を尽くし、幅広いレパートリーと教育プログラム、さらに人々から親しまれるオーケストラとしての圧倒的な強みと真の献身をいかんなく発揮することだろう。
 NYPは重要な作曲家に作品を委嘱初演、あるいは彼らの作品の初演を1842年の創立時より、時代を超えて行ってきた。そのような作品の中には、ドヴォルザークの交響曲第9番《新世界より》、ガーシュウィンの《へ調(*ピアノ)協奏曲》、ピューリッツァー賞を受賞したジョン・アダムズの《オン・ザ・トランスミグレーション・オブ・ソウル(*管弦楽、合唱とテープによる輪廻転生論)、9・11の犠牲者に捧ぐ》、エサ=ペッカ・サロネンの《ピアノ協奏曲》、ウィントン・マルサリスの《ザ・ジャングル(交響曲第4番)》と言った作品が含まれている。このような新しい音楽とのかかわりが、今や9シーズン目を迎える現代音楽企画“CONTACT!(コンタクト!)”シリーズを生み出したのである。
 地域社会、さらには世界に音楽資産を届けるべく、NYPは毎年無料コンサートを町のあちらこちらで開催している。その中にはオスカー・シェーファーとその妻ディディが主催する公園コンサートも含まれ、他にも金曜日のフリーコンサートを始め、長年にわたって愛され、人気を博している“ヤング・ピープルズ・コンサート”がある。将来の優秀なオーケストラ奏者の育成のために、ニューヨーク・フィルハーモニック・グローバル・アカデミーを創設し、近年では上海オーケストラ・アカデミー、レジデンシー・パートナーシップ、サンタ・バーバラ・音楽アカデミー・オブ・ザ・ウエストといったプロジェクトを展開し、他の組織との協力関係を構築している。さらにミシガン大学の大学音楽協会とは以前よりレジデンシー・パートナーシップ(*研修生制度)を継続的に行っている。世界中にその名を知られたオーケストラとして63ヵ国432都市で演奏を行ってきた歴史の中で特筆すべき公演旅行の中には、1930年のヨーロッパ・ツアー、それまで前例のなかった1959年のソビエト連邦へのツアー、2008年の歴史的な北朝鮮訪問ではアメリカのオーケストラとしては初めての平壌公演、そして2009年にはベトナムのハノイでの初公演といったものが挙げられる。
 メディアの分野においても、NYPはパイオニアとして強い存在感を示してきた。1917年から2000以上のレコーディングを行っただけでなく、ライヴ、および録画されたコンサートをダウンロード・コンサートとして提供したアメリカにおける最初のメジャー・オーケストラとなったのである。2016年には、初のフェイスブック・ライヴコンサートを配信し、1シーズン中に100万人以上の人々がオンラインで3回行われた配信を楽しんだ。オーケストラの詳細な歴史はオンライン上の“ニューヨーク・フィルハーモニック、レオン・レヴィ・デジタル・アーカイヴ(New York Philharmonic Leon Levy Digital Archives)”において無料で閲覧ができるようになっており、ここでは1842年からの印刷された、あらゆるプログラムのみならず、マーラーやバースタインを始めとする多くの音楽家や音楽監督の手で書き込みがなされたスコアやパート譜を見ることができる。2018年末には、300万ページを超える資料がここに収められ、閲覧できるようになる予定である。
 1842年にアメリカ生まれの音楽家、ウレリ・コレッリ・ヒルに率いられた地元の演奏家たちによって創設されたアメリカ合衆国においてもっとも長い歴史をもち、世界にあっても最も古い交響楽団の1つとして存在してきたのが、NYPである。NYPを率いてきた著名な作曲家や指揮者の中には、チャイコフスキー、リヒャルト・シュトラウス、ストラヴィンスキー、コープランド、そしてミトロプーロスといった面々がおり、2018₋19年シーズンからヤープ・ヴァン・ズヴェーデンがオーケストラの音楽監督の任に就く。彼の前任者には、アラン・ギルバート、ロリン・マゼール、クルト・マズア、ズービン・メータ、ピエール・ブーレーズ、レナート・バーンスタイン、トスカニーニ、そしてマーラーといった名前が連なっている