『Éclore』のオフィシャルインタビュー公開!!
GLIM SPANKYが2年4か月ぶりにリリースする通算8枚目のオリジナルアルバム『Éclore』タイトルはフランス語で「孵化する」「(花が)開く」「(才能などが)生まれる・出現する」を意味し、その言葉通り、本作には“新しい自分になる/何かから抜け出す/回復する”という感覚が、全編にわたって息づいている。作詞・作曲・編曲・プロデュースまでを全て2人だけで担い、「ロックと向き合いながら、音楽を通じて伝えるメッセージ」を探求した本作は、彼らの新境地を切り開きつつも純度100%のアルバムだ。
──フルアルバムのジャケットに、松尾さんお一人が写っているのは、これが初ですよね?
松尾:そうですね。これまでは「GLIM SPANKYはこの2人」ということを見せる意味でも、ジャケットには必ず2人一緒で写る、という縛りを自分の中で設けていたんです。でも10周年を越えて、次の新しい一手というか、何かアップデートした面白いことができないかを考えたときに、ジャケットやアートワークより先に、まずアルバムのテーマが決まったんですね。
昨年の終わりに、私が喘息で寝込んでいた時期があったんですけど、そのとき頭の中にあったのが「復活」や「孵化」というワードでした。とにかく早く治して、そこからさらに成長したい、進化したいという気持ちがあったんだと思います。しかも、自分がいま書きたいことや、曲たちに共通する無意識のテーマを探っていくと、全部「新しく何かをする」とか「変わる」とか、そういうことにつながっていたんですよ。それで、ふさわしいタイトルを探していたときに、「Éclore」には「孵化する」とか「花が開く」とか、そういう意味があると知って。
──ぴったりだなと。
松尾:もう一つ、アルバム用に出揃った曲を改めて見てみると、「私と誰か」「私とあなた」という書き方がすごく多いことに気づきました。そこから、まるで会話劇を見ているような、映画や小説の世界に感情移入していくような、そんな体験ができる作品にしたいなと。ひとつひとつの楽曲がそれぞれ独自の物語になった、短編ムービー集や短編小説集みたいなアルバムにしたい、ということをデザイナーさんにも伝えて。それで出来上がったのが、今回のアルバムジャケットなんです。
──松尾さんの衣装も幻想的で、とても素敵です。
松尾:ありがとうございます。自分でも、いままででいちばん気に入ってるかもしれないです。もともと妖精が好きだったこともあるし、「羽」って可愛いなと思っていたんですよ。しかも今回は、天使や蝶々じゃなくて、「蛾」や「蚕」がいいなと。そのイメージを衣装さんと共有して、それをもとに作ってもらいました。
──音楽的には、デビューから10年間の集大成とも言えるベストアルバム『All the Greatest Dudes』を経て、何か新たな一手を考えました?
亀本:すごく考えましたね。今回、松尾さんと共有して取り組みたかったのは、歌唱表現を、これまでの自分たちとも周りのバンドとも違うものにしていきたい、ということでした。歌い方そのものもそうですし、声の音色ももっと現代的にできないか、と。
たとえば今の時代、僕も含めて音楽をヘッドフォンで聴くことが多いじゃないですか。そういう環境の中で、もっと歌が前にある感じというか、ある意味ちょっとASMR的な、声の近さや質感を目指したいなと。実際に松尾さんには僕の自宅の作業場に来てもらって歌ってもらうなど、いろいろ試行錯誤していきました。
松尾:特に意識したのは、声の「下の部分」を出すことでした。私はこれまでずっと、レコーディングで映える歌い方というより、ライブの爆音の中でも負けない歌い方を追求してきたところがあるんですよ。でも今回は亀の自宅で歌を録って、DAWの波形を見ながら「こういうふうに歌うと、この帯域がよく出るんだね」「こっちのほうがより低音が出るよ」みたいに、何度も歌い方を試してみたんです。
その結果、今度はライブの現場でPAさんに「なんかすごく下の成分が波形で出てるけど、どうしたの?」って言われたんですよ(笑)。自分ではそこまで意識していなかったけど、声の成分をより幅広く出す歌い方が、ちゃんと身についていたんだなと思いましたね。
──先ほどおっしゃった休養期間中は、どんな心境だったのかをもう少し詳しく聞かせてもらえますか?
松尾:まず、2年前にコロナになったときのことを思い出してしまって、「もうああなるのは嫌だな」と思いましたね。その一方で、ちょうどアルバムを作らなきゃいけないギリギリの時期でもあったし、「今の焦っている自分」や「咳をしている自分」さえ作品にしようとも思っていたんです。映画を観たり、本を読んだりしてインプットもたくさんしたし、ある意味この療養期間は、自分の気持ちとものすごく向き合った時間でした。
そのうえで、今の自分はどんな音楽が聴きたいかを考えたんです。自分は喘息で苦しんでいるし、世の中的にも、たとえばAIみたいなものがいろいろ出てきている。「どれが本当かわからない」「何を信じるべきなのか」という混乱がある。そういう苦しみや悩み、葛藤をそのまま歌うのではなく、むしろそこから少し離れた視点で歌いたいなと思ったんです。
不安定な世の中だからこそ、自分自身が弱っている今だからこそ、大切なのは自分を信じることなんじゃないか、と。何が本当か、自分は何を信じるのか。とにかく自分と向き合うことの大切さを、自分たちの音楽にのせて発信したくなったんですよね。
──何か対立軸を作って反対側からカウンターを打ち出すというより、別の選択肢を提示するオルタナティブな感覚に近いのかもしれないですね。
松尾:そう思います。私は昔から、「決められること」がすごく嫌なんですよ(笑)。うまく言えないんですけど、「ロックなんだからこういう考えでいなきゃダメ」とか、「こっち側じゃないと敵だ」とか、そういう決めつけが本当に苦手で。たぶん、自分のあり方を外から規定されたくないんだと思います。
自分には自分の考えがあるけど、それで何かと対立したいわけでもない。結局「自分は自分」だし、これを聴く「あなたもあなた」だ、ということが言いたいんだなと。それは音楽だけじゃなく、政治でも生き方でも、何にでも言えることだと思っていて。あの時期に自分と向き合い、いろいろ考えたことが、今作にすごく反映されていると思いますね。
──ちなみに、このアルバムを作っていた時期に、お二人はどんなものにインスパイアされましたか?
松尾:外に出られないぶん、映画はたくさん観ました。印象に残っているのは、ウォン・カーウァイの『若き仕立屋の恋 Long Version』です。主人公が自分のやるべきことに真摯に向き合っている姿が本当に美しくて。人間の生活の中にある、悲しいけれど美しい情景みたいなものに胸を打たれました。
60年代の、少し乙女な映画もよく観ていました。去年の夏くらいに、6〜7年ぶりにフランスへ行ったんですよ。それもあって、『汚れた血』や『ポンヌフの恋人』、『白夜』、『夏物語』、『気狂いピエロ』などもたくさん観ました。タイトルをフランス語にした理由も、その旅行が大きいですね。
ほかにも王道ですけど、『パリ、テキサス』も見直しました。ちょうど「わたしはあなた」を書いていた頃で、祖母が亡くなった時期でもあって、別れというものをすごく意識していたんです。『みじかくも美しく燃え』を観たのも、きっとその影響ですね。
亀本:僕がアルバムを作る上で大きかったのは、RADWIMPSのトリビュートアルバム『Dear Jubilee -RADWIMPS Tribute-』です。Mrs. GREEN APPLE、米津玄師さん、SEKAI NO OWARI、ずっと真夜中でいいのに。、上白石萌音さん、ハナレグミ、iriさんなど、日本のトップクラスのアーティストたちが勢揃いしているような作品で。もちろん、曲自体がRADWIMPSの曲だからというのもあると思うんですけど、ほとんど全部の曲が生録音だったんです。
しかも弦やいろんな音がかなり入っていて、有機的で温かい生の演奏がちゃんと鳴っているし、歌にも人間味がある。そういうものがきちんと“見える”のっていいなと思ったんです。
今回、音数をかなり減らして松尾さんの歌をより聴かせるようにしたのは、このアルバムを聴いた影響も大きかったと思いますね。
──本作は、作詞・作曲・編曲、そしてプロデュースまで、全て二人だけで手がけたそうですね。
亀本:結果的にそうなった、という感じですね。これまではポジティブな意味で、いろいろなチャレンジもしてきたんです。たとえばアレンジを誰かにお願いしてみようとか、誰かを呼んでコラボしてみようとか。でも今回は、ある意味「とにかく作品を作らなきゃいけない」という、締め切り的にも差し迫った状況があって(笑)、半ば強制的に2人だけでやる形になったところはありました。ただ、結果的にはそれがすごく良かったなと思っています。
──では、1曲ずつ聞いていきます。まず「第六感」ですが、先ほど松尾さんがおっしゃっていた「自分と向き合うことの大切さ」を、第六感を研ぎ澄ませることに喩えた楽曲だと言えますね。
松尾:そうですね。「第六感」みたいな感覚は、すごく大事だと思うんです。さっきも言ったように、自分が「これがいい」と信じられるものがちゃんとあることはすごく大きい。そこがブレてしまうと、生きている途中でも、曲を作っている途中でも、だんだん自分に自信がなくなっていってしまう。それが自分の中ではいちばん嫌なんです。だからこそ、第六感というか、自分の中で「これだ」とピンときたものを信じて進めば後悔しない。そういう感覚を歌いたかったんです。
──「大天使」のようなアレンジも、これまでのGLIM SPANKYのレパートリーの中では異色だと思いました。
亀本:そうですね。今流行りのJ-POPも意識しつつ、速めの8ビートというか、16分っぽいビート感で、少し打ち込みっぽい感じの曲がやりたくて。ただ、普通に歌メロありきで作るとつまらなくなると思ったので、まずメインのリフをしっかり作り込もうと思いました。それだけでだいぶロックっぽくなるんですよね。しかもマイナーキーのリフって、けっこう作るのが面倒くさいし、みんな避けがちだからこそ差別化できるかなと(笑)。そうやって試行錯誤しているうちに、なんとなくメロディーも固まっていきました。
そこにコード進行をはめてみたら、いわゆる「丸サ進行」(椎名林檎の「丸ノ内サディスティック」で使われたIVM7-III7-VIm7-(Vm7-I7)というコード)になっちゃって(笑)。変にこねくり回すより、手癖で出てきたメロディーが延々と繰り返されている感じも、なんか楽しいなと思って、そのまま進めました。
松尾:この曲の歌詞は、本当にギリギリで仕上がったんですよ。ライブもツアーも始まっていた中で、「この日に仕上げなかったらアウト」みたいなレコーディング日程で。しかも歌詞が全然できていないまま、大阪でドレスコーズとのツーマンがあったんです。その翌日が歌録りだったので、ライブの後にとりあえず打ち上げだけ行って(笑)、ホテルで朝まで書いて。そのまま移動の新幹線と、レコーディングスタジオに向かうタクシーの中でも、もう一回ブラッシュアップして。歌録りギリギリのところで完成して、そのまま録った、という感じでした。
結果的にはすごく気に入っています。自分でも、面白い歌詞ができたなと思ってます。
──「春色ベイビーブルー」も異色というか、疾走感あふれるロックナンバーですよね。
亀本:ギターを思い切りジャカジャカ鳴らす、速い曲がやりたくて。アイデア自体は2年くらい前からあって、そこから試行錯誤を繰り返しました。ちょうどその頃、『Sonny Boy』の主題歌だった銀杏BOYZの「少年少女」を偶然聴いて、「これ、めっちゃいい!」「こういう感じがやりたい!」となって。それでも、僕らがやると銀杏BOYZにはならない。
松尾:私が歌詞を書きながら思い浮かべてたのは、サニーデイ・サービスの「恋におちたら」でした。あと、ザ・フォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない」とか。どちらも東京の春というイメージなんですよ。晴れやかな空の下、住宅街を歩きながら「どこにでも行けそう」みたいな気持ちになれる。その感じをちょっと入れたいなと思って。
春なんだけど、ただただ明るい春というよりは、少し切なさもある。だから色はピンクじゃなくて、「春はベイビーブルーだな」と思って作りました。
──「あたらしい物語」はどうですか?
亀本:これは何年か前、タイアップのコンペに出した曲だったんですよ。新生活とか、新しい社会みたいなテーマのCMで、それ用のワンコーラスのデモを作ったのが始まりでした。それをちゃんと形にしよう、ということで作り始めたのがきっかけです。
松尾:ちょうど自分が療養したり、いろいろあった時期とも重なっていて、その頃は「生まれ変わりたい」みたいな気持ちがすごく大きかったんです。新しい季節が訪れるたびに、もしかしたら毎日少しずつ生まれ変わっているのかもしれないし、毎日殻を破り続けているのかもしれない。そういうことを、ちゃんと噛み締めたくなったんです。
──「ラストシーン」で獲得した、松尾さんの「職業作家的な曲作り」が生かされた曲ですよね。
松尾:まさにそうで、「ラストシーン」の作家的な感覚を呼び起こした曲でもありました。この頃はユーミンをよく聴いていて、特に荒井由実時代の「生まれた街で」という曲が頭から離れなくなっていたんですよね。〈街角に立ち止まり 風を見送った時 季節がわかったよ〉という歌詞があって、季節の変わり目に気づく、自分の中の大切な記憶についての曲を、私も作りたくなったんです。
たとえば昼間の喫茶店で、窓の外の交差点をぼんやり眺めている時とか。コートを着ている人がいるな、とか。店の中は静かで、ストーブの上ではやかんの湯気が立っていて、とか。そういう時に、すごく安心を感じるんです。その温もりを曲に込められたと思っていますね。
──「麗らかな国」は、コクトー・ツインズやビーチ・ハウスのような雰囲気があります。
亀本:この曲は、たしか2020年頃に作りました。当時はLana Del Reyとか、Florence + The Machineみたいな、ちょっとインディー感があってウェットな感じのものに憧れていて、そういう方向をやろうとしていたんです。
松尾:歌詞を書いていた時期、私は毎日が本当にしんどくて。コロナ禍だったこともあって、「ここから抜け出せない」「自分には未来が見えない」みたいな感覚がすごくありました。対人関係でもいろいろ悩んでいて、常に「ここから抜け出したい」と思っていました。
それもあって、仕事に疲れたOLが終電間際の電車に乗って、「このままどこかに行きたい」と思っている歌詞にしたんです。最初はそこで終わりだったんですけど、レコーディングの最後の最後に〈彼のいない麗らかな国〉という言葉を付け足したことで、主人公の輪郭がクリアになったんですよ。〈彼のいない〉とひとこと入れたことで、抜け出せない関係性に自ら気づき、そこから抜けようと「決心する」曲になった。
リアルな心情を歌いつつも、ただ「辛い」だけの曲にはしたくなかったので、少しだけファンタジーを入れようと〈ネバーランド〉みたいな言葉も出てきます。いずれにせよ、幻想に逃げたくなるくらいギリギリの状態にいる人を描いています。
──「衝動」は、ベストを作っていた時に「GLIM SPANKYらしい曲を作ろう」と思ったところから始まった曲だそうですね。
亀本:まず、めちゃくちゃダウンテンポなロックをやりたかったんですよ。ただ、そのままJ-POPのシーンに投下しても絶対ダメだと思ったので、リフも実は何パターンも作っているし、最終的に「ギターだけでは弱いから声も重ねよう」と。じゃあ、歌が乗ってもちゃんと成立するギターリフってどんなだろう?……みたいに考えながら作っていきました。
リズムの迫力を出すために、キックにはサンプルをたくさんレイヤーするなど、工夫もかなり凝らしています。特に気に入っているのがサビ終わりですね。歌はフレーズを追っているんですけど、コード進行がない。みんなオクターブでフレーズを弾いているだけなんです。
ポップスって基本的にはコード進行の音楽じゃないですか。だからこそ、あそこはチャレンジングだったし、すごく気に入っています。ライブでやるたびに、毎回「ここ、マジでかっこいいよな」って思いますね。
松尾:かっこいい。私も気に入っています。
──「わたしはあなた」は個人的に今回いちばん好きです。
松尾:ありがとうございます!
亀本:この曲は最初に僕がコードを付けて、ピアノも先に入っていました。それに対して歌ってもらう形で作ったんです。
松尾:亀から送られてきたピアノが、強く方向づける感じではなくて自由度が高かったので、メロディーもけっこうスッと出てきたんです。Aメロのあたりは特に、歌とメロディーのイメージがかなり自然に出てきた感じでしたね。
──ラブソングのようにも聴こえるけど、死別や別れがあった相手に対して、「まだどこかで幸せに生きていてくれたらいいな」と思い出させてくれる曲でもありますよね。
松尾:さっきも話したように、この曲を作っていた頃に私は祖母を亡くしたんですけど、「(祖母とは)ただ会っていないだけで、どこかで生きているかもしれない」と思うことが、自分の救いになったりしたんです。
あるいは、すごく仲が良かった人と離れ離れになった時に、「この人はもう死んだんだ」と思うことで、逆に整理がつく瞬間もある。そういうタイミングが自分の中にすごくあって。ある意味、自分を守るための歌でもあると思っています。
この曲で好きなのが、最初は〈わたしはあなた あなたはわたし〉って歌っていて、〈おんなじ皮膚の匂いがした〉とも言っているんですけど、2番では「でも、私は私、あなたはあなた」になっていくところなんです。あんなに同じ匂いがするけど、やっぱり違う生き物なんだ。だからこそ綺麗なんだ、という。そこの感覚はすごく気に入っています。夢の中の感覚みたいでもあって。
亀本:松尾さんが今まで作ってきた曲の中でも、僕はこれが一番かもしれないです。
松尾:本当に?
亀本:歌い始めのメロディーとか、本当に美しいと思う。
──「FLY HIGH」は、情報がたくさんある今、どう生きていくかを歌っている曲です。
松尾:夜の環七を歩きながら聴きたくなる曲がいいなと思って作りました。最初にオケがあって、そこに歌詞を載せていったんですけど、説明っぽい歌詞にするというよりは、もう少し軽やかなものにしたかった。信念はあるんだけど、重すぎないメッセージというか。全部が全部、思い切り重い言葉だと、やっぱり聴いていてしんどくなっちゃうじゃないですか。だからこの曲は、あえて少し軽さを出したかったんですよね。その意味で、英語を入れたのも大きかったです。
──LOVE PSYCHEDELICOっぽさもありますよね。
松尾:確かに。デリコと一緒に歌詞を作っていた時に、意味がちゃんと通っていれば、わりと自由に言葉を当てはめていく感覚があって。今まで自分が歌う時は、英語を入れるとしても、できればカタカナで書いていたんです。たとえば「I Stand Alone」も全部カタカナで書いていた。でも今回は、そういう自分の中のNGをOKにしたところがありますね。
デリコと作った時の感覚を通して、「ああ、このくらいの軽やかさって、繰り返し聴いても疲れないんだな」と思ったんです。
亀本:これはかなりライブを意識しました。フジロックみたいな場で、ちょっとミディアムテンポ寄りで気持ちよく乗れる曲があるといいかもなと思って。そこも想定しながらテンポ感を考えていきましたね。
ちょうどOasisのライブを観に行ったことも大きかったです。テンポ感そのものは違うんですけど、Oasisの持っている、こういうコード進行とか、ベタだけどちゃんとかっこいいメロディーとか、そういう感じがすごく頭にあって。「ロックって、もうこれでいいよな」みたいな感覚で作りました。
──「カメラ アイロニー」は、TBSドラマ『スクープのたまご』主題歌として書き下ろされた曲です。
松尾:ドラマの世界観に寄せつつも、自分はもっと広いことを歌いたかったんですよね。たとえば音楽をやるとか、ロックが好きだとか、何でもいいんですけど、それを受け付けない人ってやっぱりいるじゃないですか。実際、この前テレビに出た時にも、「その声は無理」とか「もっとちゃんとした声で歌えばいいのに」とか言われたりして(笑)。でも、そういうふうに言う人は絶対にいるし、どうしてもダメな人はダメなんですよね。だからこそ、別に嫌われたっていいと思うんです。
自分はずっと「なんでそれをやるの?」と言われる側だった気がしていて。去年、久しぶりに同級会に行ったら、私以外みんな結婚していて子どももいて、私だけ違った。でも、それはそれでいいと思っているんです。自分は今、音楽をやっていて、これが今の自分にできる精一杯だから。別に自分以外の何かを拒否しているわけじゃなくて、今はこれを生きているだけなんですよね。
──とてもよくわかります。
松尾:人生って、何を選んでもそういうものだと思うんです。どの選択をしても、誰かにとっては受け入れられないことがある。でも、自分の中にちゃんと良心があって、自分で選んでいるなら、それでいいんじゃないか。
悪者に見える人でも、その人の側に立てばその人なりの正しさがあるし、そういう目線を今は歌いたかったんです。
──最後の「エクロール」も名曲ですね。ビートルズやサイケデリックの匂いがしながら、同時にすごくJ-POP的でもあって。その融合の具合がすごく自然だなと。
松尾:ありがとうございます。ずっとジョニ・ミッチェルを練習していたんですよ。彼女みたいなギターを弾きたいなと思って、アコギにすごくハマっていて。ハンマリングとかプリングオフを使って、AとかDみたいな単純なコードの中に少しニュアンスのある音を入れているんですけど、そこはジョニっぽさを自分なりに落とし込んだものなんです。
──歌詞も、このアルバムを象徴する内容ですね。
松尾:ちょうど歌詞を考えていた時、私の出身地である長野県豊丘村から手紙が届いたんですよね。中学2年生の時に「20年後の自分に手紙を書こう」という企画があって、その時に書いた手紙が、ちょうど自分のところに届いた。本当にすごいタイミングでした。
しかも14歳の私から、今の私に向かって「お前は今の人生に満足しているか」と問いかけているんですよ(笑)。確かに、自分は今の人生や、自分がしてきた選択に満足しているんだろうか……とすごく考えた。さらにその手紙には、「たぶんお前は、みんなが思い描くような、村の会社に就職して結婚して……みたいな人生は歩んでいないだろうな?」とも書いてあって。
──すごいですね、14歳の松尾さん(笑)。
松尾:そこで自分の人生を振り返ってみた時、日常の中では「ああすればよかった」「こうすればよかった」みたいな小さな後悔や失敗はいくらでもあるけど、自分はひとつひとつの選択を本気で悩んで決断してきたので、それほど大きな後悔はないんですよね。手紙を書いている頃の自分に対して、ちゃんと「頑張って生きてるよ」と言えるし、これからもそう生きたいなと思ったんです。
しかも、20年前の親友からの手紙も同封されていたんですよね。「今はレミのいちばんそばにいて、この中学時代の今この瞬間ではいちばん近い存在だけど、近いから親友なんじゃなくて、もしこの先大人になって遠くに行ったとしても、ずっと親友だよ」みたいなことが書いてあった。それが本当に嬉しくて。
私は私の場所で、その友達は友達の場所で、進化を繰り返しながら大人になっていって、今もそれぞれの人生を続けている。たまに会った時に、その進化の過程を一緒に楽しめる存在であればいいな、と。そういうことを考えた時に、この歌詞がすごく自然に出てきました。
亀本:この曲の個人的なこだわりポイントは、途中のDメロですね。あれを入れたタイミングが、ちょうどOasisのライブを観た後だったんです。これも完全にOasis。隙あらばOasisを入れていこう、みたいな。
──今回のアルバムは、松尾さんのパーソナルな部分が前に出ていて、誤解を恐れずに言えば、GLIM SPANKYでありながらシンガーソングライターとしての松尾レミさんの要素がより濃く出ているように感じました。それでいて普遍性もある。
松尾:確かにそうかもしれないです。今回、私が寝込んでいたぶん、楽曲のメロディーだったり録音の部分だったりを、亀がかなり作ってくれたところがあって。その部分をすごく担ってくれたんですよね。仕事量としては本当に亀がめちゃくちゃやってくれているんですけど、だからこそ私は歌詞と歌の表現にすごく集中できた。ぱっと聴いた時に、歌い手のパーソナルな感情がより読み取れるようになったのは、そこに力を込められたからかなと思っていますね。
──おっしゃるように、亀本さんの職人的な仕事もかなり詰まっているアルバムです。
亀本:作っている時は、ずっと不安でした。大丈夫かな、ちゃんといい曲になるかなって。仮歌もないままバンド録りをしている時もあったし、演奏のテンション感も探り探りでやっていたので、「これ大丈夫かな」と思いながら作っていたんです。
でも、完成して時間が経って、少し客観的に聴けるようになると、すごく素敵なアルバムになったなと。奇を衒っているわけでもないし、変なことを無理にやっているわけでもない。もちろん、「これがヒット間違いなしだ」と言い切れるかというと、それはわからないです。出してみないとわからない。
でも、こういうレベルのものを作っている人たちは絶対に消えないし、自分たちももしかしたらそういうところに近づいているのかもしれないなと。そう感じられたことが、自分の中ではちょっと自信になりましたし、手応えのあるアルバムに仕上がったと思いますね。
インタビュー:黒田隆憲