BIOGRAPHY

エド・オブライエンは、ソロ・アルバムのリリースをこれまで一度も考えてこなかった。 レディオヘッドのギタリストであり、これまでバンドとして9枚ものアルバムを約30年の活動でリリースし、たくさんの人々に影響を与えた。アーティスティックな一面はオンとオフがあり、もともと彼はアルバムを作る気なんてなかったそうだ。エドはこう言った。「俺のアルバムなんか、必要か?トム、ジョニー、フィリップはそれぞれ音楽を作ってる。“最後の砦”が俺のアルバムな訳がない。」

そんなことを言っていたエドだったが、“オフ”にしていたアーティストのスイッチが“オン”になってしまい、曲のアイディアが水のように溢れ出し始めた。
そして、彼のすばらしさを再発見でき、優しいフォークからハウス・ミュージックにまで冒険を重ねるアルバム、『Earth』が誕生。その数々の曲たちは、ゆるぎないメロディーと率直なリズムが、様々なコラボレーションによって奏でられる。Flood、Catherine Marks、Alan Moulder、Adam ‘Cecil’ Bartlettなどをプロダクションに迎え、ベーシストのネイサン・イースト、ドラマーのオマー・ハキーム、「ザ・インビジブル」のデイビット・オクムなど、特別アーティストたちも参加。
ポーティスヘッドのAdrian Utleyは「Shangri-La」と、「Sail On」に登場。ローラ・マーリングは「Cloak of The Night」にてデュエットを繰り広げる。

様々なコラボレーションが躍るこのアルバム。一つ確かな事は、これはエドのアルバムであり、エドが指揮をとって作り出したということ。「僕の心からのメッセージを伝えたいと思った」とエドは言う。「リスナーの心に直接的に届くような作品にしたかった。愛のこと、家族のこと、そしてスケールは大きくなるけど地球に存在する僕たちのこと。カラフルで、優しくて、温かい。愛に満ち溢れ、希望が持てるような、そんなアルバムにしたいと思ったんだ。」

制作過程でのアルバム仮題名は『The Pale Blue Dot』で、カール・セーガンから送られてきたメールのついていた、60億キロ離れた宇宙船からとった地球の写真を見た後につけられた。メールに書いてあったセガンの言葉はとても力強く、現代の無秩序な世界に対するメッセージでもあった。これらの言葉が、世界的に有名な詩人家、ウォルト・ホイットマンの「草の葉」の言葉にインスパイアされていたエドの心と繋がり、音楽が確立されていった。

全てはブラジルから始まった。エドと彼の家族は2012年末にブラジルの田舎に引っ越したのだが、ホームスタジオにこもりアイディアを集めていたエドが耳にしたのがプライマル・スクリームのアルバム、「Screamadelica」。衝撃が走り、それはまさに、“発見の瞬間”であった。
「これだ、と思ったよ。僕が作る楽曲にもこのアルバムが持つ明るさ、楽しさ、メッセージが持つ深さが欲しいと思ったんだ。ダンス、ソウル、アンビエント…とにかく気分が上がるような、そんな曲を作りたい」
“発見の瞬間”の直後、アコースティック・ギターを手に取り、曲を書き始めたエド。リオのカーニバルに行く旅路を表現した。「リオのカーニバルもまた、“発見の瞬間”だったんだ。リズム、メロディー、ダンス、光、喜びの爆発的なパフォーマンスを魅させられた。『Screamadelica』、クレイジーな音楽イベント、そしてカーニバルから得たものが全て一つになった気がしたんだ。」

2013年の夏、エドの家族は元の場所へと戻り、エドはカンブリアン山のふもとにあるコテージで歌を書き始めた。アルバムが形になってきたところで、デモを聴いたフロッドがプロデューサーをやると言った。エドは「とても好きなプロデューサーだ。デペッシュ・モード、PJ ハーヴェイ、U2、フォールズ等、彼がプロデュースしたものは全て深い。とても光栄だ」と語った。

そして彼らはウェールズに3週間大きい家を借り、制作を進めた。2017年の秋には、エドとハウスバンドのメンバー、イースト、ハキームとオクムはアルバムの骨組みを完成した。そのあと、ロンドンのスタジオで再構成や微調整を行った。「ハウスバンドは皆とても上手で、例えば、8分近くある「Olympik」は、ライヴ・レコーディングだけど、彼らの良さがうまく出てる。でも違うアプローチから入らなくてはならない曲もあったんだ。今まで僕が関わってきた曲たちから得たヒントたちを頼りにして作り上げていく。旅路のようだったよ。」と、エドは語る。

アルバム『Earth』には、そ“の旅路を走ったタイヤについている泥のように成果”がしっかりと表れている。一曲目の「Shangri-La」は、エドの希望と期待に満ち溢れた世界観をツイスト・ロックで表現。4年前、グラストンべリー直後に熱気が冷めず書いた曲だ。「夜中3時に仲間とグラストンブリーのシャングリラで騒いだ思い出は今までで一番幸せだった」と語るほど。一方で「Brazil」は地球の音を表現し、高級でありながらシンプルな音を表現。「暗いところから光が射す方へ向かうように、終わりから始まりへ向かうように、優しいイントロから始まり、リズミカルな盛り上がりを見せる曲だ。カーニバルだよね。メランコリーと喜びが混在しているんだ」と説明する。

エドは、声と歌詞が大事だと考えていた。その二つが曲のメッセージを決めると。グルーヴィーな「Deep Days」は、家族とコミュニティーの協調性について書いた曲だ。エドは「責任や身をささげることについて書いた曲で、メッセージがとても深かったから、とても表現するのが難しかった」と言う。うっとりとさせてくれる一曲「Long Time Coming」は、寂しさについて、「Olympik」は、シャングリラで騒いだ後の朝の静けさとその精神を歌った。緩やかに気持ちをあげてくれる「Mass」は、エドの友達でもあるMicheal Massimo が出演した映画「HUBLLE」から影響を受けて作ったそうだ。「Mikeが空から見た地球のことを語っている姿は、それはとてもマジカルで、美しくて、詩的なんだよ」

「Banksters」は、宇宙の平和についてをグラム・ロック風に仕上げた。アコースティックな「Sail On」は、アルバム制作期間に亡くなったエドのいとこにささげ、亡くなってもそれは人生の終わりではないというメッセージを伝えている。「なにかは分からないんだけど、魂なのか霊なのか、なにかしらは残るはずなんだ」。またこの曲には、「Shangri-La」でも登場したギタリストのAdrian Utleyが参加。エドは彼について、「とてもおおらかで、素敵なギタリストだよ」と評価した。
アルバムは、ローラ・マーリングとのデュエット、「Cloak of the Night」というバラード曲で幕を閉じる。「ローラと一緒に歌えてとても光栄だ」彼は語った。「素晴らしいアーティストだ。この曲は、嵐の中で耐えるカップルの曲だ。それが世界で今起こってることなのか、それともその二人自身の関係なのかは分からない。もしかすると、文字通り“嵐”にたえているのかも」

それから試行錯誤を重ね5年。レディオヘッドとしてのツアーなどで忙しい中、スケジュールを縫ってレコーディングや制作を進め、『Earth』は完成した。「これは僕の長いストーリーの始まりでしかない」。この何年にもわたった長い制作期間は、彼を成長させ、違う人間像を作りだした。「インスパイアされるものや、共鳴できるものを探し続けることが大切だ。僕は、次へと向かう。新たな音楽をまた追っているんだ。まだまだそこにはたどり着かないだろうけど、スタート地点には立てた気がする」。アルバム『Earth』は、彼にとっての始まりである。このスタート地点から、彼はどこまででも行ける。