BIOGRAPHY

キャンベイ・アイランド出身のパブ・ロックの草分け的バンド、ドクター・フィールグッドの伝説的なギタリスト、ウィルコ・ジョンソンとロック界の大物中の大物、ザ・フーのリード・シンガー、ロジャー・ダルトリーのジョイント・アルバム”GOING BACK HOME”が、このアルバムのために復活したと言っても過言ではないチェス・レコーズからリリースされる。
本作に収録される11曲のうち10曲はウィルコがドクター・フィールグッドのメンバーとして、あるいはソロ・アーティストとして生み出してきたオリジナル曲。そしてもう1曲がボブ・ディランの”Can You Please Crawl Out Your Window/窓からはい出せ”(”HIGHWAY 61 REVISITED/追憶のハイウェイ)”期の名曲)である。
このアルバムが制作されることになったきっかけは2010年のとある授賞式におけるウィルコとロジャーの出会いだった。ここで二人は、古典的で騒々しいイギリスのR&Bについて語り合ったのである。「二人ともジョニー・キッド&ザ・パイレーツのファンだとわかったんだ。」ロジャーは1960年前後に”Shakin’ All Over”や”Please Don’t Touch”といったヒット曲を放ったグループの名前を挙げて、ウィルコとの会話を振り返る。「俺たちのいたバンドはどちらもあのバンドに大きな影響を受けていた。シンガーを支える3人が生み出す重厚で力強いサウンド――あれがブリティッシュ・ロックの醍醐味なんだ。そしてそれは俺たちが誰より得意とするものでもある。」
このとき、既に二人でアルバムを作ろうという話が持ち上がっていたものの、多忙な日々を送る中、それはいつの間にか忘れ去られていた。

しかし2013年1月にウィルコがすい臓がんで余命数か月との診断を受けたことで状況は変化した。ジュリアン・テンプルが監督を務めたドクター・フィールグッドのドキュメンタリー作品”OIL CITY CONFIDENTIAL”も公開され、ウィルコが順調な活動を続けていた最中の出来事だった。病状を知らされた彼は残されたわずかな日々のあいだに出来得る限りのことをしたいと考えたのだった。
ザ・フーが世界各国の満員の会場でコンサートを終え、ダルトリーが帰国したとき、さいわいにもウィルコはまだアルバムの制作に臨み得る健康状態にあった。「ロジャーはすぐに取り掛かろうと言った。」ジョンソンが振り返る。「彼はアックフィールドにあるイエロー・フィッシュという小さなスタジオを知っていた。あまり気味の良い地名とはいえなかったけれども(”Uckfield/アックフィールドの”uck”は”嗚咽”をイメージさせる)、スタジオ自体はすばらしかった。」
“GOING BACK HOME”は2013年11月におよそ1週間でレコーディングされた。セッションにはウィルコが誇る優れたツアー・バンドの面々(ブロックヘッズのベーシスト、ノーマン・ワット・ロイ、ドラマーのディラン・ハウ)や元デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ~スタイル・カウンシルのキーボーディスト、ミック・タルボットらが参加した。さらにウィルコはプロデューサーにデイヴ・エリンガを迎えた。驚くべきはこれだけのことをきわめて短期間でやってのけたことだ。「全員がしっかりと仕事をしてくれた。雰囲気はすばらしかったよ」とジョンソンは語る。
このアルバムの目玉はやはりウィルコが作り出した往年の名曲のリメイクということになるだろう。ドクター・フィールグッドの”All Through The City”や”Keep It Out Of Sight”、”Going Back Home”(1975年にジョニー・キッド&ザ・パイレーツのギタリスト、ミック・グリーンと共作した1曲)に加え、ドクター・フィールグッドからの脱退後にソリッド・センダーズとレコーディングした”Everybody’s Carrying A Gun”や80年代にソロ名義で発表した”Ice On The Motorway”、”I’m Going To Keep It To Myself”といった曲も収録されている。また、これまで未発表だった(正式なリリースはもちろんステージでも披露されたことのない)胸を打つようなバラード”Tuned 21″も取り上げられている。
優れたユーモアと揺るぎない勇気をもって自身の病に向き合っているウィルコにとって”GOING BACK HOME”はまさに残りの人生で叶えたかった夢のひとつに違いない。「最高の1年だった。俺の人生は10月には終わってしまうはずだったのに、こうしてロジャーとレコーディングすることができた。1969年にザ・フーを観たとき俺は大学生だった。彼は俺にとって紛れもなくスターだったんだ。」
「このアルバムは俺の誇りだよ。」そう語るダルトリーは、”GOING BACK HOME”から得る印税を10代の癌患者のために寄付する。「最近の音楽は概して洗練され過ぎていると思う。このアルバムには、こうした切迫した状況だからこそ生まれた鮮烈さが感じられる。」
「つまり俺が死にかけているってことかい?」笑いながら言うジョンソンにロジャーはこう答える。「そう。お前の身体の中には情け容赦ない腫瘍が出来ている。だけどお前をそんな目に遭わせるなんて、そのデキモノはいったい何様のつもりなんだい?!
ウィルコとロジャーは2月25日、ロンドンのO2シェパーズ・ブッシュ・エンパイアで行われる1日限りの特別なショーで、本作の収録曲を披露する。

(訳:石山栄二・狩野ハイディfor KR Advisory Co., Ltd.)