BIOGRAPHY

RISE AGAINST / ライズ・アゲインスト

RISE AGAINST / ライズ・アゲインストティム・マックルラス:ヴォーカル、ギター
ザック・ブレア:ギター
ジョー・プリシンペ:ベース
ブランドン・バーンズ:ドラムス

芸術性は力技で作ることは出来ない。真の音楽的創造は大抵純粋なインスピレーションと、偶発的な瞬間とアイディアから始まり、多くはそこに注ぎ込まれるひたむきな努力と献身によって完成形へと昇華する。だが今日(こんにち)、音楽家と呼ばれる芸術家たちの中にはクッキー型や、流れ作業的メンタリティで曲をひねり出そうとしたり、常套手段に則ったソングライティングによる曲をぎっしり詰め込んだアルバムを出したり、教科書通りの我慢と、相手を出し抜くいじめっ子的精神を発揮している者たちが少なからずいる。それはどちらかと言えば一般企業でよく見られるもので、と言うより間違いなくクリエイティヴな環境で見られる状況ではない。

だが、フロントマンのティム・マッキラースが認めるように、音楽業界のいかなる既成概念にも準ずることを拒絶しているこのシカゴ出身のメロディック・ハードコア・バンドには、最初から目指す形など何もなかった。マッキラースによれば、メンバー4人――ベーシストのジョン・プリンシペ、ドラマーのブランドン・バーンズ、ギタリストのジャック・ブレア――はあまり深く考え込むこともなく、一挙手一投足に細かくプランを立てることもなく、ただシンプルにアルバム制作に打ち込んでいたのである。それは最新作『Appeal To Reason』についても例外ではなかった。

「僕らは今回のアルバムでも、これまでの作品と同じアプローチを取ったんだ。それはつまり実質的に言えばアプローチと呼べるものは何もないってことなんだけど、」マッキラースは言う。「アプローチなんて何もなかったんだよ。ただみんなで集まって、さあプレイしよう、って言う。まったくのノープランだったんだ、事前に全体図を描くわけでもなく、方向性を決めるわけでもなくね。ただ行き当たりバッタリで、凄く自然に色んなアイディアを生まれるままにしていったんだ。そうやって出来あがったのがこのアルバムなんだよ」

「僕らには決まったやり方っていうのはないんだ、」プリンシペも同意する。「でもツアー中はずっとコンスタントに曲を書いてるよ。どんなアイディアでもとりあえずは試してみるようにしてる。自分で自分に制限を作りたくないからね」

 だが、ライズ・アゲインストのこれまでのキャリアを振り返れば、彼らが国内のアンダーグラウンド・パンク・シーンに根を下ろし、実にオーガニックな形でその枝を広げ、世界中の何百万というリスナーの人生に影響を与えるような並外れて大きな存在へと成長してきたことが分かる――見取り図もなく、事前の決めごとも何ひとつないままに。粘り強さと強い信念、アーティスティックな感性と献身的な努力をすべて同量注ぎ込んで、ライズ・アゲインストはまずインディーズから『The Unraveling』(2001年)と『Revolution Per Minute』(2003年)のリリースを経て、地元シカゴのシーンから浮上する。有名アーティストの国内ツアーのオープニングを務め、Vans Warped Tourのラインナップに加わって以降は、ライズ・アゲインストの評価は一気に右肩上がりとなり、彼らはともすれば狭量なアンダーグラウンドから早々に外の世界に飛び出していったのだった。

2004年、バンドは出世作『Siren Song Of The Counter Culture』をリリースし、驚くほどの即効性を発揮したこのアルバムはたちまちゴールド寸前という売り上げを記録した。新しいリスナーと長年のファン両方の支持獲得を目指し、約1年にわたる絶え間ないツアーとプロモーション活動が実を結んで、バンドのシングル”Give It All”と内省的な”Swing Life Away”は全米中のオルタナティヴ・ロック系ラジオで何度となくオンエアされ、曇りのないオーディエンスのハートと耳を虜にした。続く2006年の『The Sufferer And The Witness』も同じような成功の軌跡を辿り、多くの支持を集めた先行シングル”Ready To Fall”がラジオでもステージでもヘヴィ・ローテーション入りしたことで、後続のシングル”Prayer Of The Refugee”と”Good Left Undone”はどちらも各地ラジオ・チャートの首位に立った。

彼らの成功が単なるまぐれ当たりでないことは証明済みに思えたが、ライズ・アゲインストは月桂樹の冠を置くこともなく『Appeal To Reason』の制作に取りかかった。プロデューサー・チームのビル・スティーヴンソン(NOFX、イヴァン・ダンドゥ、カムバック・キッド)とジェイソン・リヴァモア及びミキサーのクリス・ロード・アルジェ(グリーンデイ、マイ・ケミカル・ロマンス、AFI)と再びタッグを組み、 バンドは彼らのホームスタジオであるコロラド州フォート・コリンズの”ザ・ブラスティング・ルーム”に集結、2ヶ月で最新作を完成させた。しかしながら、およそ予想のつくアティテュード的なものはその程度である。

例えば、フルレンス・アルバムに必要十分なだけの曲数を書き上げるどころか、マッキラースによれば『Appeal To Reason』のセッション期間中のバンドは恐ろしく多産だったのだと言う。実のところライズ・アゲインストは、スタジオに入ってまるまる一週間、ただプレイするだけの時間を過ごし、最初の10日間は一切録音ボタンを押さなかったのだった。

「それはもう、とんでもない数の曲を書いたよ、」彼は言う。「僕らはこれまでずっと、アルバムに入るだけの曲を書いて終わりにしてたんだ。遠い過去から掘り出した未発表のB面曲なんてのはライズ・アゲインストではあり得ないよ、だって余分に書いた曲なんて殆どないからね。でも今回僕らは30曲ぐらいのアイディアを、きっちり曲の形に書きあげたんだ。色んなものが後から後から溢れ出してくる感じでね、僕ら引っきりなしに曲を吐き出し続けてたよ。それを最終的に一枚のアルバムに入れなきゃならなかったから、選ぶのが大変だった」

またマッキラースによれば、ライズ・アゲインストは絶えず新しい音楽に耳を傾け、自分たちのトレードマークのサウンドに採り入れるようにしているのだと言う。例えば、”Long Forgotten Sons” はバンドが80年代の雰囲気を引用し、ザ・キュアーと初期のフガジの間あたりに位置するような曲になっており、一方”The Strength To Go On”はマッキラースのトゥールのようなバンドに対する愛情から生まれた曲だ。

また、『Appeal To Reason』に収められた曲の歌詞の内容は、これまでのライズ・アゲインストのレパートリーの幅を大きく広げている。”The Strength To Go On” はマッキラースが社会に蔓延している情報に対して更なる疑問を投げかけている曲だ。

「コーラスの部分は、僕らが情報を得ているのがどこなのか、それを僕らに伝えているのは誰なのか、誰が正しくて誰が間違ってるのかっていうことを毅然と精査する姿勢を打ち出しているんだ。僕らのやることなすことは必ず何かしらの情報操作を得ているわけで、本当に信頼できるのは誰なのか、」彼は言う。「僕らがどういう生い立ちをもって、どういう風に育てられたか、何事においても、どんな風にウソと真実を見分けてきたか、受けてきたしつけと教育全般に関してもさ。そうやって突き詰めていくと、果たして僕らがいま知っていることが本当に正しいのか、それとも偽りなのか、見分けることはもの凄く難しい。なかなか興味深い考えだと思うよ」

胸を打つアコースティックの”Hero Of War” では、バンドは中東の戦地以外でも自らとも苛烈な戦いを強いられる、兵役に従事する人々の中心に身を置いている。一部実話に基づいているこの曲は、新兵募集キャンペーンに端を発し、様々なキャラクターを融合して書かれた。

「自分たちのプレイする場所に新兵募集のテントがあるのを見る度に、いつも感じてたことなんだ、」マッキラースは語る。「軍から来たスカウトみたいな男が、何かしら上手いこと言ってキッズをその気にさせるんだよね。僕らは軍に入るってことをひとつのオプションとして考えるキッズについて話してたんだ。僕も17歳の時、軍のスカウト担当者に会ったことがあって、というのは僕自身も陸軍というか軍隊に入ることを考えてたからなんだよね。とにかく外の世界に出て行って、色んな場所を見て、こういうことをやりたかった。今現在軍隊に所属していて、各地で色んな任務についてるキッズからも僕らは沢山メールをもらうよ。彼らは僕らのショウに来て、自分たちの身の上話をしてくれる。そうやって聞いた話がこの曲の最初のヴァースになってるんだ。僕が耳にしてきた沢山の物語の総括がね」

2番目のヴァースはアブガリブとグアンタナモ・ベイでの状況、IEDの爆破テロに対するハディサでの報復殺戮の引証である。そして3番目のヴァースは、マッキラースがドキュメンタリー『The Ground Truce』を観終わった後の実話に基づいている。大いに感銘を受けたマッキラースは、そのドキュメンタリーの物語と映像にインスピレーションを得て曲の大半を書き上げた。

「ニール・ヤングはオハイオのケント州立大発砲事件(訳注:5月4日事件とも言われる。1970年5月4日、ヴェトナム反対のための集会が大学構内で開催されていたところ、警備のため派遣されていた州兵が参加者に発砲、4人の死亡者と9人の重軽傷者を出し社会問題となった)を曲にしたし、クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルやバッファロー・スプリングフィールドも同じようなことをしただろ、」マッキラースは言う。「僕はヴェトナム戦争について、歴史の本より多くのことを彼らみたいなバンドから学んだよ。希望的な観測を含めて、この戦争は終わりに近づいてると思うけど、だからこそどういうことが起こっていたかっていう話が次々に明るみに出てきている今、僕はどうしても戦争の現実に題材を取った曲を書きたいと思ったんだ」

アルバムからのファースト・シングルはストレートな4コードのヘヴィ・ロック・ナンバー”Re-Education (Through Labor)”だ。「今回の新作の先導役にはうってつけの曲だと思うよ、何しろこのアルバムでは凄く大きな進化が見えると思うし、僕らのこれまでとは違う面を見てもらえると思うからね、」プリンシペは言う。「そういう意味ではこの曲は今の僕らの姿を一番よくリプリゼントしてると思う」

とは言え勿論、『Appeal To Reason』のどの曲も、それを受け止めてくれるオーディエンスがいなければ、どれだけ大きなインパクトを用意しても意味がない。マッキラースにとって、バンドのオーディエンスとの繋がりを築くことは他のどんなものよりも最優先にされるべき大切なことだ――規模や状況、音楽スタイルなどはどうでもいいことなのである。

「僕らにとって一番大事なのは、今も昔も僕らの音楽をみんなに届けるってことだよ。僕らが誠心誠意作り出したものを手渡して、それについて考えたり、それまでの考え方を疑ったり、会話や対話を生み出し、時間をかけて思い巡らすことが出来るような新しいアイディアの種をみんなに植え付けるってことだ、」マッキラースは言う。「で、今よりももっと大きなファンベースが持てるようになったら、きっと音楽をやっていくことがもっと楽しくなるんじゃないかな。だって突如として自分の声が一気に大きくなるわけだろ。自分の手にしてるより大きな拡声器を手に入れたようなもんじゃないか。そう考えると凄く楽しいしワクワクするよね。今回のアルバムがこれから数年でどれくらい広がっていってくれるか、僕は今から楽しみにしてるんだ。今の僕らには既にひとつファンベースがあるわけで、あとは僕らが与えられてる恩恵をどれだけ駆使して、頑張って色んなことをやっていけるかにかかってると思うよ」