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監督・照井利幸。主演・チバユウスケ。

たとえるなら、そんなロード・ムーヴィーの完成である。中村達也は絶妙の助演を務めたし、ヒロインに抜擢されたのはYUKOという無名のシンガー。その他の脇役やストーリーも、すべての主導権は照井が握っている。ROSSOではなく、ソロ・アルバムでもなく、ただのセッション集でもない。そんな不思議な場所に産み落とされたのが、このRAVENだ。

「今回はまず、自分の弾きたいように、自分の解釈でやりたいようにやることが大事だったの。そこがROSSOとは全然違う。だから曲は全部ベースの観点から自由に作ったし、迷いは全然なかったね」(照井)

ベーシストとしての本能を剥き出しにした照井がまず声を掛けたのは、自分の暴走に呼応できるのは彼だけだと認める中村達也。二人がスタジオに入って大胆なセッションを開始したのは、03年夏のことだ。そこに昔からの友人である辻剛(G)が加わり、彼の紹介で元ミルク・クラウンの尾崎一雄(Dr)や、多彩な活動で知られる山口とも(Per)などが参加した。さらに照井は偶然デモ・テープを耳にしたことで興味を持ったYUKOに接触し、現場で完成した小品を含む2曲を録音。半年が過ぎる頃には全8曲が揃い、あとはメインとなる歌を吹き込むばかりとなっていた。その役を果たすのは、ミッシェル・ガン・エレファントの壮絶な歴史に終止符を打ったばかりのチバユウスケしかいない。照井の心は決まっていたという。

「ずっと、音楽をやりたい気持ちはあったのに、煮え切らない時期が長かったのかな。ブランキーが終わって一人になった時に、今までやってきた刺激をどこで得ようかって考えたけど……そんな人なんてなかなかいないから。だからチバとの出会いっていうのは、ものすごい俺にとって救われてる。チバの存在は大きいね」(照井)

迷いを吹っ切った照井の期待に、見事チバは応えてみせた。変拍子の多い「Voodoo Club」のようなセッション・ナンバーやモノクロの静けさを思わせる「Chevy」など、今まで彼が経験したことのない楽曲たちに、彼にしか歌えないメロディと歌詞を乗せきったのだ。

「大変だったよ。初めてだから面白かったけどね。でもオケを聴いて新鮮だったし、これは絶対やりたいって思えたから」(チバ)

チバの挑戦は、我々聴き手に新鮮な驚きをもたらすものだろう。それは照井にとっても同じことで、互いに見ていなかった幅の広さがはっきり見えたと、彼は嬉しそうに語っている。バンドでは出しきれなかった新境地。自由度の高いRAVENだからこそわかった可能性。無遠慮に暴れる極太なベース・ラインと、音に埋もれる寸前で攻撃性を爆発させるヴォーカル。二人のミュージシャン・シップと衝動の強さに、いま改めて圧倒される。

「RAVENには俗語で略奪って意味もあって。このアルバムの、強引に人の心の中に入ってく感じにぴったりだと思ったな。何がしたいかって、びっくりさせたいからさ」(照井)

穏やかに微笑むその表情とは対極の、激しすぎる音の嵐にまずは翻弄されてほしい。すべての予定調和を破壊する音の渦に飲み込まれてほしい。でも大丈夫。最後にあなたを受け止めてくれる一曲は「Star Carpet Ride」だ。本作で唯一、二人の共作となるこの曲は、「Chevy」があってこそ生まれたものだとチバは言う。聴いた瞬間に私は、ここから何かが始まるような希望を感じていた。そう伝えたところで寡黙な彼らには笑って聞き流されてしまったけれど、決して否定はされなかったのが印象深い。

完成したのはあくまでRAVEN名義のアルバムだ。作曲のプロセスとしてはROSSOに近い「Star Carpet Ride」が通常盤CDには収録されないことからもわかるように、これがROSSOの続編だとは考えない方がいいだろう。しかし、荒々しくも優しく、最後には未来への希望までを感じさせる楽曲たちは、これで終わることを決して意味しないはず。「限り無く赤に近い黒」。タイトルまでが意味深長で、そして最高にカッコイイ。

石井恵梨子

 


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