Biography

【バイオグラフィー】

「私の音楽の柱はソウルとソングライティングだと思うの、それとメロディと絶望感も切り離せないわね」。”Devil In Me” や”Uncomfortable Silence”を一度でも聴いたなら、 誰もがたちどころにこのノッティングヒル生まれ、ロンドン在住のナタリー・ダンカンに心奪われずにはいられないだろう。文句なしに素晴らしい、息を飲むほどにゴージャスなヴォーカルはまさに第一級で、ある意味分かりやすい――端的に言えばレディオヘッドとニーナ・シモンの間に位置する、とでも表現すべきか。ピアノを弾きながら歌う23歳の彼女は、その歌詞に自らの半生をありのまま注ぎ込んでいる。実のところ、ダンカン自身が言うように、「もし私という人間を知りたいと思うなら、やるべきことはひとつ、私の音楽を聴くことね」。

 

既にi-D誌やRWD誌で特集を組まれているナタリーは、SBTVやレディオ1/1Xtra’s Mistajam、MOJO誌でも多くのファンを獲得している。彼女自身はPのつく言葉を嫌うものの、ダンカンのソウル/クラシック/ジャズの影響がないまぜになった楽曲は、間違いなくジャンルを超えたリスナーを獲得する大いなるポテンシャルを持っているのだ。彼女のアルバムは優れたソングライティングの集大成だが、それを裏打ちしているのは明らかに傑出した声そのものの持つ力である。多種多様な顔を見せる彼女の曲に注意深く耳を傾ければ、ナタリーにはジュールス・ホランドからNME、1Xtraからレディオ2まで、ありとあらゆる人々を惹きつける魅力を備えていることが分かるだろう。自らのアルバムでグラミー賞受賞経験もあるプロデューサーのジョー・ヘンリー(ボニー・レイット、アラン・トゥーサン、アーニー・ディフランコ他)と組んだナタリーは、ゴールディのレーベル、Metalheadzの創立10周年記念としてリリースされた最新ヒット曲、”Freedom”にもフィーチャーされており、このシングルは先頃、Mistajamの週間”Jam Hot”ナンバーに選出された。

 

「あれは素晴らしい経験だったし、クリエイティヴな意味でもとても助けられたわ、」ドラムンベース界の伝説的アーティストとの共演について、彼女はそうコメントしている。「ゴールディーは完璧主義者で、それは私も同じなの――両者の世界がぶつかれば、そこに生まれるのは非の打ちどころのない完璧さか、あるいは救いようのない大失敗かよね。私たちの場合は――希望的観測も含めてだけど――前者だと思うわ!」

 

ドラムンベースの次はダブステップだ;先月ナタリーはマグネティック・マンとスタジオ入りし、今年後半にリリース予定のセカンド・アルバムに収録されるトラックのレコーディングを行なった。「私にとって、曲を書くってことはそれ自体がチャレンジなのよ、何故って私はいつだって素晴らしいものを書きたいと思っていて、その気負いが故に沢山挫折を味わってきたの。そこへ持ってきて、更に誰か他の人と一緒に組んで、彼らのアイディアをもらったり、そのアイディアを巧い具合に自分のアイディアと組み合わせてより良いものを作るっていうのはとても難しいことなのよ――でも私はその大変さに凄く遣り甲斐を感じてるの」と、ナタリーはそうしたインストゥルメンタルのプロデューサーについて語る。「アーサーとの仕事はグレイトだったわ――彼は私に一切干渉することなく、一人で音楽と向き合わせてくれたから、プレッシャーを殆ど感じずに済んだの。彼とはまた一緒に仕事がしたいわね」。ゴールディやマグネティック・マンとの仕事と、彼女自身のサウンド・スタイルは全くかけ離れているが、ナタリーはあらゆるタイプの音楽性を体得する能力の持ち主だ。「曲を書き始めた時点では、どんなタイプの曲になるかとか、自分用の曲なのか、誰か他の人にあげることになるのか、全部が茫洋としてるの」と、独学でピアノを修得した彼女は言う。「あるのはただ、自分の書いてる曲を単なるラヴ・ソングやポップ・ソング以上の、何か面白いものにしたいって気持ちだけね。とにかく徹底的にメロディを追求して、試行錯誤を繰り返すの、メロディのパーツにも細かいところまで凄くデリケートなこだわりを持って――クラシック的な要素を備えた曲をブルーズに変換したりとかね。これって言う決まったやり方は特にないの;ただどの曲も、それぞれに独特のサウンドを持った曲にしたいから、そうなるように書いて行くだけね」

 

ナタリーが歌うこと、曲を書くこと、ピアノを弾くことを始めたのは5歳頃のことだった。両親の家にやってきた祖母のピアノを借り、彼女は友達を何人も自分の部屋に「引っ張ってきては」、彼女のテープレコーダーを使って「無理やり」ハモリを録音させたり、定期的にソングライティング・コンテストを開いたりしていたと言う――無論、勝つのはいつも彼女だった。「私はもの凄く熱心にやってたけど、他のみんなはあんまり、どうでもいいって感じでね、」彼女は笑う。「多分、自分が人並み以上に音楽に執着を持ってるってことに気付いたのはその頃だったと思うわ」。いわゆる思春期の間、ナタリーは毎週土曜日になると、父親の莫大なレコード・コレクションを片っ端から聴き漁り、フレディ・マクレガーからピンク・フロイド、プロフェッサー・ロングヘアからスライ&ロビー、更にダブ、ルーツ・ミュージック、ブルーズまで、ありとあらゆる音楽に耽溺した。「よくTVやステレオで聴いたものを耳で覚えて、即興的にピアノで弾いてたわね」

 

ナタリーの最初のバンドはハイスクール時代で、ドラム担当の彼女にベーシストとリード・ギタリストと言う構成で(「上手く行ったとは言い難いわね!」)、それを皮切りに、音大生としてカレッジに通うかたわら、数え切れないほどのバンドを渡り歩いた。そのうちのひとつ――ハーリー・ブルー――にいたギタリストと組み、ナットは19歳にして遂にソロで活動を始め、十代の間ずっと大切にこつこつと書き貯めてきた自らのオリジナル曲をパフォームするようになったのだった。

 

2年前、彼女の元に、当時BBCの番組のために音楽プロジェクトに携わっていたゴールディーから共同作業の誘いが舞い込んだ。その実り多きパートナーシップの一環として生まれたのが、先述のシングル”Freedom”だ。もっともそれより前の2010年、ノッティンガムのパブでの演奏を観て、ナタリーと彼女の類い稀なソングライティングの才能を見出し、昨夏のうちにヴァーヴ・レーベルとの契約を取りつけたのはサイモン・ギャヴィンである。実は気乗りしない彼女を説得し、契約書に名前を書かせるまでには、彼をして丸一年近くを要した。「レコード契約なんてして大丈夫なのかなと思ってたのよ、正直一体どういう仕組みになってるのか全然分かってなかったから。最終的には彼の熱意に負けてしまったわけだけど、でも今は凄く感謝してるわ。彼らは基本的に私のやりたいことを何でもやらせてくれて、何も干渉することなく私の作りたいレコードを作れるように取り計らってくれるところだから」

 

その後、ナタリーは作ったデモをベーシックな8トラックに録音し直し、ジョー・ヘンリーのプロデュースによりフル・デビュー・アルバムを完成させる。「アルバムの中の曲はそれぞれかなり違ったカラーを持ってると思うけど、『Devil In Me』には一貫したひとつのサウンドがあると思うの。あれはもう、ジョーと私のバンドの功績ね。元々のデモは私の声とピアノだけだったのを、あんなにもドラマティックなサウンドの曲に変身させてくれたのは彼らの力だから」

 

“Uncomfortable Silence”は恋人との別れを経験した後、一文無しのナタリーが恐ろしく狭いアパートで暮らさなければならなくなった時に書かれた。「当時は本当にお金がなくて、家賃も払えなくて、私はごみ溜めみたいなところに住んでたの、」彼女は回想する。「ある時、知り合いが数人、パーティーの後でうちに寄ってね、あの時はもう、本当にどうしようかと思ったわ。まさに穴があったら入りたいって気分だった。今すぐ消えてしまいたいと思ったわ。ハッピーエンドの曲じゃないわよ」といたずらっぽく笑った彼女は、アルバム全体でとりわけ色濃いのは、エリオット・スミス、ローリン・ヒル、そしてピンク・フロイドからの影響だと言及する。

 

極上のタイトル・トラック”Devil In Me”が破滅的な恋愛関係を暗い視点で綴る一方、”Old Rock”は彼女がかつて働いていたパブの常連客だった、ちょっとイカれた老人の繰り言を題材にした曲だ。また、ダブ・ナンバー”Pick Me Up Bar”は、ギル・スコット=ヘロンにインスパイアされたものだと言う。「彼のドキュメンタリーを観てるうちに、自分でもずっと、最近はもう音楽についてちゃんと語られることがないなと思ってたことを思い出したの。昔いたような、歌詞を通じて世の中の状況を変えようなんて情熱を持った人はもうどこにもいないのよね。だから私は、私たちが日々売りつけられてる安っぽい観念主義について歌った曲を書きたいと思ったのよ;例えば砂糖無添加のエナジー・バーで『気分は爽快』とかね。そんなの全部くだらないウソでしょう」。彼女は一生懸命、アルバムの中には明るい曲もあるのだとアピールして見せる;例えば”Flowers”は、彼女の人生における”Devil In Me”時代の後もずっと変わらずそばを離れずにいてくれた、とりわけ親しいひとりの友人に宛てたサンキュー・ソングだ。「このアルバムには勿論沢山の失望や憤りが詰まってるけど、」ナットは再びニヤリと笑って言う。「私は間違いなく、待望久しいポップ・ワールドの死神よ!」

 

彼女のデビュー・シングルである”Sky Is Falling”は、昨年の夏に書かれた美しい曲だが、歌詞を聴けば内容の説明は不要だろう。心を鷲掴みにする、緻密なナタリーのヴォーカルの配分は実に絶妙かつ完璧だ;彼女には、決して力んだ印象や大仰さを感じさせることなく、ひとつひとつの音からエモーションを絞り出す天賦の才能が備わっているのである。

 

ナタリーのデビュー・アルバムは2012年7月発売予定だ。