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【世界のラテンムーブメントと日本】
ラテンムーブメントの台頭は、2017年のポップミュージックシーンにおける最重要トピックといっていいだろう。このムーブメントの下地は、ビッグネームのおなじみのヒット曲によって2015年ごろからじわじわと形成されていった。ジャスティン・ビーバー「ソーリー」(全米1位/全英1位)、リアーナ feat. ドレイク「ワーク」(全米1位/全英2位)、ドレイク「ワン・ダンス」(全米1位/全英1位)、エド・シーラン「シェイプ・オブ・ユー」(全米1位/全英1位)など、ダンスホールレゲエのビートを取り入れたヒップホップやR&B、あるいはダンスホールレゲエにインスパイアされた「トロピカルハウス」の流行に応じて、それらと非常に相性のいいサウンドのレゲトンにスポットが当たったのだ。そんな状況下で2017年1月に登場したのが、現在のラテンムーブメントの発火点ともいえるルイス・フォンシ feat. ダディ・ヤンキーの「デスパシート」だ。リリースされるやいなや瞬く間に世界各国で大ヒットした「デスパシート」の人気は、4月に入って急遽制作されたジャスティン・ビーバー参加のリミックスバージョンによって一気にヒートアップ。8月にYouTubeでのミュージックビデオの再生回数が30億回を突破して歴代1位に躍り出ると、9月には過去最長タイとなる驚異の全米チャート16週連続1位を達成した。こうしたなか、「デスパシート」に続けとばかりに6月にリリースされてヒットしたのがJ. バルヴィン&ウィリー・ウィリアムの「ミ・ヘンテ」だ。こちらもビヨンセをゲストに迎えたリミックスバージョンが追撃弾となって本格ブレイク。全米チャートで最高3位をマークしたほか、実に世界50カ国以上のiTunesランキングで1位を獲得している。その後、12月には全米ナンバーワンヒット「Bodak Yellow」で時代の寵児となった女性ラッパーのカーディ・Bをフィーチャーしたオズナの「La Modelo」がリリース。「デスパシート」や「ミ・ヘンテ」のような大きなヒットにこそ結びつかなかったが、レゲトンシンガーとヒップホップ/アーバン系アーティストとのコラボレーションが「ヒットの法則」として完全に確立されたことを強く印象づけた。

ポップチャートを席巻した「デスパシート」と「ミ・ヘンテ」の人気は結果的にシーンのラテン熱を高めることにつながり、サンタナ「マリア・マリア」をサンプリングしたDJキャレド feat. リアーナ&ブライソン・ティラー「ワイルド・ソーツ」(全米2位/全英1位)、そしてキューバ出身のカミラ・カベロ feat. ヤング・サグ「ハバナ」(全米1位/全英1位)といったラテンタッチの楽曲のヒットを誘発。「ラテン・フィーバー!」は一過性のブームを超えて大きなムーブメントへと発展した。ダディ・ヤンキー「ガソリーナ」やN.O.R.E.「Oye Mi Canto」などのヒットによってレゲトンが初めてクロスオーバーした2004〜2005年に比べると、アーバン/ポップフィールドの大物アーティストが積極的に関与していることもあって俄然大きな盛り上がりが見込めそうな今回のラテンムーブメント。2018年に入ってからもダディ・ヤンキーの新曲「デュラ」がSpotifyのグローバルチャートで順当にトップテン入りを果たすなど、「デスパシート」級の特大ヒットがいつ生まれてもおかしくない状況が続いている。

正直、こうした世界の動向に日本が追いついているとは言い難いものがあるが、今年になって日本公開されたピクサー初のラテン系映画『リメンバー・ミー』のヒットなどを考えると、今後国内でのラテンカルチャーに対する関心が高まってくるのは確実。夏には『Summer Sonic 2018』でJ. バルヴィンの待望の来日が決定したこともあり、2018年は日本でのラテンムーブメント本格上陸を大いに期待したいところだ。

高橋芳朗氏