JAZZ-ON! Mini Album「Tone of Stars Alpha」オフィシャル・ライナーノーツ

01.Tone of Stars Alpha(鳴海ロラン, 天城輝之進, 安藝月玲玖&桐生蒼弥)

前作の表題曲「Invisible Chord 1st」で復活を告げたSwingCATS。

既存の「『JAZZ-ON!』らしさ」をアップデートしたSwingCATSに対して、星屑旅団は新たな『JAZZ-ON!』の一面を見せつける。

冒頭から、印象的ながら拍子の掴みづらいメロディが、リスナーの心を掴んでくる。四拍子を三連のフィールで刻み、流れるようにイントロへと突入する。

Aメロは三拍子。「刻む」伴奏からは、個々のメロディを奏でるメンバーへの強い信頼が感じられる。Bメロでは近年の世界ヒットチャートを独占するヒップホップ由来のラップ歌唱を取り入れているが、それすらも一筋縄ではいかない。7/8拍子とテクニカルな拍子を軽々と乗りこなしてみせる。前のめりの拍子は、突き進むことへの恐れを知らない星屑旅団の在り方を体現しているようだ。

そうして突入するサビはラテン調の四拍子だ。これまで長調だった楽曲は、憂いを帯びた短調へと切り替わる。日々の彼らの明るさが、自由さが、目の前の一筋縄では行かない現実に立ち向かうためのものであることを表しているかのようだ。

この構成は短調のメロから長調のサビへと切り替わった「Invisible Chord」との対になっている。「Invisible Chord」と同様に4人のソロ回しパートでは、彼らの魂の声の掛け合いが聴かれる。歌詞に注目すると、「星を集める旅」というフレーズの通りで、目まぐるしく切り替わる風景/曲調を勇ましく乗り越えていく楽曲だと言える。

「旅」のメタファーで語られるのは「音楽」や「自分自身」を探求する彼らの哲学。

「自分らしさ」や「自由」が肯定的に語れられる時代だが、その良い面だけが強調されすぎてはいないか。「ありふれた譜面通り」でもなく、「自由なんて言葉」にとらわれるのでもなく、突き進む旅路は厳しいものだろう。

その終わらない旅を、諦めること無く続けていくのだという決意は、第一部では軽薄にすら見えた星屑旅団が心から音楽と向き合っていることを表している。

第二部の波乱と、それをも乗り越えていこうという強い意志が感じられる楽曲だ。

02.As Is(神条優貴&安藝月玲玖)

冒頭の哭きのギターと、彼をしっかりと支えるベースが、彼ららしい一曲。

雄々しく歪んだ印象的なギターの音色や、切れ味の良いイントロとは対象的に、安藝月玲玖の奏でるメロディはどこか切なげだ。そして、それを受け入れるように優しい音色で神条優貴が受け止める。

第一部で明かされた優貴の過去――かつて所属していた楽団での失敗を経て、彼は新しい自分へと生まれ変わったのだろうか。前作『Invisible Chord 1st』のドラマトラック「Dissonance from the past」では、その頃の自分を「嫌いだった頃の自分」と言っていた。本作のドラマトラック「音のないオブリガート」で「本当の自分とは?」と思い悩む玲玖を見て、優貴はどんな言葉をかけるのだろうか。

全編を通して玲玖のギターがフォーカスされた楽曲は、これまでシナリオ上で語られるばかりだった玲玖の美学が演奏という形で表現されている。決してメインのメロディを邪魔することなく、「ここぞ」という場面でしっかりと存在感を誇示する。イントロや間奏、そして何よりアウトロのソロプレイは圧巻だ。「ジャズは誰もが等しく主役だ」という言葉と「自分こそがアンサンブルをリードする」という言葉は矛盾しない。

玲玖のキャッチーなギターを十分に堪能したら、次は優貴の堅実なベースプレイに意識を向けて欲しい。玲玖のギターほど華美ではなく、主張も強くないが、必要なシーンで必要な音を奏で、楽曲に彩りを添えていることが分かるだろう。玲玖のギターが華やかに、自由に、己らしく演奏できているのは、しっかりと優貴が演奏全体を支えているからに他ならない。言い換えれば、玲玖に任せれば楽曲をリードしてくれることが分かっているからこそ、優貴は裏方に徹することが出来る。

一見して正反対な性格の二人。向いている方向も真逆でありながらも、お互いを抜群に引き立てて合えるのは、やはり同じ血を引く者同士だからだろうか。

03.STAY HERO(武宮大和&桐生蒼弥)

そもそも、「ジャズ」が表す範囲はとても広い。

M01「Tone of Stars Alpha」は確かにジャズではあるのだが、聴いての通り、伝統的なジャズとは一線を画する。様々な音楽を取り込む姿勢がジャズ的であり、ともすればプログレと括る向きもあるだろう。M02「As Is」はゲイリー・ムーアを彷彿とさせるギターバラードの香りが強く、こちらもジャズと言われて一番目に思いつく曲調かと言われればきっとそうではない。

果たしてM03、「STAY HERO」はどうかと言われれば、この楽曲こそ王道なジャズ・ポップスではないだろうか。裏拍を強調したスウィングするジャズドラム。ウォーキングするベース。その上に乗る、2本のトロンボーン。色に例えると黄色のような明るい曲調ながら、どこか青い憂鬱の要素がエッセンスとして香る。まさに人々が思い浮かべる「ジャズらしさ」に溢れる楽曲だ。

この楽曲を奏でるのが『JAZZ-ON!』に登場する16人の中で、数少ない「ジャズ初心者」である武宮大和と桐生蒼弥の二人だ、というのも”らしく”て面白い。

公開されているプロフィールや、第一部のドラマCDでも「ただならぬ関係にあること」が示唆されてきた二人。元々同じ運動部で、とある出来事により退部、そして偶然にも同じくジャズ部に入部したという、明らかに「なにかがあった」にもかかわらず、それぞれのチームの手前もあってか、二人が真っ直ぐに言葉をぶつけ合う機会はほとんど描かれて来なかった。その二人が奏でる楽曲が、これほどストレートな歌詞とメロディとは、想像できただろうか。

おそらくまっすぐ向き合って言い合うことはきっとまだできない思いが、楽曲の形で表出したのだろう。「『JAZZ-ON!』の歌は演奏中の魂の声」というのはそういうことだ。

この楽曲を奏でるに至る物語、「STAY HERO」という曲名に込められた思いは、ドラマトラック「音のないオブリガート」を経て明らかになる。明るい楽曲の締めくくる意味深長な大和の台詞に導かれて、ドラマトラックが始まる。