ゴースト『プレクウェル』アルバム解説

 

 

 全米チャート初登場3位。
 全英チャート初登場6位。
 これはスウェーデン出身のゴーストが昨年の6月1日に発売した通算4枚目となるアルバム『Prequelle』の順位である(ちなみに、母国スウェーデンでは当然1位)。
 もちろん、スウェーデンのHR/HMバンドが全米チャートのベスト3に入るのは初めてのこと。1986年に発売されたヨーロッパの『The Final Countdown』でさえ全米チャートの最高位が8位だったのだから、いかにゴーストの『Prequelle』がアメリカで売れているか、いかにアメリカでのゴースト人気が凄まじいかがわかると思う。
 一方、日本は、というと…悲しいかなアメリカやヨーロッパでの爆発的人気とは比較にならないほどに人気がない…認知がないのだ。確かに日本でのこれまでのゴーストは……一部熱狂的ファンはいるものの、あのルックスや独特の世界観やキャラ設定もあってか、マニア受けするバンド…玄人受けするバンドの範疇を抜けていない、一見さんにはとっつきにくいバンドというイメージで捉われているだろう。
 このままだとゴーストは延々と日本での人気は出ない=来日もしない=大ヒット・アルバム『Prequelle』に触れるきっかけもない! そんな散々な現実に辛抱たまらず、『ヘドバン』ではゴーストを昨夏から勝手にゴリ推しさせてもらっているのだが、そのゴリ推しっぷりが本人に届いたのか、ゴーストの“中の人”…もっと詳しく言ってしまうとフロントマンであるコピア枢機卿の“中の人”…つまり、ゴーストの世界観や設定、楽曲、歌詞、映像、ライヴ等々、ゴーストの全てをコントロールしている人物であるトビアス・フォージが『ヘドバン』で日本唯一のインタビューに応じてくれたのだ。
 まだゴーストに触れたことない人、『Prequelle』を聴いたことのない人には、世界観や設定云々をツラツラと書くよりも、トビアス本人の発言が一番的確なので、彼のインタビューでの発言を引用して『Prequelle』の魅力を伝えたいとと思う。
 『Prequelle』には、それまでのゴーストのアルバムに感じていたダークな70年代ハード・ロックの匂いが薄まり、むしろ80年代のきらびやかなテイストが感じられることをトビアスに聞いたら、こんな答えが帰ってきた。

「80年代というのは重要な要素だよ。俺は1981年生まれで、80年代に子供時代を過ごしたからね。80年代は俺自身、そして俺の作る音楽に根本的なインパクトを与えたルーツだと言える。今のゴーストのサウンドは、70年代というよりは80年代っぽいと思うよ。俺は洗練されたハイファイなサウンドのほうが好きだからね」

 そう、日本では“サタニック・ムード歌謡”、“ムード・メタル”とまで呼ばれ、1st~3rdに漂っていたメロディアスではあるけどダークでオールドスクールな音を完全に拭い去り、『Prequelle』ではまるで80年代のチャートを賑わしたキャッチーなハード・ロックのような聴きやすい楽曲のオンパレード。わかりやすいフックのあるリフ、どこかで聴いたことのあるようなキャッチーなギターのフレーズ、耳馴染みのあるシンセサイザーやサックスの音色…そして、自然と身体がリズムを刻んで、ちょっと懐かしくていつしか口ずさんでしまうようなメロディに溢れている。

「フォリナーやジャーニーはイメージ的にはカッコ良くないだろ? だけど、サウンドは素晴らしい。初期のMyspaceでは、ゴーストのことを“Devil-Worshipping Kansas”って書いていたんだ。これはまさに、ゴーストをとてもよく表現していると思うよ。サウンドはカンサスみたいだけど、悪魔を崇拝しているクールなバンドということさ。見た目はクールで、カンサスみたいなプレイもできる、というバンドを目指していたんだ」

 トビアス本人の口からジャーニーやフォリナー、カンサスという、日本では“産業ロック”なんていう言葉で括られてしまっているバンド名が出るとは思っていなかったが、『Prequelle』の魅力も、『Prequelle』がアメリカやヨーロッパで大ヒットした理由も、ゴーストが爆発的人気を得た理由も、実はこの発言に答えが詰まっている。つまり、『Prequelle』は日本のHR/HMファンが大好物な80年代のキャッチーなハード・ロックなのだ。
 とりあえず、世界観や設定等なんか一切気にせずに、『Prequelle』のキャッチーでメロディアスできらびやかで、ときにメランコリック、密かに毒々しさも漂っている音に触れて欲しい。80年代のチャートを賑わしたハード・ロックがそうだったように、一緒に歌えて一緒に踊れる、わかりやすいアルバムなのだから。『Prequelle』の冒頭を飾る「Rats」やシングルにもなった「Dance Macabre」を聴いた時点で、「あれ? ゴーストってこんなに聴きやすかったの!?」ときっと思うはず。
 そして、『Prequelle』を聴いてゴーストの魅力に気づいてしまった人は是非、DOWNLOAD FESTIVAL JAPANでゴースト生体験をしてほしい。エンタメ度抜群のステージが待っているから。ゴーストの掌の中で思う存分踊ってほしい! ゴーストのライヴでノリノリになってしまって……いいんです。悪魔のパーティーに是非、参加してください!見逃してしまうと…ここまで世界的に大ブレイクを果たしてしまった今、次にいつ来日してくれるのかわかりませんよ。

※『Prequelle』を聴いてゴーストに興味を抱いた方は『ヘドバン』Vol.19のゴースト特集を読むか、日本の熱狂的ゴースト信者たちのHPを覗きに行ってみてください。次の扉…ゴースト沼にあなたを引き摺り込む“あの世界観”が両手を広げて待ち受けています。

 

 

2019年3月5日 梅沢直幸(『ヘドバン』編集長)

https://twitter.com/savage_headbang