<インタビュー>オリエンタルランドのショー制作者が語る、東京ディズニーシー®「ドリームス・テイク・フライト」の音楽の魅力とは?
東京ディズニーシーのロストリバーデルタにある「ハンガーステージ」で、2025年7月からスタートしたエンターテイメントプログラム「ドリームス・テイク・フライト」。飛行機工場を舞台に、ミッキーマウスをはじめとするディズニーの仲間たちが、力を合わせて飛行機づくりに奮闘する1日を描いたステージショーです。このショーの音楽の魅力を、ショーディレクターの有賀美智さんとミュージックディレクターの武田邦義さんに語っていただきました!
インタビューにお答えいただいたのは…
株式会社オリエンタルランド ショー開発部
ショーディレクター 有賀美智(ありが みち)さん
ミュージックディレクター 武田邦義(たけだ くによし)さん

——「ドリームス・テイク・フライト」のテーマについて教えてください。ショーを通して、ゲストのみなさんにどんなメッセージを伝えたいと思いましたか?
有賀:このショーでは、飛行機工場で働く職人たちを描いていますが、それぞれが夢を持って仕事に取り組んでいます。考え方の異なる人たちが、お互いを理解したり、共感したりしながら、協力してひとつのものを作り上げるすばらしさ。そして、夢を持つことの大切さ。人によって大きな夢を持っている人もいれば、ささやかな夢もありますが、大切なのは夢を持つことで、そのために一生懸命がんばろうとか、努力をしようとか、勇気を持って一歩踏み出してみようとか。そういう想いが伝わったらいいなと思って作りました。
——さまざまな背景を持った人が集まって、ひとつのものを作るのはステキですね。
有賀:ひとりひとりにドラマがあるんですよね。いろんな想いが交錯するなかで、がんばろうと思ったり、どうしようかと悩んだりしながら、人生を切り開いていく。その姿を見て、自分もやってみよう!と思うきっかけになってくれたらうれしいです。
——ストーリーを語るために、5曲の魅力的な新曲が書き下ろされました。そのなかから、オープニングナンバーの「ビルディング・ドリームス」、フィナーレを飾る「When We Fly, We’ll Soar」についてご紹介いただけますか?
武田:工場で働く人たちを表現するために、力強いビートがあると、エネルギッシュに働いている感じが出せるかなと考え、それをテーマにオープニングとフィナーレの曲を作りました。とくにオープニングの「ビルディング・ドリームス」は、これから1日が始まるシーンの曲なので、がんばって働こう!というポジティブな感じにしたかったんです。なるべく細かいメロディにして、慌ただしさと同時にポジティブさを表現しました。対照的にフィナーレの「When We Fly, We’ll Soar」は、飛行機が完成した喜びと、フィナーレにふさわしい感動を表現するために、大きなメロディを使っています。転調をくり返すことで、どんどん盛り上がるように作られているんですよ。

——ショーの後半、パイロット役のミニーマウスが登場するシーンで歌われる「フライ」も印象的ですね。
武田:「フライ」は、かわいらしいガールズポップでありながら、ミニーの内面を表現したいと思いました。これから大空に飛び立とうとするミニーの想いや、新たな一歩踏み出す勇気を込めた曲です。
有賀:このショーを企画したときから、ミニーは絶対にパイロット役と決めていました。衣装もあえてパンツルックにして、いつものかわいらしさとは違う強さを前面に出して。ショーを見たゲストのみなさんに、「ミニーがそう思っているなら、私たちもがんばろう」と共感してもらえたらいいなという想いもあって、この役柄を設定したんです。とはいえ単純に強くすればいいわけではないので、「フライ」の曲をどういうふうに作っていこうか、最初は悩みました。そのシーンにディズニーの勇敢なプリンセスたちの曲を入れ込み、対比できるようにしたことで、結果的に「フライ」の美しいメロディが際立ち、秘めた想いや希望が感じられる曲になったのは、自分でもすごくよかったなと思います。


——ショーにはおなじみのディズニー映画の曲も使われています。原曲の良さを活かしたものもあれば、大胆なアレンジを施したものもありますが、聴きどころは?
武田:先ほどのミニーのシーンでいうと、メリダが歌う「タッチ・ザ・スカイ」は原曲に近いのですが、モアナの「How Far I’ll Go」とポカホンタスの「川の向こうで」を大胆にアレンジしたのは、ミニーの世界観の延長にしたかったから。ミニーの気持ちにリンクさせたかったので、あえてアレンジを変えました。あと、チップとデールが工具を使ってリズムを奏でるシーンでは、「ハイ・ホー」や「口笛ふいて働こう」など、ディズニーの“働く曲”をみんなで歌ったり…
有賀:そのあたりも、ゲストのみなさんに気づいていただけたら。こだわりがいっぱい詰まっているんですよ。
——工場の作業音や雨漏りの音、電気のノイズなどの効果音が、曲の一部になっているのも面白いですね。
有賀:工場という設定を、音楽でもちゃんと表現できたらいいなと思って。演出側の要望を、音楽チームがうまく入れ込んでくれたおかげで、いつもとは違う雰囲気になったと思います。
——できあがってきた音楽を聴いて、演出を変えたり、新たなアイディアが湧いたりすることもあるのでしょうか?
有賀:こちら側から「こういう場面でこういう楽曲が欲しい」とお願いして作ってもらうのですが、予想をはるかに超えるすばらしい構成やメロディになっていると、「ここにセリフを入れようと思っていたけど、音楽を活かしてダンスで見せてみよう」という具合に、インスピレーションを受けることはたくさんありますね。逆にそれが楽しいです。衣装や振り付け、照明など、どれも大切な要素ですが、やはり音楽がないと始まらない。とくに私たちのショーは音楽によるところが大きいので、制作時は細部にまでこだわって何度もやり取りを重ねますが、キャッチボールをしながらアイディアが膨らんでいくと、本当に楽しくて。産みの苦しみを味わいながらも、その先にある理想に向かって一緒に進んで行ける。音楽チームの人たちは、同志のような感じです。
——海外のクリエイティブ・スタッフとの共同作業は、どのように進められるのですか?
武田:今回は僕らもアメリカのアレンジャーのところに行って、1曲ずつ話をしながら進めました。たとえば、「オープニングは工場の音から始まって、ひとしきり歌ったあと、ここでピートがセリフを言うから、このくらいの間奏があって…」みたいな話を詳細にしながら作ってもらいます。だいたいどのショーも、そういった段取りです。
有賀:演出的なディレクションや音楽的なディレクションを、シーンごとに事前にしっかり話し合い、それを持ってアメリカの音楽チームと話し合います。何回もデモ音源を作ってもらい、それを聴いては直し、聴いては直し…。完成するまでには、計り知れない時間のやり取りがあるんですよ。
——「ドリームス・テイク・フライト」でお気に入りのシーンは?
有賀:私はミニーの「フライ」のシーン。あとフィナーレで、ミニーたちパイロットが、初めてミッキーや工場の職人たちと出会う瞬間も大好き。それまでは別々の世界観で物語が進んでいくのですが、それがフィナーレでひとつになり、「ステキな飛行機を作ってくれてありがとう」「がんばって行ってきてね。僕らの想いもこの飛行機に込められているんだよ」という気持ちが交わされる感動的なシーンです。
武田:僕はマックスのシーンが好きですね。工場が停電になって、電気技師のマックスが修理に駆けつけるのですが、照明の効果を駆使したパフォーマンスが、EDM調の曲「ザ・フューチャーズ・ルッキング・ブライト!」と、とてもうまく合っていると思います。


有賀:あのシーンもこだわりました。全体のショーの長さが約25分という限られたなかで作っているので、時間の関係上、演出側の希望をすべて反映することはできないんです。どれをやめてどれを入れるか、調整しなければならなくて。
武田:泣く泣くカットしたところもありましたね。
有賀:そう、今回お聞かせできなかったメロディもあるんですよ。最後は0.5秒でもいいから…という感じで、ギリギリの調整をしました。音楽チームはそういう細かい要望にも対応してくれて、とても頼りになります。
——パークミュージックはゲストに大人気ですが、どんなところに魅力があると思いますか?
武田:ショーの構成に合わせて音楽を作っていることが、魅力につながっていると思います。シーンのイメージやエネルギー、キャラクターの動きや感情の変化に合わせて作っているので、自然に入り込めるのではないでしょうか。
有賀:観客をどんどん引き込むような作り方を意識しているので、盛り上げ方に特徴があります。曲を聴くことで、その瞬間が思い出される。だから音楽の力は欠かせません。
——東京ディズニーシーは2026年に開園25周年を迎えます。今後の意気込みをお聞かせください。
有賀:これからも今まで通り全身全霊でいいショーを作ろう!と、あらためて思い直したり、ディズニーらしさってなんだろう?と、原点に戻って考え直したり。私にとって周年の節目は、いつもそういうことを思い起こさせてくれます。25周年も、今までやってきたことを大切にしながら、ゲストのみなさんにもっともっと楽しんでもらえるようなショーが作れるように、継続してがんばろうと思います。
武田:もう25年も経つんですね。僕は当時、出演者だったので、新しいパークができるんだ!とワクワクしたことが懐かしいです。周年に関わらず、これからも魅力ある音楽を作っていけたらいいなと思っています。
——25周年にはどんなステキな音楽に出会えるか、今から楽しみです。
有賀・武田:ぜひご期待ください!
《取材・文:エンターテイメントライター うきたひさこ》

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