白地に真紅の文字が鮮やかに映えるジャケット。余計なものが一切なくてシンプルで、それでいて豊かなイメージを広げてくれるアルバム『DREAM SONGS I [2014-2015] 地球劇場 ~100年後の君に聴かせたい歌』にあまりに相応しいデザインと言えよう。シンプルだけど、どうにもまったく豪華だと呟かずにいられないのが本作の特徴でもある。過ぎ去る時間によって色褪せたり形状が変化したりするようなことがない頑丈な曲たちを、谷村新司が百年先までその業績を語られ続けているだろうシンガーたちといっしょに歌う。簡潔に言えばそんな内容を持つアルバムなのだが、眺めるほどに〈谷村新司 夢のアルバム〉というフレーズが頭の中を駆け巡ってしまうのである。

 少しばかり「地球劇場」についての説明を。〈ツタエビト〉と称する谷村新司がメイン・パーソナリティーを務める音楽ドキュメンタリーのタイトルであり、番組はBS日テレにて2014年4月からオンエアされている(2016年3月の時点で放送回数は24回を数える)。内容はウタビト(=ゲスト・アーティスト)の音楽人生を2時間かけてじっくりとあぶりだしていくというもので、歌唱シーンはかならずフルコーラスで聴かせるという音楽にフォーカスしたこだわり溢れる番組作りも視聴者から支持を集めている。(谷村自身の歌も含めて毎回9曲ほど披露される)。歌の醍醐味や歌手の魅力を余すことなく堪能できるという理由からも昨今話題にのぼることが増えているBSの音楽番組のシンボル的存在といえるが、何よりも谷村新司が抱く夢を実現させるための最高の舞台となっている点が重要であり、これまでにさまざまな名場面が誕生して話題を集めてきた。

 そんな「地球劇場」の人気コーナーのひとつに〈DREAM SONG〉がある。ウタビトとツタエビトとが歌を通して心の交流を行うコラボ・タイムのことで、番組内でひときわ幸福感かつドリーム感の高さを誇っている。そこから生まれた名コラボのベスト・テイクがこのたびこうして1枚のアルバムとしてまとめられることになったのだ。登場するウタビトをざっと挙げていくと、加山雄三、森山良子、吉田拓郎、加藤登紀子、さだまさし、一青窈、小椋佳、徳永英明、イルカ、そしてKalafinaの全10組。きっと納得と驚きの入り混じるラインナップだと思う。

同時代を生きる実力派アーティストと共に揺るぎない名曲の価値を再定義していく。本作において谷村が行っているのはこういうことだ。“サライ”(加山雄三)や“いい日旅立ち”(森山良子)といった谷村新司のキャリアを語るうえで欠かせない曲たちもあれば、“アカシアの雨がやむとき”(一青窈)や“シクラメンのかほり”(小椋佳)といった歌謡曲のフィールドの大道を歩んできた楽曲なども見られる。ぜひともふたりで歌ってみたかった、そんな思いが滲むこれらの曲はアーティストたちの夢の結晶であるわけだが、聴けば聴くほどに両者が歌声を重ね合わせるにあたって必然性を持つ楽曲ばかりだと思えてくるのが不思議だ。とりわけゆかりの深いアーティストと聴かせるハーモニーは、過ぎ去った日々のさまざまな物語が浮き彫りになっていくようで、実に味わい深い。

 タイトルにある〈君〉についての話も少し。「地球劇場」にはアーティストたちが未来の子供たちへの言葉を語るコーナーがあるのだが、このアルバム自体もまた前途ある〈君〉たちの未来を応援していきたい、という力強いメッセージに包まれており、その一環として今回アルバムの売上の一部を日本で貧困を抱えた子供達の為に、「子供の未来応援国民運動」を通じて寄与されるプロジェクトも立ち上げられている。未来に向けて音楽が果たすべき役割を谷村がたえず探求してきたことは、音楽を通じて豊かな心を育むことをめざすカルチャー・プログラム〈ココロの学校〉などでも明らかだが、「地球劇場」のコンセプトを凝縮したような本作においても彼は同様の取り組みを行っていると言っていい。耳をすませば、未来を明るく照らし出すためにこの歌たちが役立つならば、という谷村の切実なる声が聴こえてくるだろう。

改めてここに並べられた〈DREAM SONGS〉とは何なのかと考えれば、人と人が触れあうところには思いがけない美しいハーモニーが生まれるのだということの証明に他ならない。目には見えないけれども確かな力を持つ音楽の可能性について、名シンガーたちが実に楽しげに解き明かしていくその様子は単純にして明快。ややこしいものなど何もない。特に、ハーモニーをずっと遠くまで飛ばしたいという意志を感じさせるのは、レコーディング・スタジオにおいて録られた唯一の新曲“アルシラの星”かもしれない。コーラスワークでは若手ナンバーワンとも言える実力を持つ彼女たちを念頭に置いて谷村が書き上げたこのドリーミーなポップ・ソング。4人が奏でる分厚いハーモニーの無限の広がりぶりは圧巻のひと言だ。

谷村版〈ザ・グレイト・ジャパニーズ・ソングブック〉と呼ぶことも可能な〈DREAM SONGS I〉。聴くごとにさまざまな連想を喚起させる本作は、ひょっとして“サライ”の主人公が見上げていたのはひょっとしたら“アルシラの星”だったのではないか?なんて想像を膨らませてくれたりもする。ひとつ確実に言えることは、このアルバムで高らかに謳われている〈いつでも夢を〉というメッセージは言うまでもなく、未来の子供たちのみならず現代を生きるわれわれにとっても有効なものであるということ。聴き終える頃にはきっと、いまよりももっと100年後のことが気になっているに違いない。 

音楽ライター 桑原シロー