「Ray」Release Official Interview
映画『鬼の花嫁』のイメージソングとして書き下ろされた由薫の新曲「Ray」は、恋に落ちたときの高揚感だけでなく、その出会いにより自分自身の輪郭が見えてくることへの戸惑いまでを、繊細に描いた一曲だ。これまで「星月夜」や「echo」などで、恋愛そのものよりも大きな意味での“愛”や、喪失について歌ってきた彼女。今回はあえて“恋の始まり”にフォーカスし、映画の中で揺れ動く心情に寄り添いながら、他者によって自分の存在を受け入れていく感覚を浮かび上がらせた。イメージソングという形式だからこそ、すくい上げることのできた感情の機微、そこに滲む光と影──恋の歌を通して由薫が掴んだ新たな表現の可能性とは何か。
取材:黒田隆憲

──新曲「Ray」は、映画『鬼の花嫁』のイメージソングですね。映画の制作側からリクエストやイメージの共有はありましたか?
由薫:お話をいただいた時点で、映画のどの場面に必要な楽曲なのかを詳しく伺いました。なので、映像に合う曲調や、アレンジを意識しながら作ることができましたね。例えば映画の主題歌であれば、作品全体を象徴するような楽曲を求められることが多いと思うのですが、今回いただいたのはイメージソングのオファーだったので、ある特定シーンにおける登場人物たちの心の機微を、より丁寧に描くことができたなと。こうした形で曲を作るのは今回が初めての経験だったので、新鮮でしたし楽しかったです。
──『鬼の花嫁』という作品については、どんな印象を持ちましたか?
由薫:タイトルに「鬼」とつくくらいなので、最初はファンタジー要素の強い作品なのかなと思っていました。実際は、とても現代的な内容です。特に、大学に通いながら自分のキャリアについても考えている主人公・柚子ちゃんの気持ちには、きっと多くの人が共感できるのではないかなと。生きていく中で立ちはだかる、自分に対する自己肯定感のあり方のようなものが、この物語の大きな核になっている気がしますね。
──曲作りはどのように進めましたか?
由薫:今回、自分の中で意識していたのは、「恋」という部分にもっとフォーカスした曲を書きたい、ということでした。これまで恋愛ソングを書く時って、あまりストレートな表現をしてこなかったんです。インディーズ時代の楽曲「風」も、恋を風に例えて歌っていましたし、「星月夜」も愛を星に重ねています。前作「echo」も恋愛そのものというより、もう少し大きな意味での「愛」を描きたいと思っていました。なので、いわゆる「胸キュンソング」みたいなものは、あまり書いていなくて……。なので由薫チームでも、「もっと等身大の歌詞を書いてもいいんじゃない?」みたいな話が出ていたところなんです。
──映画そのものも、恋愛の描写が多いのですか?
由薫:胸キュン要素が満載で、10代の子たちにもすごく刺さる内容だと思いますね。いつもなら、歌詞を書き進めていくうちにどんどん妄想が広がって、気づいたら抽象的な内容になりがちなんです。でも今回はそこをぐっと堪え、恋愛そのものにフォーカスを当てながら書いていきました。今までよりずっとピュアで、まっすぐな作品ができたと思っています。
──これまで「胸キュンソング」を書いてこなかったのは、どうしてだったのですか?
由薫:どうしてなんでしょう(笑)。曲を書き始めたばかりの頃は、日常の中にある「つかみきれないものごと」を歌にすることが多く、それにより自分と向き合ったり、気持ちを落ち着かせたりしていたんです。作るときにそこまで深く考えていなかったとしても、自分が思い悩んでいることや、憤りを感じていることがそのまま曲になることが多いんです。それが私の場合、恋よりも愛についてだったということなのかもしれないですね。仮に恋をしても、いろんなことを頭の中でぐるぐる考えてしまうので、単純に「好き」という感情のままに留まれないんです。
──公式コメントには「映画を観て、玲夜と柚子の揺れる想いに私も心を預けるようにして書いた」とありました。やはり「映画」という媒介があったからこそ、ご自身の中にある「胸キュン」な部分も出しやすくなったところはありますか?
由薫:そうですね。今回の映画だからこそ引き出された部分は、かなり大きかったなと思っています。
──「Ray」で描かれているのは、恋をし始めた時のときめきだけではなく、それと対になるような葛藤でもあると感じました。「あなたのせいで私は私が好きになってしまう」というフレーズは、それを象徴しているのではないかと。
由薫:まさにそうですね。映画の中で柚子ちゃんが抱えている「私は誰にも愛されないかもしれない」という感覚は、昔の私が抱えていた感覚とも通じるものがあって。誰かを好きになることって、その人を知ることでもあるけれど、それ以上に、自分自身を知ることでもあると思っていたんです。
「Ray」というタイトルも、そういう感覚に向き合っている時に思い浮かびました。誰かを“Ray=光”のように感じた時、そこに触れたくて近づいていくじゃないですか。でも、光に近づいていくと、それまで暗闇にいた自分の姿や輪郭もあらわになりますよね。自分がどんな人で、どういう一面を持っているのか。嫉妬したり、その言動に深く傷ついたり、あるいはその人のために何かしたいと思ったり。相手に近づくほど、今まで気づかなかった自分のこともそんなふうに見えてくるんだと思います。
──相手を通して自分自身を見つめているともいえます。
由薫:最近、SNSである海外の女性の動画を見たんです。その人が「あなたの恋人を見れば、あなたが自分自身をどれだけ愛しているかが分かる」と話していて、すごく印象に残りました。
たとえば、自分を大切にしてくれて、ちゃんと寄り添ってくれる相手を選んでいるなら、その言葉はきっと褒め言葉として受け取れると思うんです。でも逆に、自分を傷つけるような相手と付き合っていたり、そういう人を好きになっていたりする時に同じことを言われたら、「あなたは自分のことをその程度にしか大切にできていないんだ」と言われているようにも聞こえる。つまり、恋人の存在って、自分が自分をどう扱っているかまで映し出すものでもあるんだなと思ったんです。
──なるほど。
由薫:もしその光=“Ray”が本当に自分のことを思ってくれているなら、照らされた自分のことも、きっと愛しいと思えるはずなんですよね。「こんなに煌めいているあなたが、私のことを好きだと言ってくれる。大切だと言ってくれる。だったら私は、きっと大切な存在なんだ、愛される価値があるんだ」と思える。この曲では、自分自身を認められない状態にいる人が、誰かの存在によってもう一度自分を抱きしめられるようになる、その瞬間を歌いたかったんです。
──とはいえ、他者によって自己受容を得ることには、その相手に依存してしまう危うさも孕んでいると思うんです。〈近づいてくほどに離れられなくなるから〉というフレーズには、そうした不安も込められているように感じました。
由薫:おっしゃる通りで、そこは今回、何度も修正した部分でした。“あなた”という光があって、それによって前向きになりたい気持ちが生まれる一方で、そこには必ず影もついてくる。近づいたら離れられなくなってしまうし、いつか離れる時が来て傷つくくらいなら、最初から近づかないほうがいいんじゃないかと思ってしまうこともある。果たして私は、私のままであなたを好きでいていいんだろうか、という不安も抱えているんです。主人公の柚子ちゃんも、まっすぐでキラキラした部分がある一方で、影の部分も持っている。だからこそ、その両方をちゃんと描きたいと思いました。
──2コーラス目の〈“夢が覚めて勘違い”なんて嫌だ〉というフレーズは、相手の勘違いにも、自分自身の勘違いにも取れます。
由薫:相手の勘違いを怖がるのは、やっぱり傷ついてきた人だからだと思うんです。一度も傷ついたことがなければ、きっともっとまっすぐに信じられるはず。でも柚子ちゃんは、これまで何度も傷つけられてきた人でもある。
今の時代、特に女の子たちはいろんな意味で傷つきやすい状況にあると思うんです。最近は「スペック」という言葉が女の子の間でも普通に使われていて、それが相手に対してだけじゃなく、自分自身にも向けられているように感じることがあります。身長や体重、容姿のことまで自分をジャッジしたり、ランクづけしたりしてしまう空気があるというか。マッチングアプリで幸せを掴む人もいますが、その一方で深く傷つく人もいる。そういう時代に生きている一人として、今回の曲では「自分で自分を抱きしめる」という感覚が、ごく自然に浮かび上がってきました。
──逆に、心の穴を埋めるように勢いで付き合ってしまったけれど、だんだん相手の嫌なところが見えてきて、「自分は本当にこの人のことが好きだったのかな」と思ってしまう、いわゆる“蛙化現象”みたいなことも起こり得るなと。
由薫:蛙化現象って、一時期SNSですごく流行りましたよね。でも面白いです。いろんな曲をリリースして、そのたびにインタビューもしていただいてきましたけど、この曲に関しては、インタビュー自体がちょっと恋バナっぽくなるんですよね(笑)。そこで「ああ、自分はちゃんと恋の曲が書けたんだな」って感じています。

──相手と信頼し合える関係性を築きながら、自分自身も依存せず自立している。そのバランスってすごく大事だと思うんです。由薫さんは、それをどうしたら保てると考えていますか?
由薫:めちゃめちゃ恋バナですね(笑)。でも、すごく大事なことですよね。誰かを好きでありながら、自立して恋愛するにはどうしたらいいのか、ということだと思います。
私、今年のテーマは「愛」ですって、ポッドキャストやラジオでもずっと話しているんです。今年のキーワードを“愛”に決めたんですよね。だからなのか、愛について語っている作品を無意識に選んでいて。エーリッヒ・フロムの『愛するということ』もそうですし、映画も含めていろいろ見ていく中で、「自分のことを愛せないと、他の人を本当の意味では愛せない」という、同じメッセージに何度も出会うんです。もちろん、自分が無意識にそういうものを選んでいるからでもあると思うんですけど。
おっしゃるように、自立しつつ誰かを好きでいられる状態こそが、すごくまっすぐに誰かを愛せる状態なんじゃないかなと思います。恋愛の曲って、どうしても駆け引きの話になりがちですが、本当に誰かを大切に思ったり、好きになったりすることは、自分のことをどんどん知っていき、そのうえで相手も尊重できることなんじゃないかなと。結局、相手を尊重することも、自分を尊重したうえでしかできないし、全部自分に返ってくるんですよね。
──恋愛以前に、自分で自分に向き合うことが大切なのかもしれないですね。
由薫:少し違う話かもしれないですけど、“暇な時間”があることも、健康的な恋愛につながる気がしていて。私、最近まで「暇」を悪いものだと思っていたんです(笑)。何もしていないことに罪悪感を覚えるというか。気づくとスマホを触っていたり、仕事をしたり、家事をしたりしていて。だからこそ、ちゃんと暇な時間、ただぼーっとする時間を作ろうと思ったんです。
そうしてみると、自分がいかに「何か」で埋め尽くされていたのかに気づくんですよね。私に足りなかったのは、暇を罪悪感で潰すような生活ではなくて、忙しくても意識的に“余白”を作って生きていくことなのかもしれないなって。そういう余白の中で自分と向き合い、自分自身を抱きしめられるようになって、初めて誰かを抱きしめられるようになるんじゃないかと思っています。
自分を探求していくことって、海の中に潜ることに少し似ている気がします。海の中には、まだ知られていないものがたくさんあって、宇宙と同じくらい未知だと言われたりするじゃないですか。自分の中にダイブすることも、それに近いと思うんです。意外と日常の中で、自分で自分の内側に潜っていくことって、忘れてしまいがちなんですよね。
──映画の中で、この曲がどんなふうに響いたらいいなと思っていますか?
由薫:映像における音楽の力って、二次元のものを三次元にすることだと思うんです。観た人が、映像やセリフには表れていない部分まで想像してくれたり、音によってそのシーンの厚みが増したり、画面には映っていない登場人物たちの時間まで感じ取ってもらえたらうれしいですね。
■ RELEASE INFORMATION
2026.3.20 Digital Release
New Single「Ray」
STREAM:https://lnk.to/yu-ka_ray
