Z世代の代弁者。アーティスト・由薫が見上げる星のない空 |「No Stars」独占インタビューが公開!

2022.11.24 TOPICS

今年6月にデビューし、新曲『No Stars』をリリースしたばかりのアーティスト・由薫。

彼女のこれまで、そして音楽との出会い、アーティストとして見据えるこれからについて聞いた。

 

 

由薫は沖縄で生まれてすぐに、両親の都合でアメリカに移り住み、その後石川県での生活を経て5歳の頃にスイスへ移住。3年間をスイスの田舎町で過ごし、8歳の頃に日本へ戻ってきた。幼少期を特定の場所で過ごしたわけではない彼女は、自分のアイデンティティを見つけることに大きなハードルを感じていたという。

「スイスにいるときも、日本人学校に通っていたので、日本へ行くことがとても楽しみだったんです。でも、いざ来てみると私がスイスで形成してきたものが一気に覆されたように感じました。授業も環境もとても閉鎖的で。みんな同じランドセルを背負っているのも、周りと同化しなくてはいけないと思ってしまっていました。」

しかし、日本での閉鎖的な生活は、由薫をより創造の世界へと導いた。「当時は妹と映画ごっこをしたり、図書館で本をたくさん読んだり、YouTubeを見ていました。閉鎖的な生活を生き抜くために、物語やアートの中に自分の世界を作り上げていたんです。そうすることで、自分の世界を拡張することができていたのだと思います」

 

 

閉鎖的な現実世界を生きるうえで、自身の世界を作ることで生き抜いてきた由薫は、音楽にも救われたと話す。そんな音楽への興味は「スイスの音楽の授業」で形成されたという。

「もともと両親が音楽をずっと聴いていたのもあって、音楽は身近にあったんですけど、突出して音楽をやりたいって思ったことはありませんでした。でも、スイスの音楽の授業って、とても個性的で。ビーズクッションが並べられた部屋の好きな場所に座って、置いてある好きな楽器を好きなように奏でる。音楽を勉強するというよりも、楽器に触れたり、音楽を体感する授業だったので、私の音楽への興味の導入になりました」

自由で開かれたスイスでの経験が、日本での閉鎖的な生活から由薫を創造の世界へと連れ出してくれる扉になっていたのかもしれない。 その後、舞台『ウィキッド』やドラマ『グリー』などのミュージカル作品と出会い、由薫の音楽への興味は増していった。

「ミュージカル作品や、当時YouTubeで流行っていた日本のアカペラグループ、海外のオーディション番組などが好きでずっと観ていました。出演者がカバーしていた楽曲の原曲が気になり調べていたら、どんどん音楽の世界が広がっていったんです。そうやって自分で調べて聴いていったら、邦楽も洋楽も半々くらいで聴くようになっていました」

当初はリスナーとして音楽にはまっていった由薫だが、この頃から少しずつプレイヤーとして音楽と関わりたいと思い始めていた。

「『ウィキッド』の曲を家で熱唱していたら、音楽好きのお父さんから「音程が違う」と言われて。ただ楽しんで歌っていただけなのに、それを言われて自信喪失しちゃったんです。でも、やっぱりやってみたいなとずっと機会を伺っていました」

 

 

音楽の始め方がずっとわからなかった由薫は、15歳の頃に親友とギターを始めたことをきっかけに、アーティストとしての才能の芽を伸ばし始めた。

「家で片手にシャープペンシル、片手にギターを持って、勉強しながら1問解いたらギターを弾いてっていう生活を過ごしていました。何かを目指していたわけではないのですが、ギター依存症みたいな状態(笑)ただ、このままだと社会に出てもギターしか弾かないヤバい人になると思って…そんな頃、音楽を仕事にすることもあるのかもしれないと少しずつ考え始めたんです」そう思った由薫は17歳でオーディションを受けた。

そこで自分の強みやアイデンティティと向き合うことになった由薫は、「英語と日本語を混ぜた方が、自分がどういう人なのか理解してもらえるんじゃないか」と考えた。

「英語を使っているときは闘えるって思えるんです。言いたいことを言っていいし、意思がクリアになって物事をストレートに伝えることができると私は思っていて。そして日本語はもっと柔らかい印象。私の曖昧な感情を表すには、日本語の方が合っている気がします。私はどちらの自分も持っているから、英語と日本語を混ぜることで、より自分らしくなれるんです」

由薫の楽曲は日英混合の歌詞が多く、それは彼女自身をより深く、丁寧に伝えるための方法なのだ。そのオーディションをきっかけに現在の事務所に繋がり、由薫がアーティストとして生きていく旅が始まった。

 

 

今年6月15日のメジャーデビューを目前に、ONE OK ROCKのToruをプロデューサーに迎えたシングル『lullaby』をリリースした。映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』の主題歌に抜擢され、ミュージックビデオは公開後5日で100万回再生を突破。無名の新人だった由薫は、期待のアーティストへと歩みを進めた。そんな由薫が再びToruと手を組み新曲『No Stars』をリリース。現代を生きる若者へ、等身大の由薫だからこそ紡げる歌詞とともに暖かな連帯を示した。

「コロナ禍以前は、やればできるっていう意識が自分にも社会にもあったと思うんですけど、コロナ禍ではやってもできないという、膨大な暗闇を多くの人が経験したと思うんです。そんななかで、「光を掴もう」なんてどうしても言えなくて。」

当初は先進力のある楽曲を作ろうとした由薫だが、自分や周りが感じている現状との差を感じ、歌詞の方向性を変えたという。

「希望や光を見出せない現代に生きる私たちに必要なのは「星に願いを」っていう何かに願いを託すことではなく、私たち一人ひとりが胸の内に持つ光を灯すことだと思ったんです」 由薫を含むZ世代の人々は、これから社会に出たり、未来に対して希望を持ち進んでいく世代だった。そんななかで起こったコロナ禍は、かれらから光を奪い、より未来を未知にした。敷かれたレールも見えない、誰もレールを敷いてくれない、今どこに自分がいるのかさえ分からない。そんなかれらが感じた想いに寄り添いながら、この暗闇を生き抜く方法を歌った。「We don’t need the stars to shine(私たちには輝く星は必要ない)」「We can be the stars tonight(今夜私たちが星になれる)」これは由薫が同じ時を生きる同世代の若者へ送る言葉であり、かれら自身の声なのだ。

 

 

最後にアーティストとして活動する目的について尋ねると、「私が感じたことや出来事を曲にして世界に置いていきたい」と語った。

「私自身これまでに音楽で救われてきたことが何度もあるんです。だから私の曲も誰かに寄り添える曲になったらいいなと思っていて。だから色々なジャンルで、色々な気分を、色々なアプローチで楽曲を作っていくことで、全てを共感できるわけではなくても、たった一曲がたった一人を救えたら嬉しい。そして100%前を向いていなくてもいい、そんな自分のニュートラルな部分も受け入れて、楽曲を作っていきたいです」

これはサブスク時代にデビューした由薫だからこそ現実的な言葉として伝わる。たくさん曲を作り配信し、全てが大勢に広まらなくとも、ピンポイントでその時の心情や状況に重なる楽曲があれば、リスナーである私たちは独りではなくなる。新曲の『No Stars』でも一人称を“I”ではなく“We”で歌ったのは、一人ひとりがバラバラだとしても、顔が見えなかったとしても、肩を並べられなかったとしても、音楽を通してバラバラのまま繋がることができる、そんな由薫の希望が込もっているのだろう。 キラキラした言葉だけを並べたアーティストは、私たちを救ってくれるわけではないと気づき始めたZ世代に、隣でそっと立っていてくれる楽曲を作り続ける由薫は、“次世代アーティスト”の名にふさわしい、私たちの代弁者となる。

 

Text&Photo : Kotetsu Nakazato