“be honest”ライブレポート

2022.12.19 LIVE

 “be honest”を直訳するなら“素直になる”あるいは“正直でいる”だろうか。素直に正直に生きること、それは思いのほか難しい。嘘をついたり誤魔化したりもせず、日々、心のままにいられたらどれだけいいことか。おそらくは誰もが思っているけれど、それを実行するには世の中というものはずいぶんと複雑で、人の気持ちも単純じゃない。相手の心が見えなければ自分をさらけ出すなんてあまりにも怖いし、一方では相手のため、自分を守るために必要な嘘もある。やさしい人ほど逡巡を抱えて毎日を過ごしているのかもしれない。THE BEAT GARDENの3人だってきっとそう。結成から10年の道のりで幾度となくつまづき、壁にぶち当たるたび、ありのままではいられない自分たちに悩み、葛藤してきたはずだ。それでも音楽の前でだけは徹頭徹尾、“be honest”を貫いてここまで走り続けてきた。音楽に対する、バカがつくほどに正直で素直な情熱、それが結果として2022年、THE BEAT GARDENを大躍進に導いた、そんな気がしてならない。彼らにとって音楽が自分自身を素直に正直にいさせてくれる場所であったように、彼らが親愛を込めて“Beemer”と呼ぶTHE BEAT GARDENファンのみんなにもそうした場所を作ってあげたい、せめてひとときだけでもみんながありのまま、思いのまま気持ちをぶつけられる場所にしてほしい、このライブタイトルにはそうした彼らの願いが込められているに違いなかった。

 2022年12月16日、東京・渋谷WWW Xにて開催されたTHE BEAT GARDENの“be honest”。ドラマ『六本木クラス』の挿入歌としても注目を集めた「Start Over」の大ヒットを受けて『ミュージックステーション』をはじめとする名だたる音楽番組に数々出演、さらに現在放映中(12月16日時点)のドラマ『自転車屋さんの高橋くん』のオープニングテーマ曲として書き下ろした新曲「初めて恋をするように」も大きな反響を呼ぶなど実にエポックメイキングな1年となったこの2022年の総決算とも呼ぶべき待望のステージだ。ワンマンライブとしては7月17日に行われたツアー“in your tour 2022”の最終日公演以来5ヵ月ぶり、ファンクラブイベント“庭園歌謡祭”を含めても3ヵ月ぶりとあって、開演前の場内はいつにも増してワクワクとした熱気に溢れ返っている。この1年の彼らの活躍ぶりに初めて訪れた人も少なくないのだろう、どこかそわそわしたような空気が混じっているのも新鮮だ。加えて新型コロナウイルス感染症予防対策のガイドライン改訂に則り、THE BEAT GARDENにおいてもこの日のライブから会場の収容人数100%の動員が認められ、また、声出し制限についても不織布マスクの着用を前提とした上で隣の人と会話する程度の音量であれば歌唱も声援も可能となったことをここに付記しておきたい。世界がコロナ禍に見舞われて3年近く、日本のエンタメシーンにおいても少しずつ正常な状態に戻りつつあること、その実感をファンとともに分かち合えることは彼らにとってもこの上ない喜びだろう。

 時計の針が開演時刻の19時を回ると場内は暗転。オープニングSEに合わせて盛大なクラップが巻き起こったフロアをステージから放たれる幾筋ものライトが照らしてさらに熱狂に拍車をかけ、ついにメンバーがステージに登場するや興奮のギアはいきなりオーバートップに入った。UもREIもMASATOも観客一人ひとりの顔を眺め渡しながら、嬉しくてたまらないといった表情で気迫を漲らせている。口開けは、このところ1曲目の定番と化しつつあるTHE BEAT GARDEN随一のポップかつキャッチーなナンバー、「マリッジソング」が飾った。“Oh マリッジ”とUが歌い出した途端に熱いものが全身を駆け巡る、えも言われぬ昂揚感。自身のパートでないときにも挑発的な笑みを浮かべてフロアに対峙するREI、MASATOも“かかってこいよ”と誘いかけるような視線でオーディエンスを次々に射抜いていくからたまらない。続く「花火」もすっかりライブの鉄板曲、なのに歌われるたびに瑞々しさが増すようで、もう何度となく味わってきたにも関わらず毎回、甘酸っぱい切なさで胸いっぱいになってしまう。

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 声出し可能になったとはいえ、まだ少し遠慮がちだったフロアを後押ししたのは「answer」だ。早くも上着を脱ぎ捨てノースリーブ姿になったREIが観客の躊躇を吹き飛ばさんと「OK、一緒に楽しみましょう! せーの!」と呼びかけるるや“Oh oh oh”と声が上がり始め、さらに「いいね! 今の倍いきましょう!」と発破をかければ会場全体が吹っ切れたように一気にヒートアップ。アグレッシブなロックのグルーブに跳ね踊るオーディエンス、デビュー当初からTHE BEAT GARDENが掲げてきた“EDR=エレクトリックダンスロック”が渋谷WWW Xを沸騰させる。サポートDJ、kowta2の扇情的なプレイから「Don’t think, feel.」へと突入したときにはもはや遠慮や躊躇など跡形もなく、ステージもフロアも渾然一体となった場内の温度も上昇の一途を辿るばかり。トラブルが起こったのは、まさにそのピークだった。曲の終盤、まだ歌が残っている状態でトラックがふっつり消えてしまったのだ。予期せぬ事態に刹那、フロアに微かな動揺が走る。しかし3人はまったく動じることなく、むしろトラブル上等!とでも言わんばかりに音のないステージでひときわ声を張り、オーディエンスをぐいぐい引っ張っていくのだから目をみはった。そんな彼らの頼もしい様子にフロアもすぐさま応え、クラップでリズムをキープして3人を援護。ほどなくトラックも復活し、そのまま全員で何事もなかったかのようにゴールを迎えられたことには思わず快哉を叫んでしまった。ライブとはその場にいる全員で作り上げるもの、それを序盤で見事に成し遂げたのだから。トラブルなどないに越したことはないけれど、いかに乗り越えられるかもライブならではの醍醐味だ。音のないなか、ぴったりと息を合わせて歌をつないだ彼らの技と胆力にも唸った。

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「どうもTHE BEAT GARDENです! 元気? みんな、すごいな! 嬉しいよ」

 興奮冷めやらぬ表情で声をはずませるU。あまりの熱気に「暑いだろ? 外に出たら整うぞ、これ。外気浴で」とサウナになぞらえて冗談めかすと「整うためには水風呂を用意しないと。出る頃にはみんな、Beemerからサウナーになってますね」とMASATOも乗っかってはドヤ顔を決める。そんなMASATOをフゥー!と囃し立てるオーディエンスの嬉々とした笑顔がまたいい。すっかりほぐれたムードのなかで「ROMANCE」「遠距離恋愛」とラブソングを立て続けに披露したあとにも「きっと久しぶりのみんなもいるし、初めましてのみんなもいるでしょう。みなさんと再会、そして初めましてをすることができて本当に嬉しいです。今日は来てくれて本当にありがとう」と改めてUが感謝を告げる。「この期間は自分たちにとっても初めてのことがたくさんで、そんななかで毎日毎日、みんなのことを想って活動してきたので、今日会えるのが本当に楽しみでした」と率直な気持ちを口にするREI、MASATOはMASATOで彼ならではのギャグを交えながら「みんなを目の前にすると気持ちが高まるんですよ」といつになく饒舌に挨拶。「ワクワクしすぎて楽屋がもううるさくて」ともUが言っていたが、kowta2も一緒になってのわちゃわちゃしたMCにその光景がありありと浮かんでくるかのようだ。

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 ファニーな振り付けも楽しいダンサブルナンバー「サイドディッシュ」からピアノの音色が特徴的なジャジーな曲調に乗せて身も蓋もない横恋慕を赤裸々に歌い上げた「好きな人がいる人を好きになった」、心のひだの隅々に沁み渡って温かなエンゲージソング「横顔」に続けて別れてもなお相手を思い続けてしまう苦しさを女性目線で描いた「それなのにねぇなんで?」と、それぞれにコントラストを際立たせつつ、洋楽タッチの前者とバラードの後者という、どちらもTHE BEAT GARDENの音楽に欠かせない要素をいっそう豊かさを備えた表現力で1曲1曲丁寧にBeemerに届けた中盤戦。

「誰かにとっては“たかがそれぐらい”っていう幸せでも、それが本当に嬉しいと思えるってすごく素敵なことで。いいところだけじゃなく、ちょっと不器用なところも愛おしいなって思えたりとか。そんな誰かを思い浮かべて聴いてもらえたら」

 そんなUの言葉とともに一人ひとりへと手渡すように歌われたのは、ライブ初披露となる「初めて恋をするように」。何気ない日々のなかにこそ本当の幸せが息づいていること、平凡な毎日でも一生懸命に生きている君のまぶしさとそんな君への愛情が飾らない言葉と歌声で紡がれたこの曲にこんなにも心震えてしまうのは、目の前の彼らが放つ一言一句、そこに宿った3人の想いや体温が微塵の澱みも歪みもなくまっすぐに伝わってくるからだろう。ありふれた日常こそが何よりかけがえないことをコロナ禍でイヤというほど思い知らされたきたことも一因として作用しているかもしれない。彼らの歌に合わせて気兼ねなく口ずさめる幸せが、この曲に滲む柔らかな幸福感とも重なるような気がしてしみじみと満たされる。クリスマス目前のこの時期に生で浴びる「Snow White Girl」のきらめきもまた然り。

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「ここまでの年月、なんでそんなことを思いつくんだろう?って驚くようなすごい歌を書いてリリースする人もいたし、どこまで出るんだろう?ってくらいものすごい歌声で観ている人を魅了する人もいて。なんで僕らを選んでくれたのかなって、今日もここにいてくれるのかなって思うこともあるんだよ。自分たちの武器はこれだっていうものがまだちゃんとわかってないから。でも間違いなくあなたがいてくれるから、僕らは歌を歌うことができています。バズるとか売れるとかよくわからないけど、それ以上にただ歌い続けることがどれだけ難しいか、たくさん思い知らされてきた僕らを今もTHE BEAT GARDENでいさせてくれてありがとう。今日もこうして僕らの歌を目の前で受け取ってくれてありがとう。見つけてくれてありがとう。この歌はあなただけを思って歌います」

 時折、涙声になりながらそう打ち明け、ありがとうを繰り返したU。そうして歌われた「みんなへ」に目頭が熱くなって仕方がなかった。フロアいっぱいに揺れる手のひら、それはたしかにあなたがそこにいてかれらを求めてやまないという印だ。彼らの瞳に映るその温かな光景を想像すればなおのこと泣けてしまう。

 後半戦のハイライトとなったのはやはり「Start Over」だった。この曲ほど一緒に歌いたいと望まれてきた曲もないのではないだろうか。それを証明するかのように、フルキャパシティ700人が一斉に叫ぶ“ウォ!”の威力はすさまじかった。会場が一丸となっての“ウォ!”がこれほどまでに希望に満ちた響きをしていようとは。今、初めて楽曲が完成したのだと腑に落ちるような手応えがこの日の「Start Over」にはあった。きっとメンバーもBeemerも同じものを感じていただろうことは間違いない。曲が終わった瞬間に起こった拍手と歓声に今日いちばんの達成感が伴われていた。本編ラストはTHE BEAT GARDENのデビュー曲、「Never End」だ。ステージ狭しと駆け回り、全身を躍動させてパフォーマンスする3人。フロアもここぞとばかりにバンバンと跳ねては拳を突き上げた。“be honest”な一体感、もはや最高以外の言葉が出てこない。

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「たくさんの人に“今年はすごい1年だったね”って言ってもらいました。でも俺らは毎年変わらず本当に死ぬ気で歌ってきて。才能ないのかなとか、やめたほうがいいのかなとか思ったときもあったけど、それでも全力でやっていたら、こうしてときどき“夢を見ていていいよ”って言ってもらえるんだなって思えた、そんな1年でした。あなたもきっといろんなところで辛い想いをしていると思う。思うようにいくことなんてほとんどないし。でも、どんなあなたでも受け止められる俺らでいるから。ずっと歌って待っているから、またよかったら来てください」

 Uがこの日のMCで言った、この言葉がとても印象に残っている。アンコールの「あのね」の前には「自分に花丸を付けられる日って本当に少ないと思うんだよね。みんな、僕らに“すごいね”“頑張ったね”っていっぱい言ってくれて嬉しいんだけど、でも自分にも言ってあげてほしい」とも言っていた。葛藤も逡巡も自問自答も、何度となく繰り返してきたTHE BEAT GARDENだからこそ言うことのできる心からの想い、“be honest”の真意。ますます強大な輝きを身に纏いつつある今もなお3人は等身大の自分たちで支えてくれる一人ひとりに向き合おうとし続けている。音楽のみならずファンに対しても“be honest”であろうとするそのスタンスはこれからもきっと変わらないことを実感できた夜でもあった。この曲をずっと一緒に歌いたかったと生身でフロアに気持ちをぶつけた「本当の声で」、オーラスの「Sky Drive」も音が鳴り止むその瞬間まで全身全霊で駆け抜けた3人。

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「音楽を始めたときからずっと憧れていたステージに何度も立たせてもらいました。でも、もっと行きたいよ、俺らは。もちろん嬉しかったけど、まだ全然満足してないし、そんな自分たちを嬉しいとも思ってる。次に会うときはさらにカッコよくなっているので楽しみにしていてください!」

 さらなる飛躍を誓って、THE BEAT GARDENの2022年最後のワンマンライブは幕を閉じた。去り難そうなその笑顔も、未来に向かって期待を漲らせたその背中も、すべてがまぶしく、頼もしかった。

 最後に、この日の彼らはなんとインイヤーモニター(以下、イヤモニ)を着けずにライブに臨んでいたことを書き添えておこう。イヤモニとは主に楽器奏者やボーカリストが演奏、トラック音、クリック音などを確認するために使うするイヤホン型のモニターのこと。これを装着することで必要以外の音に惑わされることなく、よりリズム感もピッチもより正確に掴むことができるため、多くのアーティストのライブで用いられている。THE BEAT GARDENのようにパフォーマンスで魅せながら、繊細な歌唱も同時に求められるボーカルグループにはある意味、必須の機材とも言えるだろう。この日、あえてイヤモニをせずに彼らがステージに立ったのは、Beemerの声をダイレクトに聴きたかったからだと終演後に教えてくれた。3人のハーモニーや掛け合いがいつも以上に絶妙で、ぎゅっとした親密な塊感を感じさせるものだったのも互いの歌声により集中して耳を傾けていたからだとも言えそうだ。正直なところ、今のTHE BEAT GARDENに渋谷WWW Xは少々手狭にも思えたのだが、イヤモニなしのライブはこのキャパシティだからこそ叶った試みだったのかもしれない。イヤモニなしでも歌の軸はまるでブレることなく、むしろ朗々と力強く感じられたことがとても印象的で、彼らのたゆまぬ努力と研鑽を見た気がした。次に会う彼らがいかなる進化を果たしているのか、楽しみは尽きそうにない。

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文・本間夕子
写真・Hoshina Ogawa