クイーンの前身バンド「スマイル」の中心メンバー、ティム・スタッフェルのインタビューを掲載

2018.11.27 TOPICS

大ヒット上映中の映画『ボヘミアン・ラプソディ』の中でも登場する、クイーンの前身バンド「スマイル」。
映画のサウンドトラックには約50年ぶりに新録された楽曲が収録されたことでも話題となったスマイルの中心メンバーのティム・スタッフェルのインタビューを掲載。
ブライアン・メイ、ロジャー・テイラーとの関係や作曲について、音楽業界を離れた後に携わった日本でも有名なテレビ番組、そして約50年ぶりの録音について語ってくれました。


『Doin ‘Alright』特集記事:パトリック・ルミュー(Patrick Lemieux)記、翻訳: 今井スミ

「僕が最初にそれ[バンドのロゴ]を描いたのは、1968年のことだった。曲線を滑らかに、直線を真っ直ぐに出来るようになったのは、1990年頃にPCが登場してからだね。個人的には、昔からかなり気に入っているよ。これをローリング・ストーンズの唇のロゴと比較する人も時々いる。確かに、似たようなところがあるね。僕の方が先だったけど!」――ティム・スタッフェル(Tim Staffell)

そのバンドの名はスマイル。フレディ・マーキュリーを描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』では、このバンドの物語の一部が伝えられることになっている。この映画の観客は、歌で実話を慎重に辿っていくという形で、このバンドの一種の再集結も目にすることになるはずだ。

スマイルは1968年10月、ティム・スタッフェル(リード・ヴォーカル&ベース)、ブライアン・メイ(リード・ギター&ヴォーカル)、ロジャー・テイラー(ドラム&ヴォーカル)という、大学生の若者3人によって結成。ロンドンとその周辺のクラブ・サーキットで当時活動していた、数多くのバンドの1つであった。強力なサウンド(ロイヤル・アルバート・ホールのステージに立った後、彼らは“西洋最大の爆音を鳴らすグループ”だと冗談めかして呼ばれたこともある)を武器に、彼らはジミ・ヘンドリックスや、イエスを始めとする様々なバンドの前座を務めていた。

「特筆すべきギグは、アルバート・ホールとインンペリアル・カレッジでのライヴだね」とティム。「特に僕らがジミ・ヘンドリックスの前座をやった時は、廊下で彼から『なあ、ステージにはどっちを行けばいい?』と訊かれたよ」。

それから50年が経った今、ティムは当時を振り返りながら、バンドの数々のレパートリーに思いを馳せる。それは「See What A Fool I’ve Been」などを始めとするオリジナル曲と、当時の曲のカヴァーの組み合わせであった。「そういった曲を僕らがやっていた頃は、後のクイーンとは違う扱い方をしていたと思う」と、スマイルのオリジナル・ヴァージョンについて回想するティム。「漠然と憶えている曲で言えば、トミー・ジェイムスの名曲“Mony Mony”もそうだった」。

さらに彼は、スマイルの曲「Doin ‘Alright」について 次のように語る。「例えば、“Step On Me”でもそうだったんだけど、この曲ではブライアンがコードの組み立てを、そして僕が歌詞を発展させたはずだと思う。曲の細かい部分に僕も多少の貢献をしたかもしれないし、ブライアンが歌詞に磨きをかける手助けしてくれたかもしれないけれどね」。

ティムが1970年3月にスマイルを脱退したことで、代わりにフレディ・バルサラが加入し、ブライアン・メイとロジャー・テイラーと共に新たなバンドを結成する扉が開かれた。そう、それがクイーンだ。ベーシストの座には、何人かの入れ替わりを経た後、1971年2月にジョン・ディーコンが就任。伝説的なラインナップが固まった。ティムが脱退したのは、スマイルが既にマーキュリー・レコードからシングルを1枚リリースした後のことだ。そのシングル「Earth」はティムが作詞・作曲したもので、B面の「Step On Me」はティムとブライアンの共作。スマイルのアルバム制作も計画が進行しており、「Earth」と 「Step On Me」に加え、バンドは「April Lady」(レコード会社から提供された曲)のカヴァーの他、オリジナル曲の「Blag」「Polar Bear」「Doin’ Alright」のレコーディングを終えていた。

「スマイルのアルバムについて、僕が憶えている限りでは、ティム・ハーディンの”If I Were A Carpenter”のカヴァーのスタジオ録音版を入れるつもりだったんじゃないかと思う。あの曲は、ライヴで観客に好評だったからね」とティム。「もしかしたら“Silver Salmon”もやろうと考えていたかもしれない。僕が脱退したことによって、(アルバムの制作は) 中断されたんだと思うよ」。

ブライアンとロジャーに別れを告げた後、ティムはハンピー・ボング(Humpy Bong)というバンドに加入。唯一のシングル「Don’t You Be Too Long」と、そのB面「We’re Alright Till Then」をレコーディングした。その後、彼はモーガン・フィッシャー率いるプログレッシヴ・ロック・バンド、モーガンに加入し、アルバム2作を制作。それが、『Nova Solis』(「Earth」の新ヴァージョンを収録)と、『Brown Out』(後に『The Sleeper Wakes』と改題)である。

新グループでスマイル時代の曲の捉え直しを行ったメンバーは、ティムだけではない。クイーンがデビュー・アルバムに取り組んでいた1972年夏のこと。フレディ・バルサラはフレディ・マーキュリーに改名し、彼らがテープに録音した曲の中には、「Doing All Right」と再命名された、かつての「Doin’ Alright」があった。

「僕はずっと疑って考えていたんだ」とティムは呟く。「彼らがファースト・アルバムにこの曲を入れたのは、急場凌ぎの策だったんじゃないかとね。アルバム1枚に十分なだけの新曲が、彼らの手元にはなかった。そしてフレディがその曲を知っていたから、収録することにしたんだとね。彼らがそうしてくれたのは、僕にとってはラッキーなことだったよ! ご存知の通り、クイーン版はスマイル版よりもかなり甘美で、僕も昔から思っていることだけれど、フレディは僕よりもピュアな声をしていて、繊細に歌えるということが明らかに示されていた。それは僕がいつも羨ましく思っていたことなんだ」。

翌1973年にクイーンが行った初のBBCセッションでは、「Doing All Right」がセットに含まれていた。その時に録音された音源は、その後数十年の間に何度かリリースされた後、2016年発売のクイーンのコンピレーション盤『オン・エア~BBCセッションズ(原題:On Air)』に収録。同作には、6度に渡って行われた彼らのBBCセッション全てが収められている。1973年にデビュー・アルバムがリリースされた後、「Doing All Right」はクイーンのライヴで度々取り上げられ、特に1975年と1977年のコンサートではセットリスト入りを果たしていた。スマイルのオリジナル・レコーディング音源が初めて公式にリリースされたのは、1982年の日本限定盤LP 『ゲッティン・スマイル(英題:Gettin’ Smile)』で、同作にはスマイルが1969年に録音した6曲全てを収録。スマイルのオリジナル・テープにはリマスターが施され、1997年にオランダ盤CD『Ghost Of A Smile』としてリリースされている。

スタジオ・レコーディング作やライヴ数が決して多くはない中、70年代が終盤に至る頃には、クイーンのライヴは一連のヒット曲群や新作アルバムを中心とする構成に。「Doing All Right」は、ファンやコレクターの間では深く心に刻まれ、愛され続けていたが、その枠外ではあまり知られていない存在に留まっていた。

70年代中頃、ティム・スタッフェルは音楽業界を離れ、模型製作のキャリアを追求。オリジナル版『きかんしゃトーマス』シリーズの“トーマスとなかまたち”を手掛けたことで有名だ。1981年には、そうとは知らないままに、ロジャー・テイラーの初ソロ・アルバム『ファン・イン・スペース(原題:Fun In Space)』のジャケットを飾ったエイリアンの模型を製作。これはアリスター・ボーテル社との契約による仕事で、全くの偶然であった。

そして、フレディ・マーキュリーの悲劇的な死から13ヶ月後となる1992年12月22日、クイーン・ファン・クラブ・クリスマス・パーティのコンサートで、ファンにとってスペシャルな事件が起きた。ロジャー・テイラーのバンド、ザ・クロスがヘッドライナーを務めたその日のライヴの前座として、ティム・スタッフェル、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラーにより、スマイルのリユニオンが実現したのである。彼らは「Earth」と、「If I Were A Carpenter」のカヴァーという定番の2曲で、再びオーディエンスの身も心も揺るがした。

一方ティムは、「Doin’ Alright」を視界から遠ざけてはいたわけではない。ミレニアムの節目に当たり、彼はこれまでのキャリアの中で書き上げて曲を一堂に集め、それを録音することを決めたのである。「もちろん、僕はずっと曲作りを続けていたよ」と彼は述べる。

その結果、完成したのが、アルバム『aMIGO』だ。2003年にリリースされたこのアルバムには、 「Earth」(ブライアン・メイとモーガン・フィッシャーの2人がゲスト参加した本トラックは、かつての両ヴァージョンを思い起こさせる)と、 「Doin ‘Alright」の新録音版を収録。後者には、共作者のブライアン・メイも参加している。

「長い年月の中で、僕は様々なスタイルの音楽から影響を受けてきたんだ」と、『aMIGO』で行った「Doin’ Alright」の新アレンジについて、ティムは語る。「そして自分は、ほとんどのジャンルの精髄のファンだと思っているよ。この曲は、カントリーっぽい感じにするのが合ってるんじゃないかと僕には思えた。昔からずっとディクシー・チックスの大ファンだったから、この曲をアレンジした時には、それが念頭にあったかもしれないね」。

2010年、フレディ・マーキュリーの生涯を描いた映画を製作する計画があるとの情報が、初めてクイーン陣営からもたらされた。この映画は最終的に『ボヘミアン・ラプソディ』と題され、2018年後半に公開予定となっている。スマイルの解散とクイーンの結成に触れずして、このような物語が完全なものとなり得ることはないだろう。同映画の予告編ではこの場面が取り上げられており、スマイルの最後のライヴ後、ティムが去って行ったのに続いて若き日のフレディが登場し、ブライアンとロジャーに自らを売り込んでいる姿が描かれている。スマイルのシーンでは、バンドが「Doin’ Alright」を演奏している様子が描き出されることになった。それはこの曲が、スマイルからクイーンへの移行を表現する上で、その間を繋ぐ架け橋として最も適していたからである。

「スマイルを扱った部分があるなんて、思ってもみなかったよ」とティム。「最初にそれを知ったのはブライアンからのメールで、そのシーンのために初期の粗削りなサウンドを再現したいと考えている旨を伝えられたんだ。僕は彼に招ばれてヴォーカル部分を歌い、何十年も前にやったのと同じように、ベースを追加録音した。ブライアン、ロジャー、そして僕の全員がそれぞれ貢献し、それを融合させたんだ。バンドとして再集合したわけではない。それぞれが自分のパートを別々に演奏して、後にスタジオで合成させたんだよ。スマイルのオリジナル・レコーディングの音源は、録音技術が現在と比べて比較的未熟だった時代、2インチのアナログ・テープに録音されていた。現代のテクノロジーを使って、1969年のサウンドと雰囲気を生み出すのは難題だったけれども、2018年の最新技術のおかげで、忠実度は高くなったね。皆、かなりいい仕事をしたと思う」。

5月8日にこのセッションが行われてから3ヵ月後、ティムは自身のFacebook公式ページを通じ、この映画に関与していることを発表。ファンは喜びに沸いた。ティムはそこで次のように記している。「先日、僕はブライアンと一緒にアビイ・ロード・スタジオに入り、近日公開予定の映画『ボヘミアン・ラプソディ』の数シーン用に、自分のヴォーカル・パートの歌入れをしてきた。若き日の僕がスマイルのギグで、“Doin’ Alright”を生で歌っているシーンだ。スタジオにいる間には、オフィシャル・サウンドトラックに収録する“Doin’ Alright”のヴォーカルとベース・パートのレコーディングも行った」。

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Enjoying time in the studio with my old pal Tim Staffell ! Bri

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新たな「Doing All Right」の2018年ヴァージョンは、『ボヘミアン・ラプソディ』のサウンドトラック・アルバムに収録されることになっており、スマイルの曲としては、ほぼ50年ぶりに新録音及びリリースされるものとなった。

ファンが映画に向けた準備を整える一方、ティム自身は精力的に仕事に取り組んでいる。「新しいアルバム『Two Late』が、10月22日にダウンロードとストリーミングの両方でリリースされるんだ」とティムは語る。「色々な意味で、このアルバムの曲作りとレコーディングは実に建設的な経験だった。特に、全てが新たに書いた曲だったからね。おかげで、自分の作曲能力に対する自信が回復したよ。『aMIGO』は、自分が40年に渡って手掛けてきた楽曲をまとめたアルバムで、バラエティ豊富だったから、今回のアルバムはスタイルの面でより統一感があると思う」。

「そして来年には、3作目のスタジオ・アルバムに取り掛かる予定なんだ」とティムは続ける。「これまでよりも多種多様な楽器を使ってみたいという気持ちがある。もしかしたらフィドルやアコーディオン、恐らくはアフリカのドラム類を幾つか使うんじゃないかな。人生のこの段階で、自分自身の音楽を更にまた創造する新たなチャンスを得られるのは、実にありがたいことだよ」。

「正に“Exciting Times”(エキサイティングな時代)だね! 僕は今もライヴやセッションの仕事をしていて、あちこちでソロ・ギグやバンドでのコンサートをやっているんだ。実際、これまで以上に忙しくしているよ」。


ティムの新作アルバム『Two Late』は、2018年10月22日にデジタル・リリース。
パトリック・ルミュー(Patrick Lemieux)は、『The Queen Chronology』の共著者。改訂第2版はオンライン及び実店舗の各書店で発売中。