アトウッド〈マッドアダム〉三部作から着想を得た新作リリースを発表!
マックス・リヒターが新作『While The Flood Rages』のリリースを発表し、1stシングル「Now We Can Sing」が配信されている。
今作は、英国ロイヤル・バレエ団の常任振付師であり、自身のカンパニーも率いるウェイン・マクレガーとのコラボレーション『MADDADDAM』から生まれた壮大な作品。『MADDADDAM』は、ドラマシリーズ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』の原作小説でも知られる作家マーガレット・アトウッドの〈マッドアダム〉三部作に着想を得て、カナダ国立バレエ団と英国ロイヤル・オペラ・ハウスの共同委嘱によって制作されたバレエ作品。
長い年月をかけて制作された本プロジェクトは、『Infra』『Woolf Works』に続く、リヒターとマクレガーにとって3度目の大規模なコラボレーションとなる。当初は新型コロナウイルスのパンデミック以前から進められていたものの、その影響により延期を余儀なくされていた。そして今、環境危機、テクノロジーの加速、そして人と人とのつながりというテーマに真正面から向き合う作品として、新たな切迫感をもって世に送り出される。
世界が大きく揺れ動く現代に、人と人とのつながり、そしてその先にある希望を音楽で描き出す本作は、崩壊の時代に贈る、希望の響きである。

『While The Flood Rages』
2026年10月16日(金) リリース
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01 Wave After Wave
02 Their Eerie Music
03 While The Flood Rages
04 The City Was A Chaos
05 Sensorium
06 Quiet
07 Tell The Bees
08 Data Ballistics
09 O Let Me Not Be Proud
10 A Sweet Air
11 Amniotic
12 Dawn
13 Background Radiation
14 My Body Is My Earthly Ark
15 Now We Can Sing
【演奏】マックス・リヒター(ピアノ、エレクトロニクス他)、テネブレ・クワイア、トゥエルヴ・アンサンブル 他
【録音】2024年5月 オックスフォードシャー、Studio Richter Mahr
アルバムは、バレエのサウンドトラックをそのまま収録したものではなく、独立したひとつの作品として再構築されている。
「素材を一度解体して、音楽だけでひとつの流れとして成立するように組み直しました。同じ目的地へ、別の方法でたどり着くようなものです」
Studio Richter Mahrで録音された本作は、全15曲の3幕で構成され、絶えず姿を変えながら展開し、ひとつながりの音の風景を描き出す。
「Wave After Wave」で幕を開け、加工された海の録音は、まるで心臓の鼓動のようなリズミカルなパルスへと変容し、身体的にも感情的にも作品全体の基調となる。
続く「Their Eerie Music」では、断片化されたエレクトロニックな音響言語が姿を現す。スタジオ周辺にあるさまざまなテクノロジー機器の内部から発せられる電磁波を録音し、それを素材として構築された音楽は、自然だけでなく機械によっても形づくられていく世界を暗示する。
アルバムの核となるのが、タイトル曲「While The Flood Rages」である。周囲を取り巻く混沌とは対照的に、静かで親密なこの曲は、より大きなシステムが崩壊し始める中にあっても、人と人とがつながる瞬間へと意識を向け続ける。
その緊張感は「The City Was A Chaos」へと引き継がれ、幾重にも重なり合う密度の高い構造が、圧倒されるような感覚を生み出す。その後に続く「Quiet」では、シンプルな下降形のピアノ・モチーフが登場する。このモチーフはアルバム全体を通してさまざまな姿で繰り返し現れ、ノイズの中に束の間の光をもたらしていく。
第2幕では、感情と音響のパレットがさらに広がっていく。「Tell the Bees」は、より牧歌的な世界へと傾き、どこかフォークを思わせる柔らかな温もりをたたえる。一方、「Data Ballistics」では、加工された銃声から作り出されたリズムが、強烈なパーカッシヴ・サウンドとなって切り込んでくる。
これらの楽曲では、伝統的な音楽形式と断片化されたデジタル・テクスチャーが並置され、古くから受け継がれてきた信念や価値観と、不安定さを増しテクノロジーに突き動かされる現代とのせめぎ合いが映し出されている。
最終幕に至ると、「Dawn」や「Background Radiation」といった楽曲の中で、それまで登場したさまざまな音響要素がひとつに織り合わされていく。合唱、オーケストラ、エレクトロニクスが互いに溶け合い、繰り返されてきたピアノ・モチーフも再び姿を現す。しかし、その響きは現れるたびに少しずつ変化しており、そこに示されるのは「解決」というよりもむしろ「変容」だ。
1stシングル「Now We Can Sing」は、本作の最後を飾る楽曲でもある。アトウッドのテキストから直接インスピレーションを得た、光に満ちたフィナーレとなる。
アルバム全体を貫く同じピアノ・モチーフを起点に、やがて合唱を中心とした「声」と「つながり」への思索へと開かれていく。アルバムが最後にたどり着くのは明確な解決ではなく、静かに、ともに生き続けていくこと――そんな感覚に近いものだ。