『太陽の子』発売記念トークイベントのレポートが公開!
2026年8月29日、誠品生活日本橋で、ジェイ・チョウの最新アルバム『太陽の子』国内盤発売記念トークイベントが行われた。登壇したのは、Howto Taiwan編集長の田中伶、台湾関連企画を専門とするkeiko在台灣、そしてスペシャルゲストに音楽評論家の関谷元子。ミュージックビデオを実際に見ながら、デビュー当時の素顔、独自の音楽性、現在の存在感、そして新作の魅力をたどった。
・デビューから“キング”へ
客席にはライブTシャツ姿の参加者も見られ、長年のファンを尋ねる呼びかけには多くの手が上がった。ジェイの歩みをよく知る来場者が集まるなか、代表曲と最新作をめぐる90分のトークがスタートした。
ジェイは2000年にアルバム『ジェイ』でデビュー。幼少期からクラシックピアノを学び、作曲家としてキャリアを始めた。その後は音楽活動にとどまらず、映画『頭文字〈イニシャル〉D THE MOVIE』で主演を務め、『言えない秘密』では監督、主演、音楽などを担当。歌手や作曲家という枠を越え、音楽と映像を一体にした独自の世界を築いてきた。
デビュー間もないジェイを香港で取材した関谷は、当時の彼を、グレーのフーディーをかぶって静かに話す青年だったと振り返る。普段は寡黙ながら、音楽について尋ねると、少ない言葉で的確に答えた。その姿に「この人はただものじゃない」と感じたという。好きな日本の音楽家として挙げたのは久石譲。映画『頭文字〈イニシャル〉D THE MOVIE』の頃に再会した際にはすでに「王子の貫禄」があり、現在は「キング」と呼ぶにふさわしい存在になったと話した。
・名曲に宿る“ジェイらしさ”
前半では、田中伶とkeiko在台灣がファン目線でジェイを紹介。「東風吹かば(原題:東風破)」「ママの言うことを聞いて(原題:聽媽媽的話)」「竜巻(原題:龍捲風)」「ヌンチャク(原題:雙截棍)」「シルクジャスミン(原題:七里香)」などを試聴。時代やジャンルを横断するジェイの音楽性を、楽曲ごとにひもといていった。
その魅力を語るうえで欠かせないのが、多くの楽曲を共作してきた作詞家ヴィンセント・ファンの存在だ。「東風吹かば(原題:東風破)」や「シルクジャスミン(原題:七里香)」では、中国の古典文化を思わせる詩的な言葉と、R&Bやヒップホップなどを取り入れたサウンドが融合する。古典と現代、東洋と西洋を自然につなぎ、誰にも似ていない音へと仕上げる。それがジェイの大きな個性だ。
田中伶からは、さらに歌詞の魅力について解説が。「ママの言うことを聞いて(原題:聽媽媽的話)」では、ピアノの練習に励む幼い自分への励ましと、母への深い思いが紹介された。ジェイ自身の歌詞には、家族だけでなく、家庭内暴力や故郷の風景、スターとしての重圧も描かれている。壮大な世界観の一方で、自身の日常や葛藤、社会への問いを率直に刻むところにも、その人間的な魅力がにじむ。
関谷がデビュー作で特に衝撃を受けたというのが、「可愛い女(原題:可愛女人)」だ。ミュージックビデオのジェイは派手に動くわけではなく、ほとんど座っているだけだが、関谷は若き日のジェイに、独特の「色気」と“よい意味での暗さ”を感じたと振り返った。
・ファンの期待を背負うステージ
現在のジェイについて、関谷は中華圏で「ぶっちぎりのスーパースター」と表現した。豪華な装置と演出を駆使し、子どもから年配者まで楽しめる総合的なショーを作り上げる一方、ライブでは観客からリクエストを受け、過去の曲をその場で次々に歌う。
本人を前にして涙を流したり、緊張で言葉に詰まったりするファンにも応えながら、膨大なレパートリーをさらりと披露する姿に、関谷は「本当にプロ」と感嘆した。巨大なスターでありながら、一人ひとりが曲に重ねてきた思いを受け止める。その距離感も、長く支持される理由のひとつだろう。
さらにジェイは、新しい音や時代のトレンドを取り入れながら、長年愛されてきたメロディーや世界観を失わない。関谷はその姿勢を「期待されたことをきちんとやる」と表現した。近年は、両親が車で流していた曲を聴いて育った若いファンも増えているという。ある世代の青春を彩った音楽が、次の世代へ自然に受け継がれている。
・新作『太陽の子』が描く世界
終盤には、タイトル曲「太陽の子(原題:太陽之子)」のミュージックビデオを上映。初めて見る来場者も多く、映像が終わると、作り込まれた世界観と壮大なスケールを前に驚きの声が上がった。作品ごとに異なる時代や土地へ飛び込み、音楽を映像の物語へと広げる点にも、ジェイらしいエンターテインメント精神が表れている。
アルバムには新しいテイストを取り入れた曲と、耳にした瞬間にジェイだとわかる曲が共存する。関谷は「あの日雨が降った(原題:那天下雨了)」を聴いたときの感覚を、「ジェイ、帰ってきてくれてありがとう」と表現した。新しい場所へ聴き手を連れ出しながら、長年のファンが戻ってこられる音も残す。その両立に、現在のジェイの成熟がある。
日本盤には日本語対訳に加え、中国語の歌詞を追えるカタカナの読み仮名、関谷によるライナーノーツを収録。新作をすでに購入した人を尋ねると、客席では再び多くの手が上がった。
最後は来場者を交えた記念撮影へ。会場後方には出演者の私物であるジェイにまつわる品々と、参加者が好きな曲を書き残せるスペースも設けられた。来場者は展示を眺め、ファン同士で言葉を交わしながら余韻を楽しんでいた。
寡黙な青年から、中華圏の期待を背負う“キング”へ。多彩なジャンルを吸収しながら揺るがない個性を保ち、作品ごとに新たな景色を見せる。今回のイベントは、ジェイ・チョウが世代を越えて愛され、新作を待ち望まれ続ける理由を、名曲とエピソードの両面から改めて確かめる時間となった。