ライナーノーツⅡ

オンライン・アクション・ゲーム「フリー・シティ」をメインの舞台にした物語のなかで、果たして往年のポップ・ミュージックがどのような役割を担うことになるのか。それは自分にとって映画『フリー・ガイ』を鑑賞するにあたっての大きな焦点になっていたのだが(なにせサウンドトラックには1930年代の作品、フレッド・アステアの「チーク・トゥ・チーク」までもが含まれているのだ)、いざ蓋を開けてみると劇中における音楽の存在感は想像以上に大きなものだった。

特にストーリーと有機的に絡み合っていたのが、「あなただけの特別な歌を歌おう」と呼び掛けるママ・キャス「メイク・ユア・オウン・カインド・オブ・ミュージック」(1969年)、「私たちを止めるものなんてなにもない」と聴く者を奮い立たせるマクファデン&ホワイトヘッド「恋はノン・ストップ」(1979年)など、自我に目覚めて一介のモブキャラから脱しようともがく主人公・ガイを後押しするように流れてくる楽曲たち。とりわけ数々の社会運動のアンセムとして歌われてきた「恋はノン・ストップ」がフリー・シティで暮らす民衆を鼓舞するシーンは、いやがうえにも「Black Lives Matter」や大統領選に揺れた2020年のアメリカとオーバーラップしてくるだろう。

そして、単なる挿入歌を超えて物語を牽引していくひとつの原動力となっているのが、マライア・キャリーの全米ナンバーワン・ヒット「ファンタジー」(1995年)だ。ガイのお気に入りのこの曲は、「空想」を表すタイトル通りフリー・シティの仮想空間そのもののメタファーになっているわけだが、その一方でガイが新しい自分に生まれ変わろうと決意する大きな動機、モロトフ・ガールとの運命の出会いをロマンティックに演出する装置としても機能している。

そんなガイにとって「ファンタジー」はモロトフ・ガールに寄せる恋心の象徴であり、彼が渇望する自由への賛歌でもある。ストーリーが進行していくにつれてさまざまな含意が込められていく「ファンタジー」が最後の最後にどのように鳴り響くのか、その多幸感あふれる大団円はぜひとも劇場で確認していただきたい。

 

高橋芳朗

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