『ファイアボール』に魅了されたライターが振り返るファイアボール10周年と、「ファイアボール10周年記念盤『ファイアボール オーディオ・オモシロニクス』」最速レビュー。

文・プーや(林田周也)

 

それは、待望しつづけた10年間。

全人類以外待望。2019年1月23日、CD/BDセット「ファアイボール10周年記念盤『ファイアボール オーディオ・オモシロニクス』」が発売されました。ひとくちに全人類以外待望と言いますが、筆者は、この10年間ほとんどの期間を待望しながら過ごしていたと言っても過言ではありません。

2008年のシリーズ第1作『ファイアボール』放送時、たった2分で繰り広げられる他愛のない”すっとこどっこい”な会話劇に魅了され、毎話提示される藪から棒な結末に困惑しつつ、次のエピソードはどうなるのか!?と1週間後の放送を心待ちにすれば、翌週放送されるのは、直前の話なんて関係ない相変わらず他愛のない”すっとこどっこい”。
そんなこんなの13週間でしたが、全13話が終わった時には、他愛のない会話の中から垣間見える、深淵な世界観にすでに引き込まれていました。しかし放送終了後、ファイアボールというプロジェクト自体はとくに新展開の音沙汰もなく過ぎてゆきました。一方で、インターネットでは当時のSNSを中心に評判と盛り上がりがあったのです。その結果、放送終了の1年後に唐突に発売された「figma ファイアボール ドロッセル」や、25枚ものペーパークラフトが付録された数量限定DVDなど関連グッズが記録的な人気を博しました(microSDに本編が収録されている『ファイアボール モバイペリオン・パッケージ』なんて商品もありました。時代を感じます)。

ほどなくシリーズ第2作『ファイアボール チャーミング』が2011年に登場。主人公のドロッセルとゲデヒトニスのデザインが一新されるという驚きのビジュアルながら、本編を観ればやっぱり安心の”すっとこどっこい”ぶりに、毎週の展開をわくわくしながら待っていました。
待っては関連グッズをゲット、待っては関連グッズをゲット、それが『ファイアボール』ファンの”嗜み”だったように思えます。さらに2年後、舞浜で開催されたディズニーイベント「D23 Expo Japan 2013」においては、シリーズ5周年を記念したファンイベント「イモニトロンナイト」が開催。それからさらに4年待ち、2017年には6年ぶりの新作『ファイアボール ユーモラス』が発表。そこからやはり1年以上待ち、ついに『ファイアボール ユーモラス』がブルーレイ化される現在に至るのでした。

とはいえ、「ファイアボール10周年記念盤『ファイアボール オーディオ・オモシロニクス』」は、あくまでもCD/BDセット。『ファイアボール ユーモラス』本編が収録されたブルーレイは付録であり、10年間の記録が詰まったCDがメインの商品となっています。CDでは、この10年間ドロッセルお嬢様が見せてくれた未来にわくわくしてきた人類にとっては、想像を超えた内容が詰まっています。その魅力の一部をこれから解説してゆきましょう。
はて、『ファイアボール』シリーズなんて観たことがないという初心者の方も大丈夫。1話2分程度で3シーズンあわせて29話しかありません。つまり、1時間お時間をいただければ、10年間の歴史にすぐにでも追いつくことができるのです。ヤッタネー。

 

CD「ファイアボール オーディオ・オモシロニクス」とはナニモノか。

CD「ファイアボール オーディオ・オモシロニクス」の柱となるのは、20分を超える新録オーディオドラマ『ファイアボール外伝 ワンダーの方へ』です。BDに収録された『ファイアボール ユーモラス』本編が450秒しかないにも関わらず、オーディオドラマが20分。前作『ファイアボール チャーミング』が全13話でも26分なのに、オーディオドラマが20分。実に1シリーズ分に匹敵する”大長編”なのです。
このオーディオドラマは、新キャラクター「ゲボイデ=ボイデ」がタイムトラベルを行い(その手段は聴いてからのお楽しみ!)、これまでの『ファイアボール』各シリーズで描かれた時代を冒険する構成となっています。『ファイアボール』シリーズは、物語の時系列で並べると、制作年代とは逆の『ファイアボール ユーモラス(3作目)』→『ファイアボール チャーミング(2作目)』→『ファイアボール(1作目)』という順番なのですが、『ファイアボール外伝 ワンダーの方へ』では、『ファイアボール ユーモラス』の1シーンより始まり、時系列順にそれぞれの時代を巡ってゆくことになります。
アニメーション本編では、シリーズ毎にドロッセルとゲデヒトニスのデザインが変更されているものの、どんな姿であっても私たちは彼らをドロッセルとゲデヒトニスだと認識することができるのですが、今回のオーディオドラマでは、いよいよ私たちはドロッセルとゲデヒトニスの姿を見ることすら出来ません。これもまた、ドロッセルとゲデヒトニスの新たな姿と言えるのでしょう。そして、そこで描かれるのは、まさにシリーズ最新作とも言える壮大な物語なのです。

オーディオドラマは、およそ16トラックに分割されて収録されており、それぞれのトラックでゲボイデ=ボイデが時間旅行を繰り返した先の異なる時代が描かれてゆくのですが、音だけ、つまりキャラクターの喋り方や効果音、使用されている劇伴を聴くだけで、描かれている時代(どのシリーズのシーンか)がリスナーに伝わる点は『ファイアボール』シリーズの真骨頂と言えましょう。
もちろん音からでも十分に掴むことができますが、同時に、これまでのアニメーション本編のタイトル表記ルールを知っていれば、ブックレットに記載されたトラック名からも描かれる時代を読み解くことが出来ます。トラック17「EPISODE XIII『おさなごころのおわり』」は『ファイアボール ユーモラス』第13話付近を描いており、トラック24「メルクール暦48402年『不確定性零和ツアーズ』」は『ファイアボール チャーミング』第11話と第12話の中間、そして、トラック29「メルクール暦48810年『タイムロード(輝くもの)』」では、これまで決して語られることのなかった第1作目『ファイアボール』最終話の直後(最終話はメルクール暦48794年)が描かれていることになります。

オーディオドラマの合間には、シリーズのサウンドトラックや、ドロッセルとゲデヒトニスが歌うキャラクターソングなどが収録されています。サウンドトラックは、限定版BD/DVD『ファイアボール チャーミング ちくわぶボックス』に同梱された特典CDとほぼ同内容ながら、今回新たにマスタリングが施され、オーディオドラマの断片とともに再構成されることにより、名シーンの数々を彩ってきた荘厳なサウンドトラックが、全く新しい魅力をともなって立ち上がってきます。
新曲では、キャラクターソングに加え、DVDの特典映像などにのみ登場してきた(一部ファンにはお馴染みの?)謎の存在「宇宙海賊キャプテン・レジナルド」が描かれるイメージソングなんてトラックも(歌唱するのは、アニソン界のレジェンド・串田アキラ氏!)。また、CMソングが収録されている「テンペストのれん街」という架空の商店街(?)は、前述のファンイベント「イモニトロンナイト」内、あるいは『ファイアボール チャーミング ちくわぶボックス』のブックレットの隅っこで言及されただけの存在です(テンペストの塔の地下第7層にあるらしい)。このように、CD全編を通して、オーディオドラマやサウンドトラックのコンピレーションにとどまらない数々の”遊び”が用意されており、それは、あたかもアニメーション本編とは関係ないところでも大いに盛り上がった、私たち『ファイアボール』ファンの10年間の思い出すらも網羅してゆくような構成と言えるのではないでしょうか。

 

ファイアボールとオモシロニクスとディズニーと。

ウォルト・ディズニー・ジャパン制作、日本が生んだディズニー作品である『ファイアボール』シリーズは、ミッキーマウスなど、これまで私たちが認識していた「ディズニー」とは異なるファンも獲得しました。その人気から、ドロッセルはフィギュア(figmaやねんどろいど、超合金やカプセルトイなど)が発売されましたが、それをきっかけに、のちにミッキーマウス自身もねんどろいど化されるなど、独自の人気を得た『ファイアボール』は、翻って日本におけるディズニーカルチャーにも影響を与えてきたように思えます。れっきとしたディズニー作品でありながら、その”すっとんきょう”からディズニーらしくないと言われることも多い『ファイアボール』シリーズ。しかし、『ファイアボール』もまたディズニーらしいディズニー作品である、と筆者は考えるのです。

ここからは、『ファイアボール』とディズニーをこよなく愛する筆者個人の考察であり、あくまでも筆者の妄想であることをご了承ください。『ファイアボール』は、人類が夢と希望を失った4万年後の遠い惑星を舞台としている、と仮定しましょう。主人公のドロッセルは、ウラノス国テンペスト領を統治するお嬢様、すなわちプリンセスであり、『ファイアボール』とはディズニープリンセスの物語として捉えることができるのではないでしょうか。

『ファイアボール』シリーズには、映画、文学、サブカルチャーをはじめ様々なレベルのパロディが含まれていることは多くのファンが知るところですが、もちろんディズニー作品からも例外ではありません。一見して気付く細かいギャグである「ビビデバビデ」「イッツ・ア・スモールお屋敷」といった台詞はもちろん、例えば『ファイアボール チャーミング』のタイトルは、映画『シンデレラ』に登場するプリンス・チャーミングと無関係とは思えませんし、また、劇中でロボット貴族は「ハイペリオン」と自称していますが、ハイペリオンと言えばウォルト・ディズニーが作ったスタジオ「ハイペリオン・スタジオ」を連想させる、古き良きディズニーの精神を象徴する名称なのです。あるいは、今回のCD『ファイアボール オーディオ・オモシロニクス』において、トラック1とトラック36に「ジョン・スミス」というキャラクターが登場します。この「ジョン・スミス」とは、英語圏ではありふれた名前の代名詞ですが、これを映画『ポカホンタス』に登場するアメリカ開拓者の名前として捉えると、また印象が変わるのではないでしょうか?
こうしたディズニーに関係する(ようにも読み解ける)数々の要素は、単なるパロディという枠を超えて、「ディズニー作品『ファイアボール』」が伝える重要なメッセージを構成していると思えてなりません。

そもそも「ファイアボール」とは何を意味する言葉でしょうか?それは、第1作目『ファイアボール』の最終話で、「ファイアボール作戦」という固有名詞として登場します。そこでは、お猿を模したキャラクター、シャーデンフロイデにより以下のように語られます。

 

ファイアボール作戦。あるいは、新たなる希望。
遠い昔、世界はひとつだった。
機械とヒトは同じ言葉を話し、
花は歌い、木々は踊り、砂漠は生きていた。

 

私たちディズニーファンにとって、ディズニー初のカラーアニメーション『花と木』、そして「自然と冒険シリーズ」1作目『砂漠は生きている』を想起せざるをえないこのキーワードは、『ファイアボール』シリーズにとって非常に重要なもののようで、今回のCDの最終トラック「キャスタリア譚詩曲『花と木と惑星と』」の歌詞としても再度登場しています。

あるいは、第2作『ファイアボール チャーミング』最終話では次の台詞が登場します。

 

世界は9人の賢者によって作られ、
賢者は君主を作り、君主は従者を作った。
彼らは、夢と同じ成分で作られていた。

 

「9人の賢者」とは、ディズニー伝説のアニメーターたち「ナイン・オールド・メン」を彷彿とさせます。はたまた、『ファイアボール チャーミング』におけるドロッセルとゲデヒトニスが住む「テンペストの塔」における、モノレールのような乗り物がお屋敷を結んでいるデザインは、ウォルト・ディズニーが晩年設計した未来都市「EPCOT計画」さえも想起させます。
また、『ファイアボール チャーミング』の劇中で語られる「チャーミング人類」とは、かつて存在したという「けして争うことのない、愛嬌たっぷりのひょうきん者」を意味し、具体的には、「雷が落ちる中、のんきに凧あげに興じた人類」「裸で街を走り抜け、ユリイカと叫んだ人類」といった例が挙げられています。アルキメデスやフランクリンは、そのチャーミングな行動で人類の未来を輝かせました。

やがて輝く星にまで到達するにいたる人類史におけるチャーミングな功績の数々は、劇中では全て過去形、すなわちすでに存在しないものとして語られています。ところが、そうした大切なものが失われた未来にあっても、ドロッセルは夢や希望を持ち続けているように見えるのです。シンデレラがプリンス・チャーミングと出会ったように、ドロッセルはチャーミング人類と出会いお話しする日をいつまでも夢見ているのです。
『ファイアボール』最終話のタイトルは「夢の生まれる場所」--争いに満ち、たとえチャーミング人類がいなくなった世界であっても、ドロッセルは未来の希望を信じつづける、とてもディズニーらしいプリンセスと考えられませんか?そして、それはあたかも私たちが住む現代の地球における「ディズニー」という存在とも似ているのではないでしょうか。
『ファイアボール』とは、ディズニーらしさが失われた4万年後の世界でもディズニーらしい存在でありつづけるお嬢様の物語。未来がどんなにうつろな世界であっても、世界を変えてゆけば、私たちは夢と希望に満ちた未来を取り戻すことができる。そんなメッセージを私たちに語りかけているのではないか、筆者はそう考えているのです。

10年前の初放送時、『ファイアボール』がこれほど長く続くシリーズになるとは夢にも思いませんでした。この10年間まさに”夢心地”にさせてくれたドロッセルお嬢様たちと、今ふたたび『ファイアボール オーディオ・オモシロニクス』によって新たな冒険へと出かけようではありませんか。開拓した先には、懐かしさと同時に、きっと新しい発見と希望があなたを待っているはずです。

わくわくするわね。

 


◆アルバム『ファイアボール10周年記念盤「ファイアボール オーディオ・オモシロニクス」』 2019年1月23日発売
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■ファイアボール公式サイトwww.fireball.tv
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