【アツキタケトモ オフィシャルインタビュー】 現実を「えぐり出す」シンガーソングライター、アツキタケトモ。 先鋭性と普遍性を併せ持つ、その稀有な才能とは。

2021.12.03 MEDIA

誰かの心の拠り所になる音楽を作りたい
 
多くの人が見ないふりをしている現実を、うやむやにしている内面を、えぐり出す。そういう鮮烈さを持った言葉を、色気ある声で歌う。サウンドには海外のオルタナティブ・ミュージックに通じる先鋭的なテイストがありつつ、メロディと歌声には歌謡曲やJ-POPの王道に通じる普遍性も持っている。聴いていてゾクッと鳥肌が立つような才能の持ち主だ。
 
2020年9月に1stアルバム『無口な人』を、2021年7月に2ndアルバム『幸せですか』をリリースし、早耳のリスナーの間でじわじわと反響を集めているシンガーソングライター、アツキタケトモ。作詞作曲だけでなくアレンジやサウンドプロデュースもすべて一人で手掛けてきた彼にとって飛躍のきっかけになる1曲が「Family」だ。表向きには普通に暮らしつつ胸の内にそれぞれの孤独や葛藤を抱える家族の姿を描くこの曲。「誰かの心の拠り所になる音楽を作りたい」と、アツキタケトモはその裏側にある信条を語る。
 
「僕はこれまで生きてきた中で、常にはじき出されているような感覚があって。経歴は普通だし仲のいい友達との出会いもあったけれど、実感としては常にアウトサイダーな気持ちや孤独感があった。そんなときに音楽を聴いて『こういう風に思っている人は自分だけじゃないんだ』と思えることで、自分の居場所を感じてきた。だからこそ、自分も歌うときには、疎外された感覚を持つ人にとっての居場所になれるような言葉を歌いたいという気持ちがあります。『Family』にしても、僕自身は円満な家庭に育ってきたけれど、家族とはいえ絶対に理解できない部分や分かち合えない部分がある。日本だと家族=温かいものと描かれることが多いけれど、そうじゃないところもさらけ出すべきだと思って書いた曲です」
 
先鋭性と普遍性の共存を目指して
 
アツキタケトモというミュージシャンはどのように生まれたのか。音楽を志すようになったのは幼少期のことだったという。そこから真っ直ぐに歩んできた。
 
「3~4歳の頃から親には、歌手になる、音楽家になると言っていて。そこから他のことに目もくれずに生きてきたタイプです。7~8歳の時にMr.Childrenの『Atomic Heart』を聴いたのが曲を作りたいと思ったきっかけ。そこから小学生の頃にはスピッツや小沢健二さんや宇多田ヒカルさんやaikoさんや、いろんなアルバムを聴いてきました。桜井和寿さんのソングライティングと小林武史さんのアレンジは自分のルーツですし、今も『いい曲かどうか』という自分にとっての判断基準の礎にもなっていると思います。その頃に出会ったスガシカオさんにも、いまだにかなり影響を受けていますね」
 
ギターとキーボードを手に入れて作曲を始めたのは中学生の頃だった。15歳のときに高橋優やクリープハイプを手掛けたプロデューサーの浅田信一にTwitterで連絡し曲を送ったことをきっかけに本格的な楽曲制作をスタートし、17歳のときには「竹友あつき」名義でシンガーソングライターとしてデビュー。弾き語りのスタイルで音楽活動に取り組みつつ、同時期にリスナーとしてはレディオヘッドやジェイムス・ブレイクやボン・イヴェールなど海外のインディ〜オルタナティブに傾倒していたという。
 
「当時心がけていたのは、とにかく弾き語りで感動できるいい曲を作るということでした。でも、高校生の頃から趣味として誰にも聴かせない打ち込みのデモを作っていて。当時はそれを融合させられなかったんですけど、そこから10年かけて、ソングライティングとサウンド構築の2つの意識を1曲の中で両立させることができるようになったと思います」
 
その後、20代前半でバンドを結成しライブハウスシーンを中心に活動してきたが、バンドは数年で解散。その頃に、ダーティー・プロジェクターズやフランク・オーシャンといった海外のアーティストと並行して70~80年代の日本の歌謡曲やポップスを掘り下げて聴いてきたことも大きな刺激になっていたという。
 
「バンド活動の後半の頃には、僕にとって絶対的に重要なものはソングライティングなんだと気付くようになっていて。その時期くらいから、松任谷由実さんや中島みゆきさんの曲をリリース順に聴き返して、改めて衝撃を受けていたんです。サブスクで聴きやすくなったのもあって70年代や80年代の曲を多く聴くようになりました」
 
こうした様々な紆余曲折を経て辿り着いたのが「オルタナティブなトラックと普遍的な歌謡性を融合させる」というアツキタケトモの音楽性だった。
 
「バンドを解散した時期に、ソングライターとしての自分をアレンジャーの自分がプロデュースするような、2つの人格が共同作業するような感覚が芽生えてきた。そこからは引きこもって楽曲制作して、ソングライティングの普遍性とサウンドの格好良さをどうにか組み合わせることができないか、そこに新しい音楽性の突破口があるんじゃないかと考えた。そうやって先鋭性と普遍性の共存を目指していったのが、アツキタケトモの音楽性ですね」
 
名刺代わりの一曲
 
2020年、アツキタケトモは自宅に籠もり『無口な人』を完成させる。たった一人で作り上げたアルバムが反響を集めたことは、彼自身にも大きな手応えとなったようだ。
 
「『無口な人』を作る段階でコンセプトは決めてはいたものの、僕の中では手探りだったんです。自主制作みたいな作り方だったのもあって、本当にこれで僕がやりたいことが人に伝わるのかなって思いながら作っていた。でも、そこから、評価してくれる人や関わってくれる人が増えて、自信がついた。だからこそ『Family』は、より意識的に『アツキタケトモはこういうアーティストです』ということをちゃんと提示できる名刺代わりの一曲を作るべきだと思った。自分の本質に自覚的になっていく時期だったと思います」
 
この先にどんな存在になることを目指しているのかを尋ねたら、こんな応えが返ってきた。
 
「社会全体が変わっていく、人々の意識や価値観がアップデートされていくためには、カルチャーが一番の説得力を持つと僕は信じているんです。はじき出されているような感覚を持っている人、アウトサイダー的な感覚を持っている人たちが、もう少し生きやすくなる社会になってほしい。だからこそ、僕はヒットしたいと思っています。同じような意思を持つミュージシャンと出会いたいし、そういう人たちとシーンを作って、規模を広げていきたい。僕自身も音楽に居場所を作ってもらってきたから、それを次の世代につなげてきたいという思いがあります」
 
現時点で未発表曲は数百曲あるという。まだまだ未知の部分は多い。でも、きっと、時代を射抜くシンガーソングライターになるんじゃないかという予感が強くある。(柴那典)
 
 
 
  

アツキタケトモ
Digital Single 
タイトル  Family
発売日   12月1日
https://atsukitaketomo.lnk.to/Family
 

◆アツキタケトモ プロフィール

 
2020年7月より活動開始。時代やジャンルを問わず過去の膨大なアーカイブを吸収し、「ポップスの普遍性」を日々研究、追求するシンガー。
 
歌謡曲に影響を受けたメロディに乗せ、現代社会の陰を描き、オルタナティブなサウンドを掛け合わせた独自の音楽性を追求している。
 
作詞・作曲・編曲・演奏・録音までを全て一人で行った1stアルバム『無口な人』は2020年9月にリリースされ、ノンプロモーションながらSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスで多くのプレイリストに選出され、早耳の音楽ファンから好評を得た。2021年7月には、10ヶ月ぶりの新作となる2ndアルバム『幸せですか』をリリースした。
 
公式サイト:https://atsukitaketomo.com/
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