能條雅由「Mirage #39」

 

作家プロフィール

1989年神奈川県生まれ。2015年京都造形芸術大学大学院修了。JD Malat Gallery(ロンドン)、Gal ler y Ar t Composi t ion(東京) に所属。PIGMENT TOKYOにてStore Managerを務める。16年、PIGMENT TOKYO(天王洲アイル)立ち上げに関わる(寺田倉庫)。

 

制作年

2019

 

使用画材

木製パネル、綿布、ジェッソ、アクリル絵具、箔

 

サイズ

H150×W220×D6cm

 

ステートメント

私は蜃気楼やオーロラといった自然界の現象からインスピレーションを得て、画面上に「状態」を作り出す試みをしています。  自身で記録したイメージを解体し、偶然性と現象を取り込みながら画面に金属箔で再構築していくという手段を取ることで、情報としての図像をより知覚に訴えかける視覚体験へと変化させています。光や空間の影響を受けながら移ろいゆく世界は、目には見えるが辿り着くことができない光学現象となり、写真が持つイメージの事実性を抽象化させていきます。そこでは世界の輪郭が消失していくかのように、部分と全体との関係性が流動的な状態として存在しているのです。  そうして現れた朧げなイメージと対峙した時、人々の潜在意識の中にある「自然像」が呼び起こされ、人と自然との距離感や関係性が浮かび上がってくるのではないだろうか。

 

音楽と制作に関して

日頃より、制作の傍らで音楽を流していることは多くある。その日の気分に応じてジャズやロック、洋楽を聞くこともあればEDMを流すこともある。 考えてみると我が家は母親が声楽出身なこともあり、幼いころから音楽に触れる機会が多かった。家にはグランドピアノがあり、よく生徒さんが習いに来ていたのを思い出す。  私は三兄弟の次男で、幼少期は兄弟皆ピアノを習わされた。加えて兄と妹はヴァイオリンも弾け、妹は今でも現役のヴァイオリニストをしている。小学生の頃は、妹が毎日のように練習していたので、テレビの音がよく聞こえず鬱陶しく思っていた記憶があるが、今思い返せば贅沢な時間だったのかもしれない。 兄が高校生になった頃、エレキギターを始めたのに影響を受け自身もドラムを始めた。地元の自治体で太鼓を叩いていたこともあり、リズムを作っていくのがしっくりきたのかもしれない。過去にはバンドを組んだこともあり、演奏するライヴ感には心躍らされるものがあった。  今では楽器から離れてしまったが、音楽には時に高揚させられ、時に静められる、それだけ人々の心を動かす力があるのだろう。  アート作品にも音を用いた作品はたくさん存在するが、私はセレスト・ブルシェ=ムジュノの「クリナメン」に大きな感動を覚えたのを思い出した。円形の流れるプールには大小無数の陶磁器が浮かんでおり、それらが触れ合うことで譜面のない音階が奏でられていく様には、何とも言えない心地よさを覚えた。それは風に吹かれる風鈴の音にも通ずるものがあり、まるで時間と空間と音とが溶け合っていくかのようであった。 自身の作品でも、空間と時間との間で図像が変容し、調和していく視覚体験が1つ作品の大きな要素になっている。作品から感じられる静けさは、そうした無秩序な自然の音色をも取り込んで生み出されているのかもしれない。

 

能條雅由 プレイリスト