『俺とストーンズ』番外~
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『レコーディングには護身用ナイフが絶対必要?!いよいよ完成アルバム「ストリップト」!』

レコーディング2日目。

この日も夕方からバンドがスタジオに集まった。

“ハートビート”
“リトル・ベイビー”
“ユー・アー・ライト、アイム・レフト、シーズ・ゴーン”
の3曲の他人のカヴァーにもトライ。

テンポ良く作業が続いていく。

 

チャーリー・ワッツは本当に疲れ知らずで、
あの背筋をピンと伸ばした独特のスタイルで、
涼しい顔をしながら、恐ろしくシャープなビートを叩き続ける。

 

曲の合間にも休み無くリズムを刻み、
ドラムを叩くのが楽しくて仕方が無いという感じだ。

 

以前キースが、

「チャーリーこそが、ストーンズのエンジンなんだ。だから奴がいなくなったら、ストーンズはお終いだ」

という話をしているのを読んだことがあるが、これは本当なのだろう。

プールで溺死した初期リーダーのブライアン・ジョーンズ。
途中で脱退してしまったミック・テイラーにビル・ワイマン。
1975年に加入してから、ごく最近まで正式メンバー扱いにしてもらえなかったロン・ウッド。

何人かのメンバーの出入りはあったものの、
結局の所、ストーンズはミックとキースとチャーリーの3人を中心に転がり続けている。

キースが何気無くジーンズの裾をめくった時に、

ブーツにナイフ

がくくりつけてあったのには驚いた。

この人、護身用に常にナイフを持ち歩いているという噂は、本当だったのだ。

 

恐るべし、キース。

 

後日、バンドと東芝EMIでディナーという機会があったのだが、
キースの隣に座っていた上司の目撃情報によると、

しゃぶしゃぶの肉を切るのに箸で悪戦苦闘した挙句、
しまいにはナイフを抜いてしまい
奥さんに厳しく叱責されていたらしい(笑)。

 

ミック・ジャガーは自分のパートを録り終わると、
さっさとスタジオを後にする。

ここからキースがヴォーカルを取るナンバーのレコーディングに入るわけだが、
途端にスタジオの空気がリラックスしたものへと変わるのが、

なるほどなーという感じである。

なごやかな雰囲気の中で、キースは

「スリッピング・アウェイ」と
ソロ・アルバムのナンバー「メイク・ノー・ミステイク」
の2曲を吹き込んだ。

全てのテイクを録り終わった後、
キースはスタジオのブースにずっと居残り、

頑固な畳職人のごとき眼差しで、
何度もプレイバックを聴いては、
出来をチェックしていた。

 

TOKYO SESSIONの模様を駆け足で辿ってみた。
このセッションに予想以上の手応えを感じたストーンズは、
いわゆるアンプラグド・アルバムとも通常のライヴ・アルバムとも違う、
「アコースティック・アルバム」というコンセプトでのアルバム制作を決定。

ジャパン・ツアー後に、アムステルダムのパラディソ・クラブ、
パリのオランピア劇場、ロンドンのブリクストン・アカデミーの3会場でのライヴを収録し、
さらにはリスボンで再びスタジオ・セッションを行った。

結果、ライヴ音源とスタジオ・ライヴ・セッションがMIXされるという
ユニークな形で、

アルバム『STRIPPED』

が、この年11月にリリースされた。

TOKYO SESSIONからは、

「クモとハエ」
「ワイルド・ホース」
「スリッピング・アウェイ」
「むなしき愛」
「リトル・ベイビー」

の5曲が収録されている。
アルバムの約1/3が、日本での録音ということになる。

ストーンズならではの円熟したロックンロールが凝縮された素晴らしいアルバムなので、
未聴の方は、この機会に是非とも御一聴下さい。

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