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TAKE THAT / テイク・ザット

正にそれは、他のどんなポップ・ストーリーも叶わない“ポップ・ストーリー”の極致であり、予想外の勝利だと言われるどんな例をも凌ぐ、“予想外の大勝利”であった。そう断言することに、議論の余地などないだろう。ゲイリー・バーロウ(Gary Barlow)、ハワード・ドナルド(Howard Donald)、ジェイソン・オレンジ(Jason Orange)、そしてマーク・オーウェン(Mark Owen)が「ペイシェンス」をリリースした2006年11月20日、つまり、遂に復活を果たしたテイク・ザットが、再結成後初のシングルとなる同曲をリリースした時、かの有名な解散劇からかれこれ10年以上を経ていたというのに、世界は彼らを受け入れる準備ができていたのである。それだけではない。もしかしたらそれまで誰も気づいてなかったのかもしれないが、それ以上に我々は、彼らを“必要としていた”のであった。テイク・ザットはその復活と同時に、彼らの定位置であった全英チャート1位を獲得。これは英国ポップ・ミュージックの歴史において、最も人々の心を動かした逸話であり、そして同時に、最も心温まる物語であったことは言うまでもない。 壮麗なだけでなく、包み込むような真心のこもった情感に満ち、伝統的かつ聴き手を楽しませる、ブリティッシュ・ポップならではの感性を備えていた「ペイシェンス」。このシングルが、テイク・ザットにとって9曲目の全英1位となり、ヨーロッパ全土でヒットしただけでなく、2007年度の『ブリット・アウォーズ』で<最優秀英国シングル>(ベスト・ブリティッシュ・シングル)に輝いたのも、不思議ではない。その2週間後にリリースされたアルバム『ビューティフル・ワールド』は、英国内だけで250万枚の売り上げを記録。また、すぐに彼とわかるマークの個性的なリード・ヴォーカルをフィーチャーした、一度聴くと病み付きになる、躍動的で爽快なポップのセカンド・シングル「シャイン」もまた、全英チャート初登場1位を獲得した。2008年の『アイヴァー・ノヴェロ賞』では、<PRSモスト・パフォームド・ワーク>部門で受賞。そして2008年度の『ブリット・アウォーズ』でもまた、<最優秀英国シングル>を獲得している。「アイド・ウェイト・フォー・ライフ」は、前述アルバムからのサード・シングルだ。

2007年10月、テイク・ザットはシングル「ルール・ザ・ワールド」(アルバム未収録)をリリース。同曲は映画『スターダスト(Stardust)』のテーマ・ソングに用いられている。また、『ビューティフル・ワールド・ツアー』という名を冠して、同年冬に行われた全英ツアーでは、全32公演をソールドアウトに。テイク・ザット史上、最も大掛かりで最も成功を収めたものとなった。そして再び、『ブリット・アウォーズ』では<ベスト・ライヴ・アクト>賞を獲得。加えて、『ヴォーダフォン・ライヴ・ミュージック・アウォーズ』でも、<ツアー・オブ・ザ・イヤー>(その年のベスト・ツアー)賞に輝くなど、メンバー自身を含む、世の中の殆どの人々が、再結成はないだろうと考えていたグループが、前例のないカムバックを果たし、一般の人々からも批評家からも大絶賛を受けたのである。 「まさかこうなるなんて、僕ら自身だって誰一人思ってなかったよ」と、テイク・ザットの復活について語るマーク。「(再結成を)望んだことすらなかったと思う。誰か一人が他のメンバーに電話して、『なあ、もう一度やろうよ』って何年も誘ってた、なんてことは全くなかったんだ。ありえない話だった。なのにそれがいきなり実現したんだよね」。 「あれよあれよという間の話だったんだ」とゲイリー。「クレイジーだよ、ほんと。やっと落ち着いて考えられるようになるまで、4人ともしばらく時間がかかったんじゃないかな。他のメンバーよりも、時間が必要だった人もいたしね。でも今回は、4人全員が楽しんでいる。僕にとっては、そこが一番大事なんだ。そして僕らの音楽を聴いてくれる人々、コンサートを観に来てくれる人たちにとってもね。テイク・ザットみたいに素晴らしいオーディエンスのいるグループは、他にはいないと思うよ。最初の一節を歌う前から、『よし、みんなの心を掴んだぞ』って感じさせてもらえるんだからね」。 もちろん、そんな風にシンプルな物語などというものはこの世になく、彼らの場合も例外ではない。というより、むしろ特に複雑だ。この“90年代で最も成功したUKポップ・グループ”のメンバーたちは、約10年間、お互いに殆ど顔を合わせることもなければ、言葉を交わすこともなく、別々の道を歩んで来た。それぞれが異なる形で、また異なる度合いで、テイク・ザット時代の経験により、そしてその後ボーイズ・グループという温室から出た場所での経験によって、深い傷を負っていたのである。ロビー・ウィリアムスが英国史上最もビッグなソロ・アーティストとなった一方、ゲイリーのキャリアは、始めこそ将来有望だったが、やがて失速。マークのソロ・キャリアはそれよりもう少し長く続いたけれども、それほどの商業的な成功は収められなかった。ハワードは、元々好きだったダンス・ミュージックの世界に戻り、DJに。ジェイソンは、俳優業に挑戦したり、旅をしたり。それぞれが辛い時期を経たわけだが、その分、報われたこともなかったわけではない。ゲイリー、ハワード、そしてマークは父親となり、また4人は徐々にではあるが、“元ボーイズ・グループのメンバー”というペルソナとは異なるアイデンティティを確立していったのである。 彼らが久しぶりに顔を会わせたのは、2005年。グレイテスト・ヒッツ・アルバムの構想について話し合う場を設けた時だった。その後、解散10周年を記念するドキュメンタリー番組を制作したいとの申し出が、英ITVより持ち込まれた。人々にとって驚きだったのは、ロビーが番組出演を了承したことだ。とはいえ、他のメンバーとの同席は断ったのだが。 そのドキュメンタリー番組は高視聴率を記録し、700万人以上がチャンネルを合わせる結果に(※英国の人口は日本の約半分)。そしてそれを受け、2005年11月25日、ゲイリー、マーク、ハワード、そしてジェイソンの4人が、全英ツアーの決定を発表する公式記者会見の場に姿を現わすこととなった。56万枚分のチケットは、史上最速で完売。ツアーは2006年4月から6月にかけ、英国全土とアイルランドを含む各地のアリーナで32公演が行われた。この時もまた、ロビーは、“ヴァーチャルな”形で参加。「Could It Be Magic」の曲の間、予め録画してあった全長20フィートのホログラム映像で、観客の前に登場したのである。再結成以来、テイク・ザットは、合計100万人近い人々の前でその姿を披露したことになろう。 「そういった状況の中で、ニュー・アルバムを作るのは必然的なことだったんだと思う」とマーク。そして2006年5月9日、その必然性に従い、テイク・ザットは300万ポンドの契約金でポリドールと契約。ジョナサン・ワイルドをマネージャーに迎えた。 2006年の夏、彼らはロサンゼルスに飛び、アメリカ人のベテラン・プロデューサー、ジョン・シャンクス(John Shanks)とアルバム『ビューティフル・ワールド』を共作し、レコーディング。これは、既に結末を迎えたと誰もが思っていた本の、新章の幕開けとなった。 『ビューティフル・ワールド』が驚異的な成功を収めた後、2008年4月、彼らはロンドン西部のノッティング・ヒルにある『SARMスタジオ』に再終結。そして次のアルバムの制作に着手する。その時、スタジオ内にいたのはメンバー4人だけであった。夏には、プロデューサーのジョン・シャンクスも加わり、レコーディングを開始。その時までに彼らは4人で、既に25曲の新曲を書き上げていた。 「4人だけでスタジオに集まって、一緒にデモを作っていた時には、本当にものすごいエネルギーが迸っていたんだ」とマーク。「今回のアルバムのレコーディングの肝は、そのエネルギーをいかにして作品に反映させるかってことだった。いかにエッジを残し、丸くなり過ぎないようするかってこと。素晴らしいサウンドであると同時に、生々しいんだ。そういった、元々のスピリットを維持することができたと感じてるよ。個人的には、すごく“英国的”に感じる。“正に英国らしいアルバム”って感じるんだ」。 『ビューティフル・ワールド』の成功を再び、というプレッシャーは、外部からのものというより、むしろグループ内部から生まれたものだった。「自分たちの良さを、そして僕らがポップ・チャートでどれくらい成功できるかってことを、もう一度証明したわけだからね」とジェイソン。「今、大事なのは、僕ら自身が満足できることかどうかってこと。自分たちらしさを表現したものにしたい。僕らが何者なのか、そして僕らの立ち位置はどこかってこと。正真正銘の僕らを表現した作品にしたいんだ」。 「4月にみんなでまたスタジオに集まった時、まるで新しいグループを結成したみたいに思えたんだ」とゲイリー。「一人一人がみんな、そこにいられて嬉しいって、心から思ってた。あるがままの状態でいられることが、心地良かったんだ。もう1枚アルバムを作るのが、すごく自然なことに感じられたんだよ」。 「今回は本当に楽しめたね」とハワード。「以前より、自分が関わってるんだという意識が強くなった。すごく楽な気持ちでリラックスできたしさ。それがアルバム全体から滲み出ていると思う。セカンド・アルバムというのは普通、難しいものだとされるけど、でもこれは例外だったな」。 ハワードは今回、グループの容姿にも変化があったことを感じている。「2006年に復活した時は、少し不安があったんだ」とハワード。「『これでいいんだろうか?』って、常に自問自答していたんだ。『馬鹿みたいな格好してないかな?』とか、『世の中の人は、僕らのこと、年をとり過ぎたって思わないかな?』とかね。『みんな、何て言うだろう?』って。その件に関しては、今もまだ僕は気を配ってるよ。僕らのやっていることを、人々に気に入ってもらいたいと思ってる。でも、僕は今、“テイク・ザットのハワード”でいることが、これまでのどんな時よりも、一番誇りに感じられるんだ。僕ら全員が、過去と比べても、今が一番状況を満喫していると思う」。

「僕がいつも興味を持っていたのは、このグループ内のダイナミズム、つまり絶えまなく変化が起きてるって所なんだ」とジェイソンが付け加える。「今もそれに一番興味を引かれるね。つまり、この4人の男たち。その関係は、どこか恋愛と似ている。常に前に進みながら、お互いについて何か新しい発見があるんだ。でもそれが楽しくて、気分良いんだよね。一緒に仕事して、一緒につるんで、クリエイティヴに何かを創り上げて。僕らは四六時中、笑い合ってるんだ。緊張感が張り詰めてる時だろうが、疲れてる時ですらね……それでいいって思える。納得できるんだよ」。
そう、テイク・ザットは再結成した。そして今、再びこうして新作を引っ提げ、還ってきた。それでどうしたかって? 彼らは「ペイシェンス」の上を行くものを、あの『ビューティフル・ワールド』を越えるものを完成させたのである。彼らの復活が永続的なものなのか、それとも一時的なものなのか、それを問う必要はもやはないだろう。なぜなら今この瞬間、それはどうでもよいことなのだから。 「生まれて初めて、僕は、“ホンモノのバンド”にいると感じてる」とマーク。「今回のアルバムは、心から誇りに思っているんだ。正真正銘の“アルバム”だと思える。『ビューティフル・ワールド』よりを上回ってると思うよ。普通にアルバムというものを買う人が、満足できるアルバムになってると思う。テイク・ザットのファンはきっとすごく気に入ってくれると思うし、それ以外の“音楽ファン”の人たちにも気に入ってもらえるんじゃないかと、そうなったらいいなと、思ってるんだ」。 『ザ・サーカス』収録の曲は、テイク・ザットらしさの精髄を受け継いでいると同時に、未来へ大胆な一歩を踏み入れたものとなっている。スケールの大きいスタジアム級のアンセムもあれば、一人一人にそっと寄り添うような、心に染みるバラードもある。歌詞は刺激的で、音楽的にはバラエティに富んでおり、演劇的であり、かつルーツ的で、人の心に訴えかける純真さがあると同時に、極めて成熟しており、構想はシンプルでありながら、仕上がりは壮大だ。 「毎朝目が覚める度に、今この位置にいられて良かったと、感謝の気持ちが湧いてくるんだ」とゲイリー。「仕事をせずにいるというのがどんな気持ちか、よく知ってるからね。僕は音楽に関わることが好きでたまらない。それが僕には何より必要なんだ。それが許されていない時は、本当に辛いものさ。今はとにかく、日々、それを満喫しようとしてる。これまでにないほどの充実感を感じてるし、それは他のメンバーも同じ気持ちでいるからだね。僕は今、水を得た魚のような気持ちで、大いに楽しんでいるよ。他のみんなも含め、全員が同じだと思うね」。 民主的で、挑戦的で、ドラマティック。『ザ・サーカス』は、テイク・ザットが、恐らく彼らのキャリアで初めて、自分たちの運命を自らの手で完全にコントロールし、4人で創り上げたサウンドである。あの曲の一節にもある通り、こう言おうではないか--「耳を傾けてみてごらん」。