New Release
Live Info


 PAUL WELLER
Artist Info Artist News Discography

 

"俺は時の試練に耐えるべく鍛えられている"- 「Moonshine」より
 
 「またアルバムを作ろうだなんて、考えてもいなかったんだよ」と、最新作『ウェイク・アップ・ザ・ネイション』の制作に向かうことになった経緯について、ポール・ウェラーは語る。
 「『22ドリームス』を完成させた後は、提示できるような曲はひとつもなかった。半端なタイトルだの二行詩だのを除けばね。だから今回の制作過程全体が、これまでとはかなり違っていたんだ。殆どゼロから作り始めたようなものだったんだよ」。
 音楽的な実験を絶え間なく試み続けながら、比類なきキャリアを積み重ねてきたポール・ウェラー。自身の音楽スタイルを切り刻み変化させようとする、彼の苛烈なまでの欲望に、我々は慣れなくてはいけない。だが、輝かしい成功を収め、ブリット・アウォーズも受賞した『22ドリームス』(ソロとしては3枚目の全英1位アルバム)に続く、ソロ10作目となる今回のニュー・アルバムは、ロック界を象徴する最大のソングライターである彼にとって、再び予想を超える上首尾に仕上がった作品となっている。
 その作者と同じくらい、無駄な贅肉がなく、実に粋で、徹底的なまでに的が絞られている本作『ウェイク・アップ・ザ・ネイション』は、同時にポール・ウェラーを原点へと回帰させている。つまり、ザ・ジャムの解散から28年を経た今、その元ベーシストであるブルース・フォクストンが2曲に参加しているのだ。
 「言うまでもなく、ものすごく久しぶりだよね。けど2人とも、すごく楽しんだんだ」と、この思いも寄らない"再会"についてポールは語る。
 「ブルースは、彼らしい独自のスタイルとサウンドを今も持ち続けてる。それが、僕らのやろうとしていた"Fast Car Slow Traffic"という曲にぴったりだったんだ。それから彼には、"She Speaks"という曲でも演奏してもらった。これは必ずしも彼の嗜好に合うものじゃないかもしれないけど、でもこの曲にも、彼らしい個性を刻みつけてくれたんだ」。 『22ドリームス』のコラボレイターであったサイモン・ダインと共に、後に『ウェイク・アップ・ザ・ネイション』として形になるセッションを開始したのは、昨年の1月のこと。ウェラーの事実上の本拠地である、英サリー州の『ブラック・バーン・スタジオ』で作業を始め、2人は -- そこに長年の専属エンジニアであるチャールズ・リーズを加え -- ダインの抱いていた音楽的構想に刺激を受けた、新たな作品に取り掛かった。
 「サイモンには、このアルバムをどのようなサウンドにすべきか、はっきりした信念があったんだ」とポールが説明する。
 「硬質なサウンドの、都会的かつ強靭なものにしたいと、彼は考えていた。かなり多くの曲で俺はヴォーカルを即興で歌ってみたりして、どういう結果になるか見てみたんだよ。作業の進め方としては、これまでとは全く違う方法だったね」。
 都市生活の切迫感や閉所恐怖症感を作品に反映するために、今回は厳格なルールが制定された。排除されたのは、アコースティックな楽器の使用と、フォーク調、あるい牧歌的な曲調。導入されたのは、荒削りなロック・グルーヴと、デヴィッド・ボウイ風のリフ(『ロウ』や『ダイアモンドの犬』を思い浮かべてほしい)、そして『22ドリームス』の際のセッションで生まれた、多種多様なジャンルを切り刻むスピリットだ。
 「今回は、個々の曲で僕らが必要とする時に、それぞれの人達を呼んで、演奏してもらう形を取ったんだ」とポールは説明する。「ケヴィン・シールズ(マイ・ブラディ・ヴァレンタイン)が弾いてる曲が1曲。クレム・カッティーニ(伝説的セッション・ドラマー)とベヴ・ベヴァン(ザ・ムーヴ/ELO)が2曲に参加してる。リトル・バーリーがギターを弾いてるのが2曲。アンディ・クロフツ(ウェラーのツアー・バンドのキーボード奏者)が、ギターとベースとキーボード、それからスタイロフォンも担当してる。そういったあらゆる要素をどう混ぜ合わせるか、そして何がどううまくいくか、そこが肝腎だったんだ」。
 その結果生まれたのが、沸点3000度で激しく炸裂する、14曲のロックンロールであった。関係者の中には既に、「シュトックハウゼンとスモール・フェイセズの融合」と描写している者もいる。落ち着いた甘美な瞬間があるとすれば -- 特にレア・グルーヴなシャッフル「Aim High」がそれに当てはまるが -- 「Gasp And Still Connect」や限定シングル「7 & 3 Is The Strikers Name」が放つ耳障りなほどの粗さは、今年これからリリースされるどの作品と比べても、同じくらい音楽的な意味で挑戦的だと言えるだろう。とはいうものの、このソングライターが、アリス・コルトレーンやヴォーン・ウィリアムズから影響を受け、また現在はブロードキャストの『Witch Cults Of The Radio Age』からフォーク集団のErland And The Carnivalに至るまで、幅広い音楽を聴いているということを思えば、それも当然だと言えよう。
 歌詞の面でも、今回は新機軸が打ち出されている。『22ドリームス』が壮大な空想だったとすれば、今回の『ウェイク・アップ・ザ・ネイション』ではウェラーがすっかり目を覚まし、再び世界と対峙して闘う覚悟を決めたような響きを備えている。論客であるウェラー(「Money Go Round」や「Soul Deep」といった曲を思い浮かべてほしい)のファンならきっと、久しぶりに熱く怒りをぶちまける彼のアルバムを聴けて、ワクワクすることだろう。
 「アルバム表題曲は、僕らの母国に対して行動を促す、高らかな呼び掛けって感じなんだ」と説明するポール。
 「この曲では、凡庸なもので溢れ却っている世の中に対して、立ち上がらなきゃ駄目だと訴えている。そしてこの国に、素晴らしいものを取り戻そうじゃないか、とね。メディアも、TVも、音楽も、政治も、何もかもが当たり障りのないものだらけになってしまっている。人々がみんな無関心になってるというわけじゃない。でもみんな、公民権を奪われてしまったかのように感じているんだ。本当の民主主義なんてものはもうどこにもない。イラク戦争の前は反対デモに100万人もの人々が集まったけれど、だからといって何ひとつ変えることはできなかった」。
 「音楽的には、明らかなターゲットがあるよ。でも『Xファクター』みたいなTV番組もまた、人々が憧れる対象としては、すごく水準が低いだろ。こういうことを言うと、頭が古いとか時代遅れだとかって思われるだろうってのは分かってる。でも俺は、人々にはビートルズやキンクスに憧れてもらいたかったんだ。だからあの"レイジ・アゲンスト・マシーン事件"(※ここ数年にわたり、英国のオーディション番組『Xファクター』の優勝者がクリスマス時期のシングル全英1位を獲得する状況に反発した音楽ファンが、インターネットを通じてレイジの「Killing In The Name」を買おうと呼びかけた、"打倒『Xファクター』"の一大キャンペーン)は、すごく良かった。セレブ文化に対して大反発が巻き起きるのが見たいんだ」。
 燃え立つような歌詞の炎に包まれながら見え隠れしているのが、完璧なまでの熟練の技。「No Tears To Cry」は、ウォカー・ブラザーズ調の雄大なバラード、一方「Trees」は人生の道のりについて歌った、5つの部分から成る音楽的モンタージュだ。ラグタイムからポルカへ、そしてパンク、サイケ・ポップ、ゴスペルまでと、わずか4分超の間にこの曲が見せる変化は驚異的である。
 「この曲は、父親が亡くなる直前、養護施設に見舞いに行った時のことにインスピレーションを得たんだ」と、説明するポール。
 「そこで暮らす人々の人生がどういったものだったか、想像しようとしてみたんだよ。おばあさんたちの中には、若い頃美人だった人もいるだろう。そして今はただ、土に還るのか、大気の中に消えていくのか、俺たち人間が死んだ後どうなるのであれ、そこへ戻って行く日をただ待っていたんだ」
 情熱、前進、そしてこれまで通り、背中がゾクゾクするようなロックンロール -- 2010年代という新たな10年に我々が乗り出して行こうとしている今、ポール・ウェラーは更にもう一度、この時代にうってつけの完璧なサウンドトラックを提供してくれた。
 「早くこれを、人々の前で演奏する日が待ち切れないね」と、熱く語るポール。
 この警鐘(wake-up call)を、我々は決して聞き逃してはならない。

ポール・ムーディ

2010/3/31更新