| 初めて「Chinese Democracy」という曲を耳にしたのは、2001年1月1日の未明。ラスヴェガスのハウス・オブ・ブルーズでGUNS N’ROSES(以下GN’R)が約7年半ぶりのライヴを行なったときのことだった。そのステージ上、アクセル・ローズはこの楽曲を新作アルバムのタイトル・トラックだと紹介し、「そう、本当に(制作が)終わったんだ」と嬉しそうに言葉を続けていた。 当時は同年6月の発売が確定しているとも報じられていた『CHINESE DEMOCRACY』だが、同時期に予定されていた欧州ツアーがバケットヘッドの腕の故障により中止になると、アルバムに関する情報もそのまま途絶えることになった。そしてその年末、ふたたびラスヴェガス公演を行なった際のアクセルの発言は「(アルバムは)もうじき完成する」に逆戻りしていた。
以降、この作品に関する根拠の有無が疑わしい情報は何度となく聞こえてきたが、結局、噂は常に噂のままで終わった。たとえば『APPETITE FOR DESTRUCTION』の発売からちょうど20年を経た2007年夏などは、この新作が世に出るうえで完璧なタイミングだったわけだが、この“誰もがタイトルだけは知っているアルバム”は、そんな節目すらも素通りすることになった。同時期、その20周年だけを理由としながら彼らの懐かしい写真がローリング・ストーン誌の表紙を飾るという興味深い出来事もあれば、何よりも2007年7月には、2002年の『サマーソニック』出演時以来となる来日公演が実現に至っていたりもする。が、その期間中にもアクセルの口からアルバムの発売時期について明言されることはなかった。
こうした年月の経過のなかで表題ばかりが浸透し、「もしかしたら永遠に発表されないのではないか?」といった諦めにも似た疑いの対象になりつつあった『CHINESE DEMOCRACY』が、こうして本当に世に出ることになった事実自体が、事件である。なにしろ21世紀の到来と同時に“新生GN’R”が正式なお披露目の瞬間を迎えた時点からですら、すでに8年近い時間が過ぎ去っているのだ。8年といえば、まさにこのバンドが最初のEP、『LIVE?!★@LIKE A SUICIDE』をリリースしてから、『USE YOUR ILLUSION T&U』に伴う2年がかりのワールド・ツアーを完全終了するまでの時間経過に匹敵するものである。
ここで、改めてGN’Rの歴史について振り返っておきたい。今や過去の事実関係を確認しようとすれば、不要な情報や不確かな話まで簡単に検索できる時代ではあるが、こうした原稿が当時のGN’Rを原体験していない世代にとっての参考になれば、また、しばらく彼らから遠ざかっていた人たちの記憶を蘇らせることに繋がれば幸いだ。
GN’Rがロサンゼルスで結成されたのは、1985年のこと。それまでHOLLYWOOD ROSEとして活動していたアクセル・ローズ(vo)と彼の幼馴染みでもあるイジー・ストラドリン(g)が、L.A.GUNSのトレイシー・ガンズ(g)と意気投合したことをその発端とし、バンド名も単純に両者の名前を掛け合わせたものとなっている。が、ほどなくトレイシーと当時のドラマーは脱退し、ROAD CREWというバンドに籍を置いていたスラッシュ(g)、ダフ・マッケイガン(b)、スティーヴン・アドラー(ds)の3人と合流。こうして出揃ったラインナップを“オリジナル”と呼ぶことは実は少しばかり乱暴でもあるのだが、GN’Rのオリジナル・メンバーと言われて誰もが思い出すのはこの5人の名前だろう。
ほどなくバンドはハリウッド界隈のクラブ・シーンを代表する存在になり、1986年には前述の『LIVE?!★@LIKE A SUICIDE』を自主制作で発表。その後、ゲフィン・レコーズのA&Rだったトム・ズータウの目にとまり、同社と契約。翌年夏にはマイク・クリンクのプロデュースによる正式なデビュー・アルバム『APPETITE FOR DESTRUCTION』がリリースされている。現在でこそロック史に残る最重要作品のひとつとして広く認識されているこの作品だが、発売当初のチャート・アクションは鈍く、初登場のランキングは182位(以降、全米チャートに関する記述はすべてビルボード誌によるものとする)。しかしそれから約1年を費やしながら首位を獲得し、現在に至るまでの累計セールスは米国だけでも1800万枚、全世界においては2800万枚に及んでいる。
以降、本作『CHINESE DEMOCRACY』に至るまでにGN’Rが発表してきた公式なアルバムは、『LIVE?!★@LIKE A SUICIDE』の音源に新たにアンプラグド曲4曲を加えた変則的な『GN’R LIES』(1988年/2位)、1991年に赤と青の色違いのアートワークにより同時発売された『USE YOUR ILLUSION T』(2位)と『USE YOUR ILLUSION U』(1位)、メンバーたちのルーツや嗜好が垣間見られるカヴァー集の『THE SPAGHETTI INCIDENT?』(1993年/4位)、2枚組ライヴ作品の『LIVE ERA87-93』(1999年/45位)、そして『GREATEST HITS』(2004年/3位)のみである。さらに楽曲単位でいえば、1994年には映画『INTERVIEW WITH THE VAMPIRE』のサウンドトラック盤にROLLING STONESのカヴァーである「Sympathy For The Devil」を、1999年にもやはり『END OF DAYS』のサウンドトラック盤に「Oh My God」を提供している。
メンバーの変遷を簡単にまとめておくと、デビュー時の布陣からまず脱落したのはスティーヴン(1990年)。後任にはマット・ソーラムを迎え、さらにはディジー・リード(key)を加えた顔ぶれで1991年1月の『ロック・イン・リオU』には臨んでいる。が、同年9月にはイジーが脱退。彼の後釜にはギルビー・クラークがおさまっている。『USE YOUR ILLUSION T&U』に伴うワールド・ツアーはこの顔ぶれで完遂されたものの、1993年夏に同ツアーが終了すると、バンドは機能不全とでもいうべき状態に陥ってしまう。結果、スラッシュやダフの“バンド外活動”が進行するなか、1997年にはアクセル個人がGN’Rというバンド名の所有権を法的に獲得。その時点で彼以外のメンバーたちは、脱退したという自覚が皆無であるにもかかわらず“ホーム”を失うことになった。
以降、アクセルの側から聞こえてきたのは新メンバーやレコーディング状況に関する不確かな情報ばかりだったが、そんなさなかの1999年11月、ほぼ同時に発表されたのが、ある意味過去を総括するような『LIVE ERA87-93』と、“アクセルしかいないGN’R”の初公式音源にあたる「Oh My God」だっただけに、大半のファンや関係者は新生GN’Rの2000年始動説を信じることになった。が、それが噂に終わったことは言うまでもない。
その後、冒頭にも記したとおり、新生GN’Rは2001年の訪れとともに正式始動しているが、それ以降のあまりにも緩慢かつ不明瞭な事実関係の流れについての説明は、この場では最小限に控えておきたい。というのも、この『CHINESE DEMOCRACY』発表に伴うアクセルの意思が、本稿を書いている時点ではまったく伝わってきていないからだ。彼が今後、GN’Rをどのように運営していくつもりなのか、彼自身のなかでこの作品がどのように解釈されているのかによって、ここ数年の物事の動きや人間の入れ替わりなどについての意味も変わってくることになる。たとえばアクセルを除く現在のGN’Rの顔ぶれについては、昨年の来日時を基準とすれば、ロビン・フィンク(g)、リチャード・フォータス(g)、ロン“バンブルフット”サール(g)、トミー・スティンソン(b)、フランク・フェラー(ds)、ディジー・リード(key)、クリス・ピットマン(key)ということになる。が、本作のなかにはバケットヘッド(g)やポール・トバイアス(g)、ブレイン(ds)による演奏音源も残されているし、ブックレットには彼らの個人単位でのサンクス・リストも掲載されている。かつてアクセルがバンド名の所有権を獲得した際、マットやギルビーが、スラッシュやダフと同じ“メンバー”ではなく、実はアディショナル・メンバーやツアー用ミュージシャンといった“法的役職”であることが明かされたときには抵抗と頷ける
部分の両方を感じたものだが、たとえばロビンやリチャードを無条件に“メンバー”と呼んで問題ないのか否かも、バケットヘッドたちを“元メンバー”と扱っていいのかどうかも、第三者には断定できない状態にあるのだ。
ただ、最後にひとつだけ、僕自身の本作に関する個人的見解を述べさせていただきたい。
この『CHINESE DEMOCRACY』をGN’Rの何作目のアルバムと呼ぶべきかについては、いくつかの異なる解釈があるはずだと思うのだが、アクセル自身のなかでは、これこそが『APPETITE FOR DESTRUCTION』に続く作品として認識されているのではないだろうか。もちろん『USE YOUR ILLUSION T&U』も間違いなくオリジナル・アルバムであり、軽視するつもりもない。が、あの2作品は、当時彼らの手元にあった新旧の楽曲たちをすべて一度に消化し、バンドの創造的モードをリセットするために存在したものでもあったはずなのだ。ただ、逆の解釈をすれば、本作について“長き不在期間中に作り溜められたもののコンピレーション”という見方をすることも可能ではあり、それはむしろ、あの2枚のアルバムに通ずる成り立ちともいえる。
結局のところ、僕自身のなかでもまだ考えがまとまりきっていないということになるわけなのだが、それでもひとつだけ確かなのは、この作品の登場が意味するのは何かの“終わり”ではなく“始まり”だということだろう。少なくとも僕はそう信じている。21世紀最初の日にラスヴェガスで購入したTシャツの背中には、“CHINESE DEMOCRACY STARTS NOW”という文字がプリントされていた。その瞬間が本当に到来した今、アクセルとGN’Rにとっての新世紀が始まるのである。
Text by 増田 勇一
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