永遠に冷めない青い熱 青い熱

こんな言葉の断片にぞくりとする。深く静かに潜っていくようなかすれた声は、年相応の成熟と、チクチクと刺すような青春の記憶を残しながら、心の深奥と共鳴して、いつまでも消えない。歌にも、歌のないインストゥルメンタルにも、しっかりと彼の息づかいが感じられる。インストがあるからこそ歌が際だつ。歌があるからこそインストが味わい深い。そのどこまでもクールで抑制されたトーンは、バンドでの彼の熱気を帯びたテンションとははっきりと異なる。だが紛れもなくこれもチバユウスケの表現なのだ。
 チバのキャリア20年にして初のソロ・プロジェクトは2010年の夏から始まっている。エンジニアとふたりでスタジオにこもり、コツコツと作り上げた膨大なマテリアルの中から選び抜いた16曲(プラス初回限定盤の7曲)。繊細なエレキ・ギターのアンサンブルを聞かせる小品、四つ打ちのダンス・ナンバー、ピアノがセンチメンタルなメロディを奏でるインスト、童謡っぽい歌もの、レゲエ/ダブ、SEが流れるアンビエントな曲、カリンバとパーカッションだけで構成されるトライバルな楽曲など、驚くほど多彩で、これまでのチバでは考えられないような曲調がずらりと並ぶ。なるほどソロではこんなこともやるのかと思わされるが、不思議と違和感も驚きもなく、すんなり受け止められるのは、そのどれもがチバの表現としてしっかりと血肉化されているからだろう。The Birthdayがチバのロックな狂熱を象徴しているのなら、SNAKE ON THE BEACHは粗熱を取り去ってクール・ダウンした生活者チバの日常を思わせる。
 SNAKE ON THE BEACHの音楽にインスパイアされて映画『赤い季節』は作られた。映画のタイトルは主題歌として起用された「Teddy Boy」の歌詞の一節からとられている。その「Teddy Boy」から「~Wild Children」と続く流れが、本作のクライマックスだ。「どうやら闇の時代は終わったみたいだ/旅に出ようぜガキ共/宇宙はお前の手の中だ」と歌われる歌詞は『赤い季節』のテーマにも通じるし、またここ数年のチバのモードをあらわしてもいる。誰かに呼びかけるようなポジティヴなメッセージ性。それはチバの関心が外部に、未来に向いてきたことを思わせる。「なんか……思うところがあるのかなと……わかんないけどねえ……まあでも……エラそうなことを言えるような生き方してないからね(苦笑)。そのへんのことは……いろいろ考えると……葛藤はあるよ」と例によってチバは言葉少なに語るのみだが、経験を積み年齢を重ねた今のチバが歌うからこそ深い説得力を持つのである。児童合唱団をフィーチュアした「~Wild Children」の感銘は、これまでにないたぐいのものだった。
 個人的な感想を言わせてもらえば、ぼく自身、評論家として本作を客観的に分析・評価するよりも、「オレは好きだよ」の一言で終わりにして、あとはただ彼の音と声と言葉に酔っていたいという思いに駆られる。きっとそれは、このアルバムを聞いたすべての人も同様だと思う。それを言うとチバは「あ、ほんと? じゃ、やってよかった」と、照れくさそうに呟いたのだった。

2012年9月3日 小野島 大