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俺は君の書いた譜面通りに歌うから」 僕はこのプロジェクトが始まるとき服部隆之君にそう頼んだ。大体あの “美空ひばり” さんのような偉大な歌手のヒット曲ばかりを歌うなんて恐ろしい企画だった。だから五年も尻込みしていたのだが、プロデューサーの寺林さんの情熱に背中を押されてやってみよう、と決心したのは今年の初めだった。 自分の歌が拙いのは判っている、でも、寺さんが喜んでくれたら、それでいいじゃないか、と思ったら却って楽しくなった程だ。 歌の譜面を依頼したのは美空ひばりさんの歌った 「原曲」 を敢えて直前に聞きなおさないと決めたからだ。あれ程偉大な歌手の 「お手本」 など聴いてしまったら 「なぞってしまう」 に決まっているからだ。真似ては何の意味もない。だから敢えて元を聴かず、譜面通りに歌えば、僕が歌う意味もあるだろう、と決心した。 蓋を開けてまずアレンジに腰が抜けた。ただ新しいと言うだけではなく、奇をてらう訳でもない。もしも今ひばりさんがこの歌をセルフカバーするならこうじゃないか、という”SF作品”のような、言ってみれば 「やりたい放題」 のアレンジなのだ。 しかし文句は言えなかった。 「こう歌え、という譜面」 がしっかりと出来ていたからだった。僕が “東京キッド” を歌うと服部君が笑った。 「ちゃんとひばりさんの歌を聴いたでしょ? 同じに歌ってる」 「聴いてないよ。譜面通りに歌っただけ」 「え? ホント?」 じゃあ、とそこで原曲を聴いて肌が粟立った。何とひばりさんは元々 “譜面通り” に歌う歌手だったのだ。譜面通りに歌ってなお偉大な “美空ひばり” で居ることの凄さを思うとき、歌い手の端くれとして僕は気が遠くなった。 これで僕はひばりさんに挑むことをやめ、代わりに愛を込めて寄り添うことにした。それが僕からの、ひばりさんやひばりさんを愛する人々への誠意だからだ。 プロデューサー、アレンジャーそして歌手のさだによるこの “SF作品” を心からの愛をこめて日本中のひばりファンに捧げる。勿論原曲とは全く別の作品だが、僕たちの愛は伝わると思う。偉大な星は今でも遙かに遠いが、とても温かだった。 さだまさし
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