BIOGRAPHY

DJ SHADOW / DJシャドウ 


Bio<ストーリー>
ジャーナリストは長時間コーヒーショップで過ごす事が多いが、その中でさまざまな人間模様が見えてくる。こっそりと密会するカップル、砂糖たっぷりの甘いコーヒー中毒の人、心地よい刺激を楽しむ年金暮らしのお年寄り。そんな彼らには1つの共通点がある。今日、彼らはDJ シャドウをBGMとして聴きながらそのコーヒーの深い味わいを楽しんでいる。彼の音楽はハードコア・ビーツ・ヘッドからヒップホップ好き、レコード店、バー、テレビに至るまで、世界中で人々の日常に蔓延している。"お気に入りのアーティスト"として数多く取り上げられ、彼の成功のキッカケとなったアルバム『Endtroducing…』は、大概の人が曲のタイトルまでは分からずとも、そのサウンドは知っている。実際、 "誰にでも受け入れられるアーティスト"と言っても過言ではないだろう。いま僕はUniversal/Island のUK本社の隣でDJシャドウことジョシュ・デイビスが現れるのを待っているが、その彼にとって金字塔となったアルバムをBGMとして聴きながら取材の準備をしていると思うと、不思議な気がする。「Endtroducingの様なアルバムはもう作らない、それは分かってもらいたい。」彼は成功の喜びと共にその苦しみも味わっているのだ。
BBCのRadio6ゲスト出演後、到着したジョシュは、とある"ポップスター"(そしてスタイリストなのど取り巻き軍団)をサッとかわし、世界中からやってきたジャーナリスト達の取材を受ける為、ビルの3階に用意されたインタビュールームへと向かった。そこで絶妙なタイトルが付けられた最新作『The Less You Know, The Better』の取材に快く応対し、「レコードは何枚くらい持っていますか?」、「『Endtroducing 2』の制作にはいつとりかかるのか?」という様な、うんざりするような質問をさばいていく。
ここで打ち明けておこう。僕が初めてDJ シャドウの取材をしたのは、極度にファッショナブルなレーベルMo'Wax から発表されたシングル『In/Flux』のリリースの時だった。ヒップスターのバイブルとも言える『Straight No Chaser 』という音楽誌のインタビューだった。レーベルのオフィスはロンドンのポートベローにあるジェームズ・ラヴェルのリビングで、電話インタビューも彼の家の固定電話を使っていた。過去にいろいろと経験しているせいか、ジョシュは年のわりに礼儀正しく、冷静だが情熱的で丁寧な印象だった。サンフランシスコでのレコード掘りから始まり、仲間の為にビーツやブレイクビーツを作っていた頃、そんな彼はいま、独自の音楽を作るターンテーブリズムの魔術師となった。ソウルフルで繊細、時にエッジーで荒削り、そんな彼の音楽は世界的にも高い評判を得ており、決して妥協しない己のジャンルを作り上げた。"この曲DJ シャドウっぽくない?"という表現をこれまで何度聞いただろう。
僕の順番が回ってきた。時間もあまりないので、さっそくインタビューに取り掛かろうとするが、1つ問題がある。実は視聴できたのは、プレリリース版のシングル2曲「デフ・サラウンズ・アス」と「アイ・ガッタ・ロック」のみで、サンプル用のフルアルバムは誰にも配布されていない。(近頃のリークの多さを考えるとそれも頷けるが)そういう訳で、まだアルバム全曲を聴けていない。しかしジョシュのいたずらっぽい性格を考えると、シングル2曲に関しても本当にアルバムと関係あるかどうかも疑問だ。まさに、アルバムのタイトル『ザ・レス・ユー・ノウ・ザ・ベター』だ。
詳しくは分からないが、彼の音楽がマーケティングや広告、プロモーションによって幅広い客層に受け入れられていることに対して、Djシャドウ本人の音楽に対する率直な考えを示しているようだ。アーティスト達がレコード、CDのダウンロードのセールスを伸ばす為に、まるで中古車のセールスマンの様に妥協を余儀なくされる。そして残念ながら、その過程で多くのアーティストが自尊心を失ってしまう実情を、威厳をもって簡潔に語っている 。彼のようにテクノロジーに魅了された人間にとっては皮肉な事だが、インターネットが今の時代における市場のターゲットなのだ。この問題を出し抜く為、彼が考案した奇策が"風刺"だ。これ以上は語らないが、それが取っ掛かりになるのでは。
僕らは簡単に挨拶を済ませ、共通の友人の噂話をしたが、以前と変わらず思いやりのある丁寧な応対だった。親切にも僕のボイス・レコーダーのスイッチが入っていないと教えてくれた。マーケティング・マネージャーが心配そうに時計を気にするのを見て、さっそく取材に取り掛かる事にした。そして彼の掲げる"マニフェスト"について是非聞いてみたかった。
「ああ...マジで?」と彼は(酔っぱらった勢いで余計な事をツイッターで呟いてしまったアーティストのような表情で)顔をしかめたが、すぐさま優しく落ち着き払った表情で「大丈夫、いいですよ。」言った。
この話題はできれば"避けたい"らしい。僕らは気を取り直して話を先に進めた。そして違う質問をしてみた。作品の"オーナーシップ"そして『ザ・レス・ユー・ノウ・ザ・ベター』という概念について具体的に聞いてみた。「今は自分のものとして捉える事ができるけれど、一旦、世の中に発信された瞬間、どうなるか疑問だね。Wikipediaのような"オフィシャル"と言われる様々なルートが存在し、そうなると主導権はすべて他人に奪われてしまう。ぞっとするよ」
今回、アルバムの音楽的な方向性が定まってから、マーケティング戦略についてじっくりと考えた。自分自身を含めアーティスト達がアルバムをリリースして、それが見向きもされなかったら非常に不愉快だからね。俺は1人の音楽を愛する者として、誰かが2年もの歳月と労力を費した作品は正当な扱いを受けるべきだと思う。
彼のマーケティング理論は、すべての作業をコントロールすることではなく、彼自身も音楽ファンとしてアーティストの仕事を大切に扱って欲しいという願いだ。
「お菓子を売るのと同じさ。バンスキーというアーティストの影響を受けて、 斬新なキャンペーンを企画しようとしてきた。でも、全てが広告に取り込まれてしまった様に感じた。大切なのは音楽なんだ、俺はそれをみんなに分かってもらいたい...。売り上げを伸ばしたいからって無料でワイパーばらまくような車のセールスマンみたいなやり方じゃだめだ、「おいっ」って、やつらの鼻っつらをつかんで言ってやりたい。昔のように演説をぶつんじゃなく、今の世の中でミュージシャンとしてやっていくっていう事がどういうものかを自分自身をジョークの種にして、風刺したんだ。」
その"ジョーク"はジョシュをからかったり、邪魔ばかりする3つのキャラクター(意地悪そうなiPad、腹黒いPC、退屈そうな携帯)として、プロモーション素材、ウェブサイト、アートワーク、ビデオ、フライヤー等の至るところに登場する。アルバムのプロモーションとしては、ちょっと変わった手法だが、説教師としてではなく100%献身的な音楽ファンの立場で、長年の懸案だったインターネット/アーティスト/レコード会社の間における議論を提起している。
音楽の話をしにきたのに、まだ殆ど聴いてもいないアルバムの話をしなければならないことに、ますますもどかしさを覚える。現状、どんな内容に仕上がっているかを知るにはライブに行くしかない。2010年に新作を部分的に仕上げたところで、DJ シャドウは多忙な日程の世界ツアーを決行した。マルチメディア"Shadowsphere"を引っさげ、ソールドアウトとなった世界中の巨大な会場で公演を行った。もし、「DJなんてレコードかけてるだけだろ?」なんて言うギターオタクのヤツがいたらDJシャドウのライブを見せてやれ。
プロジェクターの映像が照らし出された球体のブースに入り、強烈なライティング包まれDJシャドウは魔法のようにトラックを変化させていく。「よくあるロック・バンドのやり方を真似たんだ。アルバム制作の途中でツアーに出て、そして残りを半年間かけて仕上げるっていう方法をとったんだ。」と、彼は熱心に話す。
「チャンスに恵まれていなかっただけで、いままでやろうとしていた事が正しいと確認できた。昨年の夏、ツアーに出た時はアルバムが半分以上、仕上がっていたからライブでかなりの新曲をセットリストに加えた。ミックスも終わって完成していたけれど、もうちょっと手を加えたかったんだ。ダイアモンドの無数の小さな切子面が様々な光を放つように、アルバムが表現するものを超えて、細部まで作り込むことができた。」
これほどはっきり自分の情熱を語れる人は稀だ。そして会話の中でジョシュはよく他のアーティストの作品を引き合いに出す。「僕の好きな『It Takes a Nation of Millions…』や『3 Feet High and Rising』、これらのアルバムの収録曲はそれぞれ特徴があって、どれ一つ同じような曲はない。僕もそれを目指して作品に取り組んでいるし、音楽に対してもそう向き合っている。」
彼は"HipHopの格好をしたインディー・キッド"と呼ばれ、彼の音楽は4ADからPeacefrog, Rawkus Recordsに至るまで、幅広いジャンルを好む音楽ファンの共感を見事に得ている。すでにリリースされた数曲の中でも、ヘビーで疾走するオルガン・グルーブ「アイ・ガッタ・ロック」『はライブで1番盛上がるトラックだ。ブライトン公演では、その容赦ないサウンドの強襲に観客は興奮に包まれ、息をのむようなステージを見せた。一方で「デフ・サラウンズ・アス」はディープで複雑な迷路のようで、DJシャドウのビジョンは常に進化し成長し続けているのが見て取れる。
「今回のアルバムで自分は少し成長できたと思う。『Endtroducing…』の頃は、さまざまな感情や経験を反映させたボリューム感のある作品を作りたかった。その後リリースしたアルバムも同じアプローチの仕方だった。それだけファーストの成功のプレッシャーを感じてたって事だと思う。」
インタビューを終えて、あらためて前作『ジ・アウトサイダー』の制作に彼がどれだけ苦労したか、はっきりとした。「今回のアルバムは『ジ・アウトサイダー』のような両極端さは無いね。以前はアンビエントならアンビエントに、ハードならハードに、中途半端は無しって思っていた。このアルバムのおかげで全てを白紙に戻すことができた。それは昔からのファンに対する挑発的な行為だ...。
俺は『Endtroducing…..』パート2を作る気はない、それを受け入れるか、拒絶するかそれは彼ら次第。でも、この旅の道のりを一緒に歩んでくれたら、必ず報われるはず。」と率直に話す。「少なくとも個人的には上手くいったと思うよ。音楽は純粋に音楽であって、それ以上の意味合いがなかったから、2009年にこのアルバムに本格的に取り掛かった時は重圧やプレッシャーも感じず、とても気が楽だった。」ジョシュは最新作『ザ・レス・ユー・ノウ・ザ・ベター』について非常に誠実に語る。彼が何故このプロジェクトでマーケティングの誇大広告や"ばらまき"ではなく、音楽そのものを大切にしたかったのかが伺い知ることが出来る。
隣の部屋ではDJシャドウのニューアルバムが流れ、僕はそのアーティスト本人の取材をしている。この場で初めてアルバムを聴き、本人を目の当たりにする...これはラッキーな偶然なのか、それともジョシュの企んだいたずらなのか? どちらにしても、僕はこれで最新作について質問することができたし、そしてジョシュはリスナーの反応を直接みる事ができるのだ。
今作のサウンドは重厚でスピーディだ。通のリスナーもDJシャドウ巧みなテクニックによって作り上げられた多種多様のスタイルに圧倒されるだろう。キック、壁に打ちつけられたボールの様なビーツにギター・エフェクトが見事にヒップホップと上手くミックスされた曲や、胸を打つ美しい旋律の曲が共存している。「"100%インスト音楽"を作るって決めてたんだけど、あまりそうやってルールに縛られないほうが良いものが出来ると思ったんだ。」 と語る彼は、当初の予定を変更し数名のヴォーカリストを起用している。
まず、衝撃的だったのはオリジナリティあふれる素晴らしいグループ、リトル・ドラゴンとコラボレートした「スケール・イット・バック」という曲だ。あまりに魅惑的な作品で、世界中のファンに聴いてもらうのが待ち遠しい。「「スケール・イット・バック」は特に気に入ってる曲の1つだ。それに、以前は自分の頭の中だけで音楽が成立していたけど、コラボレーションによって、自分達が理想とする形をうまく実現する事ができた。」と彼は熱く語る。
もっとなじみのあるヒップホップ・スタイルの「ステイ・ザ・コース」には卓越したテクニックを持つMC、タリブ・クウェリと長年憧れているヒーロー、デ・ラ・ソウルのポスをフィーチャーした。「ポスはヒップホップ界で最も過小評価されているMCだと言われている。俺もそう思うし、今作でコラボレートが実現して、とても仕事がしやすかったし、なにより光栄だった。」とまだ当時の興奮が醒めやらぬ様子で語ってくれた。「20数年以上も尊敬していた人が、自分の期待通どおりに応えてくれるのは嬉しいことだ。」困難にもかかわらず"やり通す"というメッセージをみても、彼がこの曲を大切に思う気持ちがうかがえる。「ヒップホップで育った僕にとって、やっぱりヒップホップが物の見方や考え方のベースになる。」と挑戦的に言う。「ワーニング・コール」にはロンドン出身のマルチ・プレイヤー(そして気の合う仲間)、トム・ヴェクをフィーチャー。このコラボレーションも良い勉強になったようだ。「インストの曲としてまあまあの仕上がりだったけど、なんか中途半端だった。そこでトムに声をかけた。最終的にまったく違う曲に仕上がったけれど、何ひとつ変えようと思わない。」
「サンプルは栄養剤のようなもの。」と彼は言う。アルバム収録曲「リディームド」、もの悲しげで美しく、フォーク・ソウル風の「サッド・アンド・ロンリー」(すでに僕の本命となりつつある)ように、DJシャドウの卓越した才能はこのアルバムでも証明されている。「ボーカル部分は50年代のフォーク・レコードのサンプルなんだ。ヴォーカルのスーザン・リードは僕らがサンプルの許諾をとろうとした1ヶ月前に亡くなってしまったけれど、彼女のご主人と息子さんからサンプリングの許可を得る事が出来た。彼らに『とても美しい曲だ』と言ってもらい、許諾作業をこういった形でできたのは良かったと思う。」
DJシャドウは 何度も"バリデーション/正当性の確認"について話す。おそらくそれは当然、リスペクトされるべきことで、今回、インタビュー中も彼が誰と話していても、そして誰の話をしていてもそれは感じられた。彼はただのレコード収集家ではないし、他人の音楽を盗んでいるのでもなく、たぐいまれな才能を駆使して音楽と彼のファン達を未知の領域まで導くのだ。「この旅の道のりを一緒に歩んでくれたら、それは必ず報われるはずだ」という彼の言葉に疑いの余地はないだろう。