忘れられない恋を引きずってしまう“引恋ソング”は時代が必要としている新しい失恋ソングです! 富澤一誠

 ラブソングには様々なタイプがあります。初恋ソング、片想いソング、灼熱愛ソング、失恋ソングなどです。
 恋愛は芽生えて、少しづつ育ってからやっと成就して、そして壊れることも多々あります。そんな恋愛のプロセスのどのシチュエーションに光を当ててテーマにするかによって、自ずとタイプは決まってくるのです。
 これまで名曲ラブソングと言われる曲はほとんどが“失恋ソング”です。「なごり雪」、「22才の別れ」、「恋」、「サイレント・イヴ」しかりです。失恋ソングがなぜ名曲になり易いのかというと、たくさんの人たちの共感を呼ぶからです。誰にも失恋の経験はあります。だからこそ思い出を共有し易いのです。
 過ぎ去った思い出は時が経つにつれて、けばけばしさがとれセピア色になっていきます。特に男(女)の別れた女(男)に対する思い出は、時が経つと、1枚のセピア色の写真となって、心の片隅にしまわれます。どんな男(女)にもそんな写真の1枚か2枚は必ずあるものです。
 いつもは心の奥深くにしまいこまれているだけに、ふだんは意識することもありません。しかし、何かの拍子で思い出されたとき、たとえ憎しみ合って別れた女(男)でも嫌なことはみんな忘れて、美しい思い出だけが蘇ってくるのです。そんなとき男(女)はふと過去を振り返ります。そして、脳裏に別れた女(男)の面影をちらりと思い浮かべたりします。女(男)の現実の姿がわからないだけにイメージは勝手にふくらんでいきます。そしてセピア色の別れた女(男)のことを思い出して感傷にひたることで、つかのまでも現実を忘れたいのです。そんな効用があるからこそ“失恋ソング”はたくさんの人たちに支持されるのです。いうならば、失恋ソングは“癒しソング”でもあるのです。
 しかしながら今、失恋ソングに変化が起こりつつあります。セピア色の失恋ソングから灼熱色の失恋ソングへ流れが変わろうとしています。
 失恋して“未練心”がおさまると“セピア色”になりますが、“未練心”がいつまでもおさまらないと、恋の炎は消えません。すると恋の炎はマグマとなって胸の奥深くに眠ることになります。焼け木杙には火がつき易い、ではありませんが、いつ噴火してもおかしくはない休火山状態が続きます。
 終わった恋を引きずりながら未練の炎を断ち切れない失恋を経験している人たちが今は実に多いのです。日本人の意識がマイナス志向からプラス志向へと変わったからではないでしょうか?恋愛もあくまで自分の意思で決める。特に自分の意思を持つ女性が多くなったことで、捨てられてもひたすら耐える“おしん”的な女性から、別れるのなら自分から別れを言うような強い女性が増えました。それに伴って、ポジティブ人間が多くなったのです。ポジティブ人間ほど自分の心に嘘をつけないのです。だから、未練の炎を無理矢理に消すことはできないのです。
 忘れられない恋を引きずってしまう、いうならば“引恋(いんれん)ソング”は時代が必要としている新しい失恋ソングなのです。
 傳田真央の「Bitter Sweet」はさしずめ“引恋ソング”の旗手と言っていいでしょう。表面上はひとりで頑張ってきたキャリア・ウーマンも、心の奥では断ち切れない恋を引きずって、恋のマグマがいつ爆発してしまうのかわからない状態。そんなやるせない想いがこの歌にはあふれています。この歌を聴いていると、同じようなマグマを心の奥深くに眠らせている人たちはつい共鳴してしまうでしょう。日本中で“恋のマグマ”がいっせいに爆発する日はすぐそこまできています。「Bitter Sweet」は忘れられない恋を引きずる人たちへ送る傅田真央からのポジティブ・ラブ・メッセージです。