BIOGRAPHY

YEAH YEAH YEAHS


Yyys 写真左より:
ブライアン・チェイス(drums) Brian Chase
カレンO(Vo.)Karen O
ニック・ジナー(guitar,keyboard)Nick Zinner


21世紀が幕を開けたばかりの頃のこと。当時ニューヨーク・シティの音楽シーンは、サンプラーや、シューゲイザー、そしてディレイ・ペダルとが描く不安定な軌道の中を当てもなく漂っていた。この街のギターは、”デジタルの霧”に埋もれて窒息寸前。でなければ埃にまみれたまま誰からも忘れ去られていた。そして2002年、ある無名のバンドがリリースした5曲入りの破天荒なEPが、ノイズとセックスと情熱と騒乱とを、ステージとステレオに呼び戻すこととなる。そのバンド名 — 「yeah, yeah, yeah (そう、そう、そうだよね)[※という、NYの街のそこここで交わされていた無責任な相槌が由来]」- は、誰であろうが責任者の座にある者は皆いい加減な連中だ、ということを知っているキッズの姿を髣髴とさせるものであったが、その名前はまた、純正ロックンロールに対する断固たる肯定も示していた。つまり、「Fuck, yeah! (ああ、最高だぜ!)」と。ヤー・ヤー・ヤーズの初フル・アルバム『Fever To Tell』は、猥雑であると同時に癖になりやすく、無秩序だが際立った輝きを放つ傑作。聴いて踊るもよし、死ぬもよし-そんなアルバムである。この作品に収録されているシングル「Maps」はグラミー賞にノミネートされ、同アルバムは英米の両国でゴールド・ディスクを獲得した。

新しいタイプのパワー・トリオとなったヤー・ヤー・ヤーズ。彼らは1つの有機体として機能している一方、各メンバーが独自の個性を保ち、それぞれの長所を注入しているのが特徴だ。”3人組のアース・ウィンド&ファイア”を想像してみてほしい。いや、やはりそんな想像はやめていただいた方がいいかもしれない。ブライアン・チェイス(Dr)のドラミングは、これ以上ないくらいタイトかつ正確で、このバンドがノイズだらけの真っ暗な洞窟の中へ降りて行こうとしている時でさえ、空き時間になると彼はフリージャズの世界に出入りしているのだ。そしてこの上なくシンプルかつ余計な装飾を省いた実質本位の(あるいはスカスカした)リズムの背後にも、彼らしい厳密な正確性と実験性が聴いて取れるだろう。ニック・ジナーのギターは、チェイスの形式主義に対抗するかのように、それを思い切り逆方向に押し戻しながら、このバンドの立脚点が”最高に威勢良く荒々しく鋭利なロックンロール”にあるということを示している。高揚感に満ち、時に軋むような音を鳴らす彼のギターラインは、チェイスのドラムと、心理学的に変幻自在で複雑怪奇なカレンOのヴォーカルとを、ケーブルで繋いでいると言えよう。ザ・ニューヨーカー誌が語っていたように、カレンOは「もしマイク一本と、マスカラのメイクだけでシーンに登場していても」、きっと大スターとなっていたはずだ。

同じことの繰り返しは断固として避けたい。そう考えずにはいられなかったこのバンドは、更なる進化を遂げていく。『Fever To Tell』の成功を受けて、次もまた痙攣するようなライヴ調サウンドのガレージ・アルバムを制作した方が、ずっと簡単だったであろう。しかし、2007年にリリースした次のフル・アルバム『Show Your Bones』には、アコースティック・ギターや、そして「Maps」のような曲が示唆していた方向性に表れていた、よりシリアスな構成が加えられていた。NME誌は、同作を「00年代で最も重要なアルバムの一枚」と評価。そして彼女たちは、その伝説的なステージ・パフォーマンスに磨きをかけていく — ステージで身悶えしながら活き活きと躍動するカレンOの姿を目の当たりにしなければ、人はヤー・ヤー・ヤーズの本質を理解することはできないのかもしれない。『Show Your Bones』の収録曲からは漏れてしまった素晴らしいナンバーの幾つかは、ツアーに欠かせない定番(かつファンのお気に入り)曲となっている。その後バンドは、PiLやスリッツ、ギャング・オブ・フォーらを手掛けてきたことで名高いプロデューサー、ニック・ローネイを迎え、EP『Is Is』を制作した。

ヤー・ヤー・ヤーズは昨年、これまで彼女たちが描いてきた”お絵描きボード”の絵を一旦全て消去。デイヴ・シーテックとニック・ローネイの両プロデューサーと共に、新作に着手する。「普段私たちはいつも、全くの白紙状態から物事に取りかかるの」と語るカレンO。「席に着いた時は、これから何が起きるのか、全然頭にないのよね」。この白紙ページ感覚を助長したのが、[制作時の]地理的要素だった。バンドが新作の曲を書き始めたのは、人里離れたマサチューセッツ郊外にある、築100年の倉庫[内に設営したスタジオ]、しかも吹雪の真っ只中だったのである。「窓の外を見ると、雪に覆われた牧草地がどこまでも続いてたわ」とカレン。曲作りのセッションを行なっている間、ジナーは手なぐさみにとシンセサイザーを持ち込んでいたが、それがまさかアルバムに収録されることになるとは、彼自身思ってもいなかったという。「ネットオークションで買った、古いキーボードだったんだ」とジナーは語る。「文字通り、スタジオをセットアップした正に初日のことだった。機材の電源を入れてから10分後に、あの”Skeletons”って曲が書き上がったんだよ」。同曲には — そして同アルバム全体には — このバンドにとっては異例とも言える、今までにない空間的な感覚や情緒的な雰囲気が漂っている。「言うまでもなく、シンセはずっと前からロック・ミュージックに取り入れられているけど」とジナー。「でも僕らには、新鮮に感じられるんだ。何より大事にしたいのはそこなんだよね。つまり、そういったワクワク感が大切ってこと」。

『It’s Blitz』は、ヤー・ヤー・ヤーズにとって、過去をチラっと振り返りながら、同時に前進を遂げているアルバムだ。ジナーのヴィンテージ・アープ・シンセ(カーズや、ジョイ・ディヴィジョン、クラフトワークらが使用していたのと同じ型のもの)は、打ち寄せる波のような、雰囲気満点のサウンド(「Skeletons」)や、ディスコ・ダンス調ナンバー(”死ぬまで踊れ!”と、カレンが歌う「Heads Will Roll」)、そしてニューウェイヴ・メロドラマ(「Soft Shock」)で、その特性を発揮。第一弾シングル「Zero」は、そういったあらゆる要素を融合させつつ、聴き手にダイレクトに歌いかけるダンスフロア・アンセムに仕上がっている。「私たちには、青年期特有の感受性がすごくよくわかるのよね」とカレンO。「それって、私が書く曲からは絶対に振り払えない要素なのよ。何だかまるで、80年代のジョン・ヒューズ監督の映画みたいな感じね」。しかし、こういった形で過去に一目置くことが、すなわちノスタルジックなサウンドのアルバム作りへと繋がるわけではない。「このアルバムには、良い意味での安定性が反映されてるんだと思う」と語るのはブライアン・チェイスだ。「それが僕らの変化を、そして人間としてどう成長してきたかを反映しているんだよ」。

『It’s Blitz』は、2009年4月15日リリース。