BS日テレ開局15周年記念企画『DREAM SONGS I [2014-2015] 地球劇場 ~100年後の君に聴かせたい歌~』、作品解説のライナー・ノーツを掲載しました。

■加山雄三

日本歌謡史でもあまり例を見ないスケール感を持った曲である。たった20年数年前に作られたものだとは信じがたいほど、歌詞とメロディーのどちらにもヴィンテージ感漂う普遍性があり、故にいつまで経っても古くならない。そんな曲がたった24時間で作られていたなんて。本来ならありえないことである。ご存知のとおり、加山雄三と谷村新司による共作曲“サライ”は日本テレビ「24時間テレビ 愛は地球を救う」のテーマソングとして誕生した。視聴者から募集した歌詞を谷村新司が代表でとりまとめ、それに加山雄三がギターでメロディーを付け、番組がエンディングを迎えるまでに完成させるという大胆な企画によって生みだされたこの名バラードはいま思うと、ある意味「24時間テレビ」の〈Dream Songs〉だったわけだ。曲自体の並々ならぬスケール感はもとより、時代を築いてきた両シンガーが持つ存在感と直結していることは誰しも知っているが、やはりふたりが歌声を合わせたときの迫力は素晴らしいものがある。彼らの背後で舞い散る桜吹雪もダイナミックだ。

■森山良子

「悔しい! 私が歌いたかった!」。「地球劇場」でのトークにおいて森山良子は本気でそう悔しがってみせた(彼女はずっとこの曲をステージで歌い続けていたという)。そういう思いを抱いているのは彼女だけに留まらないだろう。男女問わず(国籍も問わず)あらゆるシンガーに、ぜひ自分のものにしたい!という欲求を抱かせずにはおかない“いい日旅立ち”は、山口百恵の24枚目のシングルとして世に出た歌謡史に残るバラード・ナンバーである。谷村新司のソングライターキャリアにおいて最高峰に位置する1曲であり、数え切れないほどのカヴァー・ヴァージョンが登場するなどこれまで幅広い世代のシンガーが愛情を表明してきた。流麗なハモリが存分に楽しめるこのヴァージョンは、ふたりの歌声の重なりが醸しだす〈旅愁〉が実に新鮮だ。曲の向こうにうっすらと見えてくるのは、美しい花々が鮮やかに咲き誇る広大な平原。それは新たに日本の風景百選に加えてもいいと思えるほどの美しさで、何度聴いてもうっとりと見とれてしまう。

■吉田拓郎

本作に収められているすべての曲でもっとも驚きを与えるのはこれだろう。それはアルバムのなかでもっとも〈Dream〉の部分を引き受けていると言ってもいい。「地球劇場」とはさまざまな夢の共演を実現させる舞台であるのだが、谷村新司と吉田拓郎が揃って“襟裳岬”を歌う光景が観られるとは夢にも思わなかった。両者の穏やかな風合いがいい具合に重なり合って、歌詞のベースに流れている〈淡々〉というリズムを巧みに掬い上げることに成功、何とも言えぬ軽妙な味わいを醸している。歌を介してお互いの距離をゆっくりとつめていこうとするふたりだが、淡々としたなかに時折熱いものを垣間見せるやりとりがこちらの気持ちをじんわり暖めてくれることは確かで、最後には岬に並んで立つ彼らの背中がくっきりと見えてくるだろう。お互いの才能を認め合う両者が照れくさそうに握手しているようなイメージを膨らませてくれるこの音源。この先も繰り返し頬をつねりながら聴くと思う。

■加藤登紀子

日本の女性シンガー・ソングライターの草分け的存在、加藤登紀子。2015年にデビュー50周年を迎えた彼女は、谷村がずっと背中を見つめ続けてきた人だった。そんな両者のデュエットが感動的なものにならないはずがない。記念すべきコラボのために選ばれたのは、中島みゆきが加藤のために書き下ろした哀愁に満ちたワルツ・ナンバー。フジテレビ系ドラマ「球形の荒野」の主題歌に使われてヒットしたシングル曲で、「第20回日本レコード大賞」の西條八十賞(作詞賞)を獲得したことでも知られる。どこまでも伸びていくおときさんの歌声に対して、終始そっと寄り添うような佇まいを見せる谷村がとても温かい。終盤に差し掛かって、両者の歌声が次第に涙色を滲ませ始めるその柔らかな光景があまりに素敵で、繰り返しリピートしたくなるほど。ふたりが描く空はこんなにも晴れやかだとは。〈Dream Song〉のベスト・テイクを集めた本作のベストはこれだと力強く言い切ってしまいたい。こうしてデュエットすることがある種宿命だったのだと思ってしまうほど、特別な世界がここにはあるのだ。

■さだまさし

ときに「地球劇場」は谷村とその素晴らしき仲間との友情を確認し合う場ともなり得る。なかでも長い間音楽の世界で共に旅を続けてきたさだまさしが出演した回は、両者のあまりに自然なふれあいの光景が心を和ませてくれる、すごく素敵な内容となった。そのときの〈Dream Song〉もまたこのふたりにしか作り得ない親密な雰囲気に貫かれており、歌の端々からここまでやってこれたことへの喜びや誇りのようなものが伝わってくる。ふたりが選んだのは、言わずと知れたさだの代表曲“案山子”。2015年8月に横浜赤レンガパークで開かれた〈地球劇場フェス2015〉でのコラボもまだ記憶に新しいところだ。ここに収められているのは打ち合わせナシのぶっつけ本番で披露されたテイクであるが(この回は番組の進行どおりに収録、転換もすべて見せるという特別な回だった)、あうんの呼吸によって紡がれたハーモニーがとにかく心地良く、70代、80代のふたりが唄う“案山子”も聴いてみたいという気持ちに思わず駆られてしまう。

■一青窈

現在のところ「地球劇場」に出演したウタビトのなかで最若手となる彼女は、言うまでもなく本作における最年少デュエット・パートナーでもある。幅広いリスナーから支持を得ている彼女は昨今カヴァー名手としても知られており、数枚の歌謡曲アルバムをリリースして好評を博した。西田佐知子が昭和35年にヒットさせたこの昭和歌謡の傑作は自身の大切なレパートリーとして歌い続けている1曲だ。イントロに登場するのは、やけにムーディーなサックス。瞬時にして周りの色彩を変えてしまうようなその音色はまさにあの時代の音。そして気だるいジャジーなサウンドにうたれながらモノクロな夜へゆっくりと忍び込んでいくふたりの歌声。この濃厚な味わいこそ昭和歌謡の醍醐味じゃないかと言わんばかりの熱唱が聴ける。そもそもいい歌謡曲の価値とはどれだけ綺麗な嘘をつけるかで決まるものじゃないか。そのことを熟知している谷村のとことんダンディズム溢れる歌唱にとにかくシビれまくりだ。

■小椋佳

東京大学文学部に在籍中に音楽活動を開始、卒業後は銀行員として働きながら数々のヒットソングを生み出すなど、異例の経歴を持つシンガー・ソングライター、小椋佳。彼もまた、「地球劇場」のステージが谷村との初顔合わせとなったひとり。番組では谷村は「いっしょに歌う日が来るなんて想像もしてなかった」と告白しているけれど、この組み合わせは素敵な化学変化を起こすかもしれない、と以前から思っていた方はひょっとしたら少なくないのかも。実際のところ、小椋が布施明に送った大ヒット曲“シクラメンのかほり”におけるパフォーマンスは、真綿のような柔らかなふたつの歌声が重なり合ってなんとも清しい空気が生み出されるという素晴らしい内容となっている。クルーナー的といったふうの抑えた低い声で呟くように歌う谷村の情感豊かな歌唱に耳を傾けていると、まるでこの曲を長年歌っていたかのような錯覚すらおぼえるほどで、「ぜんぜん違和感がない」(小椋)という反応にも大きくうなずいてしまう。

■徳永英明

自然発生的なものも含めてさまざまなアイディアを放り込める自由な雰囲気があるところも〈DREAM SONG〉の魅力のひとつであるが、そのおもしろさが凝縮された最たる例といえるのがこのテイク。このケースでは、谷村が先に手を挙げ、ありきたりに歌い分けるのはおもしろくないという理由からコーラス役に回るという提案が成された。さらに彼はある擬音のようなコーラスを付けるというアイディアまで投入(それは歌詞世界をより立体的に表現しようとする谷村の試みであった)。その結果、このようにこれまでとひと味もふた味も違う“レイニーブルー”が浮かび上がることになったわけである。徐々に熱を帯びていくコーラスにつられてテンションが高まっていった徳永は、通常ならば登場しないフェイクを駆使して熱っぽくレスポンスしてみせる。そのせいかいつものそぼ降る雨のイメージが、何だかやたらと激しく感じられて仕方がない。曲を包み込んでいるブルーな色彩がよりいっそう色濃く滲みだしていることも付け加えておきたい。

■イルカ

シンガー・ソングライターの活動のみならず、絵本作家、エッセイスト、ラジオ・パーソナリティーとして知られ、昨今は着物のデザインやプロデュースにも重きを置くなど多彩な活動を行うアーティスト、イルカ。国際自然保護連合(IUCN)の親善大使としての顔も持つ彼女は、まあるい地球の住人一人ひとりが環境問題への意識や関心を高めるための活動を長きに渡って続けてきた。公害でぜんそくになったきつねを主人公とした“川崎のキツネさん”はエコロジスト、イルカの大切なメッセージを伝える1曲である。作詞・作曲を手がけたのは、彼女の夫、神部和夫。旧知の仲のふたりによるこのデュエットは、2007年に天国へと旅立った大切な音楽仲間である神部和夫へ捧げられたものである。ほのぼのとしているふたりのハートフルなハーモニーは、頭のうえに広がる重くてよどんだ空気を取り除いてくれる効果があり、いつの間にか陽が射してきて何だかポカポカしてくるのである。

■Kalafina

ラストを締め括るのはBS日テレの開局15周年を記念して作られた“アルシラの星”だ。衛星に向かって発信された電波が宇宙を迂回してわれわれのもとに届けられるという〈BS〉のイメージを元に谷村が作詞・作曲したこの真新しいDREAM SONG。タイトルにある〈アルシラ〉とはシリウスのアラビア語名であり、夜空に瞬く星のなかでいちばん明るい恒星。夜明けに昴(プレアデス星団)に次いで上がってくるがこのアルシラだということを知ればきっと、頭のなかでさまざまな想像が駆け巡りはじめるに違いない。

ウタビトに選ばれたのは、2016年1月でデビュー8周年を迎えたフィメール・ヴォーカル・ユニット、Kalafina。もともとテレビでの共演経験があった両者だが、本格的なコラボを行うのは今回が初となる。彼女たちといえば、世界14か国でアルバムやシングルなどのパッケージがリリースされるなどワールドワイドな活躍を展開しており、とりわけアジア各国では高い人気を誇っている。日本という小さな枠から飛び出して世界を股にかけて活躍する音楽家のパイオニアである谷村にとってそんな3人はシンパシーを抱かずにおかない存在なのは間違いなく、必然的な結びつきを容易に見つけることができよう。

谷村が空に輝く星で、kalafinaが地上から星に願いをかける女の子、という図式が目に浮かぶような曲構成。勇壮なスコットランド風マーチで幕が開けるイントロから、ELO風スペイシー・サウンドが舞うアウトロへ向かうダイナミックな飛躍ぶりもさることながら、注目したいのは驚異的な歌唱力と美しいハーモニーでつねに聴き手を圧倒する三美神がいつになく可憐な歌声を聴かせているところ。頬を染める乙女のような佇まいで、どこか懐かしさを醸す谷村メロディーを柔らかく歌ってみせる。そんな4人が最大で8声重ねて作り上げた分厚い声のカーテンは実に明媚だ。耳に痛いほど眩しさに溢れたクリスタルなハーモニーは爆音で聴くと、よりいっそう〈未来〉が見えやすくなるだろう。

来年デビュー45周年を迎える谷村と活動7年目のkalafinaが、年齢差もキャリア差を感じさせず、優れたチーム感を醸し出している点こそ最大の聴きどころかもしれない。それは歌詞にある〈それぞれの時を つむいで/つながる もの がある〉というメッセージの見事な実践と言えるが、異なるふたつの要素(概念)を交わらせることはそもそも楽曲の重要なテーマなのである。例えば懐かしさと新しさ(昭和歌謡的なムードと洋楽ポップスのエッセンス)、過去と未来、夢と現実、そして地上と星など、それらをつなぎ合わせていく役割を担っているのが時をかけるような4人のハーモニーなのではないかと、そう思えてならない。未来はいまよりもっとカラフルなのだと伝えてくれる“アルシラの星”もまた100年先の旅へと誘うチケットになり得ると思う。