ダンサブルかつアップビートで、インタールードには船をもやい帆を畳む音、霧笛のコール・アンド・レスポンス、海鳥や雨音、汽車の音をコラージュしたトラックを使用した『ヴォルタ』は、変貌し続けるビョークのキャリアに加えられた最も新しいチャプターであり、同時にアーティストとして新たな飛躍を遂げた作品にもなっている。
「私の普段の仕事のやり方とは全然違ってたのよ、」ビョークは今回で6枚目となるセルフ・プロデュース作品について語る。「『ホモジェニック』や『ヴェスパタイン』、それに『メダラ』では、とっかかりがあるとすればそれはまずリズムだったの……でも今回はそうじゃなかったのよ、何故かと言うとそれは私が自分の求めるものをよりエモーショナルな部分で理解していたから。私がこのアルバムでやりたかったのは、とにかく楽しむってこと、そして十分な満足感と高揚感が得られる作品を作るってことだったのよ」
今回のアルバムは、とりわけ全編人間の声だけ作られていた2004年の前作『メダラ』とは明らかに違っている。「もう一度リズミックなものに回帰したかったの」ビョークは言う。
もっとも興味深いことに、『ヴォルタ』のビートは一番最後に決まった。「アルバム一枚作って、最後の2、3ヶ月の段階で唯一埋まっていないジグソーパズルのピースがリズムのパートだったのよ。リズムに関しては随分沢山色んな試みをしてみたんだけど、私が全部ボツにしちゃったの。結果、彼女はその“ワイルドさ”を体現するプレイヤーとして、アンダーグラウンド・ノイズ界とジャズ界でそれぞれ最も躍進めざましい2人のパーカッショニスト、ソニック・ユースのコラボレーターであるクリス・コルサーノとライトニング・ボルトのブライアン・チッペンデールを起用した。
「もし500年生きられたら、沢山の人たちとコラボレート出来るのにって思うわ。でも私の中にはそれとは別に、もの凄く一途で潔癖で、コラボレーションに対して凄く慎重になっている部分もあってね。自分の中に本当にそれがやるべきことだっていう決意と、お互いに同等のレベルでギヴ・アンド・テイクが出来るって確信がなければ試してみるのも止めた方がいいと思う」
『ヴォルタ』に関して言えば、前述の他に国際色豊かなキャスト、アフリカのコノノNo.1(2006年にBBCワールド・ミュージック・アウォードを受賞)をはじめとして、マリのコーラ奏者トゥマニ・ジャバテ、中国人の琵琶奏者ミン・シャオ・ファン、そして女性ばかり10人編成の全員アイスランド人によるブラス・セクションが含まれている。長年のコラボレーターで、LFOで知られるミュージシャンのマーク・ベルも今作で様々な楽器をプレイしており、またビョークとアントニー(アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ)の楽曲も2曲収録されている。
今話題の売れっ子プロデューサーのティンバランド(ジェイ・Z、ミッシー・エリオット、グウェン・ステファニー等)と彼女の組み合わせでは、傍目から見るほど意外なものではない。「(ティンバランドは)11年ぐらい前に私の“Joga”をサンプリングしてね、彼はプレスでも何度となく私の14年前のの曲“Venus Is A Boy”が大好きだって言ってたのよ、」ビョークは言う。「私たちは何度かパーティで会っていたし、ずっと長い間お互いに対する共通の敬意みたいなものがあったの。で、ここ最近の2、3作でシリアスなものが続いたから、 私はちょうど『ねえ、お楽しみはどこへ行ったの?』って気分になってたのよ。それで私は1年前に彼に電話をかけて言ったのよ、『何か一緒にやりましょうよ』って」
ティンバランドと初期の作風への回帰以外にも、ユニセフの代表として2005年1月、津波に襲われた後のインドネシアを訪問した体験が『ヴォルタ』のビート・カウントを増やすことにつながるファクターとなった。「住民30万人規模の村で18万人が亡くなって、人々がまだ遺体を掘り出す作業をしているところだったの、遺骸や骨の臭いも生々しいままでね、」彼女は言う。「津波は家々を一気に押し潰して運び去ってしまったのよ。まだそこにそのまま床があったりしてね。私が同行した人たちはちょうど彼らのお母さんのお気に入りの服を見つけたんだけど、泥にまみれていてね、もう本当に、こんなのあり得ないって感じで……“アース・イントゥルーダーズ”はティンバランドが最初に出してきたビートで、そこから一気に曲が出来てきたのよ。ある種空想の世界の話だけど、例えば人の津波がホワイトハウスを襲って、その人たちが地球全体に広がっていくの……人の波がね。だって、人類って、私たちはひとつの民族じゃない、そうでしょう? 宗教がどうのなんていうくだらない話は止めましょうよ。みんな、と言うか少なくとも私の友達の多くは、敬虔な信仰を持つ人々の尊大さにすっかり疲弊させられていると思うの。そんなのもう止めましょう。私たちはみんなただの動物なのよ、だからユニヴァーサルなトライバル・ビートを作りましょう。私たちは異教徒よ。みんなで進んで行きましょう」
アントニーとのデュエットによるバラード曲“ザ・ダル・フレイム・オブ・デザイア”はブライアン・チッペンデールの混沌としたドラミングに支えられており、表向きはビョークの幼い娘のことを歌った“アイ・シー・フー・ユー・アー”にはミン・シャオ・ファンの胸に迫るはかなげな琵琶の音色とクリス・コルサーノのビートに14パートのブラス・アレンジメントが使われている。この曲の歌詞について、ビョークは「子供を授かった時にふと感じた気持ち……3ヵ月後にはその子がもうこんなに大きくなっていて、時間てなんて速く過ぎていくんだろうと思った時に、自分が子供たちと一緒に過ごす時間は決してそう長くはないんだってことを悟ったのね。だって2099年のことを考えてみてよ、その頃には私たちはもうどっちもただの骸になってるでしょう。だからね、私たちは今を思い切り楽しまなきゃ」
最後にこの最新アルバム『ヴォルタ』についてビョークはこう語る「宗教の尊大さに嫌気が差して、『OK、ちょっと待って。私たちはもしかしてひとつの民族じゃないかしら、そうよ、私たちも自然の一部なのよ』って考えること、そしてそのことに対してある種の忍耐を覚えるように促すこと……でも結局のところ今は2007年だからね、別にヒッピー的な発想じゃないし、ルーツに還れって言うつもりもないわ。とにかく前に進んで行こう、すべてはそこにつながるの」
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