70年代フィラデルフィア・ソウルの発信地として、ソウル・ファンには古くからなじみの深いフィラデルフィア。この地の高校に通
っていたウォンヤ・モリス、マイケル・マッケリー、ショーン・ストックマン、ネイザン・モリスの4人は、88年にヴォーカル・コーラス・グループ、ボーイズIIメンを結成した。当時マイケルとネイザンが19歳でショーンが18歳、ウォンヤに至っては17歳という若さだった。グループ名は、彼らにとって憧れの存在であったニュー・エディションの同名曲からの引用。しかも、ニュー・エディションが出演するラジオ・ショウを観に行った際、メンバーであるマイケル・ビヴンズの前で彼らの「キャン・ユー・スタンド・ザ・レイン」を歌ったことが契約につながったというのだから、人生どこでどう展開するかわかったものではない。まさにアメリカン・ドリームを地で行く話だ。いずれにせよ、ビヴンズもゲストとしてラップを披露する91年の軽快なデビュー・シングル「モータウンフィリー」は全米R&Bチャート4位
、同ポップ・チャート3位の大ヒットに。同曲を含む彼らのデビュー・アルバム『クーリーハイハーモニー』からは他にも、ともにR&Bチャートでのナンバー・ワン・ヒットとなった「グッバイ・トゥ・イエスタデイ」、「ウー・アー」、ウェズリー・スナイプス主演映画"White
Men Can't Jump"のサントラに収録された「シンピン」、ジャクソン・ファミリーを題材にしたTVドラマ"The
Jacksons:An American Dream"に使用された「スティル・オブ・ザ・ナイト」等々、7曲ものヒットが生まれた。しかし、最も大きな意味を持っていたのは、なんといってもエディ・マーフィー主演映画『ブーメラン』挿入曲である「エンド・オブ・ザ・ロード」の大ヒットだ。デビューから1年後にリリースされR&Bチャートで4週連続、ポップ・チャートで13週連続1位
の実績を築き上げたこの正統派コーラス・ナンバーは、結果的に彼らの存在感をさらに大きくすることに成功したのである。
ブライアン・マックナイトが全面的にサポートした93年のクリスマス・アルバム『レット・イット・スノゥ』(同タイトルのシングルもヒット)を経て94年に発表された2ndアルバム『II』は、プロデューサーにダラス・オースティン、ジミー・ジャム&テリー・ルイス、ティム&ボブ、ベイビーフェイス、L.A.リード、トニー・リッチ、キャラクターズ、ブライアン・マックナイトら錚々たる布陣を招いた意欲作。スマッシュ・ヒットとなった「メイク・ラヴ・トゥ・ユー」以下「ベンデッド・ニー」、日本ではクルマのCMにも使用された「サンキュー」、「ウォーター・ランズ・ドライ」、「ヴァイビン」等のヒット実績からもうかがえるとおり、波に乗った彼らの意気込みがはっきりと伝わる作品だ。
97年の3rdアルバム『エヴォルーション』は、ベイビーフェイス、ジャム&ルイスらおなじみの面
々に加え、ショーン"パフィ"コムズ、キース・クラウチらもプロデューサーに加わった作品。「時代の旬」としてのトップ・プロデューサーを起用しながらも、自らの基本を貫き通
した爽やかな意志が感じられるアルバムだ。前述したとおり彼らにとって大きな意味を持つニュー・エディションのナンバー「キャン・ユー・スタンド・ザ・レイン」をカヴァーするなど、ヴェテランとしての風格も随所に表われている。
どのアルバムについても言えることだが、時代の先端をキープしつつも自身の在り方をしっかりと見据えたバランス感覚、それこそがボーイズIIメンの「ボーイズIIメンらしさ」なのではないだろうか。
90年代初頭のコーラス・グループ・ブームの火つけ役としても知られているとおり、ボーイズIIメン最大の持ち味は、言うまでもなく流麗なヴォーカル/コーラス・ワークにある。言い方を変えれば、伝統的なソウル・コーラス・マナーに則し整然と折り重なるヴォーカル表現と、親しみやすい楽曲との見事な融合感。今日の彼らがR&Bリスナーだけにとどまることのないクロスオーヴァーな成功を実現しているのも、この基本を守り通
してきたからに外ならない。
そして、『エヴォルーション』以来3年ぶりとなるのが今回のアルバム『ネイザン
マイケル ショーン ウォンヤ』だ。この年月の間にR&Bシーンはずいぶんドラスティックな変化を遂げているが、時代の色彩
を反映させつつ、同時にグループとしての基本姿勢を頑なに貫いた素晴らしい作品だ。テクノ風な曲があったりして、ヴァラエティの多彩
さも魅力的。90年代を一気に駆け抜けてきた彼らが新たな世紀を前に打ち出した記念碑的な作品としても、多様化/拡大化するシーンに対するヴェテランからの回答という意味においても、このニュー・アルバムは大きな意味を持つことになるだろう。
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