BIOGRAPHY

TAIO CRUZ / タイオ・クルーズ


Bio 初の全英ヘッドラインツアーを昨年11月29日に終えたタイオ・クルーズ。1年6ヶ月に渡るそのツアーは、グランドフィナーレを飾り成功をおさめた。  ロンドン生まれのシンガー/ソングライター/プロデューサーであるタイオ、アーティストへの楽曲提供という”裏方”の仕事を卒業し、このツアーで自らがスターとなり、表舞台でのパフォーマンスを披露した。この1年6ヶ月のあいだに、デビューアルバムをリリース、ゴールドを獲得、ヒットシングルを5枚リリースし、英音楽賞(ブリット賞)を受賞、トップ10チャートを駆け巡り、何万人という観客のまえでステージを披露。これらすべてを26歳という若さで達成している。。

2008年のツアーも無事終了し、ようやく一息つけると思うや否や、翌日11月30日には飛行機に乗っていた。目的地はアメリカL.A.。手荷物にはツアー中練り上げていたアイディアを引っさげ、セカンド・アルバムの準備に掛かった。しかしそう単純に終わるハズはなかった。タイオはL.A.で一連のミュージシャンたちと仕事をし、その後ロンドンに帰った。
「納得するまで、いい曲にしたかった。結局ロンドンに戻ってね、そこでアルバムの大部分を制作することになったんだ」とポップ界で最も礼儀正しい男=タイオは言う。  
その結果、待望のニューアルバム『ロックスター』と、そしてエレクトロなビートが脈打つ1stシングル曲「ブレイク・ユア・ハート」が仕上がった。

収録楽曲も、粒選りなものばかりだ。レイヴの雰囲気とみだらな歌詞の「ダーティー・ピクチャー」はクラブ・アンセムとして、「フォーリング・イン・ラヴ」はコールドプレイのR&B版として、聴けば納得のこの2曲。今回の『ロックスター』は、前作『ディパーチャー』よりも、タイオの楽曲センスにはさらに磨きがかけられ、深みある男の自信できらめている。従来より引っ張りだこのソングライター/プロデューサーとして才能を認められ、レオナ・ルイス、ジャスティン・ティンバーレイク、アッシャー、ブリトニー、アナスタシア、そしてUKのシュガーベイブスやJLSなどの楽曲に関わってきた。また、ティンチー・ストライダーのトップ3ヒットとなったシングル曲「テイク・ミー・バック」を共同制作、feat.アーティストとしても参加。チャートNo.1に輝いた「ネヴァー・リーヴ・ユー」でも楽曲制作に関わっている。タイオのソングライティングの才能はダラス・オースティンにも認められ、「次世代のベイビーフェイス」と呼ばれた。リアーナの大ヒット曲「アンブレラ」では、プロデューサーのトリッキー・スチュワートに”オリジナル・シンガー”としても抜擢されていたほど。

タイオとは付き合いが長く、共にコラボレートも果たしたフレイザー・T・スミス(クレイグ・デイヴィットやティンチー・ストライダーを手がけた)についてタイオは語る。  「すごいヤツさ。ふたりで何十曲もレコーディングしたよ。もちろん僕一人で作ったのもあるけれど、最終的に、UKっぽいサウンドに仕上げたかった」  
フレイザーとタイオの相性の良さで、さらにアルバムは勢いづいている。その後のL.A.でのセッションもキャンセルされ、飛行機を使ってのカーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)の削減にも貢献し、とても”グリーン”なアルバムに仕上がっているのも魅力のひとつ。とは言いながら、「アルバムのカラーを一言で表すと?」と訊かれると、「ダークブルー、いや、無垢なホワイトかな」と、即答している。アルバムの”カタチ”については、「外見はコカコーラの瓶だけど、とても高級な香りがただようもの。たとえばハロッズ(ロンドン高級百貨店)のようなね」と語っている。  

そして決め手がアルバムのサウンド。
「型にはまった”アメリカンR&B”を期待されてるってことには早い時期から気づいていたよ。でも僕が聴いていた音楽は、キーンやコールドプレイ。だからロンドンに戻ったとき、みんなに言ったんだ。こんな音楽をやりたいって。すると皮肉っぽくこう返された。「上手くいくかな。まあ、がんばれよ」ってね。そして何曲か完成させ、仲間に聴かせてやった。するとみんな驚いてたよ。「あぁ、なるほど!こういうことか!」って。デビューアルバムでは「ヒップホップとR&B」の境界線を歩いてた。今回のアルバムでは「ダンスとエレクトロ曲、それからロックやR&B」の境界線を進んでる。はっきりとジャンルを決め込むんじゃなくて、さまざまな要素を入れると音がクールに聞こえる。でもやっぱり、僕が作る音楽の根底にあるのは、その骨格と肉付けの部分にあるのは”ポップ”だよね。僕が作る音楽は最終的に、ポップミュージックだからさ」

恋愛についての曲だけでなく、恋愛を夢見る曲も収録されているという。「恋人のことを想像しながら曲にするんだ」、とタイオは笑みを見せて話す。  
「たとえ現実に恋人がいなくても。  夢に見る人のこととか、彼女としたいことを、溢れるままに文字にするのさ」  
過激な内容のリードシングル「ブレイク・ユア・ハート」でも、ユーモアあふれる彼のソングライティングが垣間みられる。  
「僕は女たらしじゃない!」、と言うタイオだが、サビではこう歌われている。  「キミのハートを奪って/傷つけちゃいそうさ」。  
そのセリフについてタイオはこう語る。「男ってのは愚かだよ。感情を抑えられないときがあるから。この曲では恋人にこう言ってる。’僕は僕なりにキミを愛したい、だけど、キミのハートが傷ついても知らないよ’ってね。ときどき僕ら男は、バカなことをしちゃうからね」  
そんな男たちにも、この曲は捧げられている。「女の子のハートを傷つけてばかりの、世の男たちに向けて喝破してるのさ」  
そしてタイオはこう続ける。「僕かい?僕は彼女のハートを・・・傷つけたりなんかしないさ・・・今まではね」

タイオのサウンドの秘訣は、音楽に対する彼の幅広く、そして奥深いアプローチにある。まず何よりも彼は音楽のファンであり続けている。  「大好きなアーティストは?」と訊けば、「音楽そのもののファンさ」と答えてくれる。彼のiPodはいわゆる「ヒットソング」であふれている。その音楽への態度は、たとえばアンダーグラウンドやオルタナティブの音楽を愛して止まないミュージシャンたちとは対照的だ。実際、タイオに「好きなヒット曲のジャンルは?」と訊けば、「どこでも愛される曲」だと言う。そしてやはり、彼の原点には「恋愛」がある。「このアルバムの音は、だれかに恋する気分に似てるんだ」、とタイオは言う。  「それっていろんな”音”がある。 たとえば、恋すると、ハートがドキドキするし、恋すると、恋人と一生を過ごしたくなるし、恋すると、今日は顔も見たくない!って気分の時もあるし、恋すると、ケータイでエッチな写メを送ってもらうのが待ちきれない時もあるし。そんな恋する色んな”音”が、このアルバムには詰め込まれているのさ」

ポップミュージックへのこだわりとその熱意で、UKそして大西洋を隔てた米国でも彼の音楽は受け容れられた。自分のための曲を作っている時も、あるいは他のアーティストのために楽曲を提供している時も、クリエイティヴなことに身を投じている瞬間はどんな時も、タイオは仕事をしている気分を忘れているという。  たとえ多くの時間をL.A.で過ごしたとしても、いわゆる”ポップシンガー”たちとは確実に一線を画している。熱心である傍ら、恭(うやうや)しさも兼ね備えている。  そこがイギリスのアーティストの良さかもしれない。いまだに楽曲が完成すると、それを自分で歌って何万枚を売り上げるか、あるいはアッシャーに渡して何百万枚を売り上げてもらうか、そこは正直に「アッシャーに渡そう!」と言えるアーティストなのだ。つまり、アルバムが1枚仕上がるほどの楽曲を完成させ、今回はそれをタイオ自身が歌っているという背景は、完成度の高さを物語っている。アルバムのどの曲をとっても、どのメロディーも、サウンドも、そしてリリックも、タイオ自身が手がけたもの。「あからさまな曲は書きたくない」、と彼は言う。「曲のなかに僕は隠れてるのさ。じっくり聴いて、奥深くまで僕を見つけにきて欲しい」、と。