マイケル・リーグによるプレス・リリース

2015.03.13 TOPICS

2014年1月にスナーキー・パピーがグラミー賞を受賞した際、一番聞かれた質問は、「今回の受賞は死ぬまでに達成したいことリストに入っていましたか?」というものだった。彼ら一人一人への私の答えは「ノー、私のリストには1つのことにしかない。死ぬ前にやりたい唯一のことはオーケストラとアルバムを作ることだ」と言うものだった。

あの3ヶ月間、これが話題の中心だった。2013年10月、ユトレヒトで行われた『ウィー・ライク・イット・ヒア』のレコーディング・セッション中、友人のフリーデリケ・ダリウスがメトロポール・オルケストのマネージャー2人をゲストとして招いてくれた。一緒にパフォーマンスを終えて10分もしないうちに、私たちは一緒にアルバムを作るための計画を立ててしまっていた。時に人生とはこんなに容易だったりするものだ。毎回そうはいかない、と言うよりは大方はそううまくはいかないが、たまにそうなったりするのだ。

このような機会の中で、“スナーキー・パピー・ウィズ・ストリングス”のようなものにしてしまうことだけは回避したかった。11月にドイツをツアーしていたベルリンでのある夜ちょこっと抜けだし、指揮者のジュール・バックリーと会って、どのような曲が良いか話し合った。私たちは、このハイブリッド・アンサンブルのためだけに曲を書き下ろすのが理想的なシナリオだと話し合った。私はジュールに尋ねた、「メトロポールの編成をちょっとだけカスタマイズしていい?」と。「もちろん」と、その許可はおりた。「じゃあ、ちょっとよりももう少しだけというのはどうだろうか?」―「どうぞ、どうぞ」。「オーケストラのアレンジはしたことないけれど、アレンジを自分でやっていい?そして最後に君に尻拭いしてもらって、僕は知ったかぶりをしていい?」―「全く問題ないから」。「今この場で、君がノーと言うような質問は何かある?」―「ないね」。

このアルバム制作における経験全てを要約するならば、ジュールとのこの会話こそが全てを表しているだろう。最初から最後までこんな調子だった。私はツアー中、バスや飛行機の中で、ショーの前後の楽屋で曲を書いた。作曲作業全体を通して、私は人間として地球と一番つながっていると思える唯一の場所を見つけたいという思いに支配されていた。純粋無垢で恐ろしい、畏敬の念を起こさせる、不可解で、壊れやすく、ストイック、何かを物語り、逃げ込める場所、迷路、寺、墓、聖域、議会でもあり、牢屋でもある、そんな場所。それは森だった。

どんなスタイルもこなす汎用性と、信じられないレベルのグルーヴ感、そしてフィーリング(オーケストラの世界では珍しい)という、メトロポール・オルケストの強みを強調する縦糸で紡がれた組曲、1つの曲にしたかった。各楽章は、私がこれまでに行ったことのある異なる森を描いている。ポルトガルの山から、ルイジアナ州の湿地、カリフォルニア州北部の巨大なレッドウッドに、ヴァージニアの私の隣人の家の後ろにある土地、そして子供時代の私たち皆の頭の中に存在していた暗い森まで。あの、夢の中で迷子になったり、呑み込まれたりした子ども時代の森だ。夢から目覚めると汗だくになって、安心感を求めて親の部屋に駆け込んだものだった。

私は、これまで私たちがやってきたことと、いわゆる“オーケストラ・アルバム”に期待されていることとは全く異なるものを作りたいと思っていた。このアルバムは100%ライヴ録音で、音をより綺麗にしたり、厚みを出したりするためのオーヴァー・ダブや、“スタジオ•マジック”は使わなかった。300人の観客が2晩に渡る4公演に参加してくれ、私たち出演者の耳に聴こえている音と全く同じ音をヘッドホン越しに聴いてもらった。オーケストラの低音域には、ベースとコントラバス、クラリネット、低音の金管楽器を配置し、ストリングスを増強した。私たちは、曲も、ミュージシャンたちの物理的な位置も、人間が花として一部となれる森を作るように決めた。そしてその中に聴衆が座るような形となった(今振り返っても、ストリング・セクションの間にいた人が羨ましくてならない)。私たちは、自分たちがどこにいるのか忘れ、とにかく音楽に取り囲まれるような場所を作りだすことを目指した。

オーガニックというテーマに沿って、アナログ楽器しか使わず(通常のシンセサイザーの要塞の代わりにフェンダー・ローズ、ウーリッツァー、ピアノ、クラヴィネット、ムーグ、そしてオルガン)、引き出しがたくさんあるオランダの職人たちには地元の再生可能な森林から持ってきてもらった金属や木材を使って風景を彫刻してもらい、ディスクに触れる前に中身の音楽を語ってくれるようなアルバムのアートワークを作るためにミーナ・ミラフォラ(映画ハリー・ポッター・シリーズのグラフィック・デザイナー)を引っ張ってきた。公演の2夜は、極上の至福に入り込んでいく、夢のようだった2夜だった。メトロポール・オルケストが音楽に全身全霊を注いでくれたこともあり、私は彼らなしにショーを行うことが想像できないくらいまでになっていた。最終的には何とか自分の中で折り合いはつけられるようになったのだが。

伝説的なレコードレーベルであるインパルス!よりアルバムをリリースできることは、この10年間、インディーで8枚のアルバムをリリースした私たちにとっては言うまでもなく大変光栄なことだ。これから先、どのようなことが待ちうけているかが楽しみでならない。また、芸術的な完璧さが何よりも大切な人たちと共に仕事ができることは誇りだ-言うまでもなく、これは音楽業界ではなかなかないことだからだ。

この巨大な努力を全て振り返ってもこれ以上満足できることはないだろう。私は『シルヴァ』こそ、スナーキー・パピーの作品の中で最も挑みがいのある、ダイナミックで、ユニークなものだと感じている。制作過程で私たちが感じた喜びを、作品を聴いて下さる皆さんにも感じて頂ければ幸いに思う。

2014年11月 マイケル・リーグ