大ヒット映画『SING/シング』吹替え版音楽プロデューサー、蔦谷好位置がサウンドトラックの聴きどころやレコーディング秘話を語る!

2017.05.02 TOPICS

蔦谷好位置

現在大ヒット公開中の映画『SING/シング』の日本語吹替え版音楽プロデューサーを務めた蔦谷好位置が、吹替え版の音楽に込めた思いや苦労、更にはレコーディング秘話などを語ったスペシャル・インタビュー動画がYouTubeで公開された。そもそも同映画で吹替えが作成されたのは全世界で日本のみとのことだが、どういった経緯で日本のみ吹替え版の作成が可能になったのか、そしてレコーディングの際の秘話などをたっぷり語っており、これを見ればより映画とサントラを楽しめる内容となっている。

映画『SING/シング』吹替え版音楽プロデューサー・蔦谷好位置スペシャルインタビュー!『シング – オリジナル・サウンドトラック』の聴きどころとは?

【インタビュー全文】

——脚本、演出、物語の展開など、非常に細かい部分まで考えて丁寧に作り上げられた映画だと思うのですが、オリジナル版の音楽面における制作チームの拘りというのは、どういう部分で実感されましたか?

 まず何十曲とあって、短いものから長いものまで、たくさんあるのですが、本当に一曲一曲、丁寧にレコーディングしているなというのが感じられます。これだけの歌をレコーディングするのってもの凄く時間が掛かると思うんですよ。実はフルオーケストラのスコアをパッと書いて、それをフルオーケストラで一発で録る方が意外と早かったりするんです。準備は大変だけど、録るのは早かったり。こんなふうに人を呼んで歌って、というのを繰り返してやっていくというのは、本当に大変なことで、まず“やろう!”と踏み切った、そこにゴーサインを出したスタッフって本当に凄いと思いますね。あと、それをやり切った制作陣も本当に凄いと思います。

——時間的にはどういうプロセスで進んでいったのですか?

 話をいただいたのは去年(2016年)の夏の7〜8月くらいだったんですけれど、キャスティングを含めて実作業に入ったのは、10月下旬〜11月頭くらいですね。そこから2月上旬までやってたので3ヶ月くらい…4ヶ月近くみたいな感じです。

——たとえばスカーレット・ヨハンソンは、女優業でも演じないようなロック少女を吹き替えています。彼女は歌手としても数枚アルバムを発表していて、内省的で憂に満ちた歌声を披露していますが、それとも今回は全然違った役柄だったわけですが、同じように日本語の吹き替えにおいても、意外だったり驚かされた役者さんというのは?

 意外性なら……幾つかあります。台詞(の吹き替え)は僕は録っていなくて、映画を観て思ったのが、宮野真守さんが凄くコミカルで面白くて。歌はオーディションのワンシーンしかなかったので、どんな感じで演技しているのかと思ったら、それがメチャクチャ嵌まっていて、日本の声優さんのレベルの高さに驚きました。歌は長澤まさみさんですね。もともとドラマで歌っていたり、フェスで歌っているのを観たことがあったので、歌える人だというのは分かっていましたが、ちょうど彼女が『キャバレー』をやり始めるぞ、という時で、凄くトレーニングしていて、声が仕上がっていたんです。“ここまで! こんなに歌が凄いんだ!”という、いい意味での驚きというか嬉しかったです……って言ったらアレですが(苦笑)。本当に歌が素晴らしかったですね。演技も歌も超一流だな、と思いました。

——長澤さんの役は、途中でギターを持って曲を作りながら歌うシーンもありましたが、どのような形で進められたのですか?

 あそこは演技指導ということで、三間(雅文)さんの方で録ってもらったんです。泣いてるシーンなどは僕が一応先に録って、こっちで練習じゃないですけど“一回こんな感じで”とやりました。どちらかというと台詞の演技が入るところは三間さんにお任せしました。でも「コール・ミー・ベイビー」の、ちょっとがなる感じとか、スカーレット・ヨハンソンとはまた違うんだけど、いい意味で長澤さんだとは分からない、役に成りきっている声で凄く良かったと思います。

——そのカーリー・レイ・ジェプセンの曲や、ケイティ・ペリー、テイラー・スウィフトの曲などは、吹き替え版だけど英語で歌っています。それはそれでまた大変だったのでは?

 これはメチャクチャ大変でしたね。当初は全曲、翻訳させてもらいたかったんです。でも全部、翻訳自体がNGだったんです。それを一個ずつデモを作って本国に送って、少しずつ信頼関係を築いていって“あ、日本人、なかなかヤルじゃないか! これはイケるんじゃないか?”みたいに向こうが思ってくれて、だんだん許諾が取れていったんです。でも、幾つかどうしても権利的な問題などで無理な曲もあり、そうなると英語で歌わざるを得ない。となった時に、普段から英語でバリバリ歌っているシンガーじゃない人が多かったので……特に斉藤(司)さんや、坂本真綾さんは勿論歌ってらっしゃいますけど、英語で歌う人ではないし。内村(光良)さんと長澤さんはホント一瞬だったけど、坂本さんと斉藤さんは凄い頑張ってくれました。英語の指導の先生も来てくれて、クリスという、こっちで舞台とかもやってる人なのですが、その人が凄く厳しくやってくれました。僕的には坂本さんが音楽的に凄くいい歌を歌ってくれて、メロディもバッチリでニュアンスもバッチリで“OKです”って思っても、クリスが“No No No! ダメで〜す、もう1回!”とか言って“R”や“TH”“F”の発音などを凄く丁寧にやってくれて、結局ホント短いシーンのために2日くらい掛けてやりました。坂本さんも“はぁ、心が折れそう”とか言いながらも、ずっと一生懸命やってくれたんです。スクリーンからは伝わらない小さな努力の積み重ねというか“そこは別にいいだろう?”というところに拘り続けるのが、やはり僕だったり、演者さんの仕事だったりするのだと思います。そこを諦めなかったから、なかなか良い物ができたんじゃないのかなと思います。

——本国側としては全曲、できる限り英語のまま歌ってほしかったわけですか?

 そうです。日本以外の国は翻訳はNGなんです。日本だけOKになったんです。翻訳すること自体に違和感を感じる人も勿論いると思うんですよ、日本にも。僕も音楽ファンとして、子どもの頃だったら絶対に“何してくれてんだ!”となったと思うんですけれど、ただ映画を観た時に……こんなこと言っていいのかな?……もう全部言っちゃうので、あとから切ってください(笑)。スティーヴィー・ワンダーは超スーパースターというか、僕にとって5本の指どころか3本の指に入るくらい尊敬しているアーティストなんです。でも凄く客観的に見た時に、この『シング』という映画を観る層は、子どもが中学生くらいまで、その子どもを持つ親が30〜40代後半くらいまでとなりますよね。スティーヴィー・ワンダーの3部作とかをリアルタイムで聴いた人となると、もう50代か後半とか60代だと思うんです。この「ドント・ユー・ウォーリー・アバウト・ア・シング」という曲は、その3部作の2枚目の『インナーヴィジョンズ』というアルバムに入っていて、僕は大好きな曲なんですが、スティーヴィー・ワンダーの曲の中では超メジャーというわけじゃないと思うんです。映画のクライマックスであれが流れるってことで、やはり感動して泣いてもらいたいし、興奮してもらいたい時に、それを日本人の歌手が英語で歌うこと自体のハードルが高いのに、さらに英語を理解できないとなると、子どもたちがポカンってなっちゃう。それは、もったいないなと思ったんですね。洋楽に触れるチャンスがもっと日本の子ども達だったり人々にも増えたらいいなと、最初に英語版を観させてもらった時に思いました。“これは日本の映画にとっても、音楽にとっても大きなチャンスだな”と思って、“今までにない前例のないような吹き替えができれば”とスタッフと話してやった次第でございます。

——吹き替えの台詞と歌を、まったく別々に進めるにあたって、その間をスムーズに繋ぐための配慮というのは?

 そこはそんなに考えなくても、というか、三間さんはプロ中のプロで長年ずっとアニメをやってきている方なので、そこは絶対的に信頼をもっていました。プラス、本国の作ってきた映画の完成度が凄く高くて、本国もやはり台詞と歌は別で録っているんです。それで出来るのであれば、普通にスムーズにやって大丈夫だろうということでした。それに今回、台詞がたくさんあって……本当にミュージシャンというのはMISIAさんと大橋卓弥くん、くらいですかね……主役の中ではそんな感じで、あとは演技もプロの人たちなので、そこはまったく心配せずにできました。それから細かいことなのですが、使っているマイクがスタジオによって違っていたりすることがあり、ちょっと距離感や肌感が変わってくるので、ミックスではそこにメチャクチャ時間を掛けました。EQだったり、ちょっとリバーブを掛けたり、そこは凄く時間を掛けて違和感のないように繋いでいきました。

——台詞と歌は、同時進行だったんですか?

 ほぼ同時進行ですね。

——台詞を入れるのは、けっこう早くできますよね。

 そうみたいですね。

——対して、音楽は大変ですよね(笑)。

 音楽は、そうですね。でも、みんな上手だし、テイクはそんなに掛かってなくてスムーズでした。まあ、英語で時間の掛かった人もいましたけど、基本的には早くて、どちらかというと編集作業だったり、本国の映画の持っている質感に近づけるためのミックス作業だったり、そちらの方に時間が掛かりました。

——ミーナ役のMISIAさんは、最終的には存分に歌唱力を披露するわけですが、そこに行くまでにはなかなか人前で上手く歌えないシャイな役柄です。ここはもう少し抑えて、といったお願いをしたり、指導はされたのでしょうか?

 MISIAさんの場合は、英語版のトリー・ケリーが、スティーヴィー・ワンダーのオリジナル曲とはまったく違うフェイクをメチャクチャいっぱいやっているんです。スティーヴィーとはアレンジも違うし、転調もしまくるわけです。今回は他人の歌のカヴァーではなく、コピーをしなきゃいけないわけじゃないですか。台詞もあるし、リップシンクもあるし。(MISIAさんには)アーティストとしてプライドもあれば、なかなかやってもらえないようなことをやってくもらえた時点で、凄くありがたかったです。もう一箇所凄いのが、トリー・ケリーが「ドント・ユー・ウォーリー・アバウト・ア・シング」の中で本当に盛り上がる、ガーッて歌ってハイトーンで伸ばした時に、後ろのハリボテが落ちてフルムーンが見えるシーン。あれは映画にとって凄く重要なシーンなんですが、そこでハイAという(ピアノを弾きながら)……普通のAの、更に上のハイAなんですが、これをトリー・ケリーは地声でやってるんですね。“これを出せる人いるかな?”って最初に考えてた時に、日本ではMISIAさんくらいしかいないだろうと思ってオファーしたんだけれど、ところが上がってきた音が、オリジナルより4度高い音まで出しているんです(笑)。さすが“MISIAここにあり!”だなと。本国の人たちも“誰だ、このシンガーは?”と驚いていました。ピッチはそこだけ変えているけど、リップシンクは完璧にズレてない状態になっているので、全然違和感もないです。字幕版と吹き替え版を観比べる時に、ひとつ面白いポイントとして“お〜、なるほど、そういう違いがあるんだ!”と聴き比べも出来ると思います。

——英語の曲に関しては、オリジナル・アーティストの歌ではなく、映画版の歌を基本的にコピーしているわけですか?

 英語の曲も日本語の曲も、節回しに関しては映画のものを完コピしています。歌詞を書いてくれた、いしわたり淳治がもう完璧なリップシンクの日本語を書いてくれたんです。観ていて全然違和感ないと思うんですけれど、動物の口が英語をしっかり発音している口になっているのですが、その入口と出口を完全に合わせてくれたので、真ん中が少しズレてもリップシンクがズレたようには見えないんです。そこには凄く拘って、淳治くんと一緒にやりました。基本的には日本語の歌も、英語の歌も、本国の字幕版を踏襲しました。アーティスト本人のオリジナル版ではありません。

——あくまでもコピーでというのは、みなさんに事前にお願いされていたのですか?

 そうですね、勿論聴き込んでもらっていましたし、どうしても出来ないところもあると思うのですが、それもスタジオで“こういうふうにやれば、出来るんじゃないか?”とか言って。大橋卓弥くんなどは、曲のタイプがいろいろあったんですが、それも完璧にやってくれましたね。

——大橋卓弥さんは、ジョン・レジェンドの「オール・オブ・ミー」をソウルフルに歌ったかと思えば、最後はエルトン・ジョンの「アイム・スティル・スタンディング」で、振り幅が凄く大きかったですよね。

 “ジョン”って名前だけ一緒ですからね(笑)。サム・スミスの「ステイ・ウィズ・ミー」にコブシっぽい節回しがあって、そこがどうしても出来なかったんですけれど、“こんな感じじゃないかな?”と言って2人で試行錯誤して、最終的には凄くいいものになった感じです。エルトン・ジョンの曲は、彼も好きで聴いてたようなので、逆に日本語になって歌いにくかったというか。でも、掴んだら一瞬で終わりました。凄かったです。

——その他、日本語の吹き替え版を作るにあたって、特に大変だったなと思われるのは?

 大変だったのは、後ろで流れている音……カラオケでいうオケですよね。本当はドラム、ベース、ギターなど各楽器パートに分かれているものなのですが、それが2ミックスという状態で来たんです。分かれている状態だと、歌う人がピッチが取りにくかったら、“ちょっとベースを上げてください”とか“ピアノを上げてください”とか出来るんだけど、完全な2ミックスだったんです。しかも絶対弄っちゃダメという指定が本国からあったんで、それが一番大変でしたね。2ミックスに歌を載せるので、基本何も弄れない状態で、それに対して歌のボリュームだったり質感を変えるというのは、意外と難しかったです。まあ、マニアックなことですが(笑)。それ以外は、みなさん本当に素晴らしいシンガーだったので、レコーディングで苦労したことは無いですね。

——本国側のそこへの拘りというのは?

 う〜ん、素材がそれしか来なかったんですよね。“クレ”とは言ったんですが、くれなかったんです。でも、あとからジャパン・プレミアの時に向こうのマイク・ノブロックというちょっと偉い人(アルバムのエグゼクティヴ・プロデューサー)が来て、その人に話したら“言ってくれれば、コウイチ送ったよ〜”みたいな(笑)。“俺に直接言ってくれれば良かったのに”とか言われて、そういうことも勉強になりましたね(笑)。いろいろ人が間に入ると、やっぱり大変になるんだなと、ハイ(苦笑)。


ーーこの映画で使われた老若男女、誰もが楽しめる音楽からは、子どもたちに良き音楽を伝えたい、という制作サイドの思いも伝わってきました。吹き替え版の制作でも特にそのような思いを込めて作った箇所はありましたか?

 脚本などは勿論弄れないし、僕がやれることというのは音楽を良くすることだったので、もともとこの映画の持っている群像劇としての質の高さというのがあり、そこを気持ちとしては意識しながら、とにかく一個一個丁寧にやろうということですね。あとは子どもが歌っているところだったり、そのキャラクターの“年齢が大体どのくらいだろう?”というのは、メチャクチャ意識しましたね。そこがブレてくると高校生くらいの役なのに、オバサンが歌ってるように聴こえちゃったりとかしたらオカシイじゃないですか。年齢が高い人のはずなのに、高い声だったりしてもオカシイしといった矛盾が起きないようにってことです。そこを押さえれば、映画本来が持っている本当にクオリティの高い群像劇としてのモノが伝わるだろうと思ったので、そこらへんを丁寧にやったという感じです。

——このサントラを聴くにあたって、リスナーが抑えておくべき3つのポイントを挙げていただけますか? こういう部分を意識して聴けば、より楽しめるよというお勧めポイントがあれば。

 日本語の吹き替え版が3曲収録されているので、その1曲ずつに関して語ればいいかもしれませんね。

 「セット・イット・オール・フリー」は、映画を観てもらえれば分かると思うのですが、一回長澤さんが歌って、途中で画面が途切れるんです。で、もう一回復帰してきてサビを歌っているんですけど、それをこっちではオケがなかったので、無理矢理繋いで作っているんです。その繋いだ感がたぶん、まったく無いと思うんですけれど、そういうカラクリがあったんだ、苦労があったんだというのを分かっていただきたいかなと(笑)。あとこの曲は映画の中でも数少ないオリジナル曲なんです。他は基本的に有名なアーティストの曲で、ビートルズだったり、スティーヴィー・ワンダーだったり。でもこれは映画のために作られた曲で、それを日本語にしているのだけれど、この曲はなんというか……ちょっと最近はないかもしれない2000年代や90年代にありそうなパワー・ポップ・ロックぽくて……ポスト・パンクぽい感じの音楽なんだけど、凄くメロディアスで日本の邦楽にも通じるところがあると思うんです。いしわたりくんの作ってくれた日本語の歌詞が本当に素晴らしくて“♪いらない、いらない、もう”のところとか、英語版と聴き比べた時、“ああ、こういうふうになるんだ!”という面白さがあると思うので、ぜひ本国版と日本語版を聴き比べてもらいたいです。

 「アイム・スティル・スタンディング」を歌うジョニーは、勿論ゴリラはゴリラだけれど、ちょっと気の優しい、本当はギャングなんかになりたくなくて歌を歌いたいというキャラクター。歌声は少しハスキーなんだけど、大橋くんのほうが透明感があると僕は思っていて、伸びも大橋くんのほうがあるのかな。その違いによって曲がどう変わるのか、という楽しみ方があると思います。どちらもジョニーの役には合ってる曲だけど、“なるほど日本語だとこうなんだ”といった。映画の観え方も変わってくるかもしれないし、これを聴いてもう一度、字幕版や吹き替え版を観てもらえると面白いですね。

 山寺宏一さんが歌ってくれた「マイ・ウェイ」は今回、僕が最も衝撃を受けたレコーディングなんです。後半で“♪ねずみには〜”と歌ってから、ちょっと演技が入るんですよね。ヘリコプターが飛んできて、飛ばされそうになって“ぎゃんぎゃん”とか言うんですが、そこから先はワンテイクで終了したんです。ワンテイクを録ってから、僕はトークバックっていう話をするためのボタンを押しながら立ち上がって、泣いて“ありがとうございました、OKです!”と言って、ワンテイクで終わったという。僕はいろんな人とレコーディングをいっぱいやってきましたが、ワンテイクはこれが3回目くらいですかね。本当にないことで。山寺さんは、当然もっと歌いたかったとは思うんですけど、それほど素晴らしい歌でした。で実際、そのあとレコーディングも続けたんですが、やっぱり僕は最初の感動を信じていて“やっぱりコレで行きたいです”という話をして、それで行ったんです。その感じがマンマ収録されているので是非聴いて、“日本にこんな偉大な声優で、歌える人がいるんだ”ってことを知ってもらえたら最高ですね。本国の人たちももの凄く喜んでいて、向こうの翻訳のスーパーバイザーにジョニーさんという人がいて、“マイクは誰がやるの?”って訊かれて“山寺さんです”って話になったら“ああ、ヤマちゃんね、ダイジョウブ、ダイジョウブ”みたいな。もう絶大な信頼を得ているんですね、向こうからも。本当に超偉大な凄い人です。

——マイクに振り回されながら歌っているシーンですよね。

 そうそう、あそこが全部ワンテイクですよ。

——映像を観ながらやるわけですか?それとももう頭に入っている?

 勿論観てきてくれて、どういうふうにやるメチャクチャ考えてきてくれたんです。この「マイ・ウェイ」って曲が偉大すぎるし、フランク・シナトラのバージョンから布施(明)さんのバージョン、世界中の歌手が歌っているバージョンをYouTubeで聴いて研究してきたせいで、ちょっと寝不足で、少し寝坊しちゃって遅れて来ちゃったほど(笑)。というくらい物凄く研究してきてくれて、その姿勢がまず嬉しかったですね。あれだけ超一流で、大御所ですよ。第一線の人がそういう気持ちで仕事に挑んでいるんだというのも嬉しかったですし、それがこの曲の持つ力とリンクしている部分もあって、そういった意味の感動の涙もあってのワンテイク。本当に素晴らしいテイクが録れたと思います。

——吹き替え版が素晴らしいと評判ですが、そもそも吹き替えのお仕事はこれが初めてなんですよね?

 そもそも映画音楽の仕事もこれまで3本くらいしかやったことがないので、映画(の吹き替え)はなかったです。僕は映画の人ではなかったので。

——改めてこの作品を振り返って、蔦谷さん自身の拘り、やりがい、良かったなと思うのはどんな点ですか?

 まずやって本当に最高でした。いろんなポイントがあるけれど、山寺さん含め、長澤さん、斉藤さんもそうだけど、僕は普段ミュージシャンとばかり仕事をするので、普段仕事をしない人とたくさん仕事ができたこと。そして“こんな一流の人たちが日本にたくさんいるんだ”と知ることができました。自分の視野が大きく広がりました。あと本国から送られてくるオケだったり、オケのデータだったりを聴いた時に、もの凄く丁寧に作られていて、やはりハリウッドの映画のクオリティや熱意というのを“本当に凄いな”と感じました。最初は“吹き替えなんてフザケンナ”っていう感じの対応だったんだけど、それが少しずつ変わっていったのも嬉しかったと同時に、彼らはやはり誇りを持って作っていて、“自分たちが作った最高のものに手を加えるな”というプライドもあると思うんです。それに対してこちらも誠実に一個一個やっていったので、目線を下げて、レベルを下げるためにやってるのとは違っている。この映画の素晴らしさをより伝えるために何ももっといいポイントはないかと、お互いに歩み寄りながら、アメリカ本国と一緒に仕事が出来たのも、僕の今後にとっても活きるんじゃないかなと思います。

(了)

◆リリース情報

シング – オリジナル・サウンドトラック

『シング – オリジナル・サウンドトラック』(原題:Sing (Original Motion Picture Soundtrack))
・国内盤:好評発売中 UICU-1284 / 2,500円(税抜)
・デジタル配信中:https://umj.lnk.to/D1my2
・輸入盤:発売中