BIOGRAPHY

キース・ジャレット / KEITH JARRETT


キース・ジャレットのECMディスコグラフィーは、ソロ・インプロヴィゼーション、デュエット、トリオ、カルテット、オリジナル・コンポジション、マルチ・インストゥルメンタルでのヴェンチャー、クラシック・レパートリーの傑作、グレート・アメリカン・ソングブックの幅広い探求などを網羅している。
このようにして、数十年の間に膨大で広く評価された作品群が生まれ、その多様性は録音音楽の世界では全くユニークなものとなっている。

ジャレットのECMとの関わりは、1971年11月、プロデューサーのマンフレート・アイヒャーとの間で、その後大きな影響力を持つことになる。ソロ・ピアノ・アルバム『フェイシング・ユー』(1972)で初めてコラボレーション録音したことに始まる。
即興演奏家としてのキース・ジャレットの重要性はもはや強調する必要はないが、ニューヨーク・タイムズ紙のジョン・ロックウェルが言うように、彼は「第一級のクラシック・ピアニスト」でもある。
1980年代後半から、ジャレットは高い評価を得ている一連のクラシック録音をリリースすることでレパートリーを広げ、また多面的な作曲家として自作の作品も発表してきた。
ソロ・ピアノ・コンサートの概念を大きく変えた代表作『ケルン・コンサート』は、400万枚以上のセールスを上げる史上最も売れたピアノ・アルバムとされている。

 
キース・ジャレット・トリオの歴史

キース・ジャレットがゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットと共に”スタンダーズ・トリオ”で初めてレコーディング・セッションを行ったのは、
1983年1月のことだった。キースがトリオでスタンダード・ナンバーばかりのアルバムを制作する、との第一報が伝えられた時、それまでのキャリアを知る多くのファンは予想だにしなかった新展開に、期待と戸惑いが相半ばした、というのが正確な状況だった。

ソロ、アメリカン・クァルテット、ヨーロピアン・クァルテット等、70年から80年代初めにかけて多種多様な表現形態を同時進行させたキースは、オリジナル・コンポジションを第一に活動し続けたミュージシャン。その意味で既成の楽曲をカヴァーするというアルバム・コンセプトは、多くのピアニストにとっては日常的風景であっても、キースには別の意味でのチャレンジ以外の何物でもなかったのだ。わずかにそれらしい兆候として、82年の来日ソロ・コンサートでアンコールに「オーヴァー・ザ・レインボウ」を演奏したことが指摘できるわけだが、それもファン・サービス的な演奏ととらえるのが妥当と思われた。”スタンダーズ”は最初のスタジオ吹き込みで、当初の予定を上回りアルバム3枚分のレコーディングを行った。

「ぼくはゲイリーとディジョネットが、若い時にぼくと同様に、スタンダード・ナンバーを経験したことを知っていた。それらの曲はぼくらにとってもはや第二の天性となっていた。ぼくは、この天性を、ぼくらに与えられた同一部族の言語として完全に共有することができるのではないかと考えた。(中略)
いくつかの曲のメロディは、このレコードのようなフレージングで演奏されたことは、これまでなかったと思う」(キース・ジャレット)。
 
「我々はアルバムを一つ作るつもりで入ったのだが、結局出てきた時にはアルバム三つもの音楽ができていたんだ。スタッフはただテープを回しただけだった。信じられないことだった!ぼくにとっては、あんな激しいスタンダードの演奏を押しつけてきた著名なピアニストと言えば、ほかにはビル・エヴァンスだけだった。(中略)
まるでレベルの違う経験を目のあたりにすることになる。だからこそ…そうなんだ、絶対に保証するよ。ものすごいものだった!」(ゲイリー・ピーコック。以上「キース・ジャレット:人と音楽」イアン・カー著より)
 
2枚のスタンダード作と副産物的な1枚の即興曲集をファースト・セッションで生み出してしまったキース・トリオは、瞬く間にジャズ・シーンの話題をさらった。同時にビル・エヴァンス以来の革命をピアノ・トリオにもたらして、俄然このジャンルが活気づいたことは特筆すべきだろう。数えられないほどのミュージシャンが採り上げてきた有名曲であっても、やり方次第で様々に進化/発展したジャズに拮抗し、あるいはそれらをも上回るインパクトを聴き手に与えることができる。キースは誰も取り組もうとしなかったこの命題に正面から挑み、前例のない方法で見事な回答を示したのであった。

衝撃的なデビューを果たしたキース・トリオは、続く『星影のステラ』を皮切りにライヴ・ユニットとしての本性を露にすることとなる。事実91年のマイルス・デイヴィス・トリビュート作を例外として、最新作『アップ・フォー・イット』に至るまで、トリオの作品はすべてライヴ・レコーディングである。それらの中には2枚組の『枯葉』(原題『STILL LIVE』)、『オール・オブ・ユー』、さらに6枚組の『アット・ザ・ブルーノートザ・コンプリート・レコーディング』といった力作も含まれており、デビューから20年の歴史が常にチャレンジ精神を失わないものであったことがわかる。これまでにキースが率いたどのユニットよりも長寿記録を更新中のトリオは、現在ではミュージシャン=キースのライフ・ワークへとステージ・アップしている。

 
キース・ジャレット・トリオ・アルバム・リスト

1. STANDARDS, VOL.1 (1983)
2. STANDARDS, VOL.2 (1983)
3. CHANGES (1983)
4. STANDARDS LIVE (1985)
5. STILL LIVE (1986)
6. CHANGELESS (1987)
7. STANDARDS IN NORWAY (1989)
8. TRIBUTE (1989)
9. THE CURE (1990)
10. BYE BYE BLACKBIRD (1991)
11. KEITH JARRETT AT THE BLUE NOTE - THE COMPLETE RECORDINGS
(1994)
12. TOKYO ’96 (1996)
13. WHISPER NOT (1999)
14. INSIDE OUT (2000)
15. ALWAYS LET ME GO (2001)
16. UP FOR IT (2002)

※カッコ内は、録音年。
※キース+ピーコック+ポール・モチアンの『AT THE DEER HEAD INN』(1992)もあり