BIOGRAPHY

KEANE / キーン 


Kenae -a Vocals: トム・チャップリン 
Piano: ティム・ライス-オクスリー 
Drum: リチャード・ヒューズ


キーンが帰ってきた。『ホープス・アンド・フィアーズ』(2004年)と『アンダー・ザ・アイアン・シー ―深海―』(2006年)を合わせて8百万枚を超えるセールスを記録し、アリーナ・ツアーはソールド・アウト、アイヴァー・ノヴェロやブリット・アワード まで幅広い賞を受賞し、そして「イズ・イット・エニー・ワンダー?」、「エヴリバディーズ・チェンジング」、「クリスタル・ボール」、「サムウェア・オンリー・ウィ・ノウ」等、否定しようのない大ヒット曲の数々を経て、英国で最も愛されるバンドのひとつが、今改めてサプライズとスリルを届けようとしている。

同じ轍は踏まないことを信条とするトム・チャップリン(vocal)、ティム・ライス=オクスリー(piano)、リチャード・ヒューズ(drum)の三人が完成させた『パーフェクト・シンメトリー』は、キラ星のようなポップ・ソングと、純粋でてらいの無いエネルギーがテクニカラーで炸裂している。そこに込められた喜びが、打ち鳴らす指に、生命を謳歌するかのようなコーラスに、一つ一つ聴いて取れる。ピアノが舵を握っていた名デビュー作『ホープス・アンド・フィアーズ』が、そのダークな従兄弟ともいうべき『アンダー・ザ・アイアン・シー ―深海―』と異なっていたように、『パーフェクト・シンメトリー』には力強さを極めたキーンがいる。ティムの、この10年間に登場した最も優れた英国人ソングライターの一人であると称されるソングライティング力が生み出した11曲に映し出されるのは、慎重さの最後の一片までをも投げ出して音楽が導くに任せるバンドの姿だ。その結果がこの、スリリングなまでに大胆で、作るのもそうだが聴くのもまた同様に楽しいアルバムとなった。

並み居る情報通なこのバンドのファンなら、『パーフェクト・シンメトリー』が他のどんなグループにも作り得ない作品であることを即座に悟るはずだが、このバンドをあまり知らない人でも、未知の領域へと様々な飛躍を見せた彼らに驚かされることだろう。実際、一週間で50万ダウンロード記録を更新した正式な1stシングルではないお披露目曲の「スパイラリング」を聴いても、それがあの「サムウェア・オンリー・ウィ・ノウ」のバンドの作品だとは気づかない可能性はある。確かに、『パーフェクト・シンメトリー』は、キーン としては初めてミュージカル・ソー(のこぎりを使ったヨーロッパの楽器)、サックス、更にはドラムを通して録音したヴォーカルまでフィーチャーするなど実験に富んだアルバムとなった。ベルリン、パリ、そしてロンドンでスタジオ・セッションを重ね、彼らが初めて自らプロデュースしたこのアルバムは、 ジョン・ブライオン(ルーファス・ウェインライト、カニエ・ウエスト)にスチュアート・プライス(マドンナ、レ・リズム・デジタルズ)という尊敬すべきプロデューサーたちからのインプットを得ている。3人の男が繰り出すサウンドは、聴こえてくる第一声が文字通り「oooh! 」である通り、激しく、そして喜びに満ちている。

「前から言っていた通り、僕らは自分たちに挑戦したいんだ」とヒューズは言う。「ほとんどのバンドが、アルバムを出すたびに限界に挑戦したと言うけれど、音楽大好き人間の僕らがそういう発言を読んで『すごいな、聴くのが楽しみだ! 』と思い、いざ聴いてみると、『あれ、ちょっと待てよ・・・』となってしまって・・・」

「僕らが『ホープス・アンド・フィアーズ』を3回発表すれば、レコード会社は何よりも喜んだだろうけど」と彼は続ける、「一度やったことだからね、一度でじゅうぶんさ」

「これは僕らがまとめた最高傑作だと僕は確信している」とチャップリン。「みんなに聴いてもらうのが待ちきれないよ」

『アンダー・ザ・アイアン・シー ―深海―』のツアーを終了したのが2007年8月5日。その後は、数本のチャリティ・コンサートは別として、家族や友達と過ごすための時間としてようやく一息入れることになり、バンドは2008年1月半ばまで再び集まることはなかった。それは、決断の正しさを証明するためでもあった。「2枚目のレコードの時は、ツアーが終わって本当に休みが必要だったのにスタジオに直行してしまい、それが後に散々報道されることになる様々な問題の種をまいてしまった。今回は、それを教訓にしたんだ」とヒューズ。

最初に浮かんだアイデアをまとめて南イングランドにある彼らのバーン・スタジオ(ここ数年、隠れ家となっていた場所)で録り溜めると、バンドは2月中旬にはパリへと逃亡。サウンド・トラックからアメリカのポップ・アーティストまで幅広い仕事振りから、神出鬼没のプロデューサーといわれるジョン・ブライオンとのレコーディングを数日に渡って予約してあったのだ。『パーフェクト・シンメトリー』は、最終的にはほぼ全面的に彼らのセルフ・プロデュースということになるのだが、この短期間におけるブライオンからのインプットは明らかに天啓をもたらした。「ヒップホップのレコードを見ると複数のプロデューサーを使っているが、ああいうのはポップやロックのレコードではあり得ない」とヒューズは言う。「そのことも発想の一端にあったんだ。ジョンは、チャーリー・カウフマンの新作映画のサウンド・トラックに取り掛かる前の3日間、パリに来て僕らと仕事をしてくれたのだった」

「ジョンの参加を得たことは、とてつもなく影響が大きかったよ」とティムは言う。「既に僕らだけでいいところまでいっていたのだけれど、考えずに、勝手に自己編集せずにやる、という自信を彼は僕らに与えてくれた。考えてみれば、僕らの大好きなレコードは、ミュージシャンの立場から『あぁ、このセッションに立ち会えたらすごかっただろうな、本当に楽しかっただろうな』と思えるようなものばかりだ。その感じを出すには、とにかくやってみるしかない、というのが彼の理論だった。「世間にどう思われるか、あるいは自分がどう思うかさえも気にせずに! ただ、やってみてダメだった場合は最悪だけど」結局、ややもして気がつけばブライオンとバンドは、スタジオの奥の方で見慣れないパーカッション楽器を探し回り、ありとあらゆる風変わりなやり方でヴォーカルを録音していた。その成果が聴けるのが、このバンドが現在までにプロデュースした最も音楽的に'冒険した'主要曲のひとつ、「ユー・ハヴント・トールド・ミー・エニシング」だ。

その後は2週間ほどUKに戻ってから、ベルリンのテルデックス・スタジオにキャンプを移す。これは長距離移動だ・・・列車なら尚更。「みんなで夜行列車に乗ったんだけど、その旅もひとつの経験になったよ」とヒューズ。「列車に付いているバーに行って遊んだりして、本当に楽しくて、おかしくて、非日常的で。僕らみんな、絶対にまた近いうちに列車であそこに行こうと思ってるんだ」

以前にツアーで訪れて、彼らを大いに触発した街・・・U2の『アクトン・ベイビー』やボウイの『ロウ』など、キーンの形成期に画期的なアルバムを生み出したことは言うに及ばず・・・が、制作過程にまたひとつ決定的な歯車を組み込んだ。元は巨大な宴会場だったテルデックスは、『パーフェクト・シンメトリー』に気高い悲壮感を植えつけることに一役買っている。文句無しの1stシングル「ザ・ラヴァース・アー・ルージング」をティムが書いたのも、ステュアート・プライスが「アゲイン・アンド・アゲイン」に最も顕著に聴き取れるプロデュースの手腕を3日間に渡って振るったのも、この場所での出来事だ。ブライオンとはまるで仕事振りの異なるプライスだが、同様に刺激的で、スタジオでの実験に関しては基本的に間違った答は無いのだということを強調していた。

その後数ヶ月をかけて、ザ・バーン、ベルリン、そしてロンドンのオリンピック・スタジオを行き来しながら、更なる曲が収まるところに収まっていった。アイデアが次々と湧いてきて、「プリテンド・ザット・ユア・アローン」などは、別の曲がミックスされているスタジオの隣の部屋で書いて録音されたくらいだ。

そして生まれた大作には、ビートルズ以来、綿々と英国バンドに引き継がれる悲喜こもごも路線の楽曲が詰まっている。もしくは、ヒューズが言うところの「そんなにハッピーじゃないけれどハッピーに聴こえる曲」だ。つまりは、間違っても使い捨てにはならないポップ・ミュージックだ。

早くも『パーフェクト・シンメトリー』に80年代の影響を見抜いた向きもある。あるとすればそれは、バンドに言わせれば、冒険心と、大胆さと、あの時代のビッグ・ポップであって、レトロな模倣作品を目指したのでは決してない。

「あの時代の大胆さは、今となっては非常に嫌悪されるものだ」とティムは指摘する。「レトロな意味で'80年代'っぽいのがクールとされる時代を僕らは生きている。でも、1980年代の優れたポップスが持っていた精神や開けっ広げなエネルギーは今、必ずしも重要視されていないと思う。このレコードがそんなふうに聴こえるとしたら、それは恐らく、そういう曲の一部・・・ペット・ショップ・ボーイズ、ソルトンペッパ、メル&キム・・・に、楽しくて無邪気だった時代を僕が結びつけているからだろう。何がファッショナブルで、クールで、趣味が良いとされるのかは、僕はまったくもって気にしていないよ・・・そんなことより、僕ら自身の本能に従うことの方がずっと大事だ」

最高のフック、壮大なコーラス、盛り上がるミドル・エイト。これはもちろん、このバンドの統一規格として登場する・・・というと、これまではティムの歌詞が当然浴びるべき注目を浴びていないことを意味したものだが、彼の今までになく直接的な、曖昧でない、そう、選りすぐりの言葉がフィーチャーされているこの新作においては、それは当てはまらないようだ。ピグマリオンにインスパイアされて思いつくままに書いたという「スパイラリング」しかり、名声のための名声を求めることを非難する「ベター・ザン・ディス」しかり、人類の無益な迷いを鮮やかにテーマとして掲げたタイトル曲の「パーフェクト・シンメトリー」(「あれは僕が今までに書いた最高の曲かもしれない」とティムは言う。大掛かりな発想も、ここでは偉大なる楽曲の祭壇で生贄にされたりしない)もまたしかり、だ。

「僕も「ベター・ザン・ディス」が大好きなんだ」とトムも同意見だ。「音的には大いなる飛躍だけれども、歌詞的には'セレブ・カルチャー'の現状を歌っていて・・・みんなそれをひどく重要なもののように見なして、やたらと希望を寄せてくるけれども、僕の意見では、名声とかセレブとかいう側面は馴染みにくいと感じるものだったことは確かなんだ。ただ音楽だけを取り挙げてもらった方が、ずっとありがたかった。そもそも僕らがバンドを始めた理由がそれなんだから。金持ちになるためでも、有名になるためでも、女の子にモテるためでもなかった・・・ただ歌いたかっただけ。自分自身と、思いのたけを吐き出そうとやって来る人たちとの間に生まれる魔法のようなコネクションは、まるで・・・あの一体感は、僕の人生で最大のときめきなんだよ」

というのが、2008年のキーンである。大掛かりなギグ、チャートでの大成功、偉大なる受賞の数々は周知だが、今度のアルバムは彼らのキャリアの転機となる作品だ。壮大で、大胆で、キラキラとしたポップ・モンスター。人々の足元のみならず、心にも頭にも働きかけることだろう。

「一度はすべて失いかけたからね。僕らはバンドを失いかけたんだ。別々の道を行っていたかもしれないんだよ」とトムは言う。「僕らは人間として再発見したんだ。つまり、「なくなってしまうかもしれないものなんだから、あるうちは楽しんだ方がいいぞ」って。そのことが、今回のアルバムで僕らのしたこと全てに影響を与えている」

幕開けが一言、「Oooh!」なのもうなずける。

訳:染谷和美