| ● |
ピアソラ亡き後、バンドネオン界の第一人者として活躍するディノ・サルーシと、ノルウェー・ジャズ・シーンの重鎮ドラマーであるヨン・クリステンセンの初のデュオ・アルバム。 |
| ● |
ディノのルーツであるアルゼンチン・タンゴ、ヨーロッパの室内楽、そしてジャズのスリリングなインタープレイという、3つの要素が絶妙に絡み合って紡ぎだされる音は、まさに唯一の無二の世界です。 |

| 01)ヴィエントス |
 |
| 02)イマジンズ・・・ |
 |
| 03)トードス・ロス・レクエルドス |
 |
| 04)トゥス・オホス・・・! |
 |
| 05)デトラス・デ・ラス・レハス・・・! |
 |
| 06)ロス・セイボス・デ・ミ・プエブロ・・・ |
 |
| 07)アスペクトス |
 |
| 08)フエラス・・・ |
 |
| 09)テルヌラス |
 |
| 10)アラ!・・・エン・ロス・モンテス・ドルミドス |
 |
| 11)ティエンポス |
 |
| 12)ファンタジア |
 |
| 13)フォルマス |
 |
| 14)エターニダデス〜ロカ・ボヘミア |
 |
All Songs Composed by Dino Saluzzi
except 1,5,7,13 by Dino Saluzzi/Jon Christensen, 14"Loca Bohemia" by Francisco de Caro |

ディノ・サルーシ(badoneon)、ヨン・クリステンセン(ds, per)
★2002年11月、オスロ、レインボウ・スタジオにて録音
Produced by Manfred Eicher Recorded by Jan Erik Kongshaug |
ライナーノーツより

ディノ・サルーシ、久々のリーダー・アルバムである。しかも初めてのデュオ。わたし自身は1989年にパリでジョン・サーマンとのすさまじいデュオを体験しているので、これまでディノにデュオのアルバムがなかったことこそを不思議に感じていた。1対1でどう対話するのか、それが即興を旨とする音楽ではなおのこと聴きどころであるからだ。
期待されたデュオが、しかし、ドラムスとは!これには意表をつかれた。ECMでリリースされた過去のディノのアルバムを想いかえしても、ドラムスやパーカッションはけっして多く登場するわけではない。共演していても、それほど目立つ、大きな位置を占めるとは言いにくい。それが、パーカッションという括りでもなく、ドラム・セットときた。とはいえ、ヨン・クリステンセンであるのがポイントだ。
ECMというレーベルにあって、ビートを、リズムをきざむのではない、派手にではなく、かといって音=色の多彩さを見せつけるのでもなく、モノクロームななかで質感をさまざまに変えることができるドラマー、さらにいえば、ジャズのレーベルでありながらも、通常のイメージからするジャズのドラムとは違った、独自の「ECM」のドラムスをつくったのは、このドラマーと言って過言ではない。ケティル・ビヨルンスタ、デヴィッド・ダーリング、テリエ・リプダルそしてクリステンセンによる『海/The Sea』を想いだしてみればいい。ジャズとも、あるいは室内楽ともいえそうでいえない、この4人でなければありえない音楽があった。そして、多くのミュージシャンとの共演をとおして、クリステンセンはECMの音をつくってきたのだ。
バンドネオンとドラムス?十中八九、『センデロス/道々』というアルバムを語るにあたって、浮き上がってくる問題設定だ。ほかに一体、どうやって語ることができよう。Senderosとは小道を指すスペイン語だが、他に、方法とか手段といった意味もある。英語でいうwaysだろうか。複数形になってはいるが、このデュオを語る際には避けられない道が、まずこの楽器の組み合わせにある。
ひとつは音を延ばす楽器。もうひとつは叩くとすぐに音が減衰する楽器。バンドネオンは、しかし、ディノの演奏ではじつに多様な音を発する。もともとドイツで開発されたときには教会でオルガンの代わりになるようにという発想だったようだが、伸びてゆく音はもちろんのこと、瞬間的な短い音、すぐに切れて沈黙と踵を接する音が、ディノの楽器からはしばしば聴きとれる。逆にクリステンセンのドラムスは、派手に叩かれるのではなく、太鼓の膜にスティックが落ち、弾力で跳ねかえって、音も揺れる、そんなデリケートな音の生成、生−滅がつねにある。つまりは、音楽をつくっているのはひとつひとつの音であり、そのひとつひとつの音をしっかりと聴きとり、音を発する手が慈しむ、その点においてひじょうにディノ・サルーシとヨン・クリステンセンは共通した資質を持っているといえるのだ。
ヨン・クリステンセンは1943年、ノルウェー出身。一方、ディノ・サルーシは1935年、アルゼンチン生まれ。10年も齢ははなれていないが、北半球と南半球、それぞれの出身者がこうして出会っているのが『センデロス』である。何でも、2人は1997年、ドイツのヴァーデンバイラーにおけるECMフェスティヴァルで一緒に演奏したのだという。つづけて、トマス・スタンコの『フロム・ザ・グリーンヒル』を演奏するメンバー(スタンコを中心に、クリステンセン、ジョン・サーマン、アンデルス・ヨルミン、ミシェル・マカルスキ)にサルーシを加え、ツアーをおこなった。そうしたなかで、2人は特に親しくなり、このアルバムをつくる結びつきを得たのだという。
アルバム『センデロス』、全体は14曲、トータルで80分弱という規模の大きさである。4曲がバンドネオンのソロである以外は、デュオとなっていて、フロントの名としてはディノ・サルーシとなっているが、基本的に2人、デュオを中心としたアルバムといえる。
特徴的なのは、タイトルがただ単語をならべているだけではなく、「…」のように、何かしら余韻を持たせている、語っているけれど語りきれていないといったニュアンスを持っていること。だから、もし単語だけだったなら、ふうん、こんなタイトルなんだ、と一瞬納得した後は忘れてしまうのとは違い、「…」が表わすように、タイトルの読み手、音楽の聴き手に、何かしらが残される。ときには「!」があるのも目をひかずにはいない(スペイン語の場合、文章の前に後に!を置くのだが、単語が主のせいだろうか、そういうふうにはなっていない)。
なかでディノのソロは2曲目、10曲目、12曲目、そして最後の14曲目。また1曲目、5曲目、7曲目、13曲目が、ディノとクリステンセンが一緒に作った曲である。最後に置かれた〈カフェ・ボヘミア〉はフランシスコ・デ・カロの書いたタンゴのスタンダード・ナンバー。
それにしても、このデュオにおける集中力、テンションの高さと、逆に、ふうっと大きく溜息をつくようなリラックスした感触の微妙なバランスは、一度聴いたら――但し、流し聞きではなく、ちゃんと聴く必要がある――心身に染み入ってしまう。このアルバムを想いだしただけで、その身体の感触が沸き上ってくるようにさえなる。少なくともわたしは、ライナーのために送られてきたサンプルを聴いて以後、この1−2週間、そういうふうに感じてきた。
おなじメロディでも、ただ音がつなげられるのではなく、ひとつひとつの音に凹凸がある。山があり谷がある。なだらかであるようなメロディが、ひとつの道であるような音楽。それがこの『センデロス/道々』である。
小沼純一 |
|