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ECMでの16枚目となる新作は、古代ギリシャ三大悲劇詩人の1人に数えられるソフォクレスの作品『エレクトラ』の舞台音楽として制作された作品。 |
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アイヴィン・オールセットやアルヴェ・ヘンリクセン等のノルウェーの新世代ミュージシャンやギリシャ人ヴォーカリストを配し、古の舞台を見事に現代の世界に蘇らせました。 |
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グループ“マスクァレロ”で共に活動したニルス・ペッター・モルヴェルも1曲で参加。 |

| 01)宇宙の誕生 |
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| 02)モーン |
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| 03)ザ・ビッグ・ライ |
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| 04)コーラス 1 |
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| 05)エレクトラ・ソング・イントロ |
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| 06)エレクトラ・ソング |
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| 07)エレクトラ・ソング・アウトロ |
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| 08)コーラス 2 |
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| 09)セヴンス・バックグラウンド |
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| 10)ワン・ノート |
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| 11)ウィスパーズ |
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| 12)神のお告げ |
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| 13)クリュタイムネストラの登場 |
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| 14)ラウド・サウンド |
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| 15)コーラス 3 |
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| 16)オープニング |
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| 17)コーラス 4 |
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| 18)ビッグ・バン |
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All songs composed by Arild Andersen |
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アリルド・アンデルセン(b, drum programming)、アルヴェ・ヘンリクセン(tp)、アイヴィン・オールセット(g)、パオロ・ヴィナッチア(ds,
per)、パトリス・エラル(ds)、ニルス・ペッター・モルヴェル(drum programming)、サヴィーナ・ヤナトゥー、クリサンチ・ドウジ(vo)、エリー・マリア・カスダス、フォティーニ・ニキ・グラメノー(chorus)
★2002〜2003年、オスロ他にて録音 Produced by Arild Andersen |
ライナーノーツより

2002年6月、オリンピックを2年後に控えたアテネ。夜空に開放された古代円形劇場にセットされた正方形のシンプルな舞台には、古代と近未来を合わせたような雰囲気が満ちている。演目は『エレクトラ』。ギリシャ三大悲劇詩人の1人に数えられるソフォクレス(紀元前496年頃〜紀元前406年)の作品で、初演は紀元前420年頃とされる。それから2420年余、ギリシャ人舞台監督ヤンニス・マルガリティスはオリンピック文化事業の一つのこの舞台のための音楽をノルウェーのヴェラン・ベーシスト、アリルド・アンデルセン(ノルウェー語ではアーリル・アンデシェンと発音)に託した。注文は「現代的な音楽を」。
アンデルセンは90年代半ば頃から、最初はドイツ人トランペッター、マークス・シュトックハウゼンと共に、後には単独でギリシャに渡り、彼の地のミュージシャンとの交友を深めてきた。ECMにはギリシャ人ピアニスト、ヴァシリス・ツァブロプーロスとの2作品“Achirana”(2000)と“The
Triangle”(2004)がある。それに前後してアンデルセンが参加したのがギリシャの作曲家/キーボード奏者ヴァンゲリス・カツーリスの“Through
The Dark”(1997; Lyra、レーベルLyraはギリシャでのECMの配給元でもある)とカツーリスがエンジニアを務めたギリシャ人キーボード奏者ミナス・アレキシアディスの“Stories
Among Friends”(1997; Lyra)、そしてカツーリスの“Silent Voyage”(2001; Libra)だ。『エレクトラ』の公演ではmusical
associateとクレジットされているカツーリスの存在があってのアンデルセンの起用である。
ギリシャというキーワードと共に、90年代にアンデルセンが重点を置いていたのが母国の文化を題材とした音楽だ。ノルウェーのKirkelig
Kulturverkstedレーベルからリリースされた「ノルウェー・フォーク・トリロジー」とでも呼ぶべき3部作が、中世の叙事詩を扱った“Sagn”(1990;
翌年ECMが配給)、ノルウェーの作曲家グリーグの生誕150年記念のために書き下ろした“Arv”(1994)、そしてノルウェーの女流作家シグリ・ウンセットのノーベル文学賞受賞作の舞台劇用の音楽“Kristin
Lavransdatter”(1995)。いずれも女性トラッド歌手を起用しつつエレクトリック・ギターやキーボードといった現代の音を入れ、それをパーカッションでまとめる構造を持つ。尚、これらとほぼ同時期に録音されたラルフ・タウナーとナナ・ヴァスコンセロスとのトリオ作“If
You Look Far Enough”(1993; ECM)もこれに準じる系列に属する作品と言えるだろう。
さて、『エレクトラ』の舞台を見てみよう。2002年アテネの舞台ではタイトルロールにルーマニア人女優を迎え、現代ギリシャ語とルーマニア語のバイリンガル進行だ。しかしソフォクレスの時代は事情が異なる。当時台詞は古典ギリシャ語。台詞のある俳優は3人、男性のみ。俳優は面を付けているとはいえ、女性も男性も若者も老人も、1人で何役も演じ分けなければならない。
ミケーネ王アガメムノンが妻クリュタイムネストラとその愛人アイギストスに暗殺(1曲目)されてから7年、次女のエレクトラは父親への想い、悲しみ、そして母への憎しみの中で生きている(2曲目)。遠くに避難させた弟オレステスが復讐のために帰ってきてくれるという希望だけが心の支えである。アンデルセン版『エレクトラ』でタイトルロールを演じるのはトランペッターのアルヴェ・ヘンリクセン。ノルウェーのピアニスト、クリスティアン・ヴァルムルーやヨン・バルケ、サックス奏者トリグヴェ・サイムらの作品でECMに録音する一方、ノルウェーのレーベルRune
Grammofonからの2枚のソロ・アルバム“Sakuteiki”(2001)と“Chiaroscuro”(2004)がヨーロッパ中で高い評価を得ている。アンデルセンとはレコーディングでは初共演。尺八の音に魅せられたというその音色は柔らかく美しく、悲しみを湛えたヒロインを抑えめに演じる。
古代ギリシャの舞台ではエレクトラの母クリュタイムネストラと弟オレステスを第2俳優が演じる。エレクトラの姉に当たる長女を夫の手で生贄に捧げられたことにより、国王である夫を殺害せざるを得なかった女性の重い運命が13曲目のヘヴィーなビートを持つ「クリュタイムネストラの登場」に象徴される。一方の弟オレステスは異国の地で立派に育ち、故郷に父の復讐のため、つまり母を殺害するために戻ってくる。アンデルセン版ではこのパートはアンデルセン自らの役どころだ。舞台でも音楽でも、真の主役はこのパートである。
第3俳優が演じるのはオレステスの守役の老人、エレクトラの妹で姉よりも現実的で権力に従って生き延びようとするクリュソテミス、そして愛人から国王になったアイギストスの3役。守役の老人はオレステスの命でオレステスが死んだという嘘を伝える大芝居を打ち(3曲目)、それは舞台では見せ場の1つである。アイヴィン・オールセットはアンデルセンのトラッド3部作のうちの後の2作にも参加していたノルウェー人ギタリスト。同国のクラブ・ジャズを知らしめたレーベルJazzlandからの“Electronique
Noire”(1998), “Light Extracts”(2001), “Connected”(2004)のリリースと共に同レーベルを代表するアーティストの1人となる。この『エレクトラ』では滑らかな中に鋭さを隠し持つ彼らしい演奏を聴かせており、また12曲目「神のお告げ」も彼の役回りだ。
舞台には個別の俳優の他、コロスと呼ばれる集団俳優が登場し、台詞のある俳優と会話し、ある時は観客の想いを代弁し、歌い踊る。
アンデルセンが起用した2人のパーカッショニストはいずれもアンデルセンが長く共演しているミュージシャンだ。イタリア出身でノルウェーを本拠に活動するパオロ・ヴィナッチアは、アンデルセンのトラッド3部作のうちの後の2作、それに90年代の代表作
“Hyperborean” (1997; ECM)でアンデルセンと共演、また、ほぼヴィナッチアのリーダー作扱いながら、アンデルセンとサックス奏者トゥーレ・ブリュンボルグとのトリオ名義で“Mbara
Boom”(1997; Sonet)という作品も残している。他にはテリエ・リプダルとの共演も多く、現在はリプダルのレギュラー・トリオSkywardsのメンバーでもある。
もう一人のパーカッショニストはフランス出身のパトリス・エラル。ECMではマークス・シュトックハウゼンらとの“Karta”(2000)でアンデルセンと共演している他、デンマークのピアニスト、カルステン・ダールとアンデルセンとのトリオで“The
Sign”(2002; Stunt)、“Moon Water”(2004; Stunt)を録音、またシュトックハウゼンとアンデルセン、それにハンガリー出身のギタリスト、フェレンツ・シュネートベルガーとのクァルテットでのリリース“Joyosa”(2004;
Enja)もある。
リラックスした音色とビートはヨーロッパの南方出身のパーカッショニストならではであり、パーカッショニストが2人いることによりリズムに立体感が加わり、そして題材を意識したオリエンタルな色づけはこの音楽をより幅広いものにしている。また、左トラックから聞こえるパトリス・エラルの「声」のパフォーマンスも注目だ。
そしてアンデルセンは先のトラッド3部作の時同様、女性シンガーを配置した。舞台はギリシャ、起用されたのは同国を代表するシンガー、サヴィーナ・ヤナトゥー。アンデルセンとは先述のカツーリスの“Silent
Voyage”で顔を合わせている。彼女のグループPrimavera en Solonico名義での4作目“Terra Nostra”(2001;
Lyra)が2003年にECMにより配給されたことで広く知られるようになり、今年になって新作“Sumiglia”を引き続きECMからリリースしている。国を追われたユダヤ人セファルディの音楽を扱う自己のプロジェクトとは異なり、ここではソフォクレスの書いた台詞を古典ギリシャ語のまま、凛とした声で歌う。
舞台はオレステスが母に続きアイギストスに復讐を果たすため、かつて父が息絶えた館の中へと向かうところでクライマックスを迎える。アンデルセン版も、短い、悲鳴にも似た響きを持つ曲で一応の終末をみる。しかし1つの復讐が次の復讐を生むことを暗示するかのように、終曲「ビッグ・バン」は1曲目「宇宙の誕生」へと繋がる。
アンデルセンは舞台も録音も終えた後に一案を講じ、録音したマテリアルからリミックスを作り(9曲目)、そこに主役の3人を繋ぐ、舞台には登場しないアガメムノン王のような隠れキャラクターを加えた。ニルス・ペッター・モルヴェルである。隠れ、としたのは彼がトランペットではなくビート・プログラミングで参加しているからで、しかしその独特のゆったりとしたビートは確かに彼のものである。モルヴェルは1982年にアンデルセンがヨン・クリステンセンと共に結成したグループMasqualeroに参加して注目された。そのMasqualeroでの4作(うち3作はECM)を経て自己の名義での“Khmer”(1997;
ECM)と“Solid Ether”(2000; ECM)をリリース、テクノとジャズを融合させた音でECMレーベルのファンを驚かせたが、そのモルヴェルのレギュラー・グループで最も重要なメンバーがオールセットである。また、『エレクトラ』のもう1人の主役でモルヴェルと同じくトランペッターであるヘンリクセンがまだ音楽院の学生の頃、学校を訪れたモルヴェルが彼に貸した1本のカセットテープが彼の音楽を変えることになる。そのテープの中身は尺八の録音で、それがヘンリクセンにとって決定的な尺八との出会いとなったからだ。
1945年10月27日生まれのアリルド・アンデルセンは今年60歳になる。『エレクトラ』はECMへの16枚目のリーダー作。これは舞台という形を借りた、彼の近年の音楽の集大成となる作品である。
矢部 瑞保 |
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