BIOGRAPHY

JAMIE CULLUM / ジェイミー・カラム


ジェイミー・カラム子供が産まれるとクリエイティビティーが衰えてしまうと言う人たちがいる。少なくてもクリエイターはつまずいてしまう、とさえ言う人も。
しかしジェイミー・カラムに関してその心配はまったくない。ジェイミーの妻が2011年初期に娘を出産した時、シンガーソングライターでマルチ・プレーヤーでもあるジェイミーは当然ながらその変化に圧倒された。作家兼モデルのソフィー・ダールとその前の年に結婚し、新しい家族は大きくなろうとしていた。そしてジェイミーがそこからインスピレーションを得ることは、当たり前でごく自然なことだった。
ジェイミーはそれまで演奏、レコーディング、そして作曲にすべてを費やしてきた。レディング大学で英文学と映画を学びながら、デビューアルバム『Heard It All Before』を制作。卒業後に自主制作した『Pointless Nostalgic』(2001年)がリリースされる直前、20代の殆どを旅やツアー、そしてコラボレーションを行いながら過ごした。まずは規則通りにジャズをコピーし、それから自分らしい方向へと進むようになった。お陰で、ファレル・ウィリアムズやロサンジェルスの偉大なるプロデューサーのグレッグ・ウェルズとのコラボレーションを行ったり、レディオヘッドやジミ・ヘンドリックス、そしてジェフ・バックリィなどの他に素晴らしいジャズ・スタンダードの数々のカバーを発表してきた。そして7年間ノンストップでメジャーレーベルからのデビューアルバム『Twentysomething』(2004)と2作目の『Catching Tales』(2005)のプロモーション活動を続けてきた。
そして2009年に『The Pursuit』がリリースされ、音楽への情熱を抱きながら世界ツアーを休むことなく行い、アメリカなど(“アラバマ州バーミンガムのみんな、こんばんは!”)、世界の隅から隅までファンを魅了させた。

彼の人生のすべては音楽だった。そしてその人生は素晴らしく、豊かだった。

そこに喜んで、そして鮮やかに、父親という役割が加わった。

「ある日突然、時間がなくなった!」と、ジェイミーは微笑みながら話す。「だから新作の制作中、ずっと変わらなかったことは、単純に、考えないことだった。」
これは、もちろん、“どうでもいい”という訳ではない。
「みんなの期待や、自分がやるべきこととか、そういうことは考えないようにした。家にあるスタジオに楽器を用意して、ほぼ一人でその部屋で過ごした。ドラムとか、親しみのない楽器を目の前にして、ただ曲作りをした。2曲は携帯電話を使ってビートを作ったよ。ウクレレで曲も作ったしね。苦労してジャズトラックに合う楽器や演奏者を集めるのではなく、手の届くところにあるもので曲作りをしてみた...
1時間でも、時間をみつければ、集中して曲作りを行った...」そして彼は、わずかに不安そうな表情を見せる。「今さらだけど、大丈夫かな?」
ここで「もちろん心配無用...」と書くところなのだが、正にその通りである。
ジェイミー・カラムの6作目は、満足し平穏を手に入れたアーチスト、そして自らのインスピレーションとクリエイティビティーと悪戯っぽく闘うアーチストが作り出すサウンドに仕上がっている。今回初めて彼のライヴ・バンドと共にレコーディングが行われ、兄のベンが手を貸したものの、殆どの曲を初めて一人で作曲した。
これまで気楽に自宅で作ったデモを元に曲を完成するようなことはなかったが、今回は殆どの曲がそのようにして作られた。しばらくはiPhoneのアプリやカセットレコーダーを使用しながらその場で即席の曲も作ったりした。そして恐らく、パジャマのまま殆どのトラックを書いたアルバムは今作が初めてだろう。
ニューアルバムのタイトル『Momentum』(“勢い”)は相応しいタイトルだと言える。それはアイディアとインスピレーションに満ちたクリエイティブ・アーチストが奏でるポップ・サウンドになっている。新レーベルIslandは、彼が自由に君臨する場を提供してくれた。
「レーベルを移籍した後に、ジャズ・スタンダードを歌ったアルバムを出した方がいいのではないかと悩んだ。多くの人が僕にそういった作品を期待しているからね」と、ジェイミーは話す。「でもそれをやるタイミングではないような気がした。僕はこれまでずっと自分の直感で生きてきて、今回は自分の曲だけに集中するべきだって思えた。それにソフィーに言われたんだ。“新しく用意したスタジオの部屋でただ楽しめばいい、この段階で曲作りにこだわる必要はない、そんな必要ないでしょ?ただ楽しみなさい”ってね。だから僕はその通りにしたよ」と、彼はにっこり笑って話す。

田舎にある自宅でジェイミーはあらゆる方法で自分を解放した。「あの部屋に入り、1時間思いっきりドラムを叩くことを僕は楽しんだ。」

『Momentum』は、「The Same Things」のドラムの音で始まる。ジェイミーは、このトラックが意思表示であることを説明する。「それは、僕のニューオーリンズ・ジャズとビヨンセに対する2つの愛情のちょうど真ん中に位置する。途中で激しいオルガンのソロが入っているんだ。使い古したトランジスタ・オルガンのカオスとファズは、甘くて優しいピアノ・ソロよりも今の僕には合っている!」と、彼は話す。そして、ファンクいっぱいのパーティー調の「Anyway」(リリー・アレンとのコラボレーションで知られるフューチャー・カットによるプロデュース)は、たったの2時間で完成され、ファルフィッサの存在感がどれよりも際立っている。「キーボードのソロは騒がしくて、アメリカ南部のツアー先で立ち寄ったジュークボックスのあるバーを思い出させる。直感的なジャズやニューオーリンズ・ジャズの要素が濃いんだ。」

「Sad Sad World」は彼の故郷に近いサウンドに仕上がっており、ロンドンへ向かう列車の中で書かれた。エレクトロニック・ビートとキーボードの一部は、メリルボーン駅に到着する前に完成した。彼はこのトラックを「アルバムの心臓の鼓動」と表現しており、その内省的でメランコリックなリリックについて、「聞くとハッピーな気分にしてくれる。だって、自分と周りの人間について新たなレベルの理解を得られたことを表しているから」と、彼は説明する。

それとはまた対照的なヴァイブを響かせるのは「When I Get Famous」というトラック。パーティーのように騒がしく、エコーのかかったジェイミーのボーカルと、ビッグバンドの勢いが特徴的なトラックは、ロンドンのスタジオにて若きジャズ・プロデューサーのノスタルジア77と共にレコーディングされた。「彼のやり方って、本当にパンクなんだ」と、カラムは若き才人を褒める。

溢れるほどのポップソングを収録したアルバムから、ファーストシングルを選ぶのは難しいことである。コール・ポーターの「Love For Sale」のカバーはすでにティーザーとしてリリースされた。ルーツ・マヌーヴァの「Witness (1 Hope)」からのサンプルを取り入れたトラックでは、本人がラップフレーズを提供しており(“僕は必ずあのメロディーをコンピレーションに入れる”)、サンフランシスコのダン・ジ・オートメイターがプロデュースを手掛けている。

その冒険心とエネルギーは「Everything You Didn’t Do」と「Edge Of Something」にも表れている。伝染性があり一緒に歌いたくなる「Everything You Didn’t Do」は、元々ドラムキットに向かってジェイミーが座っていた時に生まれたもの。激しいピアノと大胆なストリングスが特徴的な「Edge Of Something」のリリックは、「本当に意味のあるものから逃げてはいけない、と学ぶ」様子を歌っている。

 『Momentum』のアルバムを通じて“勢い”を届けるジェイミーは、新しく発見した音楽的自由を楽しんでいる。とはいえ、それが「逆方向に向かった音楽的自由」だと彼も認める。「僕のキャリアは、純粋なジャズをジャズ・カルテットと演奏して始まった。だから商業的な音楽業界とは縁が遠く、自由にやれた。でもその頃からすでに作曲家になりたいという強い気持ちはあって、スケールが大きく、コンテンポラリーなサウンドを作ってみたいと思っていた。」

「自分がポップスターだと思ったことがなかったし、テレビで観る人たちと自分は違うって思っていたから、その道を進むことが純粋にできなかった...」

あるBBCラジオの番組も彼の音楽的な開拓に貢献したという。デイヴ・プルーベック、ウィントン・マルサリス、そしてアーマッド・ジャマルが自らの技術と才能について語るのをそばで聞いていたジェイミーは舞い上がっていた。「アーチストが自分のやりたいことだけに集中することの大切さに気付かされたんだ。」
非常に謙虚であり、しっかりとした考えを持ったジェイミーは、自分がアーチストだと思うようになるまでは大分時間がかかった。正直、今でも彼はアーチストと呼ばれるともじもじと身体を動かし、落ち着かなくなる。しかし、ジェイムス・ブレイクにインスピレーションを得たアンソニー・ニューリーの「Pure Imagination」(『チャーリーとチョコレート工場』のサントラに収録)のカバーやビョークの「Unison」の大胆なカバーなどを聴けば、ジェイミーの自由思想な芸術的才能は明らかである。
「僕はただ音楽を演奏してジャムして、そこから生まれるものが一番だ、とこれまで何度も言ってきた...それは今でも変わらない。ただ今は自分のことを、生活のためにものを作る人間なんだ、と考えるようになった。そう思えるようになるまでずっと待っていた。だから、「Everything You Didn’t Do」や「Edge Of Something」、そして「Sad Sad World」のようなシンプルなサビを蒸留することができるのは嬉しいこと。これまではそういったシンプルでダイレクトなやり方は僕にとって簡単なことではなかった。でも今はそういうところに到達できた。しかもそれは僕にとって正しくて、そしてエキサイティングに感じられる。」
ジェイミーが言うように、彼はノっている。勢いづいている。そしてそれはしばらく続くだろう。ツアーで鍛えられたバンドメンバーと共に、ジェイミーは新曲を世界のファンに披露することが待ち遠しくて仕方がない。