BIOGRAPHY

JAMES MORRISON / ジェイムス・モリソン 


Bioジェイムス・モリソン3枚目にして、最高傑作を収録したアルバムのタイトル「アウェイクニング/The Awakening」が示唆するように、この作品はひとりの成熟したアーティストが生み出したサウンドだと言える。個人的な人生に於いてもモリソンは父親となり、その一方で実の父親を、晩年の長期に渡るアルコール依存症と鬱病の闘いの末に亡くしている。それと同時に、26歳のモリソンはシンガー、ソングライター、ミュージシャンとして成熟し、そうしたあらゆる感情を自らの楽曲へと昇華する術を身につけ、見事にこのコレクションに結実しているのだ。モリソン曰く「僕の最初の2枚の作品は、なんだか試作品って感じだったよ。今、やっと僕は卒業したんだ。色んな意味でこのアルバムこそ、最初の、きちんとした作品だって思うんだ。」

 確かに試作品だったのかもしれない。しかし最初の2枚のアルバム、「ジェイムス・モリソン/Undiscovered」(2006)と「ソングス・フォー・ユー/Songs for You, Trust for Me」(2008/日本発売は2009年)は合わせて450万枚の売り上げを記録し、’君に逢えてよかった…/You Give Me Something’, ‘ワンダフル・ワールド/Wonderful World’, ‘ザ・ピーセズ・ドント・フィット・エニィモア/The Pieces Don’t Fit Anymore’ さらにNelly Furtadoをフューチャーし、世界的大ヒットとなった’ブロークン・ストリングス/Broken Strings’を含む驚くべき10枚ものシングルを生み出しているのだ。これらの試作品アルバムがモリソンを国際的スターに育て上げたわけだ。

 アリーナ級ツアーは完売し、アメリカ全国津々浦々でもコンサートをこなし、オーストラリアや日本、ヨーロッパ縦断コンサートも行っている。またJimmy KimmelやJay Lenoといったアメリカのテレビ番組でもプレイし、ロンドンのハイド・パークでは何万人もを前に、ブルース・スプリングスティーンやスティーヴィー・ワンダーをサポートし、ハービー・ハンコックのグラミー賞受賞アルバム「The imagination Project」にも参加し、サム・クックの’A Change Is Gonna Come’を歌い大きな評価を得ている。そしてわずか21歳の時、この年リリースされたデビュー・アルバム、「ジェイムス・モリソン/Undiscovered」が、最も売れた男性ソロ・アーティスト作品となり、同年2007年ブリット・アワードで最優秀男性ヴォーカリストとして投票されている。

 当時はすべてが新鮮だった。共同作曲、プロとしてのレコーディング、公共の視線にさらされることに適応していかなくてはならなかった。「確かに、僕にとってはものすごい体験だったよ。でも、それと同時に、みんなが思い描いているような人間として、その期待に合わせて生きていくのはキツイことだってわかったんだ。いつもこうだった。’ああ、ジェイムス・モリソン、彼ってなんてロマンティックなんだろう’って。でも、実際、僕はそういう人間じゃなかったんだ。女の子たちのウケを狙って曲を書いたりしなかったし。そんなの、全然、僕じゃない!でもツアーやライヴは好きだったんだ。それこそが、自分が一体何をやってるのかを信じさせてくれる、確かな側面だったね。」

 2枚目のアルバムをレコーディングする時期が来た時、「なぜ自分がここにいて、どうしてみんなが僕を気に入ってくれたのか、必死に再確認していたよ。だから、もう一度取り掛かることができたんだ。」そして、確かに、彼はやってくれた。アルバムからのファースト・シングル、’ブロークン・ストリングス/Broken Strings’はモリソンにとって150万枚を売り上げるという、最高のヒット曲になったのだ。しかし、過去2年間に体験してきた経験を彼は必死に受け入れようとしていた。振り返ってみれば、2枚目のアルバムは彼にとってはあまりにポップで、’なまぬるい’もので、誤った方向に踏み込んでしまった感が否めなかったからだ。「次回、ちゃんとやれなかったら、もう音楽はやれない、自分自身を見失ってしまうし、そんなものやりたくないって思っていたんだ。」

 幸いにも、「アウェイクニング/The Awakening」はジェイムス・モリソンが常に作ってみたかったアルバムに仕上がっている。驚くべくすばらしい彼の歌唱力に見合った演台が、ついに完成したのだ。「今回は成功とか、全く気にしなかったんだ。だからこそ、とっても楽しい作品になったよ。常にウケを狙うような、目立った音を出さなきゃって気負いを、全然感じなかったんだ。ただ、ゆったりと腰掛けて、感じるままに歌ってみたんだ。そこからすべてが溢れ出てきたんだ。」

 「アウェイクニング/The Awakening」は暖かい、古典的なライヴ・サウンドの結集であると同時に、現代的なフォーク・ソウル楽曲なのだ。音楽的にはモリソンのデビュー作に近いものがあるが、ちょっとした羽根飾りと、自己信念が加えられている。響き渡るストリングス、高揚感あるハーモニー、ソウルフルなバラードの数々、それでいてダンス・フロアで手拍子したくなるノリノリの’スレイヴ・トゥ・ザ・ミュージック/Slave to the Music’といった、彼にとっては新たな試みも見られる。モータウンやゴスペル、カントリー、そしてラテン音楽からのヒントも見てとれる。

 技術的にも、モリソンはスティーヴィー・ワンダーやポール・ヤング双方の要素を備え持つ、最も優れた白人ソウル・シンガーのひとりであることに変わりはない。しかし、彼はただ優れた歌手というだけではない。彼は心の底から歌いあげているのだ。「僕にとって、ポップ・ミュージックは数年間だけ続く、すばらしい音楽に過ぎないんだ。でも、ポップにはもうひとつの面があるんだよ。どこでヒットを出すかってことさ。たとえヒット曲が出ても、その後、繰り返し聞いてもらえることはもうないんだ。すぐ飽きられてしまうような、その手の音楽は絶対作りたくないね。」

 3年かけて手がけたモリソンのニュー・アルバムは、アイランド・レコードからリリースされる。制作面でもスティーヴ・ロブソンや、テイク・ザットの’Shine’を手がけたエグ・ホワイト(ダフィー)、ダン・ウィルソン(アデル)、ビヨンセの’If I Were a Boy’で有名なトビー・ギャッドといった共同作曲家たちの協力を定期的に受けるようになっている。12曲中10曲はスウェードの元ギタリスト、あの著名なバーナード・バトラーがプロデュースを手がけている。バトラーは「アウェイクニング/The Awakening」でもギターを弾いているが、モリソンに’アルバム・ディレクター’として歓迎されている彼は、ザ・リバティーンズやトリッキー、ダフィーなどといったアーティストたちもプロデュースし、スタジオを基盤とした印象的なキャリアを築き上げている人物だ。

 モリソン:「彼に初めて会う時、ちょっとピリピリしていたんだ。彼の音楽的背景があまりに僕のものと違うから。だから、彼に喜んでもらわなくちゃって、僕の中に何か緊張みたいなものができちゃって。それで、歌うたびにすっかりそんな気持ちになっていたんだけど、彼が言い続けてくれたんだ。’もっとくつろいでいいよ。あまりに歌い過ぎだよ。もっと優しく歌っていいよ。’って。でも、次の日、ピタッと納得できたんだ。それ以来、これはかなりうまくいくぞってわかったんだ。とっても興奮したよ。」

「バーナードは曲の中の空間を保つのが本当にうまくて、製作中にごちゃごちゃにならないようにしてくれたんだ。すべてがはっきり聴こえると思うよ。あまりに洗練されすぎていない、それでいてちゃんとしたレコードのように仕上げてくれたよ。これこそ!僕が望んでいたものなんだ。」

「とても盛りだくさんな作品になったけど、その核として、部屋の中には僕ら4人しかいなかったんだ。ドラムにベース、ギターにバーナード、僕が歌って感じでね。どの曲も7回か8回、ライヴ・テイクをやってみて、一番いいのを選んで仕上げていったんだ。すごくいいヴァイブだって確信できるようにして、これならトップに何をのっけても、絶対すばらしいものになるぞって感じで作業していったよ。」

他にも全編に’ヒット’を感じさせるデュエット作品に’アップ/Up’がある。これは’ブロークン・ストリングス/Broken Strings’の舵をとったマーク・テイラーのプロデュースによる2つの楽曲のひとつだ。モリソンのヴォーカル・パートナーは今回はどこかちぐはぐな感じがする。アーバン・ミュージックの新しい女王、ジェシー・Jだからだ。ジェシーは彼の長年の付き合いのA&R、コリン・バーローの推薦により決まっている。モリソン:「ジェシーの才能を疑っていたとか、全くそういうことではないんだ。ただ、この曲に相応しいキャラクターかどうか心配だったんだ。彼女がブースに入って、やるべきことを全部やってくれたんだけど、それはもうすばらしかったよ。彼女は信じられないくらいすばらしいシンガーだ。オートチューンみたいにばっちり決まっていたよ。どこにでもいる普通の女の子の部分、彼女のそんな面を引き出したかったんだ。君ってまるでフェラーリ(車)みたいだよ、ジェシー、5番目のギアに入っちゃってるから、3番目まで落としてごらん、みたいな感じで。結局、物凄くすばらしい作品になったんだ。僕もこういう風に歌うべきだったっていう歌い方で、彼女はコーラスを歌ってくれたよ!」

ジェイムスは昨年、長期に渡るアルコール依存症との痛ましい戦いの末、心臓疾患で亡くなった父親との関係に精一杯努めていた。その体験は’アップ/UP’の歌詞にも現れ、「アウェイクニング/The Awakening」に収録されたいくつかの作品にも反映されている。「これは、とても個人的な歌なんだ。’君が自分自身からいつも隠れているのに、どうやって君を見つけられるっていうんだ/君の殻の中で、真っ暗になるまで僕とかくれんぼをしてるんだね/これで当然だって思いこんでる君を相手に、なぜ僕は頑張ろうとしてるんだろう/もっとよくわかってればよかったのに/君から電話がくると、もうすべてが崩れ堕ちてる音が僕には聞こえてしまうんだ’

「これは基本的に、僕が父に向かって言っていることなんだ。’君の失態を我慢するつもりはないけど、自分自身のために方向を変える強さが君にはあるんだってことをわかってほしいんだ。’内容についてジェシーに特に説明したりしなかったけど、とにかく彼女に会って。あつい彼女のヴォーカルで歌ってもらうことに焦点を合わせたよ。」

もうひとつの曲、’パーソン・アイ・シュッド・ハヴ・ビーン/Person I Should Have Been’は余命いくばくもない彼の父親との会話の中からモリソンが書いた詞が元になっている。「亡くなる前、父はあまりかんばしくなかったんだけど、父がしておけばよかったこととか、僕がすべきだったことについてあれこれふたりで話していたんだ。もう、頭がおかしくなりそうで、これを書き留めておかなくちゃって思ったんだよ。」

剥き出しにされた思いのほとんどが、’イン・マイ・ドリームス/In My Dreams’に込められている。「とてもじゃないけど、この曲は聞けないな。すごく僕に影響を及ぼしているから。どうやって歌えばいいのかわからないよ。ダン・ウィルソンと一緒に書いたんだけど、当時僕がどう感じたのか彼に聞かれたんだ。それで父は最近亡くなったってことと、夢に出てきてくれればいいのに、まだ現れないってことを話したんだ。で、ダンが言ったんだ。’その部分を引き出すべきだと思うよ。’って。’イン・マイ・ドリームス/In My Dreams’ってタイトルが決まった途端、ギター1本で、曲が全部完成したんだ。音楽的には、カーティス・メイフィールドやスティーヴィー・ワンダーみたいな、’アップ’な感じにしたかった。これを聞いてる時には、夢を見ているような、そんな感じにしたかったんだ。」

このアルバムのタイトル曲のいたるところに、モリソンは父親としての自身の経験を散りばめている。彼の娘、エルシー(Elsie)は3歳になる。「やっと自分自身になれた気がするよ。自分が何をすればいいのわかったっていうか。いつも、’ああ、子供なんかいらないよ’って言ってたんだけど、実際できてみると、これ以上のものはないね。だから、しっかり受け止めていきたいんだ。」驚くほど美しい’I Won’t Let You Go’では、彼の長年の恋人ジルこそ彼の女神だという熱い思いが、彼の声を通して、一気にほとばしり出ている。これは以前に書いた’君に逢えてよかった…/You Give Me Something’や’ザ・ピーセズ・ドント・フィット・エニィモア/The Pieces Don’t Fit Anymore’にも現れている。

「ザ・アウェイクニング/’The Awakening’」には生々しい感情が目一杯詰め込まれているが、決して’落ち込む曲’ではないとモリソンは言う。「そう、何曲かはどうでもいいことと向き合っていく内容なんだけど、それは自分自身や自分のまわりに何があるかを見つめることでもあり、いつも前向きに考え続けていけるように、そうしたくだらないものを慎重に判断しているんだ。多くの人々が共感してくれると思うよ。それこそが人生だし、人間関係ってそんなものだから。」

これが他の誰よりも厳しい子供時代を過ごした彼が固執していたものを必死に表現した、ひとつの展望なのだ。彼は3人兄弟の真ん中の子供として、ラグビーで生まれたが、子供たちがまだ幼い頃、父親は家を出ていってしまう。その後、父が残した負債と度重なる取立てに脅えながら国中を転々とし、モリソンが15歳の時、やっとコンウォールの港町Porthに落ち着いている。彼は独学でギターを学び、地元をどさまわりしながらライヴをこなしていった。しかし、学校では音楽の授業でAレベルを取ることはできなかった。「音をちゃんと聞いて、いつだってピアノで正確に弾けたんだけど、技術面でダメだったんだ。」

先の見込みのない仕事が数年続いた後、ダービーで期間限定のヴァンの洗車の仕事(「まだ19歳だったんだけど、とっくに40歳みたいだったよ。」)にありつき、なんとかどん底生活を送っていた。しかし、彼はへこたれなかった。まさにダービーに住んでいたその時、夜、野外広場で歌っていた彼は、初めてポリドールとレコード契約をするという人生の大転換期に遭遇しているのだ。

そうした厳しい下積み時代があればこそ、彼は自分の成功に対して、普通ではない反応を示すのだろう。「たとえ信じられないようなレベルにまで達している自分の人生でも、自分は普通なんだって踏みとどまるようにしてるんだ。例えば、ヘイヴン・ホリデー・パークにキャンプにいったんだけど、いや、実際行きたくなかったんだけど、もし行かなかったら、そんな場所、自分には不似合いだからって言ってるようなもんじゃないかって思ったんだ。ヘイヴン・ホリデー・パークなんか行かないよ、行くならハワイとかもっとすごいとこだよ、みたいなね。」

当然ながら、娘とソーセージにマッシュ・ポテトを食べている時に、彼は取り囲まれた。「これはプライベートだからって、家族の時間だからって説明しようとしたんだけど、結局、友達にエスコートされてその場を去ったんだ。僕ひとりだけでテントの中に何時間もいてさ。そうしなくちゃ、食事もすませられないんだから!こういうことはしないほうがいいってわかってるけど。どうせ、いやな思いをするんだからって。でも、しなければしないで、自分でバリアを作ってしまうことになるし、そういうのも嫌なんだ。だから、負けないように機会を作ってはいるよ。」

ジェイムス・モリソンにとって悪いニュースは、今後キャンプに行くたびに、よりバカげた混乱状態が待ち受けているということだ。「アウェイクニング/The Awakening」は更に彼をスターダムへと押し上げるだろう。

「うん、今だっていう時に、まさしくこれだってものが出来た感じだね。」と彼は認めた。「僕の人生でもたったの数回しか、そういうのって体験したことがないけど、そういう時って今だっ!て、わかるようになったんだ。今、まさに、何かが起きてるって感じがするね」