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ヤー・ヤー・ヤーズ 新作紹介!

ヤー・ヤー・ヤーズのニュー・アルバム『イッツ・ブリッツ!』を紹介!

2011.03.10 LIVE

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3年前にリリースされたヤー・ヤー・ヤーズのセカンド・アルバム『ショウ・ユア・ボーンズ』は、世界中から注目されたデビュー作を同方向へと極める 意欲作として高い評価を受けた。サード・アルバムにあたる『イッツ・ブリッツ!』は、そこから大きく飛躍、別方向へとまっしぐらに突進、驚くべき大方向転 換作だ。

マサチューセッツの冬の山小屋や、メキシコ国境砂漠を望むエルパソなど、ニューヨーカーのヤー・ヤー・ヤーズが、彼らしからぬ環境に身 をおくことで制作に専念できたと言うこの新作。これまで彼らのサウンドの主軸を占めていたニック・ジナーのギターに変わり、アナログ感の強いシンセサイ ザーの奏でるエレクトロニック・サウンドが全体を支配する。ギターという主役なしにしても、これまで築きあげてきたヤー・ヤー・ヤーズとしてのオリジナリ ティーを維持できている点が素晴らしい。

1枚目のシングルとなったオープニング・ナンバーの「ゼロ」、ギターが姿を潜めたものの、アップ・テンポでビートのきいたノリは、デ ビュー当時から彼らが貫いてきた躍動感や焦燥感を維持したヒット性の高いナンバーだ。最初にレコーディングされ、本作の全体的な方向性を決めることになっ た「スケルトン」はイーノの『アナザー・グリーン・ワールド』にも似たアンビエントなナンバー。バグ・パイプを彷彿とさせるシンセサイザー・ノイズが生の ドラムス音などとセンス良く交じり合い、壮大なサウンドスケープを描く。エルパソの砂漠と聳え立つ山にインスピレーションをうけたかのよう。また「ランナ ウエイ」も5分13秒という彼らにしては非常に長い曲で、同様の雰囲気が感じられる。

それに対して「ソフト・ショック」はニュー・オーダーの『テクニーク』の時期を感じさせるシンセサイザーの質感とシンプルだが美しい コード進行が耳を奪う。また「ドラゴン・クーン」は、クラフトワークを彷彿させるこれまたシンプルで心に反響するキーボードが巧みに織り込まれたナン バー。勿論ギターがまったく消えたわけでなく、前線から身をひいたのみ。何をやるにしても、独自の発想で様々な音楽の要素をいろいろな所から引き出しオリ ジナリティーに結び付けている点が素晴らしい。

オークションなどでレコーディングに役立ちそうな楽器を常に購入しているというニック・ジナー。1台の古めかしいシンセサイザーが新作 の発火点になったというが、何を使うかよりもどう使うが重要だということを証明してくれた。それを更に強化するのが一段とパワーアップしたソングライティ ング、これはまさに彼らの底力を証明するアルバムだ。もはやガレージ・ロック・リヴァイヴァル、ニューヨーク(ブルックリン)のアート・ロックというよう な形容詞は、彼らには必要ないのだ。

(高野裕子 Yuko Takano)

『イッツ・ブリッツ!』

2009/4/15 RELEASE
UICP-1109 ¥2,500(税込)