ダイアナ・クラール&デイヴィッド・フォスター パリでのショウケース・ライヴのレビュー

2015.02.27 TOPICS

私が初めてステージに立つダイアナ・クラールを観に行こうとワクワクしているこのパリの夜は寒い。
有名なパレ·ド·トーキョーの中にある人気ヴェニューのYOYOは人で溢れかえり、誰しもがいい席を求めて中に急ぐ。デイヴィッド·フォスターが舞台に上がって自己紹介をした後、彼は彼の友人でもあり、コラボレーターでもあるダイアナ·クラールを温かい言葉で迎え入れる。


「僕はダイアナ・クラールが最初のアルバムを出した頃からのファンなんだな、と気付いたんだよね。彼女のキャリアを振り返れば、彼女の夫であるエルヴィス・コステロと作ったアルバムだろうと、ジョン·クレイトンと作ったアルバムだろうと、最後のビッグ・バンド・アルバム『グラッド·ラグ·ドール』だろうと、彼女がアルバムを出すたびに彼女はまた新たな船出を切ったと思われがちだ。実際のところ、彼女にとっては冒険のようなものなのだ。彼女のアルバムはそれぞれが冒険だ。ダイアナ·クラールのサウンドがどのようなものかと言われれば、それは彼女が好きな曲を自分で取り上げたら、それを自分のものにすることができる、それに尽きるだろう。」

「ちょっと、プレッシャーかけないでよ!」
と、舞台の袖でデイヴィッドが呼び込むのを辛抱強く待っているダイアナが叫ぶ。

「ダイアナは普通の10代の子と同じようにラジオを聴いて育った。一緒に作ったこのアルバムの中で彼女は、10代の頃に立ち戻った。この作品は彼女が世界に提供する最新作、最新の冒険なんだ」
と、デイヴィッドは笑みを浮かべながら続けて述べる。

デイヴィッドの心のこもった紹介の後、ダイアナは温かい拍手に迎えられてやっと舞台に上がる。彼女は友人であるデイヴィッドと抱擁を交わし、感謝を伝えると、ピアノに向い、即座にアルバム『グラッド·ラグ·ドール』からのスウィンギングなナンバー「ゼア・エイント・ノー・スイート・マン・ザッツ・ワース・ザ・ソルト・オブ・マイ・ティアーズ」を披露し始める。

最初の曲が終わると、彼女はバンド紹介を始める。
「最高のバンドよ、本当に長い間一緒にやってきたから家族みたい」と彼女は言う。

その後、ボブ·ディランの曲で彼女のアルバムのタイトル・トラックでもある「ウォール・フラワー」を紹介する。するとストリングス・セクションは、瞬時に曲に活気をもたらすような、美しく、心温まるようなハーモニーを演奏し始める。

ダイアナがデイヴィッドにキーボードを演奏するように頼むと、曲のイントロが始まり、それがすぐに彼女のアルバムの最初のトラックとなっているかの有名な「カリフォルニア·ドリーミング」のだと気付く。

「私たちはしばらく一緒に演奏していないの。同時に皆さんとこれを共有できるというのも私にとってとても重要な事なこと」と、演奏し終わった彼女が言う。

デイヴィッドはキーボードから離れ、ダイアナがステージ中央に座る中、グランド・ピアノに向かう。二人は、エルトン·ジョンの「悲しみのバラード」を演奏し始める。

「このアルバムの中でいくつかのサプライズがあったのだけれど、ポール·マッカートニーからオリジナル曲を提供して貰えたっていうのが一番のサプライズだったね。ポールとダイアナは一緒にしたことがあるし、本当に仲のいい友だちなんだ」と、デイヴィッドが説明する。

ダイアナは、マッカートニーが自身のアルバム『キス·オン·ザ·ボトム』のために美しい歌をたくさん書いたが、この曲はその中に入らなかったと説明する。彼女は彼に自分がレコーディングしていいか尋ねたところ、彼は「勿論!」と答えたそうだ。

「彼の最新作にこの曲が入らなくて本当によかったわ。そして、この曲をやって本当によかった。『イフ・アイ・テイク・ユー・ホーム・トゥナイト』という素敵な曲です。」

「どうだった?」と、美しい演奏を終えたデイヴィッドがダイアナに尋ねる。
「最高の気分よ!偉大なミュージシャンたちに囲まれて最高の気分にならないでなんかいられると思う?」
と彼女は答える。

「これらはダイアナが10代の頃の曲。次の曲は本当に難しい曲だからこれまで誰ともレコーディングしたことがないんだ。でも誰もが大好きな曲。10ccというバンドの『アイム・ノット・イン・ラヴ』という曲です」とデイヴィッドが紹介する。

曲を演奏し終わるとデイヴィッドがダイアナに尋ねる:
「ピアノに向かうんじゃなくてピアノの前に座るってどんな気持ち?因みにこれは僕じゃなくて彼女が希望したことだからね」
「あなたにピアノを弾いてもらえて最高よ。これらの曲は私にとって本当に大切な曲なの。私が若い頃から今の時代まで聴いてきた曲だし、それを皆さんのためにあなたと一緒に歌えて本当に嬉しいわ」と、彼女は答える。

2人が互いを尊敬し、そして大切に思っていることがしっかり伝わってくる。
続けて彼らは「オペレーター」と「ドント・ドリーム・イッツ・オーヴァー」を披露する。彼女はストリングス奏者たちに感謝すると、再びピアノに向かう。

「ちょっと流れをかえて、ナット·キング·コールの『アフター・ミッドナイト・セッションズ』というアルバムに収録された曲をやりましょう。」

このポップ・ソング・アルバムは本当に気に入っているが、このアップビートなジャズ曲で、皆が良く知っていてこよなく愛するジャズ・シンガー、そしてピアニストのダイアナ・クラールを垣間見ることができて嬉しかったと言わざるを得ない。

歌が終わっても拍手は鳴り止まず、観客はアンコールを求める。ダイアナとデイヴィッドがステージに戻ってくる。デイヴィッドは再びピアノに向い、ダイアナはマイクの前に座る。

「このアルバムの曲の多くは敢えて皆さんがこの人のもの、と思っているアーティストと違うアーティストと紐づけするようにしたの。次の曲は皆さんがイーグルスの曲だと思いがちだけれど、私はリンダ・ロンシュタッドの曲として捉えたわ。彼女は偉大な歌手で、本当に尊敬している。次の曲はリンダを思い出させてくれる歌です。」

するとデイヴィッドが、誰もが知っている「デスペラード」の最初の音符を演奏する。


ダイアナのパフォーマンスは非常に真摯なもので、観客がそれぞれ自分で曲を解釈できるような空間を残すものだった。彼女はパフォーマーとしても素晴らしく、観客を飽きさせないと言うことで知られているが、確かにそうだと言える。彼女がポップ・ソングを歌うのを初めて聴くことができ、新しいダイアナ·クラールを発見できたことは本当に面白かった。デイヴィッド·フォスターが言うように、このアルバムは新たな冒険そのものだ。 
文:イザベル・モラン・舞子

 

<Set List>
Ain’t No Sweet Man
Wallflower
California Dreaming
Sorry Seems to Be the Hardest Word
If I take You Home Tonight
I’m Not in Love
Don’t Dream It’s Over
Operator
Desperado