BIOGRAPHY

ダニール・トリフォノフ/Daniil Trifonov, piano

2010年の第16回ショパン国際ピアノ・コンクールで第3位入賞を果たし、翌年第13回ルービンシュタイン国際ピアノ・マスター・コンクール第1位、第14回チャイコフスキー国際コンクール第1位ならびにグランプリを受賞したことで、一流ピアニストとしての地位を確立。

2013年2月には世界最古の名門クラシックレーベル、ドイツ・グラモフォンと専属録音契約を結び、ピアニストとしてだけでなく、作曲家としても国際的に活躍している。


 ダニール・トリフォノフは、1991年にロシアのニジニ・ノヴゴロドに生まれた。彼は2011年に20歳となり、国際的な音楽シーンにおいては既に最も詩的なピアニストの一人としてその名を知られるようになっている。2010年10月に彼はワルシャワで開催されたショパン国際ピアノ・コンクールで3位、およびマズルカ賞を獲得し、世界的なデビューを果たした。ワルシャワにおいてトリフォノフはともに審査委員を務めたマルタ・アルゲリッチとネルソン・フレイレ、さらにはクリスティアン・ツィマーマンといった偉大なアーティストに深い感銘を与え、彼らは皆、トリフォノフの輝かしい将来を信じて疑わなかった。

 ワルシャワにおけるコンクールの後、トリフォノフは世界中で次々と価値のあるデビューを果たし、ドイツ、ポーランド、イタリア、そしてスイスにおいてはいくつものコンサートを行った。2010年に続いて、2011年には世界中から素晴らしい招待が次々と届いた。東京ではショパン・コンクールの入賞者によるコンサート・ツアーに先駆けて、1月初めに彼だけのために初舞台が用意され、ソロ・リサイタルが実現。この時には、東京のオーチャード・ホールにおけるアントニ・ヴィット指揮、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団との共演も行われた。その後2月には、ワレリー・ゲルギエフのリクエストで実現したサンクトペテルブルクにおけるデビュー・リサイタルでも大変な成功を収め、マリインスキー劇場の厳しい聴衆までもが彼を賞賛することとなった。2011年3月1日にはワルシャワで開催された2010年ショパン・イヤー・フェスティバルの最後を飾るコンサートでピアノ協奏曲第1番ホ短調をクリシュトフ(クシシュトフ)・ペンデレツキ指揮、シンフォニア・ヴァルソヴィアと演奏した。

 イタリアでは4月にパルマ・レージョ歌劇場(*パルマ王立歌劇場)においてオーケストラ・デル・レージョとともに、もう一人の若き逸材、アンドレア・バッティストーニの指揮でリストのピアノ協奏曲第1番を披露。このように既に2010年の春からダニール・トリフォノフは人々の注目を集めており、批評家の間でも新たなピアノ界のスターの誕生に関心は高まる一方であった。2010年5月、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場(*テアトロ・ラ・フェニーチェ)でショパンとスクリャービンだけからなるプログラムで行われたソロ・リサイタルの素晴らしい演奏の一部を収めたのが、このCDであるが、この他にもサチーレのファツィオリ・ホールにおける演奏も収められている。これらの録音は、トリフォノフが今日のクラシック音楽界において将来を嘱望される素晴らしい歳能の持ち主であることが如実に示すものである。5歳から音楽の勉強を始めたトリフォノフは神童と謳われ、最初にタチヤーナ・ゼリクマンに師事する幸運に恵まれた。彼女はモスクワのグネーシン音楽大学で2000年から2009年まで教鞭をとっており、トリフォノフの前にも、エフゲニー・リフシッツ(訳註:コンスタンチン・リフシッツが正しいと思われるが、原文ではエフゲニーとなっている。エフゲニー・リフシッツという科学者は存在するが、ゼリクマンの弟子であり、グネーシン音楽大学で学んでいる、とする条件に当てはまるのはコンスタンチン・リフシッツとなる)、アレクサンダー・コブリン、アレクセイ・ボロディンといった新しいロシア音楽界を担う素晴らしい歳能を指導している。トリフォノフの次の重要なステップとなったのが2009年にクリーヴランド音楽院でセルゲイ・ババヤンに学んだことであり、彼は自らのピアノに対する技術的なアプローチを微妙に修正し、彼独自のピアノ解釈の世界をより一層深めることができたのである。

 トリフォノフは国際的なコンクールで数々の入賞と優勝を重ねており、その中には若いピアニストのためのモスクワ・アルトボレフスカヤ・コンクール(1999年モスクワ)、メモリー・オブ・メンデルスゾーン国際コンクール(2003年モスクワ)、若い音楽家のための国際テレヴィジョン・コンクール(2003年モスクワ)、室内楽フェスティバル”ザ・リターン”(2005年、2007年モスクワ)、若い音楽家のためのロマンティック・ミュージック・フェスティバル(2006年モスクワ)、そして若いピアニストのための第5回ロシア国際ショパン・コンクール(2006年北京)がある。2008年に入るとトリフォノフはさらに輝かしい成績を重ね、モスクワで開催された第4回スクリャービン国際コンクール入賞と第3回サン・マリノ国際ピアノ・コンクールで第1位と審査員特別賞を獲得している。2010年にロシアの代表として若手芸術家のためのユーロヴィジョン・コンクールに参加したトリフォノフの演奏は、ウィーン芸術週間のオープニングの夜にヨーロッパ中で放映された。さらに2011年5月にはアルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノ・コンクールで優勝し、同時に室内楽ベスト・パフォーマンス賞、ショパン作品のベスト・パフォーマンス賞、観客賞の3つの賞も受賞している。さらに翌6月には第14回チャイコフキー国際コンクールにおいて優勝の栄誉に輝いている。

 ダニール・トリフォノフはすでに世界各国でリサイタルや主要オーケストラとの演奏を経験し、世界的な財団や音楽祭からは多くの賞を授与されている。彼はロシア、チェコ共和国、そしてアメリカでラジオのための録音も行っている。
 トリフォノフはこのような活動の傍ら、作曲活動においてもその手腕を発揮しており、ピアノ、オーケストラ、室内楽のための曲の作曲も行っている。(2011年7月現在)

訳:久野理恵子