デッカ ベスト100 premium デッカ ベスト100 premium

デッカ ベスト100 premium

村治佳織、デッカの魅力を語る

2003年にデッカと日本人として初のインターナショナル専属契約を結んで以来、10枚ものアルバムを発表してきたクラシック・ギタリストの村治佳織。今回の<デッカ ベスト100 premium>には、『トランスフォーメーション』と『VIVA! RODRIGO』という2枚のアルバムがラインナップされており、デッカの看板アーティストの一人として活躍、幅広い層から支持を得ている。そんな彼女に、デッカというレーベルの魅力について話を聞いた。
*毎週水曜掲載、計4回掲載予定
インタビュアー 原 典子


<最終回:4/26掲載>

――さて今日は、<デッカ ベスト100 premium>のラインナップの中から、「村治さんのお気に入りの3枚」をお選びいただきましたので、1枚ずつお話を伺いたいと思います。まず1枚目は、デュトワ指揮モントリオール響による『ベルリオーズ:幻想交響曲 他』(UCCD-51003)。

 これはパリに留学して間もない頃、向こうに着いて1ヶ月もしない時期に、デュトワの指揮する「幻想交響曲」を生で聴いた体験がすごく印象に残っていたので、選びました。シャンゼリゼ劇場は、あの曲の舞踏会の雰囲気そのもの。50分があっという間に過ぎていって、夢のような時間でした。「ああ、パリに来てよかったな」と心から思ったことを覚えています。このアルバムを聴くたびに、あのときの気持ちがよみがえりますね。

――2枚目は、アンセルメ指揮スイス・ロマンド管による『ファリャ:バレエ「三角帽子」「恋は魔術師」 他』(UCCD-51032)。

 『三角帽子』の中の「粉屋の踊り」は、ギターのソロやデュオでもよく演奏される曲なのですが、私も小学生ぐらいの頃から父とデュオで弾いていました。そのうち、オーケストラの演奏も聴くようになって。私の場合、ギターで弾いた曲の「オリジナルはどんな音楽なんだろう?」と思って、原曲を辿って聴いてみることが多かったですね。自分が弾いている曲について理解を深めるために、オーケストラなども聴いているうちに、だんだんとクラシックに馴染んでいったという。

 この『三角帽子』は、スペインの伝統的・民族的な部分と、クラシックの洗練、オーケストラの豊かな響きが融合したファリャの最高傑作のひとつだと思います。録音もいろいろなヴァージョンを聴いていますが、このアンセルメの演奏は非常にエレガントで、抑揚がきいていていいなあと思いました。

――そして3枚目は『ため息~ベスト・オブ・バルトリ』(UCCD-51098)。

 以前に習っていた先生からおすすめしていただいたのが、バルトリのアルバムでした。「音楽のひとつの原点は歌である」とも言われますが、歌以外の楽器にとっても「呼吸」はとても大切なものですよね。はじめて彼女の声を聴いたときは、「なんて美しいんだろう、この世のものとは思えない!」と感じました。「セシリア(チェチーリア)」は音楽の守護聖人の名前でもあるそうで、まさにその通りだなあと。着実にキャリアを積んでいる女性の音楽家としても尊敬しますし、いつ聴いてもうっとりします。

――それでは最後に、村治さんの考えるデッカの魅力とは?

 イギリスは伝統を重んじる一方で、どんどん新しいものを取り入れていく気風に満ちた国です。ファッションにしても遊び心がありますし、どこかしらパンクな部分があるんですね。デッカも設立して間もない頃は、新しい録音技術を開発したりして、進取の気性に富んだレーベルだったと思うんです。それが時間の流れとともに落ち着いて、余分なものがそぎ落とされ、90年にもなる歴史と伝統を築き上げてきた。この<デッカ ベスト100 premium>は、そんなデッカの伝統的な面と、革新的な面の両方が感じられるラインナップになっていると思います。音質も、これまでのCDに比べて格段によくなっていると伺っているので、これからじっくり家で聴くのを楽しみにしているところです。

▼村治佳織 の選んだ3枚はこちら

<第3回:4/19掲載>

――村治さんから見て、デッカというレーベルにはどんな特色があると思いますか?

 デッカに移籍して素晴らしいと感じたことのひとつは、私が「こんなことをしてみたい」と思ったプロジェクトを、すぐに実現してくださること。たとえばロドリーゴの作品を弾きたいと言ったら、すぐにスペインのいいオーケストラを紹介してくださったり。ヨーロッパにしっかりとしたネットワークがあるので、とても心強いです。『トランスフォーメーション』のときも、もうひとりギタリストをゲストに呼んでデュオをしたいという話になり、ドミニク・ミラーさんをご紹介いただきました。スティングのサポート・ギタリストを長年なさっている方なのですが、私にとってはすごく意外な人選で、新鮮でした。とっても素敵な演奏をされるので、知れば知るほどファンになります。

――デッカのスタッフは、どんな方々なのでしょう?

 皆さんクラシック音楽を愛している方々ばかりで、そういったところからも伝統を感じます。デビューのときからほとんど全作を担当してくださっている方は、これぞブリティッシュ・イングリッシュという英語を話されるジェントルマンで、発音がきれいすぎて私には逆に聞き取れないという(笑)。レコーディングのときも、紳士的に言葉を選んで、的確なアドバイスをくださいます。ご自身でギターを演奏されない方なので、技巧的なことにとらわれず、純粋に音楽だけを聴いて意見をくださるのがありがたいです。「そこ、もうちょっと音をつないで」と言われて、「え、じつはそこ、技術的にすごく難しいんだけど……まあでも、やってみるか」みたいな感じで。抑揚に関しても、熱くなりすぎず、かといって冷めてもいけないというバランスを、最初のリスナーとして客観的に聴いてくださいます。

 その担当の方が、去年リリースした『ラプソディー・ジャパン』をレコーディングしたときに、「第2章がはじまったね」と言ってくださったのが、とても嬉しかったですね。5年ぶりにまたアルバムを出すことができて、これからもコツコツ頑張っていきたいなと思いました。

――たしかに『ラプソディー・ジャパン』からは、村治さんの新境地を感じました。故郷である日本の魅力を見つめ直す内容になっていますが、そのきっかけは「3.11」だったりするのでしょうか?

 それもありますが、もともと私は東京の下町育ちで、小さい頃から日本らしい情緒に囲まれていたこともあり、演奏家である自分とは別に、「人間、村治佳織」として「和」の部分を大切にしてきました。そういった意味で、今回のアルバムは自分の中にずっとあったものを、音楽を通して伝えたいという思いから出来たものです。15歳でデビュー・アルバムを出したとき、作家の井上ひさし先生から「彼女の音は江戸前で、歯切れがいい」というお言葉をいただいてはじめて「ああ、そういう表現もあるのか」と気づいたのですが、これからもずっと大切にしていきたい部分です。

 そうそう、このアルバムは、デッカに移籍してはじめて日本で録ったんですよ。イギリスからスタッフが来てくださって、松本にあるホールでレコーディングしました。ちょうど小澤征爾さんのレコーディングと同じ時期に、同じスタッフが担当していたので、「今日は小澤さんがすごく楽しそうだった」とか、雲の上の方のご様子を伺うことが出来てワクワクしましたね。


<第2回:4/12掲載>

――デッカからのファースト・アルバム『トランスフォーメーション』をレコーディングしたとき、印象に残ったことはありましたか?

 ロンドンから車で2~3時間のサフォーク州にあるポットン・ホールというスタジオでレコーディングしました。ホールといっても、大きなログハウスのような建物で、アシュケナージをはじめデッカのアーティストが好んで使っているそうです。豊かな自然に囲まれた、とてもいいところでしたね。はじめてのレコーディングということで、スタッフがデッカに伝わる特別なランプを持ってきてくださったのがいちばんの思い出です。レコーディング・ブースに入ったときに、その赤いランプが灯ったら演奏を始めていいよというシグナルのランプですね。「このランプを、ショルティも見ていたんだよ」と言われると、それだけで感動したりして、端々に伝統を感じながらレコーディングでした。

 それと、音作りの面で意外だったのは、レコーディングのときに鳥の声が少し入ってしまっても、「まあ、このぐらいだったらいいか」となるところ。日本だったら、外からの音を完全にシャットアウトすることに神経を使うと思うのですが、デッカはそこまで神経質ではないんですね。おおらかというか。私のアルバムにも、よーく耳を凝らすと、遠くに鳥の声が入っています。

――これまでロンドンやパリ、スペインなど、いろいろな土地でレコーディングされていますが、思い出深い場所は?

 ひとつは、やはりこのポットン・ホールですね。『トランスフォーメーション』をレコーディングしてから数年後に、またここで録ったことがあるのですが、「戻ってきた!」という感じがして、変わらず広がっている自然の風景に癒されました。私にとってここは出発点であり、とても大切な場所です。

 もうひとつは、ロンドン市内にあるエアー・スタジオ。ここでは『ソレイユ ~ポートレイツ2~』などのアルバムをレコーディングしましたが、ポットン・ホールとはまた違ったイギリスの歴史を感じることができました。というのも、ビートルズのプロデューサーであるジョージ・マーティンが私財を投じて、もともと教会だった建物を改築して作ったレコーディング・スタジオなんです。入り口には「イエスタデイ」の弦楽四重奏版の手書きの楽譜が飾られていたりして。昔は礼拝堂だったような部屋に座って、ステンドグラスから差し込む光の中で「ヒア・カムズ・ザ・サン」をレコーディングしたときの、なんともいえず満ち足りた気分は、いまだに忘れることができません。

 『VIVA! RODRIGO』を録ったスペインのア・コルーニャも思い出深いですね。現地のガリシア交響楽団と共演したのですが、指揮者のビクトル・パブロ・ペレスさんが、ほとんど英語が通じなかったんです! 私はカタコトのスペイン語でコミュニケーションをとりましたが、デッカ・チームの方とペレスさんは、ドイツ人のコンサートマスターの方の通訳を介して意思疎通を図るというインターナショナルな現場でした。

――村治さんはこれまで、武満徹の編曲によるビートルズから、スペインやフランスの作品、バッハ、坂本龍一、日本の童謡まで、さまざまなカラーを持ったアルバムを発表されてきましたが、企画面においてデッカからリクエストやアドバイスなどはあるのでしょうか?

 アルバムを作るときは、まず私と日本のユニバーサルの担当の間でコンセプトやプログラムを練って、だいたい固まったアイディアをイギリスのデッカの担当にお伝えするのですが、そこで内容が大きく変わるということはありませんでした。私のやりたいことを自由にやらせてくださる感じです。ただ、曲順はいつも三者三様で、「さあ、どれを選ぶ?」と最後まで悩んでいます。ギターは小品が多いこともあり、曲の並び順はとても大切なんです。たとえば「日本でこの曲はよく知られているから最初に持ってきた方がいい」と提案しても、イギリス人の感覚だとまったく違う曲が一曲目に入ってきたり。そういうところが面白いなと思います。

――なるほど、インターナショナル・リリースですから、海外でのリスナーの反応も考える必要がありますものね。

 世界のどこの国でアルバムが売られているかというリストを見せていただくと、行ったことのない国、たとえばバルト三国やスロヴァキアとかも入っているんです。売れた枚数は決して多くはないのですが、「ああ、どんな方が聴いてくださっているのかなあ」と感慨深いです。


<第1回:4/5掲載>

――村治さんは幼い頃からギターを通してクラシック音楽に親しんでこられたと思うのですが、ギターやスペインの作品以外の音楽、たとえばこの<デッカ ベスト100 premium>のラインナップにあるような、オーケストラによる交響曲などもお聴きになりますか?

 もちろん、オーケストラやヴァイオリンといった音楽も大好きで、昔からよく聴いています。私の場合は、父(ギタリストの村治昇)がレコードをたくさん持っていて、子どもの頃からいつも家にクラシックが流れていたので、知らないうちに聴いていたというのが出会いですね。やはりギターが中心でしたが、そのほかにもいろいろなレコードがありました。中学校のときにはラローチャのピアノ演奏が気に入って、よくアルバムを聴いていたのを覚えています。

 けれども、より深く「クラシックってすごいなあ」と思うようになったのは、高校を卒業してパリに留学してから。向こうでは生の演奏に触れる機会も格段に多くなって、そう実感しました。学生はとても安い料金でチケットが買えるので、留学仲間とコンサートのちょっと前に待合せして、カフェして、サル・プレイエルにオーケストラを聴きに行ったり……夢のような毎日でしたね(笑)。

――デッカと専属契約を結ぶことになったきっかけについて教えてください。

 最初は、フランスに留学している20歳のときに、当時のデッカのトップにいらした方が会いに来てくださって、「デッカで録音しませんか?」というお話をいただきました。その当時、私は日本でアルバムを何枚かリリースしていましたが、はじめての留学生活で学ばなければならないことがたくさんあったので、一度はお断りしたんです。そうしたら5年後、「もう一度、どうでしょう?」とおっしゃっていただいて。私のことを忘れずに、活動を見守ってくださっていたことを本当にありがたく思いました。今だったら勉強も終えているし、やはりヨーロッパで生まれた音楽をやっているからには、ヨーロッパとのつながりを大事にしたいなと思ったので、お引き受けすることに。それで25歳のときにロンドンへ行って、契約書にサインをしたんです。

――ステージが一気に世界へと広がって、いかがでしたか?

 デッカというとまず思い浮かぶのは、ニコラ・ホールとエドゥアルド・フェルナンデスというふたりのギタリスト。どちらも素晴らしい音楽性と高度な技術を持っている方で、憧れの存在でしたから、同じレーベルで録音させていただけるなんて、信じられないような気持ちでした。なにより父が喜んでくれて、いい親孝行になったなと思いました(笑)。